特集 2019年9月16日

タッグで挑め!方向音痴伝言ゲーム

地図を読んで、書いて、伝えて、たどり着いた先は…

方向音痴である。
だいたいの道は迷いながらここまで生きてきた。

例えば京都の道が苦手だ。「京都は格子状になっているからわかりやすい」なんてことも聞くが、筆者からすると逆に全ての道が同じように見えるため、無限に迷える都市の完成なのである。

ときに方向音痴の人間って「人に道を教えること、地図を描くこと」も苦手なような気がする。

方向音痴の人たちが集まって、伝言ゲームのように辿った道を人に伝えていったらどうなるのだろう。トライした結果は、少しだけ意外で興味深かった。

埼玉生まれ、神奈川育ち、東京在住。会社員。好きなキリンはアミメキリンです。右足ばかり靴のかかとがすり減ります。(インタビュー動画)

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方向音痴伝言ゲームをしよう

そういったわけで今回は”我こそは方向音痴”という方々を4名募り、『方向音痴伝言ゲーム』なるものを開催した。

今日の方向音痴たち ※全員仮名です

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藍さん:迷う駅は新宿
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駒井さん:迷う駅は東京駅
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佐藤さん:迷う駅は上野広小路と上野御徒町
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糸巻さん:迷う駅は渋谷と、開発中の下北沢
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そして案内役は北向ハナウタ、迷う駅は池袋です。

◼️ルール説明

・2人1組でタッグを組んで、目的地を目指す。
・2人の役割は以下の通り。

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案内係は、マップ制作には携われない。マップ制作係は地図を読むことができない。

このタッグで、前半組と後半組に分かれ、地図をバトンにしてつなぐ。この先は図にしたほうがわかりやすいだろうか。

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どうだろう、伝わるとうれしい

1人ずつ巡ってたほうが伝言ゲームらしさは増すかな、と思ったけれど、今回の2人組のルールにしてよかった。1人じゃたぶん一生みんなゴールにたどり着かなかったから。

道案内役は正しく地図を読むことができるか、マップづくり役は地図をうまく描けるか、そして全員目的地にたどりつけるのか!という具合だ。

舞台は、迷いの都、自由が丘。

さて、前半組の道案内役に渡した今回の地図がこちら(実際にはもう少し店舗名などが記されたマップを渡している)。

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事前に訊いたなかでよく迷う、と票を集めた自由が丘の街が舞台だ

スタート地点から、「チェック1.見つけづらい寺」「チェック2.花屋」を経由して、ゴールの「カフェ」に向かう。スムーズに歩けば20分弱ほどの道のりだ。

正直、このゲームが未知数すぎてルートの難易度がわからない。もしかしたら簡単にクリアできてしまうかもしれない、難しすぎてルールが破綻するかもしれない…。

ワクワク感と同時にフタを開けないとわからない今回の旅、主催者もドキドキしながらのスタートである。

コンパスからはじまる方向音痴の旅

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スタートは隣駅、九品仏にある「コンパスコーヒー」から

コンパスからはじまるの、方向音痴の旅にちょうどいいなと思い、ここを選んだ。

なお、応募いただいた方は10名ほどいたのだけど、全員が女性だった。
よく女性に方向音痴が多いなんて言われるけど、実際は「自分は方向音痴だ」と認識しているひとが女性に多い、ということらしい。

前半組、スタート!〜それは方向音痴の玉手箱〜

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前半組は、道案内役の藍さん、マップづくりの駒井さんのタッグ

制限時間は30分に設定、さっそく歩いていこう。

九品仏(くほんぶつ)は、隣町であるおしゃれな雰囲気の自由が丘とはまた違った空気が流れる穏やかなエリアだ。
駅の踏切を越えると、間もなくして左手に「浄真寺」が現れる。

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ここにいる9体の仏が「九品仏」という駅名の由来となっているそうな
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そこのオレンジの車を目印にしたら危ないですかね?

お寺を少し通り過ぎたあたりでマップ制作係の駒井さんが尋ねる。停まっていた車を地図に記すか迷っていたのだ。危ないと思うな。

でもすごいわかる、なんでか我々方向音痴は動くものを目印にしてしまう。

それでもいくつか動かなそうなものを地図に記したら、10分近く直進したところで藍さんが曲がることを決心したようだ。

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左手、奥に門が見える
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ここで右に曲がります!
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古そうな門ですね
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「古そうな門」って書いてる。そこはさっきの浄真寺の門なんだ
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自分がどっち向いてるのかわからなくなりますね。
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もう、グーグルマップないと生きていけないですよね。

我々にとって道案内のアプリは生命線だ。自分の位置がわかるし、指示された道順を追えばいい、もうアプリのない時代には戻れないよなあ。

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現在地。赤い線はこの先の理想的なルート

藍さんも地図を見るのは久々だという。そういや最近地図を持って歩いている人って見かけなくなったな。

地図はぐるぐる回すもの

「古そうな門」を背にしてしばらく直進していた藍さんが立ち止まり、ここで曲がりたいですと告げる。
お、ここを左に曲がって直進すればチェックポイントの寺へたどり着くはず。なんと順調だ!

