特集 2022年1月11日

マスクの下でドキドキお歯黒ライフ

マスクが必須の今だからこそ、マスクの下でこっそりお歯黒を楽しみます。スリル満点のお歯黒ライフ、スタートです。

大阪で生まれ育ちました。工作と漢字が好きです。チェキで盆栽を撮影したり、豆腐を千切りしたりしています。

前の記事:すっぽんの甲羅で鎧を作る~すっぽん甲羅王への道

> 個人サイト 唐沢ジャンボリー

お歯黒への憧れを今こそ実現

私は大学で美術史を勉強しています。江戸時代の浮世絵を見ることが多いのですが、そこに描かれている女性の多くはお歯黒をしています。

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Wikipedia「お歯黒」 より引用

それを見るたびに混乱しつつ、同時に心をときめかせてもいました。


そして最近気づいたのです。

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発見です

お歯黒をしてても、マスクをすれば出歩けます。基本的にバレることはありません。

今こそハリのないマスク生活に非日常をもたらしましょう。

お歯黒をやってみる

以前、DPZの加藤まさゆきさんが伝統的なお歯黒にチャレンジしていました。

この記事によると、昔のやり方では歯が元の色に戻らない可能性があるようです。あと、染める液体がめちゃくちゃ不味いらしいです。嫌です。

軽く路頭に迷い、ネットで「お歯黒 道具」と投げやりな検索をすると、なんとお歯黒ができる演劇用品がヒットしました!演劇用品の包容力!

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「三善 トゥースワックス オハグロ」

伝統的なお歯黒用の液体は、古鉄をお茶などで発酵させた液体ですが、この「オハグロ」は、熱すると柔らかくなり、冷えると固着するワックスです。

しかも、歯磨きで簡単に落とせるそう。これは買いです。


さっそく手に入れ、歯を黒くしていきましょう。

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すっぴんトゥースの私

まず、ワックスがしっかり着くように歯の表面をふき取ります。

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ティッシュを食べてる訳ではありません

次に、ワックスをライターであぶり柔らかくします。

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やや目がやばい

この「ライターで炙る」という過程に、何とも言えない背徳感があります。

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ワックスが冷える前に塗る、時間との戦い

5分くらい悪戦苦闘して塗り終えました。


やっぱり歯が黒いと怖い。笑顔が恐怖。

初めてのお歯黒の仕上がりはコチラです。

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笑顔が不気味

やっぱりお歯黒すると怖いです。笑顔が心なしかひきつってるように見えます。

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歯茎をむき出しにするともっと怖い

歯茎のピンクと歯の黒のコントラストがなかなかです。

同じ笑顔でも、歯が黒いと警戒してしまいます。なんか今からほふられそうな気がします。

これで出歩くのは何かを失う覚悟が必要です。でも……

マスクさえすればオールオッケー

マスクがすべてを隠してくれます。

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がっつりお歯黒をしていても、
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一切見えない。オールオッケー。

あたかもお歯黒などしていない人のようです。

これなら家を出て街に繰り出せます。さっそく出かけてみましょう。

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レベル1:近所の郵便局に行く

まずは肩慣らしです。近所の郵便局に行ってみます。

玄関を出るとき、やはり緊張します。

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さっっっっぶい

この日は強風が吹き荒れていて、まるで「お前は家から出るな」と言われているようでした。

「すれ違うおばちゃんがエスパーだったらどうしよう」

郵便局のある商店街に近づくにつれて、どんどん行き交う人が増えていきます。

途端にドキドキしてきました。

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すれ違うだけで不安

おばちゃんが前から歩いてくると、「あ、お歯黒してんのバレたらどうしよう」とソワソワします。マスクをしているから大丈夫なのですが、「このおばちゃんが透視能力持ってたら終わりや……」という思いが消せません。

下校中の子どもとすれ違うときも、「子どもの方が第六感持ってるって言うしな……」といらぬ勘ぐりをしてしまいます。

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郵便局に到着、ATMで振込み

セキュリティ万全のATMでも、お歯黒を探知することはありませんでした。一安心です。「お金を振り込む」という普通のことも、お歯黒をした状態でやるとスリル満点です。

レベル2:大学の研究室に行く

行動範囲を広げてみましょう。次は大学の研究室に行きます。

移動距離が倍になる上、知人と会う確率がほぼ100%です。「レベル2」と書いてますが、心理的には「レベル68」くらいです。

何食わぬ顔で同期と談笑

研究室に行くと、一生懸命勉強している同期がいました。どこか「こっそりお歯黒をやっているうしろめたさ」が生まれました。

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何食わぬ顔で同期の子と喋ります。

当たり前ですが、同期はお歯黒やってることに気づくはずもなく、いつもと同じように接してくれました。ふたりで仏像の話をしました。

あと、同期の目の前でせんべいを食べてみました。かなりの冒険でしたが、マスクを外す時間を短くするのがベストな世の中なので、歯が見えないようにコソコソお菓子を食べても変ではないようです。

