ビーフのあとにチキンを食べよう
「ほしいものに対しては真正面から」「目うつりしない」など、二兎を追って二兎を得るためのコツは初詣のおみくじに書いてありそうな人生訓ばかりだった。
しかも動物が相手の場合、そうしないとちゃんと嫌われるという大凶までまっている。
ただ、ひとつずつ堅実にねらっていけば二兎は得られることも分かった。
これからはもう、ビーフかチキンどちらかを選ぶ必要はない。ビーフのあとにチキンを食べよう!
「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがある。
気楽な仕事と高収入、趣味の時間と睡眠時間など、欲張って2つのことを追いかけると結局どっちも得られないよという意味だ。
でも、できることならどっちも手に入れたい。機内食はビーフもチキンも両方食べたいのだ。
毎日ウサギと接している動物園の飼育員さんなら、二兎を追って二兎を得る方法を知ってるんじゃないだろうか。
やってきたのは千葉市動物公園。
ここは15年ぐらい前、二本足で立つレッサーパンダの風太くんで話題になったところだ。
そんな千葉市動物公園の中には、「ふれあい動物の里」という、いろんな動物にさわったりエサやりをしたりできるエリアがある。
今回は、そこで飼育員をされている齋藤さんにお話をお聞きした。
取材にあたって事前に問いあわせたところ、「二兎を追って二兎を得る」はできますよと力強いお言葉をいただいていた。
まずはそれを実際に見せていただこう。
今にもご利益がありそうな勇姿、動画でもどうぞ。
「スッ」という言葉がぴったりなほど、片手でスムーズにウサギをつかまえ、あっという間に二兎を得ていた。
そして満面の笑顔。やはり二兎を得るのはうれしいのだ。さっそくそのコツを教えてもらおう。
二兎を得るためには、まずはウサギに近づかないといけない。
素人考えだと、やはり後ろからこっそり気づかれないように近づくのがいいのでは?と思うのだけど、どうなのだろうか。
高瀬:ウサギに近づくときのコツってあるんでしょうか?
齋藤:ウサギは草食動物で、自然界ではどっちかというとやられる立場なので、後ろから追いかけると性質的に逃げたい気持ちになります。
齋藤:なので基本的にウサギには前から近づきます。
そして目の前でしゃがんだり顔の前に手をだしたりして「動かないでね」って合図をして、動きを止めてからつかまえますね。
想像とはちがって、ウサギへのアプローチは前から堂々とが鉄則だった。手に入れたいものに対しては、正面から「ほしい」と言わないといけないのだ。
石川:「二兎を追う者は・・」っていうけど、二兎かどうかの前に後ろから「追う」時点でもうダメだったんだ。
齋藤:そうですね。追いかけられると精神的にもストレスになっちゃうんで。特にここではお客さまからおやつをもらったりするので、人間っていいもんだなって分かってもらうためにも、普段からなるべく圧をかけないように接するのを心がけてます。
高瀬:他にも何かポイントはありますか?
齋藤:迷いがあるのは良くないですね。
どんな動物も共通なんですけど、動きの予測がつかなかったり、何考えてるのかよく分かんない人は嫌われる傾向にあります。
高瀬・石川:へー!
齋藤:つかまえようとしてるのに迷いがあると、ウサギからしても「な、何なの?」みたいな感じがあると思うんで。
石川:この子にしようかな、やっぱこの子いこうかなみたいにすると良くないんですね。
齋藤:その方が余計に追われてる感じがして逃げちゃったりとか。ウサギ的にも嫌な気持ちになっちゃいますね。
高瀬:この子をつかまえるぞって決めたら、まっすぐ向かっていった方がいいんですね。ことわざ通りだ。
【二兎を追って二兎を得るためのコツ】
①まずはつかまえたいウサギを決める
②いちどターゲットを決めたら目うつりしない
③前から近づいて「つかまえるよ」の合図
ターゲットを一頭にしぼって近づくためには、つかまえやすそうなウサギを選ぶのも大事になりそうだ。
何か見きわめるポイントはあるのだろうか。
齋藤:ウサギの動きを見てると、走り出しそうな予備動作とか、あっ今休憩してるなっていうシーンがあったりするので、そこらへんが読みとれるとつかまえやすいんじゃないでしょうか。
高瀬:なるほど。たとえばこの子は今休んでるように見えるんですけど、つかまえやすそうな状態ですか?
齋藤:いや、けっこう警戒してますよ。顔がこっち見たり、耳もピクピク動かしてるんで。
高瀬:必ずしも座ってる感じの姿勢だから落ち着いてるっていうことでもないんですね。
齋藤:こう見えてしっかり立ってるので、バッと動きだしそうな感じはありますね。
石川:直立してないから、立ってるのか座ってるのかもよく分かんないですね。
齋藤:脚短いですからね(笑)
高瀬:じゃああっちの子はどうですか?
齋藤:この子はたぶん近づいて合図すると・・、
齋藤:ほら、今体が下がったの分かりますか?