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駒井「看板がありますね」
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看板って書いてる。素直だ ※この画像は地図を右回りに90度回転させています

今回同行していて改めて気づいたのだけど、前半組も後半組も進行方向が常に上になるように地図や自分の書くマップをグルグルと回していた。

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なので、進む方向に合わせて文字の向きが変わるのだ。興味深い

こういった具合なので、あまり彼女たちの現在地や地図の向きに捉われず、「方向音痴なひとたちってこうなるよね」とじんわり見守っていただきたい、というのが今回の企画の主旨である。

さて、ずんずん書いていた駒井さんの地図だが、ここで用紙の端まで書き切ってしまった。

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右上の空いてるスペースから書き直しますか?
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右上の空いてるスペース?

左端まで行ったら右から出てくる地図なんて見たことない。方向音痴の我々に地図の常識なんて通じないのだ。
※このあと紙を繋げて地図を広げました

寺、見つからない。

ここまで順調に進んだ前半組だったが、寺に向かう道中でついに歯車が狂い始めた。

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実はこの右手に見えている建物が第1チェックポイントの『見つけづらい寺』なのだが…

一般的にイメージされる見た目とは異なるこのお寺。そうとは気づかず「もうすぐ寺があると思うのですが…」と二人は直進を続ける。

こんな歩くかな…?という空気の中、交差点で左を向いた藍さんがあるものを見つける。

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お寺の案内があるんですけど!
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うぉー!
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電信柱に案内が!
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これに賭けて行ってみてもいいですか…!?

頷きながらたぶん自分は悪い顔をしていたと思う。その寺は目的地ではない。
自分の感覚よりも、不確実なヒントに頼ってしまうのも方向音痴の習性である。

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ここで左下の「究竟寺」の案内を発見したが…

というわけで、一行は道案内に従い究竟寺へ到着。いくつかの電信柱に案内があったのですでに地図から目を離しているが大丈夫だろうか。

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関係ない寺に着いた
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次は第2チェックポイントのお花屋さんですね!
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あの、記念撮影までしたところ恐縮ですが…ここは目的地じゃないんです。

二人:なんで!?

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完全にパニックになる二人

一度道を見失うと一気に方向感覚を失うようだ。マップをぐるんぐるん回している。

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地図に「チェックポイントではない寺」が生まれた

再び目指せ、本当のチェックポイント!

渡したマップにここの寺が表記されていたので、どうにかリカバリーして再出発することができた。

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さっきの電柱がなくなった。

電柱なくなってないです。

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迷っていてもこの二人は終始楽しそうでとても良い

というわけでいったん来た道を戻ることに。この時点で制限時間の30分が経過。いいや、制限時間なんてナシだ!

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ちょっと省くが、このあと完全に迷子になる

道を何度か引き返し、「もう1区画あっちへ行こうと思います!」と息巻く藍さんをストップさせたりしながら、

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どうにか発見!盛り上がりがすごいぞ

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やあやあ、第1チェックポイントの龍昌寺だ。

こっからはわりとスムーズ

ここまでは苦戦したがここから先はわりと円滑に進み、第2チェックポイントのお花屋さんは慎重に無事到着。

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花屋を通過、ブリキのジョーロという店

だんだんとおしゃれな店が増え、自由が丘の気配が強くなってきた。道を引き返し、駅に向かって直進だ。

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ゴール、カフェですよね、いっぱいある…

自由が丘の駅前はカフェだらけ。少し奥まった場所にあるカフェをゴールに設定したのだけど…いつもと様子が違う。

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お祭りだ!ここを通らねばならない

期間限定の激ムズポイントが発生してしまった。
当然、一度道に気づかず通り過ぎてしまうも、なんとか目的地のパームスカフェへ到着。

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タイムは1時間8分。おつかれさまでした、さぁ後半組にバトンタッチだ
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ルートマップ。電柱に頼る、自分の位置がリセットされる、などなど方向音痴の玉手箱だった
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後半組、スタート!〜意外な健闘の理由〜

駒井さんの書いた地図を持ち帰り、後半組の待つスタート地点へ。
前半組より確実にふわっとした地図をもとにゴールまでたどり着けるのか…?

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マップづくりの糸巻さんと、道案内は佐藤さん

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公園が左手に…?この寺の参道のことを公園と書いてたりしますかね…?

限られたヒントを頼りにそろそろと進む。
ひとつ解釈違いや目印を見逃すと大惨事になる後半組のチャレンジだ。

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佐藤「道の分岐とか信号とか書いてないんですよね」

本当だ、前半組とはまったく違う種目になった。曲がらない道は自分には関係のない道なのだ。

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これかな、古そうな門、と恐る恐る右へ曲がる。
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佐藤さんは地図は読めそうですね。
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地図はわりと読めるんですよね。でも地図がないところが苦手です…サイゼリヤとか、ドリンクバーに行って、戻ってこれなくなります。

来た道を引き返せないのわかるなー。帰りは逆に曲がらないといけないのがどうにも難しい。

地図に書かれた「ピアノの音がする店」

予想に反して順調に進む一向。目印の学校を右手に進む。

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次の目印は「看板を左に曲がる」、とあります。
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看板。

看板な、むずかしいよな。

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すごい不安なのがこの先に「ピアノの音がする店」というのが…
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もはや目印とかではない、聴覚に頼る地図だ

前半組が大苦戦したチェックポイントの寺。
最初はやはり前を通り過ぎ少し迷う様子も見られたが、なんと無事正解にたどり着いた。

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すごい!スムーズだ!

