ファミリーマートの「お母さん食堂」は酒のつまみの宝庫である。サクッと家で飲むのにちょうどいいような量で、絶妙にツボを突くメニューが揃っている。
それでいて、「きんぴらごぼう」「切干大根煮」といったいわゆるお母さん惣菜もきちんと押さえつつ、冷凍食品の方では「XO醤香る五目炒飯」、「炙り焼豚の極太つけ麺」と、専門店顔負けの大活躍。
なんと多彩な表情を持つお母さんだろうか。掘れば掘るほどに底知れなさが見えてくる。こんなお母さんと一緒にお酒を飲んでみたいと思うのだった。
ファミリーマートで「お母さん食堂」という惣菜のシリーズが販売されている。ファミリーマートのプライベートブランドである。香取慎吾が割烹着を着てお母さん役を演じるCMを見たことがある人は多いんじゃないだろうか。
「お母さん食堂」という言葉から、なんとなく「おふくろの味」みたいなものを想像してしまう。肉じゃが、きんぴら、切り干し大根といったような。
しかし「お母さん食堂」の棚には「三種のチーズ入りおつまみかまぼこ」や「燻製チーズソーセージ入りおつまみ4点盛り」などが並んでいる。これはもう、紛れもない酒のつまみではないか。「お母さん」って一体なんなだろう? その境界線を探ってみることにした。
パリ:ファミリーマートに「お母さん食堂」っていう惣菜のシリーズがありますね。
ナオ:はい。
パリ:あれ、2017年の9月から販売されているらしいんですが、発売当初からずっと気になっていたことがあるんです。「お母さん食堂」のお母さん、あんまりお母さんじゃなくないすか?
ナオ:そうなんですよ。
パリ:ですよね!
ナオ:「お母さん食堂」っていう言葉だけを見ると、よく言う“おふくろの味”みたいな、 家庭的な惣菜みたいなのを想像しますよね。
パリ:でも、サイトのラインナップを見てみると、いきなり「おつまみセット」。
ナオ:まず最初にね。
パリ:そこから、唐揚げ、ポテト、ソーセージ。これじゃ「昼飲みもできる大衆食堂」でしょう。
ナオ:「酢もつ」、とかね。
パリ:酢もつ!
ナオ:ずいぶん酒に理解があるお母さん。というかお母さんも酒が好きなのか? まあ確かに、「家庭料理はこうでなきゃ」ってルールはないからな。
パリ:当初はもっとおふくろの味っぽかったのが、最近子供がだいぶ手がかからなくなってきて、自分の好きなつまみとか作るようになったのかな?
ナオ:わずか3年でね。一気に子離れした。
パリ:でも、6歳が9歳になればだいぶほら。
ナオ:お母さんが自分の酒のつまみを作ったっていいし、お父さんと一緒に飲むのかもしれないし。
パリ:「そろそろ私の好きなものもつくらせてもらうわよ」が、だんだん侵食してきてる。
ナオ:なるほど! とにかくお母さんなのか誰なのかわからないけど、家庭の中で酒を飲んでる奴がいることは確か。
パリ:イメージは完全に、割烹着着た慎吾ママなんですよね。
ナオ:そうですね。CMのね。慎吾ママ、なんとなくですが、酒かなり飲めそう。
パリ:でもですよ、コンビニの惣菜シリーズで、ここまでの想像を消費者に求めるというのもハードルが高く無いですか?
ナオ:そうですね。お母さんの背景をここまで想像してやっと納得できる。
パリ:オーソドックスな「お母さん」のイメージでやってくれよと。
パリ:ちょっと実際に商品一覧を見ていってみると、「スパイシーチキンナゲット」。これはもう、お母さんじゃないですよね?
ナオ:少なくとも私のお母さんではないですね。
パリ:ははは。「豚バラにんにく醤油焼き」は?
