特集 2023年7月4日

大須の電気街に突然現れる基板のジャングル、実はスゴ腕の修理屋さん


時代が変わると修理依頼も変わる

5年くらい前はワープロの修理依頼が多かったという。

小坂井
月に4~5台直してたもんな。まあ2~3日で直るけどな。特に年末は年賀状があるからどっさり来たな。
そう言って見せてくれた棚には古いワープロがどっさり。一部は値札が付いていて、販売もしている。
小坂井
キーボードが壊れたりさ、フロッピーディスクドライブね、ああいうのが壊れるね。ゴムベルト替えてやったりね。そりゃもう一時はすごかったよ。

もう今はないけどな。ワープロ使ってる人たちが年取っちまってよ、一年に2台か3台。
石川
それで最近多いのがビデオですか?
小坂井
DVDとVHSの機械な。
石川
あー、VHS(ビデオテープ)からDVDにダビングできるやつですか?
小坂井
そう。メカの修理が多いな。テープが出てこないとか、回らないとか。

※メカ…ここでは、信号のやり取りをする電子回路の部分ではなくて、ギアとか回転部品とかの動く部分という意味。 

VHSとDVDのついたデッキ。VHSを再生できる機器がどんどん減っているので、いまのうちに録画テープをデジタル化しようという需要があるのかもしれない
修理中なのか、VHS部分のメカが置いてあった
石川
(置いてある機械を見て)これは何ですか?
なんだと思います?
小坂井
これはラジオ。こんなの見たことないやろうな。
違う機種だけど、だいたいこんな感じのもの。いわゆる短波ラジオというやつ。1970年代のものだそうだ
ばらしてあったのをその場で組み立てて聞かせてくれた
小坂井
そこらの古道具屋やネットオークションで買ったりさ、鳴らんやつを。これ直して売れば〇万円
石川
えっへっへ。儲かりますね。

けっこういい値段が飛び出したので、関係ないのに思わずニヤニヤしてしまった。

基板を買うのは意外な常連客

ところで、この店にある大量の基板はどこから来たのだろうか。
なかには中古品を買って取り出したものもある。でも多くは修理を請け負うなかでお客さんが修理しなかったものを引き取るうちに、どんどんたまっていったそうだ。

小坂井
タダ儲けやな(笑)

もちろんこれらは修理用部品として再利用されている。しかし、これだけのストックがあったとしても、修理したい機器と同じ部品が必ずあるとは限らない。

そういう時は別の部品を流用するわけだが、同じ機器でもメーカーによって作りが違うので、流用できたりできなかったりする。メーカーAの機器Xを直すのに、メーカーBの機器Yの部品であれば使える……という今までの修理経験による部品ごとの対応関係があり、だいたい頭に入っているという。

石川
それはすごいな…。お店にはすごい数の基板や部品がありますけど、だいたいどこに何があるかは把握されてます?
小坂井
それは把握しとらんな。面倒くさいで覚えとらん(笑)
DSC08168.JPG
そうは言うものの質問するとすぐ答えが返ってくる。
「これはヤマハのカセットデッキだな」
この辺はワープロらしい
同じワープロでも、印字するところのメカ部分
ビデオデッキのテープを入れる部分

基板はバラ売りもしている。しかしこんな基板だけ買って帰っても、使える人なんて相当レアなのでは…と思いきや。別の用途があるようだ。

小坂井
女の人が買っていくよ。こういうのを使って、作るんだって。芸術品を。この色がいいとか、黄色いのは安っぽいからいかんとか言ってな。

男の人はあんまり買っていかない。たまに売れるけどな。

意外な常連客がいるようだ。

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「この中は俺のコックピット」

小坂井
この店やる前に真空管屋をやっとったの。300Bっていう世の中で一番高い真空管を、注文して店名入りでオリジナルで作ってな、俺のお客さんに2本ずつ配っとったの。

「小坂井電機」で100本作ったかな。日本全国で数十本は残っとるはずだ。
石川
ここにもまだ残ってますか?
小坂井
ない。盗まれちゃった。真空管でよ、アンプ作ってよ、昔の店に置いといたんや。そしたらいつの間にか空き巣が入ってよ、アンプは重たいで持ってけんで、真空管だけ持っていった。
石川
あらら。
じゃあずっと修理屋だったわけではないんですね。
小坂井
時代の流行に乗っかってな。いろいろやってきたわけや。
今から30~40年前はビデオデッキの修理でよ、よう売れたわ、そのころは。

ビデオデッキをよ、メーカーで買えば3万4万ってものをよ、うちで直したやつだったら1万5千円で買えたりとかよ。そらよう売れたんだ。

小坂井さんはとても気さくな人だが、特に儲かった話になるとすごいニコニコ話してくれるので、こちらも笑ってしまう。

小坂井
真空管やって、ビデオやって、部品屋やってたこともあるよ。ここにズラーっと並べてな。
それがいま部品は売れんようになってまったでしょう。だから直すことにした。まあこれで終わりだな。俺の人生もだんだん終わってくんじゃない?

そう自虐ギャグを飛ばす小坂井さん。現在86歳だそうだ。

でも正直、80代になってこんなお店で好きな機械いじりをしながら毎日過ごすなんて、なんて素敵なことかと思う。

石川
でもなんかこう、ここって小坂井さんのお城って感じじゃないですか。いいですよね。
小坂井
そうだよ。この中は俺のコックピットだよな。ここへ座り込んでよ、ここでいろんなことを考えて。パソコンも置いてあってよ。
基板のジャングルをかき分け、コックピットにすっぽり収まる小坂井さん。入るのは簡単だけど出るのが大変らしい。

コックピットというのはいいえて妙で、奥は人一人がちょうど座れる小さなスペースだが、木製のデスクと、手元を照らすライト、スタンドルーペなどがあり、ここで機械いじりをするのはさぞかし最高だろうなという趣がある。

手の届く場所にたくさんの工具
石川
手が届くところに全部ある。最高ですね。
修理がお好きですか?
小坂井
そりゃもう、(機械を)触るのが好きだな
お客さんが持ってくる物なんでも、「ウーイ見たるわ」って言ってな。「ウーイ直したるわ」って言って……直らへんでな。もう80で年だからよ、忘れるでな(笑)

小坂井さんは中学校の時から、学校の教科書を持たずに電気の本を持って毎日登校していたという。先生も「小坂井は学校卒業したら電気屋になれ」と言い、新聞広告をみて電気屋に丁稚奉公に出たのがすべての始まりだそうだ。

それからずっと電気製品を愛し続けてきた。その歴史がそのまま積み重なったのが、僕が思わず足を止めた、あの基板のジャングルなのだ。

店頭に飾られていた写真。お友達が撮っていって、区役所の写真展にて展示されたそうだ

憧れがそこにある

最初は興味本位で「おもしろスポット発見!」と思っていたのが、お話を聞くにつれて「この人すげえ…」という尊敬の念になり、最終的には「こんな人生が送りたい…」という憧れに変わっていった。
 
修理したい古い電子機器がある方はもちろん、機械いじりの好きな方は、ぜひ大須のKDSを訪れてみてほしい。きっと憧れる場所がそこにあるから。
KDS

営業時間:10:00~20:00 電話番号:(052)263-1613
〒460-0011 愛知県名古屋市中区大須3丁目30−86 第1アメ横ビル 1F

おしらせ

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