特集 2023年3月14日

プライベート天文台と暮らすということ

ヘール・ボップ彗星で快挙

ポンノウシテラスのギャラリーで作品鑑賞する直人さん、私、サーモン科学館西尾さん。実はみんな同い年、人生再設計第一世代である。

直人さんが天体写真を始めたのは30年以上前、中学生の頃だった。

「写真を撮るために貯金をかき集めて望遠鏡を買ったのが中1でしたね。ただ、どうも求めてるクオリティで撮れなくて、5年ほど悶々としていました」

――高校で機材を変えたんですか?

「中古でライトシュミットカメラというのを手に入れまして、それを使ったら信じられないくらいシャープに撮れて、今までの5年間はなんだったんだ、となって。この出会いは忘れられないですね。これが機材にのめりこむきっかけになっていきました」


後述するシュミットカメラをコンパクトにしたり、簡便性をあげたもの。
「このあたりを語り出すと一晩では足りないですね」

――大学でもやはり天体に夢中だったんですよね。

「(同い年なので)おわかりだと思うんですけど、当時は受験戦争でしたよね。それでうちの親は厳しくて私の天体趣味に共感してくれなくて」

「でも祖母に『国立大学に現役で受かったらいくらでも欲しい望遠鏡買ってやる』ってすごい言い方で焚き付けられて、やってやろうじゃねえかと北海道大学に合格したんですよ(笑)」

――すごいですけど、なんていうか、合格しそうだな和田さんはと思って聞いてました。

こういう人にそういう条件出したら受かるよね。

 「それで120万ぐらいの望遠鏡を希望したんですけど(笑)、なんやかんやで調整されて20万の望遠鏡を買ってもらったんですよ。それがペンタックス100SDUFというやつで、これならリュックに入れて移動できるなと」

今でもオークションとかに出るともぞもぞするという思い出の名機。

―― 解像度と機動力を手にしたわけですね。

「その頃は1996年に百武(ひゃくたけ)彗星、翌年にヘール・ボップ彗星と連続で大彗星が来ていて、買ったバイクで追いかけていました。百武彗星は2月だったので、真冬の北海道を50km以上走って死ぬかと思って、コンディションを崩したりしてあまりいい写真が撮れなかったんです」

――そうか、寒さという敵が.......。で、翌年がヘール・ボップ彗星になるわけですね。

1995年にアメリカの天文学者ヘールとアマチュア天文家ボップに発見されたヘール・ボップ彗星は1997年に太陽に近づいた時には肉眼でもヘールでボップな感じで確認できるほどに明るくなり、天文界にとどまらず世間でも大きな話題となった。

「はい、そしてまた冬です。当時は札幌にいたんですが、暗くて空気が澄んでいるポイントを求めて標茶や矢臼別まで行きました。前の年にバイクで失敗したのでこれのために中古のインプレッサ(車)を買って」

北竜町・標茶町で当時撮影したヘール・ボップ彗星のポジフィルムをパソコンの白画面の上で鑑賞。「日時や場所で違った表情を見せるのがほんとうに面白いんですよ」

各種機材・備品にインプレッサまで導入して天体貧乏学生と化した直人さんの情熱は実を結んだ。ヘール・ボップの熱気もあって3万点を超える応募のあった「天文ガイド」のフォトコンテストで最優秀賞を獲得したのだ。

―― 標茶や北竜の写真がありますけど、どっちも札幌からかなり距離ありますよね......。

「他にもいろいろ回って、結局1ヶ月で1万km位走りましたね」

――バンプ・オブ・チキンのハードコアなやつですね.......。

標茶のヘール・ボップ彗星。ブルーのイオンテールが現実を超越する美しさ。

――これはすごい、僕が村の長老だったら「不吉じゃ」って言っちゃうな。

「ポジフィルムの味わいはやっぱりいいですね。撮影した時の空気感が写るというか。今ではもうフィルムも手に入りにくくなって現像も大変だし、デジタルが主流になってますけど」

ポジフィルムは撮影日・場所から機材まで丁寧に記録され、保管されている。

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