ナオ:気が利いてるなー。
パリ:にんにく醤油が飲ませにきてる。
ナオ:きてますね。
パリ:お母さんなら「豚バラ炒め」ですよね。
ナオ:そこに飲ませ要素を入れてくれてる。「2種ボロニアソーセージ入り4種のおつまみ」はもう、「どこのお母さんなんだ」と、古賀さんも言ってました。
パリ:古賀さんも。
パリ:一皿に「2種」と「4種」を盛り込んでくるお母さん、いないって。
ナオ:ははは。それはもう、店!
パリ:「蒸し鶏と小松菜のナムルサラダ」と「鶏皮と小松菜のナムルサラダ」。
ナオ:2パターンあるんですね。
パリ:そもそも小松菜のナムルサラダが好きすぎるし、「お父さんは鶏皮で、私はちょっとカロリーを気にして蒸し鶏で」……子供わい!っていう。
ナオ:子供はもう置き去りかもしれないですね。
パリ:かわいそう。
ナオ:逆に子供が好きそうなものがないぐらい。
パリ:いや、そんなひどいお母さんじゃないはず。酒は飲まないけど酒のつまみは好きな子供なんですよ。べつやくれいさんがそうだったって、前に言ってた。
ナオ:そうですね。こういうの好きな子もいそうだ。酒のエリートになりそうだ。
パリ:ちなみにべつやくさんは、周囲の大人たちからそんな風に言われて育って、だけど体質的にお酒が飲めず、ただ酒のつまみが好きな大人に育ったそうです。
ナオ:ははは。そのままね。
パリ:「ごはんにちょいかけ!」っていう、ご飯のおかずシリーズもありますけど、「ごはんにちょいかけ! ごまみそ坦々」、ひねりすぎだって
ナオ:ひねりすぎ!「ごはんにちょいかけ! ルーロー飯」もありますよね。うまそうなんだよ!
パリ:そう! うまそうなんだよ!
ナオ:大人の好みを知ってるお母さんだわ。
パリ:なのでちょっとお母さん食堂の「お母さん!」「お母さん?」「お母さんじゃない!」の境界線を探りたくなってきまして。
ナオ:ちょっと検証してみないといけない。
パリ:それぞれが思う「お母さん!」「お母さん?」「お母さんじゃない!」の3品を買ってみたんですよね。
ナオ:はい。まず、「お母さん!」っていうのはつまり、おふくろの味的なイメージのもの。あるにはあるんですよね。
パリ:全体の1/10くらい?
ナオ:見逃すぐらいね。例えば私が買った「切干大根煮」これはもう「お母さん!」でしょ。
パリ:急にずいぶんお母さんだな。ひねってないと逆に不安になる。
ナオ:確かに。
パリ:僕が選んだ「ひじき煮」も、こうなってくるともう、「お母さん、珍しいじゃん」みたいになってきますね。
ナオ:はは。そうですね。家に帰ってきて「なになに? お母さん、今日は普通じゃん? ……なんかあった?」。
パリ:「ちょっと…ね……」
ナオ:不安になる。
パリ:切り干し大根を煮ただけなのに何かのフラグに。
ナオ:お母さんがどこか遠くへ行ってしまいそう。
パリ:「あの変化に気づけてあげていればなぁ」
ナオ:「イメージ通りのお母さんになれなくてごめんなさい」と書き置きを残して。
パリ:背伸びして最後に作ってくれたんだ。
ナオ:悲しくなってきた。もはや「このお母さんがいい!」という気持ちになってきてる。
パリ:気を取り直して、僕が選んだ「ひじき煮」なんですが、ひじき、ニンジン、あぶらあげ、コンニャクに、レンコンまで入ってる。大豆も入ってる。
ナオ:ちゃんとバランスを考えてくれている。
パリ:今から食べてみますね。……あ~! これ、お母さんだ! カツオや椎茸の出汁の香りがします。かなり美味しいな。
ナオ:お母さん! 「ひじき煮」や「切干大根煮」は、それこそそのままお弁当に一品プラスとかに使えそうですよね。
パリ:ですね! これはお母さん認定でいいと思います。
ナオ:でもね。うちのお母さんはこんなもんじゃないですよ。
パリ:はは。お母さん対決になってきた。
ナオ:そんな普通のイメージにはおさまらん。次は「お母さん?」な一品なんですが、冷凍食品系にもたくさん「お母さん食堂」シリーズのものがあるんですよね。
パリ:そうそう。レベル2のお母さん。さっきのページに載ってないやつもある。
ナオ:こっちに商品一覧があります。
パリ:これもうファミレスのメニュー表でしょう。
ナオ:そう。この冷凍お母さんがいよいよすごいです。
パリ:ナオさんは何を?
