特集 2022年2月3日

人類が1200年忘れていた呪術、「呪い丼」を体験する

2021年の大みそか。悠久の歴史を誇る京都で、霊言あらたかな厄除けイベントに参加してきました。「ワンコイン呪い丼」っていうんですけど。

海外旅行とピクニック、あとビールが好き。なで肩が過ぎるので、サラリーマンのくせに側頭部と肩で受話器をホールドするやつができない。

前の記事:新宿区に「中央アジアの飛び地」ができていた

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本気のおまじないを、お手軽に体験いただけます

器の内面にびっしりと謎の呪文。中央に描かれているのは…悪魔?すべてが見慣れない。不穏なたたずまいのこちらの器が、呪い丼です。

ゆるいタッチでずいぶん物騒なものを持っているな(ご提供:つららさん)

…しかしいい。とてもいい。おれはこういう、何が何だか得体の知れない舶来のアイテムに弱いところがある。インターネットがこの世のすべてをつまびらかにせんと膨張をつづけるいま、とりつく島もない未知って、貴重だと思いませんか。

不気味なビジュアルもさることながら「呪い丼」という名前もまた趣がある。”呪い”という超常的ワードが、生活感丸出しの”丼”を修飾しているミスマッチに、めまいがする。ちなみに読みは「のろいどん」だそうです。

 

さて眺めているだけでも興味の尽きないこの呪い丼ですが、製作体験できるワークショップがあるというので勇んで参加してきました。こんな”ガチ呪術”が所要時間60分、参加費500円とお手軽に体験できるのです。呪いにはあまり自信がなくて…という初心者の方もご安心ください。経験豊かな有識者が、呪いの言葉選びをサポートしてくれるというから、呪いビギナーにも優しいのです。ありがたいですね。

 

「いやこれホントに作っても大丈夫なやつ?」という気持ち、おれも持っていますよ

 

お店の方が言うには「呪い丼が体験できる世界で唯一」のスポット、京都市北区のカフェ 「finjan」さん
店内は中近東の空気が

ろうそくの灯がゆらめき、薬草の匂いがただよう空間なのでは、とどきどきしながら入店したら「あ、呪い丼のお客さんですよね。こちらから好きな丼を選んでください」とさらりと声をかけられ、言われるがままにすっと座卓に着いた。ちょっと緊張しています。

まだ呪われる前のまっさらなどんぶり

 

「舌が乾いて死んでしまえ」などの呪いがある

今日のワンコイン呪い丼イベントの参加者は6人だそうです。この不可思議な催しに6人というのは多いのか少ないのか。皆目見当つかない。ちなみにイベントといっても決まったタイムスケジュールがあるわけではなく、参加者がめいめい好きな時間に来店し、その都度、講師の方が製作のお手伝いをしてくれるスタイル。

講師のばるへさん。店内はオリエンタル。先生は和装。今宵まなぶは未知の文字

さっそく、ばるへさんに「呪い丼とは」を簡単にレクチャーいただきます。かいつまんでポイントを挙げると以下のような感じ。

6〜8世紀ころのメソポタミア上流域、現代のシリアあたりの習俗

・周囲に書かれている呪文はアラム語で、こんにちユダヤ人が使うヘブライ語に近縁の言語
・呪文の内容は、願掛けだったり厄除けだったりと、いわゆる”呪い”でないものも多い
・とはいえ中には特定個人への攻撃的な呪詛もある
・呪いを書き付けた後の丼は、家の戸口や敷地の門の下など”境界”に埋められていた(だからけっこう史跡から出土する)
・丼の中央に描かれている絵や図はいろいろなバリエーションがある
・英語ではMagic bowlとかIncantation bowlとか呼ばれ、日本語では定訳がなく一部の研究者や、ばるへさんは呪い丼と呼んでいる

あーなるほど、呪い丼の”手触り”が少しわかったような気がする。必ずしも誰かを呪い倒さなきゃいけないことはなく、自分の成功を祈念したり、降りかかる災厄を除けるために祈ったりしてもOKのようだ。案外、穏健なおまじないだ。しかも様式が定まっていないので、書く内容はかなり自由。たぶんこれ、当時のメソポタミア流域人にとっては、七夕短冊くらいの気軽さだったのではなかろうか。

 

「それじゃ、どんな呪文にしましょうか?」とおもむろにばるへさんが一冊の本を持ち出した。
 

表紙になるだけあって本物は禍々しさがすごいな。ベルゼブブ?

