そもそも、地下に水力発電所があるとはどういうことか
葛野川発電所は、上日川ダム(上部ダム)と葛野川ダム(下部ダム)の二つのダム湖を地中で結ぶ、パイプの途中にある水力発電所だ。
なぜ地中に水力発電所があるのかというと、その方がより高いところから水を落とすことができるから。実際、葛野川発電所の有効落差(水が落ちる高さ)は714mと世界最大級。凄い。
この葛野川発電所は揚水式の水力発電所。揚水式というのは、上部ダムから下部ダムへ落とした水を、再び上部ダムに引き揚げて再利用するというタイプの発電所だ。
電力需要が高まる昼間には、水を落として発電機を回し発電。逆に電力需要の低くなる夜間には、外部から電気をもらってモーターを逆回転させ、下部ダムから上部ダムへ水を送り返し、それをまた翌日発電に使用しているという。
夜間の余った電気を水の位置エネルギーとして保存し、電気が足りなくなる昼間にそれを再び電気にするという、いわば電力の調整用、バッテリー代わりの発電所なのだそうだ。
う~ん、人間とはいろいろ考えるものだ。
まずは下部ダムの葛野川ダムへ
さて、葛野川発電所の見学会だが、それはJR中央線の猿橋駅近くにあるTEPCO葛野川PR館からスタートする。
見学者の人数が多ければマイクロバスを出してくれるようなのだが、この時は私を含めわずか4人と少人数の見学会であったため、東京電力の職員の方の車で行くことになった。
見学会でまず始めに向かうのは、葛野川発電所の下部ダムである葛野川ダム。地下500mの葛野川発電所に行くのは、この葛野川ダムを見学した後だ。
なお、この見学会に参加した時はまだ冬であったため、葛野川ダムは冬季閉鎖中。ダムへ通じるトンネルは、怪しげなシャッターによって封鎖されていた。
職員の方がリモコンを操作すると、シャッターがウイーンと上昇。これが妙に格好良い。なんだか、秘密基地っぽい。
葛野川ダムは、まぁいたって普通のダムだった。格好良くはあるのだが、しんと静まり返った山の中、何か妙におっかない雰囲気がある。
誰もいない、それだけならばなんてことはないのだが、山の中にぽっかり開いた誰もいない湖は、何とも言えない恐怖を感じる。なぜだろう。出入り口がトンネルだけだからだろうか。それとも水の中から何かが出てきそうだからだろうか。とにかく、人のいないダムというのはなんか怖い。多分、私一人であったらすぐに逃げ出していたことだろう。
さて、職員の方から一通りの説明を受けた私たちは、再び車に乗り込み葛野川ダムを後にした。
そしていよいよ地下500mの発電所へ
葛野川ダムから来た道を少し戻り、別の林道に入っていく。この道路もダムと同じように冬季閉鎖中で、入口は閉ざされていた。職員の方がそれらを開けつつ先へ進む。
その閉鎖された林道の先には、さらにシャッターで閉ざされたトンネルがあった。このトンネルこそ、葛野川発電所への入口である。その距離、5km。山の中を、5km。
そのトンネルは何とも奇妙な空間だった。
トンネル内部は坂と平坦な道が交互に繰り返される構造なのだが、何度も坂と平坦な道が繰り返されていくうちに平行感覚がおかしくなり、今坂道を進んでいるのか、それとも平坦な道なのか、上り坂なのか下り坂なのか、さっぱり分からなくなってくる。
人間としての機能がじわじわ潰されていく感じだ。このトンネルを出たとき、私は違う生物になってしまうんじゃないだろうか。そんなバカなことを考えていた。
また、このトンネルは普通の公道ではないため舗装が簡素。デコボコが多くて車がかなり揺れる。壁もまるで掘った跡がそのまま残ってるような素朴なもので、飾り気は全く無い。
このいろんな意味でストイックすぎるトンネル、私は嫌いじゃぁない。