ナオ:僕は麺が好きなんで「炙り焼豚の極太つけ麺」を選びました。
パリ:わはは!
ナオ:私は自分の母から「極太」って言葉聞いたことないです。
パリ:「炙り焼豚」だってないでしょう。
ナオ:はは。確かに。母が「つけ麺」って言ってるのも聞いたことないかも。
パリ:全部ない。
ナオ:これってタオルを頭に巻いた大将のいる店の言葉づかいですもん。
パリ:それでいうと僕は「XO醤香る五目炒飯」。チャーハンは定番だけど「XO醤」が家にないし、家のチャーハンが五目だったことなんてない。
ナオ:確かに家のチャーハンってすごくシンプルだったり、べちゃっとしてたりするのがそれはそれで美味しいって感じですけど、このお母さんはすごいなー!「XO醤香る」ってね。
パリ:そうそう。家チャーハンでいちばんないのが「香る」の部分かもしれない。
ナオ:「たけし! お前の好きなXO醤が香るだろ?」ジャイアンのかーちゃんのイメージで。
パリ: 「うん、香る香る!」
ナオ:これはもうよそのお母さんですね。きれいなジャイアンみたいな、きれいなお母さんというか。もとの母を返して欲しいほどですよ。そんで実際、つけ麺がすごい美味しいの!
パリ:ほー 。
ナオ:出汁がもう、店で食べるやつみたい。
パリ:麺もすごいこれ、店のやつですね。
ナオ:極太でした。つるつるでね。家でお母さんがこれを出してきたら驚きます。
パリ:え、待って待って。これ、チャーシューも込みで230円ですか! 安いな。
ナオ:え! そんな安かったんだ。確かめずに買ってました。それにしては本当に本格的な味でしたよー。
パリ:いや僕のチャーハンもですね。すごかった…。レンチンでもいいんだけど、フライパンに油もひかず3分くらい炒めるだけでもいいんですよ。
ナオ:XO醤はどうですか。
パリ:ここだけの話、炒めてる時点でXO醤が香ってくるの。
ナオ:ははは。フライングだ。
パリ:フライングフレーバー。一気に中華屋の厨房の香り。そんで、究極にパラパラなんですよ。家のチャーハンと対極の。
パリ:竹の子がシャキシャキしてたり、いろんな具の味がして。
ナオ:ちゃんと五目だし。
パリ:しかもですね、ごはん一膳分くらいという、ちょっと食欲が落ちてきた我々みたいな世代には絶妙な量で、139円!
ナオ:安い!
ナオ:ここまでが「お母さん?」でしたよね。「あれ? 本当にうちのお母さん?」って少し疑うぐらいの。「チャーハン、こんなパラパラなはずないんだけどなー」って。
パリ:でも「『ためしてガッテン』でコツをおぼえて作ったのよ~」って言われたら納得できなくもない。
ナオ:うん。ギリギリね。
パリ:が、次の「お母さんじゃない!」はすごいですよ。そもそも選び放題。選択肢が豊富すぎる
ナオ:それが一番多いぐらいですもんね。
パリ:そうなんですよ。だから、羽を伸ばして選んじゃいました。
ナオ:はい。私はずっと最初から気になっていた「タンスティック チーズ」にしました。
パリ:タンスティック!
