外装のデザイン考案
外装はただのアクリルでもいいけど、あまりシンプルすぎると、それはそれで面白みがない。最終的に方眼模様に落ち着いたものの、そこに至るまで何種類か作って見栄えを確かめていた。こういう過程も楽しい。
小型のゲーム機に魅了される。手に収まるサイズ感、画面やボタンが最小限に配置されたシンプルな操作性、ちょっとした空き時間にサクッと楽しめるライトなゲーム性。どれも自分にとってはちょうどいい。
以前にもオリジナルの携帯ゲーム機を作ったのだが、最近になってゲーム熱が再燃しており、また作りたくなってきた。久しぶりに新しい携帯ゲーム機を作ろう。
最近だと、「ちいかわ」のゲーム機(写真の一番左)が出ると聞いて、脊髄反射的に予約して手に入れた。形とか液晶とかボタンとか、すべての要素が愛おしい。小さいサイズに、アイデアや意匠がギュッと詰まった感じが好きなんだと思う。
なかなか発売されず、発売されてからも品薄で、注文してから届くまでに2年待ったこのゲーム機。「クランクを回す」という独特な操作をゲームに応用し、いままでにない新しい遊びを生みだしている。
無料で24本のゲームが配信されているのだが(有料ストアもある)、上の写真はそのなかで特に好きな「Crankin's Time Travel Adventure」というゲーム。クランクを回すと、ぜんまいロボットがそれに同期して動き、いろんな障害物を乗り越えていくというもの。
クランクがひとつ付いただけで、こんなにも面白いゲームができるんだ! と感動しきりであった。
「新しい携帯ゲーム機『風呂』」という記事を2021年に書いた。蛇口型のコントローラーを搭載し、「風呂に水を入れて湯を沸かす」という一連の作業をゲーム化したものだ。
このときは「蛇口型コントローラー」という新しいUIを世に出せて満足したのだが、Playdateの操作方法を見ていると、またこんな小型ゲーム機が作りたくてたまらなくなってきた。
蛇口型コントローラー、クランクに続く、新しい操作方法とは何だろうか。しばらくはそれを模索する日々であった。
新しい商品の発想方法としてよく知られるのが、「ニーズ」と「シーズ」という考え方である。
ニーズというは、消費者が求めているものを商品化すること。つまり風呂のゲームで言うと、「多くの消費者は風呂に湯を入れるのが好きでたまらない」→「風呂をシミュレートしたゲームを作れば大ヒット間違いなし!」という発想の仕方だ(このニーズ例はでたらめである)。
これができれば苦労しないのだが、そうそう都合のいいニーズなんて転がってはいない。そこでもう一つの考え方、シーズである。それは、いま自分が持っているもの(技術やノウハウなど)を使って新しい価値を生み出す、という生産者目線の考え方だ。
私はこのシーズでものを考えるのが結構好きで、そのひとつの実践方法として、「何か面白そうな部品を見つけたらとりあえず買っとく」というのをやっている。例えば……
線路を切り替えるときの棒状のスイッチみたいだなあ、と思って買ってきたのだが、しっくりくる用途はまだ見いだせていない。
使い道が謎な部品ほど面白い。もはやそういうのを集める趣味になりつつもあるのだけど、でもこういう部品を漁っていると、そのうちアイデアの種というが見つかるもので。
手持ち無沙汰にスライドさせて遊んでいると、この動作って何かに似てるよなあ? と思い至った。スーっと滑らせる動作。これは……
ということは、スライドボリュームを使うことで、ペーパーカッターのゲームが作れるのではないか。
ペーパーカッターのゲーム、なんじゃそら、という感じだが、思い付いてしまったからには、もうペーパーカッターのことしか考えられない。作ろうじゃないか。
以上、長くなったが、そんな経緯で新しい携帯ゲーム機「ペーパーカッター」を作ることになったのであった。
スライドボリュームをカッターに見立てるため、切断対象(ペーパー)がカッターの下にないといけない。なので、スライドボリュームの下に液晶があるという奇っ怪な形状なった。
こんなの、汎用性がなさすぎて、一般的なゲーム機としてはとても作れるものではない。でも趣味でやっていると作れてしまうのだ。