こちらの本は呪い丼の専門書。出土した呪い丼に実際に書かれていたアラム語の呪文を、英訳とセットで紹介してくれます。参加者側で呪いたい事柄や願いたい事柄を伝えれば、ばるへさんがこの本の中からぴったりのアラム語の表現をさがしてくれるというわけです。

さて。呪い、呪いか。どうしよう。少しは家で考えてくればよかった。結局、無難なところで家族の健康と長寿みたいなやつをお願いすることにしました。大晦日だし、来年への願掛けということで。

いろんな偉い天使さん、私と家族のことをいい感じによろしくお願いしますみたいな、うすぼんやりした呪文を選んでいただきました。一種の全体魔法だ

 

和気あいあいと呪術にいそしむ店内の様子

「今年はどんな呪いにしますか?」
「なにかいい呪いありますかね」
「呪いたい人いるなら、舌が渇ききって死んでしまえとかどうです」
「うふふ、そこまではちょっと」

 

他の参加者とばるへさんが、愉快な会話をしているのが聞こえてくる。そうか去年も参加した常連さんがいるのか。道理で呪いに対してひるまない、自然体なふるまいだと思った。ひよって無難な呪いを選んでしまったおれとは格が違う。

あとで少し話を聞いたらなんと一人で2つも呪い丼つくる方もいるらしい。もしかしたら名のある呪い丼作家の方かもしれない。

参加者6人なのに計算あわないなと思ってたんだ

 

人類は1200年ぶりに呪い丼を思い出した

ばるへさんが用意してくれたお手本を見ながら、まずはメモ用紙に筆ペンで下書きをしてみます。

慣れない筆運びが楽しい

字形がうまくとらえられないので不安感がすごいけど、「よく書けてますね」とばるへさんが言ってくれたので、一応これでも文字が識別できるレベルで書き分けできているようです。

それでは丼に書きつけ始めよう。ばるへさんから一言、「書きづらいけど、呪文は平面部分だけでなく、フチの部分から書き始めた方がいい」とアドバイスをいただきました。

びっしり文字で埋まってる方が耳なし芳一みたいで効きそうじゃないですか、とのこと。それは納得

 手を動かしながら、今のうちに気になっていたことをまとめてばるへさんに聞いておきましょう。まず先生は一体…何者なのでしょう。

「うーん、どうしましょうね。とりあえずヘブライ語教師ということでお願いします」

不敵な笑みを浮かべて答えてくれた。以前はイスラエルに住んでいたり、音楽家としての顔をお持ちだったり、奥様とともにこの不思議なカフェを運営していたりと、なかなか一言では言い表せないようですが、とにかくヘブライ語のプロ。だからヘブライ語と近縁のアラム語が読めてしまう訳です。

店内の一角は、中東や東欧などの語学の辞書や関連書籍が並ぶ
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さらにお店では不定期で「中東音楽の演奏会」や「語学勉強会」などのイベントも開催(ご提供:ばるへさん)

 「はじめは大晦日に何かイベントをやってほしいとお客さんに要望されていただけで、ワンコイン呪い丼にしようというのはただの思いつきですよ。多分1200年間くらい人類は誰も呪い丼やっていないので、それを突然京都でやったら面白いかなと思いまして」

初開催時、2020年大晦日の呪い丼。これが1万年後くらいの考古学者を悩ませる存在になるかもしれない(ご提供:つららさん)

「でもある意味では、大祓え(神道のお祓い儀式)みたいなものだから大晦日にちょうどいいかなって。大祓えは年に2回、大晦日と6月末ですから、次回の呪い丼は6月にやるかもしれません」

呪い丼を作ってみたくなった方、興味が湧いた方。記事末尾、お店のtwitterをぜひウォッチしておいてください。

おれの丼も完成です。中央に干支デザインを取り入れて、東洋方面の縁起もかついでおいた。毒気が少し薄いけど、いい具合に薄気味悪い丼に仕上がったのではないでしょうか

 

京都から連れ出そうとする悪魔

この日は後に予定があり、自分の呪い丼を完成させたらさっさと中座しなければならなかったので、残念ながらほかの参加者のみなさんが作った呪い丼を見届けることはできませんでした。代わりにばるへさんにお願いして集合写真を撮ってもらいました。

ご提供:ばるへさん

壮観。できることなら、一つずつ製作者に丼の製作意図を聞いていきたいところですが、なかでも目を引くのは、やはりこれでしょうね。

 

ご提供:こまいさん

作者のこまいさんは最近、長年の念願かなって京都に引っ越してきたところ。もう一生京都から離れないぞという思いを呪い丼に込めたそうです。真ん中にいるのは、こまいさんを京都の外に連れ出そうとする架空の悪魔なのだとか。

こまいさん「手がたくさんあるのは、あの手この手で京都から連れて行こうとすることを意味してます。あと無意識でしたが胴体に鱗がありますね。京都に海はないので、洛外から来たということがわかります。この悪魔も本当は京都を求めているのかもしれません」 

独創的で素敵すぎる。ちなみに周りの呪文は京都の地を褒めちぎる内容で、この呪文で悪魔を丼のなかにがっちりと縛り付けているのだそう。

こまいさんのご自宅の入り口に魔除け的に飾られている。これは訪問販売とかの人間にも効きそうだ(ご提供:こまいさん)
 

そういえばここはカフェですので

ハルヴァとトルココーヒーと、呪い丼

製作がいち段落したところで、一息。トルココーヒーって初めて飲んだんですけど、香りがぶわーっと突き抜けてきてすごい体験でした。カフェメニューだけでなく、日によってばるへさんの奥様(finjanの店主)が夕食を提供する日もあるそうで、中東の食文化に関心のある方もぜひ。

 

<お世話になったお店>
中東カフェ・文化サロン finjan 
https://twitter.com/finjan_kyoto?s=21
https://finjankyoto.theshop.jp/

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