というのも、近くをうろうろしていたところ、袈裟を着た住職さんがドアを開け寺に入っていく姿に奇跡的に鉢合わせたからだ。なんなんだ、そんな絶妙なタイミングがあるものか。

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方向音痴だけど豪運の二人

とはいえ「だいたいこの辺のはず…」とアタリをつけていたからこそのハプニングだったことも事実。後半組の快進撃だ。

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最難所をクリアした二人はこのまま花屋を経て、ゴールのカフェへ到着することができた。

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祭りの前はやっぱり通り過ぎたけれど

前半組より25分ほど早いタイム。なんと、「方向音痴な人が書いた地図」のほうが普通の地図よりスムーズに人を誘導できたのだ!

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後半組。ほぼ正答だ!

少しみんなで振り返ってみよう。

最後に、ゴールのカフェで今日の道中を振り返った。

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全員無事にたどり着いて良かったです。
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奇跡的に住職さんが「見つけづらい寺」に入って行ったんですよ。
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普段でもそれっぽいひとの後ろをついていくことありますよね。
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それっぽい電柱についていった藍さん

わかる。高校の学校説明会でそれっぽいひとたちについて行ったら、同じ日に説明会を開催していた違う高校にたどり着いて遅刻したことがある。

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私は虎ノ門とか新宿とか、大きいビルがいっぱいのオフィス街が苦手です…目印がわかりづらいんですよね
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オフィス街のビル、オシャレすぎて文字小さくないですか?

オフィス街のビルはオシャレすぎて文字が小さい。本当にそう。

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あと、地図がないところでわからなくなります。
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あー、カラオケ屋とか同じ部屋ばっかで苦手です。

全員:カラオケ!!

カラオケの話には全員同意していた。不安なのでできる限りトイレに行きたくないのだ。

方向音痴が道に迷う理由とは

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今日歩いてみてどうでしたか?
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建物…まわりを見てないんだなと思いました。ふだん道しか追っていない。あと、道の長さと距離感がわからない。何メートル先、がわからない。

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私は方角がわからないですね…
道わかる人って、間違えても「多分あっちの方角だから…」って感覚があったりするじゃないですか。
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我々って道があったら、「まっすぐ行くか」「右か」「左か」の3択でしかないんですよね。

東西南北で構築できないので、目の前にある道に対してどう進むか、しか考えられない。俯瞰で見ることがむずかしいのだ。

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あと、角は全部直角(90度)だと思ってしまう。
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五差路とか無理ですね。
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あー!
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角度でいうと、少しだけ曲がってる道が認識できてない、「45度以内の道はまっすぐ」って思ってしまうらしいです。
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こういうわずかに曲がっている道も直線としてカウントするので、静かに方向感覚がずれていく
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角は全部直角、道を曲がらなければそれは直線。今回の完成マップにもよく見られた傾向だ
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でも今回は無事に全員目的地にたどりつくことができましたね。
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読める地図で良かったです!

そう、不完全に思われた”方向音痴のひとが作った地図”だけど、むしろ情報が研ぎ澄まされた結果、方向音痴のひとにとっては逆に受け止めやすい地図になったのだ。
ちょっとこの辺りは面白い結果になった。

初対面の方向音痴同士の会話は思いのほか盛り上がったので、蛇足ながら話に出てきた我らの苦悩を置いてこの記事を締めたい。

■方向音痴の日常
・昼と夜で景色が変わるのでわからなくなる
・いったん建物に入るとリセットされる
・am/pmがファミリーマートに買収されたときに目印がわからなくなった
・なんとなくで道を選ぶと必ず逆
・新宿の西口の地下から地上に出られない
・上野御徒町駅と上野広小路駅が苦手。駅が繋がっていてそれぞれに「A1」出口などがある
・ずっと工事している下北沢も苦手
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ご協力ありがとうございました!
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おまけ、前半組の地図
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後半組の地図

簡単に解決できそうなものではない

あわよくばこれを機に迷わなくなったらいいなぁなんて思っていたが、理屈がわかってもそう簡単に解決するものでもないよなあ。一応こうすればいいかも!?とその場で盛り上がった点をいくつか記す。

・風景(ランドマーク)ばかりで覚えようとしない
・俯瞰で見るクセをつける
・ためらわずに人に尋ねる
・目印が少なそうな道は避ける。遠回りでも、わかりやすい道を選ぶ

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「九品仏駅は、先頭車両は降車できないので!」と事前に伝えていたけれど、当日は2人降りそびれた。そういうのもある
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