お歯黒の文献に共感する

今度は大学図書館に行きます。自然とお歯黒に関する本に手が伸びます。

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右:原三正『「お歯黒」の研究』(人間の科学社、1994年)
左:陶智子『江戸美人の化粧術』(講談社、2005年)

これらの本によると、お歯黒が古典にちょくちょく登場するようです。たとえば、

清少納言『枕草子』(三十一段)
心ゆくもの「はぐろめのよくつきたる」

あの清少納言もおはぐろのノリがいいと気持ちがあがったみたいです。

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「わかる~あるある~」の波

まさか、古典作品にこんなに共感できるとは思いませんでした。

レベル3:友人と食事

お歯黒をして6日もの歳月が経ちました。初めて迎える休日です。

ほどよく感覚が麻痺してきており、「仲のいい友達とならお歯黒したまま食事に行ってもええかな」という気分になってきました。

お歯黒コーデを楽しむ

せっかくのお出かけなので、お歯黒にあった服を選びます。

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ブラックのポンチョコートと黒マスクで、お歯黒との統一感を出してみました。

ファッション業界に、モノトーンコーデにお歯黒をプラスすることを提案したいです。

「怖い」以外の感想が得られなかった。

友人の四谷くんと「餃子の王将」に行きます。

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四谷くん。何しても大体うけとめてくれる

四谷くんは、すっぽんの甲羅で鎧を作った時に撮影を手伝ってくれたほどの人なので、ドン引きすることはないと踏んで誘いました。

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ちらつく歯の黒み

四谷くんが歯の黒さに気づき、お歯黒していることを知らせると、

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しっかりと「怖い」と言ってきました。

「急に非日常が目の前に現れたみたいですごく怖い」そうです。確かに、なんら変わらぬ素振りの友人の歯が突然黒くなっていたら、これを境に日常が崩れていきそうです。

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油分で溶け出すお歯黒

「そろそろ見慣れたかな?」というタイミングで、四谷くんにもう一度お歯黒の感想を聞いてみたら、

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やっぱり「怖い」としか返ってきませんでした。

そりゃそうですね。私はどんな言葉を期待していたんでしょうか。

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レベル4:電車に乗って都会へ出かける

1週間経ちました。ここらで人が集まる都会へ出かけて見ようと思います。

「お歯黒してるのに遠くへ行ってしまっている」感覚

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いつもの線路じゃないみたい

ただの最寄り駅も、いるだけでソワソワします。

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電車が来ました

異様な笑顔で公共物と自撮りすると、爆弾魔チックで我ながら恐怖です。

乗客のみなさんも全員マスクをしているのですが、「もしや、みんな同じようにマスクの下は……?」というどえらい錯覚に陥ります。

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大阪駅に着きました

ついに来てしまいました。頼れるものは一つもありません。

企業説明会に参加

実は、この日は企業説明会に出席するため大阪に来ました。「話聞くだけならマスク外すこと無いやろ」と高をくくっての行動です。

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オフィス街を歩く

せわしなく歩く会社員の人たちとすれ違います。「今からビジネスの世界に足を踏み込むのか……(歯を黒く染めた状態で)」とドキドキします。

会場に着き、名前を告げて着席します。

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会場でのおとなしい私

この頃になると、お歯黒にだいぶ慣れ、誰かに指摘されることもないと分かり切っていました。


しかし、いざ説明会がはじまると、

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めちゃくちゃ危険なことしてる気分に。

「もっともお歯黒が似合わない場所に、お歯黒で潜入しているのだ自分は」という言葉がぐるぐるします。こんな奴、どこの会社が採ってくれるのでしょうか。


変な緊張で頭がさえて、企業説明がしっかり頭に入りました。謎の効果です。

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眼鏡を拭くため「ハーっ」って息で曇らせようとして、寸手のところでやめる

危うくマスクを外す1コマがありました。慣れが生んだ危機一髪です。

お歯黒ライフを終えて

お歯黒をしている非日常感に加え、「バレたらどうしよう」というドキドキが異常でした。

武器を隠し持っているような緊張感を持てますし、最悪バレてもお縄にならない安心設計です。マスクをするあらゆる人におすすめしたいです。

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化粧ポーチにオハグロとライターを入れていた

あと、「歯茎の際まで黒く塗った方が美しい」「笑った時に見える歯は全部黒い方がいい」などの、どのファッション雑誌にも載ってない私1人だけの美意識が誕生しました。


黒マスクくらいの感覚になってくる

1週間続けると、「お歯黒って普通やん」とだんだん麻痺してきて、「黒いマスクみたいなもん」という脳になります。

今では、「歯を緑やオレンジにするのもアリ?」と、行き過ぎの最先端ファッションも現実味を帯びてきました。

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お歯黒してたらイカ墨パスタに何の気兼ねもない

 

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