音姫を信頼する旅
生まれてこのかた音姫を信頼したことがない。そんな私だったが、音姫の素晴らしさを再び知ることになった。そして、わりと時間をかけて作った爆音音姫は、ただのかさばる箱へと変わってしまった。
最近、「音姫」が(ほとんど)女性用トイレにしかついていないという事実を知った。ショックだった。膝から崩れ落ちるとはこういうことか。と思いながら、普通に立ちながらショックを受け止めた。心の中の膝は崩れ落ちていた。
私の生活には音姫が溶け込んでいて、音姫に対してある主張を持っている。
「音姫」とは、「トイレ用擬音装置」と呼ばれるものの一種で、ボタンを押すと川のせせらぎのような音が聞こえる。主に女性用トイレについていて、良いデパートに行くと鳥のさえずりが入っていたりする。
なぜそんなものがあるのか。それは、チロチロ音をかき消すためだ。
オープンチロチロをしている男子トイレとは違い、女子トイレはプライベートチロチロなので、その音を他人に聞かれるのは羞恥心が働く。音姫のない時代を生きた人たちは、トイレの水を流しっぱなしにして排泄音を消していたそうだ。しかし、水がもったいない。そこで開発されたのが音姫だった。
このように、音姫は環境問題の救世主ともいえる。歴史は、音姫誕生以前と音姫誕生以後に別れる。しかし、ここで正直に打ち明けると、私は生まれてこのかた音姫を信用したことがない。
音姫には音量調整機能がついていない。ボタンを押すと、決まった音量で決まった長さのせせらぎが聞こえる。その大きくも小さくもない絶妙な音量。フェードアウトしていく川のせせらぎ。残るチロチロ音。
その微妙な音量から、「これ、ちゃんとカバーできているのか?」と不安になってくるのだ。個人的にはチロチロ音を他人に聞かれてもそこまでの恥ずかしさはないのだが、カバーできていないことで恥ずかしさが増幅する。「隣のトイレに入っている人、音姫でチロチロ音カバーできてないんだけど。草生えるわ」と、ツイッターに投稿されているかも。そんなことを思えば思うほど、音姫に対しての不安がどんどん増してくる。
じゃあ音姫を使わなきゃいいじゃん。という意見に対してきっちり反論があるが、長くなるのでやめておく。
とにかく、私は音姫を信頼できない。音姫に対する不安を解消するにはどうすればいいのか。そこで私は「爆音音姫」を作ろうとしている。
Amazonで、600円で販売されていた音姫を購入した。ちなみに、この記事では全ての「トイレ用擬音装置」を便宜上「音姫」と呼ぶことにします。他のメーカーの人、すみません。許してください。
中身を取り出し、スピーカーの部分のコードを切断する。そして、スピーカーの代わりにラインアウトをつなげた。スピーカーから出ていた音がラインアウトから出力されることになるのだ。
これをすることで、いろいろなアンプやスピーカーに音姫をつなげることができる。
次は、この装置をどうにか収める音姫箱を作っていきたい。まずダンボールを白く塗る。
白く塗った段ボールに音姫の箱に書いてあるやつを全部書き写していく。
音姫はTOTOから出ているものなのだ。TOTO(トートー)をもじって(私の名前の麻里菜から)「マーリー」にしたら面白いなあ。ふふふ。と、頭の中で考えていたのだが、いざ文字にしてみたらダンサーの芸名みたいになってしまった。
変わった小学生が作った夏休みの工作のようになってしまった。文字の配分が大の苦手なので、二文字だけ行をはみ出た。でも、音姫感は伝わってくるからよしとしましょう。
完成した。これが、爆音音姫だ。
ラジカセを背負うラッパーのようでかっこいいではないか。
しかし、持っているのは音姫である。
ボタンに繋がれていたコードをくっつけて導電させることで音が流れる仕組みになっている。
肝心の音はどうなのかというと、動画でご覧ください。
YouTubeで爆音さが伝わるか不安なのだが、爆音だ。爆音すぎて、耳がけっこう痛くなる。
川のせせらぎというよりも、ダムの放流だ。そう、私たちのチロチロ音は川のせせらぎなんかで消えるわけない。ダムだ。新しい音姫はダムの音にしてほしい。
女子トイレからダムの音が聞こえるのもなかなかよいではないか。
トイレの中から爆音で流れてくる様子を撮影してみた。何事かとおもうほどの音量だ。
出るのに一苦労する。
爆音だと言いながらも、果たしてどれくらいの爆音なのだろうか。ちゃんと数値化したいと思ったので、デシベルを測れるiPhoneアプリを使ってみようと思う。
測ってみたところ、マックス値は100デシベルを超えていた。
調べてみると、なんと電車のガード下くらいのうるささだそうだ。このレベルになると、まともな会話は不可能ということで、どんなチロチロ音でも確実にカバーできる。信頼に足る音姫というわけだ。
爆音音姫を作れて満足な気持ちで帰宅していた。帰路、商業施設のトイレに入ると、音姫がついてあった。他に誰も入っていなかったので、ひっそりと音姫のデシベルを測ってみる。
マックス値で77デシベル。私の作った爆音音姫よりも30も低く、なんだか、してやったりな気持ちだ。
一応、70デシベルの例を調べてみようとGoogleで検索してみた。
すると、「間近にいるセミくらいのうるささ」だそうだ。結構うるさかった。遠くにいるセミでもうるさいのに、間近にいるセミである。想像しただけでもやかましい。これで十分な音量だと思った。
私が不安に思っていた音量は、メーカーの人が研究を重ねた結果の最善なので、なんの不備もなかったのだ。これからは勝手な不安を抱かず、音姫を信頼します。
今後とも、よろしくお願いいたします。
生まれてこのかた音姫を信頼したことがない。そんな私だったが、音姫の素晴らしさを再び知ることになった。そして、わりと時間をかけて作った爆音音姫は、ただのかさばる箱へと変わってしまった。
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