二枚目からが本番である
ピザ窯の特に中心部では、表面に強く熱が加わるようだ。だからピザ的な薄い形状がぴったりなのだと思う。
二枚目は今回、私の無理な誘いにつきあってくれた橋尾さん発案によるピザである。橋尾さんはつい先日行ってきたという福井で買ってきた「へしこ」と、長野のアンテナショップで買った「すんき」という木曽地方の漬け物とをメイントッピングにして、ハーフ&ハーフに仕上げてみるという。「福井・長野デラックス」という、自分なりのピザネームがあるらしい。
私がぼーっとビールを飲んでいる間にトッピングが完了し、信じられないほどに美味しそうな一枚ができていた。
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窯の奥にピザを置き、少し待っては器用に回転させ、と、丁寧に焼いていく橋尾さん。「お、めっちゃ美味しそう!」というので取り出して見せてもらったらやばい。
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今度はカットもうまくいった。早速味わってみる。
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これには本当に驚いた。あまり多すぎず、ほどほどにトッピングされた「へしこ」がアンチョビのようなアクセントとなり、チーズとこの上なく合うのである。自分でピザを焼く場だからこそ試せるアイデアがちゃんと美味しさに結実している。
もう半分の「すんき」ピザも最高で、乳酸発酵によって生まれる「すんき」の酸味がこれまたチーズに合い、他にない味わいが生まれているのだ。
三枚目はさらに完成度アップ
あっという間に二枚目を食べ切ってしまい、次に、鶴橋駅前で買ったキャベツのキムチと、プルコギを炒めたもの、スライスした玉ねぎ、アスパラをトッピングしたピザを焼いてみることにした。話し合いの結果、ピザネームは「鶴橋スペシャル」ということになった。
二枚目に引き続き、橋尾さんが焼きを担当してくれたのだが、いつの間に身につけたのか、窯の内部でピザを細かく回転させられるほどになっている。
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後で見返したら食べている写真を全然撮っていなくて驚いたのだが、それだけ美味しかったということである。一枚ごとに完成度がグングン上がっていく。お好みのトッピング用にと乗せた韓国海苔も最高であった。
後半、急激に満腹になり、後はホイルに包んだフライドポテト、芽キャベツなどを焼いて、それをつまみながら過ごす。
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宮司の長澤さんが様子を見に来てくださったタイミングで、改めてお話を伺った。
――そもそも、なぜここにピザ窯があるんでしょうか?
長澤さん「もともと神社とかお寺ゆうのは憩いの場、井戸端会議の場やったんですね。この地域は子どもさんも少なってきてるんで、何かきっかけを作って神社に目を向けてもらいたいゆうんで、節句のお祭りをしたりはしてたんです。できれば、もっと足を運んでもらいたい、そのためにイベントを増やしていきたいねという話になって、そういう時に役立つようなものが何かあったらいいねと。それで地域の方が力を貸してくださって、この窯を作ったんです。この耐火ブロックも全部ご寄付いただいて、プロの職人の方がボランティアで作ってくださったんです」
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――地域のみなさんで作ったものなんですね。この窯は、いつからあるんですか?
長澤さん「コロナ前からですね。もう5、6年になります。ただ、コロナの間は休眠状態だったんで、去年の秋頃からようやくまた使ってもらえるようになっています」
――ちなみにみなさん、トッピングの具材はどうしてるんですか?
長澤さん「みんな、お好きなものを用意されていますよ。20人のグループやったら、タッパーに具材入れてぎょうさん並べてね、自分らでトッピングして」
――今日は椅子も用意していただきましたけど、もっと大人数だったらどうなるんですか?
長澤さん「この程度(2~3脚)は用意させてもらいますけど、あとはご自分で椅子を持ってきてもらったり、シート敷いたり、各自でやってもらっています。これから桜の季節で、きれいですよ。4月は予約も入っています」
――常連さんが多いですか?
長澤さん「多いですよ。来週予約している方も2回目、3回目ですし。勝手をわかってるから、こっちは一切タッチしません。自分らで全部やってもらって。やっぱり地元の方が多いですね」
宮司の長澤さんに引き続き色々聞く
――たとえば20人のグループだと、ピザをどれぐらい焼くんですか?
