世界の主食をおかゆにしたい
パスタがおかゆみたいになったのは意外だった。でも考えてみると、パスタとお米は、それぞれの国で主食になっている炭水化物という点で一緒だ。
そう思うと、長時間ゆでることでおかゆみたいになる主食は、他にもあるのかもしれない。
パン・じゃがいも・トルティーヤ・クスクスなど、時間をかけて煮込んで、世界各国のおかゆを誕生させたい。
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まずは10分。麺がすこし太くなった一方、食べると既にそうめんぐらいやわらかい。
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15分。このあたりからお湯のブクブクが落ち着いてきて、「ゆでる」から「煮込む」にシフトした感じがする。
そうか、これ煮込み料理だったのか。
なんだか急に手のこんだ料理をつくっている気になってきた。
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20分。鍋をかきまぜた箸の表面がヌルっとしてきた。そして麺はもう、お麩を食べてるようなやわらかさ。
そしてこのあたりを境に、まさに煮込み料理の時間帯となる。
お湯の水位はさがり、麺は存在感を増し、やわらかくなっていくが、それは本当に少しずつで、あっと驚くようなことは起きない。
せっかく門限を破ったのに、結局みんなでファミレスで宿題をやってるような、おとなしい時間。
そんな中、大きな変化があらわれたのは40分を過ぎたころ。この頃には麺のかさとお湯の水位はほぼ同じになっていて、
そして箸で持ち上げてみると、

ついに途中で切れてしまうようになった。
パスタが、麺としての自我を失った瞬間だ。
その後はふたたび煮込みの時間。
とか思っているうちに、55分が終了。
55分ゆでたパスタはきれいな円形にまとまっていて、パッと見、鍋に入れたてのインスタント麺のようにも見える。

しかし鍋をゆらすと大きいプリンのようにプルプルゆれ、中に水分がたっぷりたくわえられているのを感じる。
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そして驚いたことに、40分の時よりねばり気がはるかに増し、箸で持ちあげられるようになっていた。
みんなで支え合って、なんとか麺としての姿を取りもどしている。絵本になりそうなお話だ。
では、その味はどうだろうか。
まずは何もかけずにこのまま食べてみる。
さすがに味つけなしでは厳しいかと思っていたら、
水分が多く、口に入れて何回か噛めば飲みこめるやわらかさ。
そして、普段のパスタでは意識することのない塩が、煮つまることでほど良い味つけになっていておいしい。
これは、日本でいうところの塩がゆだ。
作った人のやさしさが込められている味と食感。
「イタリアでは、家族が風邪をひいたらパスタを55分ゆでて食べさせるんだよ」と紹介されたら信じてしまう。
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さらに、これに味のついていないトマトソースを少しかけると、
先ほどのやさしい塩味に、トマトの酸味とフルーティーさが加わってかなりおいしい。より健康になれそうな味がする。
「こっちは、すこし元気になってきたときに栄養をつけるために食べるんだよ」と言われたら、それも信じる。
パスタを55分ゆでたことで、まだ存在しないイタリアの実家の味を生みだすことができた。
パスタがおかゆみたいになったのは意外だった。でも考えてみると、パスタとお米は、それぞれの国で主食になっている炭水化物という点で一緒だ。
そう思うと、長時間ゆでることでおかゆみたいになる主食は、他にもあるのかもしれない。
パン・じゃがいも・トルティーヤ・クスクスなど、時間をかけて煮込んで、世界各国のおかゆを誕生させたい。
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