「選挙へ行こう!」タスキを自作することにした
選挙運動にはいろいろあるが、一番手軽なものをと考えてタスキを自作することにした。
無地のタスキに自分の名前をカッティングシートで入れた。作ってるときから自意識はふくれ上がっていく。
名前だけだと簡素すぎるようで本物らしくなく見えた。本物は「2019年参議院選挙」など候補者であることも入れるようだ。
しかし私は候補者ではないので「選挙へ行こう!」と選挙全体の盛り上げ運動として文言を入れた。遠目に見ると候補者だがよく見るとただの選挙ファンのタスキである。選挙に行ってほしいというのはもちろん本心ではあるが、ここでは逃げ道としての意味合いが大きい。
選挙運動期間最終日、駅前に立つ
娘が最寄り駅ではやめてくれというのでゆかりのない街に出た。東急線のターミナル駅でもある駅前では選挙運動の声がよく聞こえる。徒歩の候補者やスタッフもちらほらいる。
チャンスだ。自分の名前の入ったタスキをかけても目立つことがない。こんなチャンスは選挙運動期間しかないのだ。
格好はネクタイしめて派手なジャンパー。歩きやすい靴。私の考える選挙運動ルックである。さあ、自分の名前のタスキをかけるときが来た!
恥ずかしさよ!
やっぱりだ。タスキをかけたところで注目されない。選挙運動最終日の駅前。自分の名前のタスキをかけてこんなに注目されない日はない。ここまではよかった。
しかしそれでも恥ずかしいのだ。 街には何人もタスキをかけた人がいるはずなのに、この恥ずかしさはなんだろうか。
ああ、自分の名前が大きい。大きい上に自分で誇示している。『AKIRA』という映画でこんな場面を見た。自意識という名のAKIRAくんはどんどん大きくなっていくのだ。
たとえば私が歌手になってCDを発売したことが大きなポスターになっていたら恥ずかしいだろうか。いや、きっと恥ずかしくない。
どうやら恥ずかしさの理由は、私が本当の候補者じゃないことからだ。一般の人がただ名前を大きく出すとものすごい自意識の膨張にさいなまれることがわかった。
本物の候補者と酒飲んでる選挙運動ファン
とにかく街のいたるところで選挙運動はされていた。駅前を離れて公園に移動しても選挙カーが追ってくる。そして気を抜いてビールを飲んでいたとき、ついに本物の候補者とすれちがった。
タイムスリップしたとき、人はその時代の自分とは会わない方がいい。タイムパラドックスが起きるからだ。そんな緊張感があった。
基本的には候補者同士が対面すると「◯◯候補もがんばってください」という挨拶をかわすらしい。ところがこちらはただの選挙運動ファンである。
「……?? どうも?」
と言う候補者の目がまんまるだったのを覚えている。私はうなずきながらビールを飲んでいた。タイムパラドックスは起きず、世界の秩序は保たれた。
立候補するから自意識の確変が起きるのでは?
こんなにタスキをしてる人ばかりなら、自分の名前をタスキにしても目立たないだろう。自意識の確変を起こすチャンスだ。そう思っていたのだが、そこにあったのは恥の概念だった。
やっぱり自分の名前を大きく掲示するのは恥ずかしい。それは何もしてないからだ。
もしかしたら候補者も恥ずかしさを感じているのだろうか。いや、さすがにそんなことはないだろう。自分の名前が大きく出るたびに当選が近づくのだ。脳内麻薬がドバドバ出ているにちがいない。おれだおれだぞ、おれの名前がおれの名前が…と自意識を肥大させていく喜びを感じるためには立候補するしかない。
「選挙に行きました~!」に「いいね!」をもらって承認欲求を満たすことにあなたの脳が満足しなくなったら、次なる一手は立候補しての自意識の肥大遊びじゃないだろうか。
もしかしたらあの人達はそういうアブノーマルな人たちなのかもしれない。見方はなんであれ、へんなことになってるかもしれない政治はよく見ていたいものだ。
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