高瀬・石川:おー!頭の位置がだいぶ下がりましたね。
齋藤:そうですね、前脚がのびていたのがこう縮むので。
齋藤:これだと動きはじめがちょっと遅れるので、つかまえやすくなると思います。
高瀬:すごい!プロの見きわめだ。
【二兎を追って二兎を得るためのコツ】
①まずはつかまえたいウサギを決める
②いちどターゲットを決めたら目うつりしない
③前から近づいて「つかまえるよ」の合図
④頭の位置が下がってるウサギを見きわめる
これらをふまえて、あらためてプロの「二兎を得る」をご覧ください。
高瀬:動物が嫌がるでいうと、服装で気をつけることもありますか?
齋藤:サングラスは目が大きく見えるので怖いみたいです。
石川:へー!
齋藤:ヒツジにリードをつけてお客さまをお出むかえするイベントをコロナ前にやってたんですけど、サングラスをかけたちょっと怖そうな方が近くにきたとき、担当してたヒツジは私のうしろに隠れたり逃げようとしたりする様子がありましたね。
齋藤:あとこれもヒツジの話なんですけど、以前ヒツジの追いこみショーをやってた方が転職されてきたときは、みんなものすごく警戒してました。
高瀬:追いこみショーをしてた方っていうのは、やっぱりそういう雰囲気があるんですかね。
齋藤:ヒツジたちの態度は全然違いましたよ。
石川:なにか危険なにおいがするんですね。
ここまでのお話で、二兎を得ることはできると分かりすごくうれしい。
ただ一方で、どうやら飼育員さんたちは一頭ずつつかまえているようだった。
それはある意味ことわざ通り。
でもやっぱり、できることなら二兎を同時に追って同時に得たい。いままでにそういう状況はなかったのだろうか。
ここで二兎ハンターの石川さんが立ちあがる。
石川:ウサギが逃げちゃうことってあるんですか?例えば運んでるときとかに柵の外に出ちゃうとか。
齋藤:ありますあります。
石川:そういうときはどうするんでしょう?
齋藤:広いところで追いかけまわすのは無理なので、まずは柵のちかくまで追いこんでからつかまえます。後ろから近づいたら逃げるのを利用して誘導しますね。
石川:たとえば二匹外に逃げちゃった場合って、二兎を追う状況になるじゃないですか。
齋藤:たしかにそうですね。
その場合は、バラバラに追いかけずにまずは二兎をまとめます。群れの動物なので、まとめてからの方が一緒に流れで動いてくれると思うので。
石川:じゃあ状況によっては二兎を追うこともありえるってことですかね。
齋藤:そうですね。もし一緒に逃げちゃってたら、二兎をまとめてからつかまえる方向ですかね。
石川:なるほどなるほど!
高瀬:リアル「二兎を追って二兎を得る」もあるんですね!
【二兎を追って二兎を得るためのコツ】
⑤群れにまとめてから誘導してつかまえる
最後に、齋藤さんにとっての二兎、「どっちも手に入れたい」と思うものを聞いてみた。
お仕事についてお話をうかがうのは同じでも、情熱大陸やプロフェッショナルでは聞かない締めの質問だ。
齋藤:やっぱり動物の要望と人間の要望が同時にかなうのがいいなって思いますね。
齋藤:お客さまが馬に乗って、職員が綱をもってご案内する引き馬乗馬っていうのがあるんですけど、乗りたくないお子さんと乗せたい保護者様がいらっしゃるパターンってあって。
石川:あー、そういうの見たことありますね。
齋藤:やっぱり嫌がられたり泣きながらのご利用だと、馬からするといい気分ではないんです。
高瀬:乗ってる子が嫌がってるなっていうのは馬も感じてるんですか?
齋藤:感じてますよ。馬は横にいる職員のことをリーダーだと思ってくれてるので「リーダーのためにやるよ」ってしっかりお仕事はしてくれるんですけど、不満そうな顔をしたり、終わった後にぐったり疲労がきちゃう子もいますね。
高瀬:そういう時って対処のしようはあるんでしょうか?
齋藤:あまりにも「イヤ」 が強い子の場合は「この子に馬のこと嫌いになってほしくない」と伝えてお断りしたりします。無理やり乗せたことで嫌い!と思われてしまったら悲しいので。
石川:いい思い出になってほしいですもんね。
齋藤:あと馬の上で暴れてしまうと安全面でもよくないですしね。それでもこういったお客さまと動物のすれ違いは多くて…。そういうのがなくなればいいなとは思います。
齋藤:他にも、エサをあげるときに動物が口をあけるのが面白くて、エサをさしだしては直前でひっこめるみたいなことする方もいるんですけど、そういうのも動物は嫌じゃないですか。それをちゃんと分かってくれるといいですよね。
高瀬:その辺の気持ちは人間とも共通というか、馬だから、ウサギだからってことではないんですね。
高瀬:二兎を得るって強欲のかたまりみたいな言葉ですけど、すごい清らかなお話で心が洗われました。
石川:その二兎はぜひ得ていただきたいですね。
齋藤:そうですね、頑張りたいです。
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