特集 2023年3月14日

プライベート天文台と暮らすということ

プライベート天文台と暮らすという事

――天文台は社会人になってから作ったんですか?

「今から20年くらい前です。天体仲間の作った観測所を参考に設計して大工さんに発注して作りました。私は就職して標津に住んでいたんですが、近くで酪農をやっていた友人の農場に置かせてもらって」

――農場に天文台、キャトルミューティレーションを監視できそうですね。しかしなんで天文台を作ろうという発想に至ったんですか?

「大学在学中にシュミットカメラというこれまた面白い機材に出会いまして.......。球面の反射鏡に合わせてフィルムを曲げる事で入ってくる光を直交させて、コマ収差や非点収差を解消するんですけど、さらに特殊な補正板を使って球面収差も消すので、つまりほとんどの収差を消して非常にシャープに写るカメラで、それを社会人になって手に入れたんです」

現在所有しているシュミットカメラ。丸い形に切って水素増感したフィルムを装填する。これもデジタル時代となり姿を消しつつある。
シュミットカメラの作品。フィルムホルダーの形状に準じて画角が丸くなる。たしかに息を飲むシャープさ。

 「それでシャープさを追い求めて機材も調整も追い込んでいく事になります。星雲でいえば離れて見ると雲に見えて近くで見ると星が粒になっているような、そういう写真が理想ですね」

明るい星はボテッとして、細かい星はシャープに。

「この魅力にハマっていろいろ手に入れたんですが、シュミットカメラとかは構造上大きくなるし、赤道儀なども精度を追求していくとやはり大きく重くなるんですね」

――なるほど、機材にこだわっていくと天文台まで必要になるわけですか。

「というか、望遠鏡をしまうのが面倒くさいんですよ。これが大きな理由ですね」

――そっちですか!でもなんか切実だ。

「ベランダとか屋上にでかい望遠鏡や赤道儀、三脚を持ち出してというのはもちろん楽しいですが、これを片付けるのはつらいんですよね。寒いし、また出さなくちゃならないし」

あの天文台を作って設置するのは手間も費用も相当パワーを使うだろう。しかし出しっぱなしにしておくことの快適さを追求するとそれが最適解になってくるのか。

――あと、他にもあるじゃないですか。

「あ、白いのは星仲間にゆずってもらったんです」

――あれを譲渡!?そんな事があるのか。

もらいものなのかこれ!

「そっちは山の方に土地を借りてリモートで動かそうと考えていた時もありましたが、それだと結局ネットで画像検索してるのと変わらないんじゃないかと思ってやめました」

――なんか、それなりの構造物ですけど、あちこちに持ってったりしてるんですね......。

「この天文台も以前引っ越した時に美瑛町(旭川市の南、標津からは約300km)に移動しています。今の場所に移って来た時に持ってきて庭に置いたんです」

――いや、でもそんな熊の置物みたいにはいかないでしょう。

「分解してトラックで運んで、整地して地下1mぐらいから角柱を出して望遠鏡を設置しています。このためにクレーンの免許を取りました」

――また資格を!とんでもないなー。

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でかい北斗七星を貼りたい

とんでもない直人さんが次に見据えている事はなんだろうか。

「北斗七星をでかく引き伸ばしてドーンと貼りたいですね。北斗七星の周辺には小さい星雲や銀河がいっぱいあって、ちゃんと見るとそれぞれがいい感じで渦を巻いていて、本当におもしろいんですよね」

おおぐま座(北斗七星)の尾のあたりにあるM101、「回転花火銀河」とは言い得て妙。

 「近づいてそういった細かい星の粒まで鑑賞できるようにしたい。GFXを導入したのは撮影時間を短縮して、ひとつの星座をモザイク撮影して撮りつくしたいと考えたからでもあるんです。合成とかプリントの方法とか、課題はまだまだあるんですけど」

星雲の無数の星ひとつひとつを切り出そうと無謀なまでに走り出す情熱と、光学設計やクレーン操縦・気象予報士まで、目的から逆算して必要なスキルを身につける冷静さと、どちらもかなりの出力で発揮してきた直人さんが野付半島に再現する北斗七星をぜひ見てみたい。

直人さんの語りでどれも同じに見えた渦巻き銀河の個性が立ち上がってくる。これはNGC2403(きりん座)
 

和田直人さんの天文台ライフは濃厚すぎて、翌日港で凍っていたヒトデが星雲に見えた。ポンノウシテラスに巨大な北斗七星が出現した時、また目指すのだろうな野付を。

まあ英名starfishですし。

協力:ポンノウシテラス:
https://www.instagram.com/design_notsuke/
     

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