インターネットの向こう側
インターネットでちらっと見た景色に立つことができた。
逆に言えば日本のどこかの景色をエラー画面にしておくと、それにとりつかれた人が来るかもしれない。エラー画面ツーリズム。
そんなことを考えながら、帰りの車の中でカメラのプレビューに現れた自分の写真の裸の大将っぽさに戦慄した。
少し前、インターネットでサイトが表示されないときに登場する女性がいた。*
ドメインガール、英語だとParked domain girlなどと呼ばれている女性だ。
たぶんいちどは見たことがあると思う(このあとに写真があります)。
撮影場所はアメリカ中西部、カンザスシティ郊外らしい。
失われたサイトの聖地である。今回そこに行くことができたので報告したい。
( * 正確には見ようとしたサイトのドメインの有効期限が切れていた場合。dailyportalz.jp などの部分をドメインと呼び、定期的にお金を払って更新する必要がある。うっかり更新を忘れると有効期限切れでアクセスできなくなる)
インターネットの超有名人である。
見ようとしたサイトがなくなったとき、彼女が現れる。インターネットの彼岸と此岸の間に立っている女性である。
撮影場所はアメリカ中西部、ミズーリ州カンザスシティ郊外だという。
ずっと行ってみたかったので、今回、アメリカ西海岸で開催されたメイカーフェアの帰りに寄ってみた。
大阪に行ったついでに京都ぐらいのつもりだったが、飛行機で3時間半もかかった。大阪に行ったついでに香港に行ってしまったようなものである。
カンザスシティではAirbnbで予約した家に入ろうとしたら警備員に止められた。
ふふふノープロブレム、ホストの名前を出せば分かる………はずが通じなかった。
発音しにくい名前なのだ。発音記号でいうと ӕ 、アとエのあいだの音から始まる名前だった。
「アとエのあいだってことは『ウ』じゃん!」
とうまいこと言った気になって発音を真面目にやってなかった中学生の自分に教えててやりたい。
その発音ができなくてお前は35年後にでかい警備員に睨まれることになる、ということをだ。
チェックインだけで体力を使い果たした翌日、ドメインガールが撮影された場所へ向かう。
そこはカンザスシティのダウンタウンから南西約25キロ、ユニティヴィレッジという場所である。後ろに見える建物は教会らしい。
一応、近所の人に何をしているのか聞かれたときのために「インターネットでこの景色を見て、実際に見たいので日本から来ました」という英語は覚えておいた。
ちなみにドメインガールを撮ったのは彼女の兄である。
つまり、カメラマンの兄が妹にちょっとモデルにやってよ、と撮った写真だ。
それを写真素材サイトに登録しておいたら使われて超有名人になり、聖地とか言って日本人(おれ)がやってくることになる。
車窓から見覚えのある塔が見えた。あれはドメインガールの後ろに立っている塔ではないだろうか。エンジの屋根も知っている。
サイトがなくなったときに現れる世界にいよいよ近づいている。
インターネット恐山である。
車を降りるとまさにそこは有効期限切れの世界だった。
日本から1万キロ離れた場所に馴染みがあるなんてよくあるSFである。そんなSFじみた感情を自分が感じていることに興奮する。
奥に塔、右にポールがある場所…と考えていくと手前の柵がいちばん近い。ただ、ドメインガールの写真では柵ではなく植え込みになっている。数年間のあいだに模様替えされたのだろうか…。
ちょっとここで人物を入れた写真を撮ってみよう。
妻なので知ってるのは当たり前である。あと、ドメインガールっぽい服買っといてよとお願いしたのも自分だ。
これまで誰も見たことがなかったドメインガールの遠景である。僕はいまドメインガール側の世界にいるのだ。そっちからは枠で隠れているところはこんな景色だったんですよ。
ドメインガールが撮られた場所はとても美しく、どこで写真をとっても絵になる。
撮影が目的なので同じ写真を撮ったら特にやることがなかった。何年も温めてきた企画だったが、そうかこれは出オチだったのか。
いつかデイリーポータルZのドメインが失効したとき、ここで撮った写真を使おう。
インターネットでちらっと見た景色に立つことができた。
逆に言えば日本のどこかの景色をエラー画面にしておくと、それにとりつかれた人が来るかもしれない。エラー画面ツーリズム。
そんなことを考えながら、帰りの車の中でカメラのプレビューに現れた自分の写真の裸の大将っぽさに戦慄した。
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