ナオ:これはもう。絶対うちのお母さんではないです。「タンスティック」ですよ。タンスの話はたまにするけど。
パリ:タンスチック。ないな、そんな言葉。
ナオ:「箪笥ティックな物を探してるのよねー」
パリ:「お母さん、これなんかどう?」
ナオ:「それはワゴンでしょ?」みたいな。それじゃないんですよ。「タン」の「スティック」。
パリ:そもそも、食肉加工品を家で作るお母さんがほぼいないでしょ。
ナオ:商品説明には「スティック状で食べやすくした食感の良いスモークタンと、相性の良いチーズを使用しました」とあって。
パリ:スモークタンと相性の良いチーズを知ってる時点で。
ナオ:お母さん感一切ないですもんね。これがまた、実際食べやすいんだ。パッケージからそのままニューッと押し出すようにして食べれば手も汚れない。
パリ:食べたことありました?
ナオ:いや、初めてでした。
パリ:実は僕、タンスティックが大好きで、ちょっと飲むのにちょうどよくないすか?
ナオ:うん。いいおつまみですね!
パリ:タンの食感が相当いかされてるんですよね。
ナオ:食感がゴツゴツっとしていて噛み心地がいい。
パリ:見た目は普通のサラミとかっぽいんですけどね。レモン味もありませんでした? そっちもいいんだ~。
ナオ:そうなんですか! 今度食べてみます。
パリ:僕が選んだのがですね、「野菜とチキンのアヒージョ風」。
ナオ:はは。これまたお母さんじゃない!
パリ:ないよね~。しかもこれ、冷凍なんですけど、店頭のレンジでもあっためられますよって書いてあるんですよ。
ナオ:そうなんだ!
パリ:持って帰ってすぐ飲める。試しにお願いしてみたら、もう、コンビニ袋からバルの匂いがぷんぷん!
パリ:そして、チキンはもちろんうまいんだけど、その旨味を吸ったとろとろのじゃがいもと、ブロッコリーがたまんない。「酒、おかわり!」っていう。
ナオ:うわー! それは、お酒もワインかねもう。
パリ:もうそっち系。「お母さん? あれ? おかあさん、どこ!?」いつの間にか立っていたスペインの街角で。
ナオ:ははは。スペインの路地に消えていくお母さんを探す悪夢。
パリ:はっ! って起きて朝ごはん食べに降りていったら、食卓に「チキンと野菜のアヒージョ風」が。
ナオ:ギャー!
パリ:なんなんだその話は。
ナオ:お母さん食堂のお母さんは本当に多彩ですね。
パリ:ですね~。
ナオ:なんていうか、いろんなお母さんのいいとこ取りなのかも。AIっていうかさ。お母さんの集合知みたいな。
パリ:そもそも、我々のお母さん感が、ちょっと古すぎるのかも。考えてみれば今時のお母さん、アヒージョくらい作るっしょ。
ナオ:ははは! そうですね、最近のお母さんは違いますよねきっと。切り干し大根とかのイメージ引きずりすぎ! 慎吾ママの割烹着姿に引っ張られたんだな。
パリ:あの割烹着姿なんだよな~。
ナオ:逆に、「ザ・おふくろ」っていう方が幻想なのかも。いや、「ジ・おふくろ」か。そこはどうでもいいか。
パリ:はは。とにかく「お母さん食堂」のお母さんはこういうお母さんなんだってことで、色々いいおつまみを提供してくださって、ありがたい限りですね。我々としては。
ナオ:すごくファミマのお母さん像が楽しくなってきて、他のつまみも色々食べてみたいです! もう「つまみ」って言っちゃってるけど。
ファミリーマートの「お母さん食堂」は酒のつまみの宝庫である。サクッと家で飲むのにちょうどいいような量で、絶妙にツボを突くメニューが揃っている。
それでいて、「きんぴらごぼう」「切干大根煮」といったいわゆるお母さん惣菜もきちんと押さえつつ、冷凍食品の方では「XO醤香る五目炒飯」、「炙り焼豚の極太つけ麺」と、専門店顔負けの大活躍。
なんと多彩な表情を持つお母さんだろうか。掘れば掘るほどに底知れなさが見えてくる。こんなお母さんと一緒にお酒を飲んでみたいと思うのだった。
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