長澤さん「やはり、最低でも一人一枚は焼きますね。20枚は焼いて、それプラス、自分らで生地を作って来られる方も多いですから。米粉で作ったり」
――ああ、そういう方もいるわけすね、ピザ通の方というか。でももちろん、既製品を買ってきて焼いてもいいんですよね?
長澤さん「もちろんです。スーパーの冷凍の、あれが一番手っ取り早いです(笑)」
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――ピザ以外のものを焼く人も多いですか?
長澤さん「そうですよ。パンの生地を持ってきて、ここでパン焼きはったりね。焼いもやりはったり。なんでもやりますよ。ただ、お餅なんか直に置いて焼かないで欲しい。お魚もそのまま焼くと匂いがついてしまうのでそれはご遠慮してもらっていますけど、ホイルに包んで焼くぐらいならね。ピザのトッピングに海老やホタテを乗せるのはもちろん大丈夫ですよ。焼いもは美味しいですよ。あれは残り火がいいんです」
――残った火でじわじわと焼く方が美味しいんですね。
長澤さん「すぐそこに八百屋さんがありますから。そこで買ってきてもいいんです。きのこ類もホイルでくるんで焼いたら美味しいでしょうね」
――このピザ窯のチラシに「へっついさんプロジェクト」と書いてありましたけど、「へっついさん」というのは?
長澤さん「昔のかまど、台所ですね。昔はご飯を炊くのに、台の上にお釜を置いて、下で火を焚いて、そうやっていたでしょう。それが“へっついさん”です。へっついさんプロジェクトというのは、こういうピザ窯も飯盒炊爨も含めて、すべてのことを包括して呼んでいます。へっついさんのおかげでご飯が食べられるんだということを広く伝えたいと」
――なるほど。ここは、とにかく事前に問い合わせて、できる日であれば季節に関係なく使わせてもらえるんですね。
長澤さん「そうです。予約が入っているとか、特別な日は別ですけどね。でも春と秋が一番多いですね」
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――夏はきついですかね、日差しが。
長澤さん「夏になると境内の木に葉っぱが茂るから、公園よりは涼しいかもしらんね」
――午前中にスタートしてもいいんですよね?
長澤さん「9時からならいつでも。とにかく17時に完全撤収していただければいいんです」
――撤収というのは、どこまでですか?
長澤さん「お皿はあっちの水道で洗ってもらって、燃えカスは缶に片付けてもらってね。この缶に燃えカスを集めてもらって、みんなが帰ったらここで私が焼いもを焼かせてもらうんです(笑)」
――ははは。それは役得ですね。
と、気さくに色々と話を聞かせてくれる長澤さんであった。すっかりいい時間を堪能した我々は、境内の洗い場を借りて使った食器類をしっかり洗い、窯の中の炭を一斗缶に集め、テーブルを拭き、まとめたゴミを持って神社を出ることにした。
長澤さんは、このピザ窯をきっかけに「彌榮神社」にたくさんの人が気軽に足を運んでくれることを願っているそうだ。興味のある方はぜひ一度「彌榮神社」の社務所を訪ねてみて欲しい。
また、今回参加してくれた橋尾さんに今日を振り返っての感想コメントをもらった。
橋尾さん「鶴橋の近くに住んでいるのに、今までこの神社の窯の存在にまったく気がついていなかった。この窯を見つけてきたのはさすがですね。ピザ、青空、ビール。この気持ちよさはぜひあらゆる人に味わって欲しいです!次はアップルパイを焼くぞー!こんな楽しみが潜んでいるなんて、やっぱり鶴橋は最高だなと思いました」
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私も今回の反省点を踏まえて絶対に再挑戦してみたいと思う。その時は、必ずやピザらしいピザを作ってみせる!
「彌榮神社」では、毎月第4土曜日に午前9時半から12時までお米作りや昔遊び体験といった催しが行われているそうなので、そちらもぜひ!
「彌榮神社」
住所:大阪府大阪市生野区桃谷2-16-22