商売のことを考えない開発は、自由な発想をそのまま形にできる。自分の内にある「これが作りたい!」という気持ちだけがモチベーションなので、何のしがらみもないし、本当に楽しさしかない。そこが個人開発のよさである。
私なんかは、このサイズの携帯ゲーム機が手の内にある、というだけで満足できてしまうのだ。しかもそれがオリジナル作品で、他にはないインターフェースを持っているとなると、感慨もひとしおである。
でもこれがゲームとして面白いのかというと……? これを使って一体どんなゲームができるのか紹介したい。
「ペーパーカッター」はどんなゲーム機なのか。紹介動画を作ったので、手っ取り早く知りたい方はこちらをご覧いただきたい。
ご覧の通り、スライドボリュームが邪魔をして、液晶は2/3くらいしかまともに使うことができない。
自分で作っておきながら、なんだこの変態的な構造のハードは! と思ってしまった……。
幅を持ったカッターの下に赤い点線が入ると、もちろん点線は見えなくなる。この何も見えない状態で、勘を頼りに紙を移動させ、カッター中央の真下になる位置に紙をセットするのだ。
ここが、このゲームで一番ゲーム性がある部分である。たったこれだけである。
実際に遊んでみると一発で「ああ、そういうことね」って分かるのだが、ハードから自作したゲームは簡単に遊んでもらうことができない。なのでこんなに回りくどい説明になってしまったのだけど、まあ、たったこれだけです!
動かし方がペーパーカッターそのものなので、気分は完全に紙の切断である。
切断面が見えないことでゲーム性が(少しだけ)生まれ、あとはひたすらカッターで紙を切る感覚(気持ちよさ?)をシミュレートして楽しむ。そんな感性に訴えるゲーム、それが「ペーパーカッター」なのである。
簡単そうに見えるが、赤い点線の上をジャストで切断するのはかなり難しい。意外と人間の感覚ってアテにならんのだなあ、というのが遊んでいるとよく分かる(遊んでもらえないのがもどかしい)。
ペーパーカッター使用時のあるあるネタと言えば、「真っ直ぐに切ったつもりなのに、紙が少しずれて切断面がガタガタになってしまった」だと思う。スイッチを押す動作がブレることで、切断面のガタガタが発生するシチュエーションがゲーム内でも味わえるようになっているのだ!
というのが一番思うところだろう。シーズ起点で開発したので、ニーズが置き去りになっている印象も少しある。でもサクッと遊べるミニゲームとして見れば、結構面白いのですよ……。
ともかく、こうして「自分が作りたいもの」を形にするという作業が重要なのだと感じている。
商品開発はよく野球のバッターに例えられる。バッターはヒット率が3割を超えるとすごいと言われるけど、残りの7割はベンチで休んでいるわけではもちろんなく、打席に立ってヒットを打とうとしている。まずは打席に立たないことにはヒットも出ないのだ。
製品を出すというのは打席に立つということ。7割が失敗する可能性があっても、打席に立ち続けなければ絶対にヒットは出ない。そういうものなのである。
と、なんか言い訳みたいになってしまったが、結局は自分が作りたいものをせっせと作る行為がとても尊いと思う。なので、失敗をおそれずにどんどん作っていこうぜ! というのが今回の結論だ。
外装はただのアクリルでもいいけど、あまりシンプルすぎると、それはそれで面白みがない。最終的に方眼模様に落ち着いたものの、そこに至るまで何種類か作って見栄えを確かめていた。こういう過程も楽しい。
今年も東京ビッグサイトで開催される、ものづくりの祭典『Maker Faire Tokyo』。
デイリーポータルZも例年通り出展し、そこで今回作った「ペーパーカッター」と、前回の「風呂」を遊べる形で展示します。
ぜひこの機会に遊んでみてください!
Maker Faire Tokyo 2023
2023/10/14(土)12:00~18:00
2023/10/15(日)10:00〜17:00
会 場:東京ビッグサイト 西4ホール
ブース:E-04-05 デイリーポータルZ
入場は有料で、前売りを買うと安くなるので、気になる方は公式サイトをチェックしてみて下さい。
https://makezine.jp/event/mft2023/
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