美しいけれど毒がある
打ち上げられたカツオノエボシを見つけることができて本当に嬉しかった。そして、思っていた数倍美しくて驚いた。近年見たもので一番美しかったと言ってもいいくらいだ。
途中まであまりに見つからなくて、浜辺に落ちているゴミ袋を見て「電気クラゲだ! カツオノエボシだ!」という茶番を演じていた。今となってはいい思い出だ。
海水浴の敵「クラゲ」。
触ったことはないけれど、おそらくプニプニした感触だと思う。毒を持っていて非常に危険だけれど、水族館に展示されているクラゲなどは神秘的で美しかったりする。
そんなクラゲの一種に「カツオノエボシ」というのがいる。
別名を「電気クラゲ」といい、非常に強い毒を持っていて刺されると死ぬこともある。
しかし、この「カツオノエボシ」は透き通ったブルーでとても美しいらしいのだ。毒は強いが美しい。きれいなバラには棘がある的なことだろうか。ぜひ見たい!
江の島の海岸にいるらしいので、探しに出かけることにした。
※2011年6月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
カツオノエボシは神奈川県は江の島の海岸で見ることができる。江の島といえば神奈川を代表する観光地のひとつ。僕も神奈川に住んでいるので遠出しなくても、カツオノエボシを見ることができるわけだ(いればの話)。
カツオが到来する季節に海流に乗って現れ、形が烏帽子のようだから「カツオノエボシ」と言われている。別名は「電気クラゲ」。といっても、電気ウナギのように電気を起こしたりするわけではない。とにかく強い毒を持っているのが彼らの特徴だ。
江の島の海岸はにぎわっていた。
ウィンドサーフィンをする人や砂浜を歩くカップル、早くも泳いでいる人もいた。僕の目的はもちろんカツオノエボシ探し。僕のほかにはカツオノエボシを探している人はいないようだ。そして、もちろんカツオノエボシもいないようだ。
注意深く下を見て歩くけれど「カツオノエボシ」はいない。
そこで人見知りだけれど、初めてのおつかいで大きな犬の前を通る時の子供のように勇気を出して「カツオノエボシ見ませんでしたか?」と聞いてまわった。しかし返って来るのは「何それ?」的なものがほとんどだった。
誰も彼もが「何それ?」的な返事。
もしかして「カツオノエボシとはみんなの心の中にいるクラゲなのかな」という結論に達しそうだったのだけれど、「何それ?」ということは、心の中にもいないことになる。こりゃ、いないなぁ。カツオノエボシは幻だ。
全く見つからない。
目線の先に何か青いものを発見して「カツオノエボシだ」と近づくとチュッパチャップスの包み紙だったりした。この時の「カツオノエボシだ!」というテンションは高圧電流が流れたかのようだった。だから別名を電気クラゲというのかもしれない(たぶん違います)。
本当にいなくてあきらめムードだった。
帰るかと思いつつ最後にサーファーの女性に「知りませんか?」と聞くと「沖で見た」という初めての有力な情報が寄せられた。さらに「昨日はたくさん打ち上げられていた」と言うではないか。彼女のことを好きになってしまいそうだった。でも、昨日か…。
「いるとすればあっち」と潮の流れを考慮したアドバイスをくれた。もしも僕がベテランサーファーならば、もっと上手く波を乗りこなす方法をお返しにアドバイスするのだけれど、家に帰っても水着すらない。泳げるかも怪しい。お礼だけ言って別れた。
教えてもらった方向へ歩く。
浜辺の端っこの方なので人が少ない。いるのはサーファーくらいだ。サーファーはカツオノエボシが怖くないのだろうか。僕は怖いな~などと考えていたら、ついに見つけた。見慣れない物体があると思い近づくと、それは見まごうこと無きカツオノエボシだった。
美しい。
精巧なガラス細工のような美しさ。オシャレな雑貨屋にありそうな感じだ。単館で上映される恋愛映画の女性主人公が買いそうな雰囲気。僕はこれを見て「きれいだ~」と自分でも驚くくらい自然に発していた。
一般的に思い浮かべるクラゲとは少し違う。
そこがいいのだと思う。驚くことに触手は10メートルもあるのだそうだ。触るとそこから毒が発射される。気をつけたいのは死んでいても触ると毒が発射される点。執念深い。刺されると死ぬことだってあるから絶対に触ってはいけない。でも、美しい。
一匹見つけると目が慣れたのか他にも見つけることができた。 といっても、浜辺に打ち上げられたばかりではなく干からびてしまったもの。干からびると小さくなり500円玉程度になっていた。でも、それはそれで美しい。
この海岸の近くには新江ノ島水族館があるので生きたカツオノエボシがいるのでは、と思い行ってみることにした。新江ノ島水族館はクラゲで有名なのだ。海岸からは徒歩5分くらい。トボトボ向かうが心の中はスキップしている。カツオノエボシの美しさに浮かれているようだ。
浮かれ具合は近年稀に見るレベルで、館内にある記念撮影のコーナーに入ってしまうくらいだった。水族館の方が写真を撮ってくれるコーナー、普段は恥かしくて絶対に行かない場所だ。カツオノエボシには人を浮かす力があるのだと思う。
さて本題。
いませんでした。カツオノエボシいませんでした。飼育係の方に話を聞くと「全国でも飼育している水族館はないんじゃないかな」とのこと。まだ飼育方法が分かっていないそうだ。それと、絶対に触っちゃダメ! と何回も言われた。触りたくなる美しさだけど触っちゃダメなのだ。
打ち上げられたカツオノエボシを見つけることができて本当に嬉しかった。そして、思っていた数倍美しくて驚いた。近年見たもので一番美しかったと言ってもいいくらいだ。
途中まであまりに見つからなくて、浜辺に落ちているゴミ袋を見て「電気クラゲだ! カツオノエボシだ!」という茶番を演じていた。今となってはいい思い出だ。
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