二人三脚はたまにやるとエキサイティング
小学校の運動会でしかやったことがなかった二人三脚だが、大人になっていい具合に体力も柔軟性も落ちた頃にやってみると、かなりエキサイティングなアトラクションとなることがわかった。もしかしたら玉入れもムカデ競争も、今やるとかなり面白いのかもしれないですよ。
これから二人三脚で頑張っていこうと思います!
そんな言い回しがあると思うが、実際に二人三脚で頑張ってみるとどうなのだろう。
やってみたらいろいろな発見がありました。
先日、ライターの江ノ島さんと一緒に撮影をする機会があった。
江ノ島さんとは長いこと担当編集とライターという関係でやってきた仲である。この日もわりと真面目なネタ相談なんかをした。
安藤:というわけで江ノ島くん、今年も二人三脚で頑張っていきましょうよ。
江ノ島:そうですね。
安藤:二人三脚で。
江ノ島:どうしたんですか。目が笑ってないじゃないですか、なんか怖いな。
江ノ島:なんすかそれ。
安藤:二人三脚で使う帯です。
江ノ島:いまやるんすか。
安藤:頑張ろうって言ったじゃないですか。
二人三脚に用いる紐はどういうのがいいのか、まったくわからなかったので倉庫にあった柔道着の帯を利用させてもらうことにした。丈夫そう、というのが選定理由である。
安藤:縛るのどっちの足がいいですか。
江ノ島:えっと、右。
安藤:僕も右利きなんです。
江ノ島:どうします、じゃんけんしましょうか。
安藤:縦だとだめですかね。
江ノ島:だめでしょう、見たことありますか、縦の二人三脚を。
安藤:ないですね。でも縦なら両足しばってもよさそうかなと思って。
江ノ島:よくないですよ、ムカデ競争ですよそれ。
安藤:わかったよ、じゃあおれ左でいいですよ。
二人三脚は小学校の頃にやったような気がするのだが、どんな感じだったのかまったく覚えていない。そういう意味ではやり方だけ知っているけどやったことがない、たとえばスカイダイビングとか棒高跳びなんかと同じくらいエキサイティングな挑戦と言える。
実際に片足ずつ縛ってみると、今まで感じたことのない違和感を感じた。
江ノ島:安藤さん、これ。
安藤:おれも思いました。近いですよね。
江ノ島:近いですね。大人になってからこんなに近くに人がいたことないですね。
安藤:とはいえこれは二人三脚なので、近さを嫌ってバラバラになるのもよくないでしょう。子どもの頃は肩を組んでたような気がしますね。
江ノ島:そうでしょうね。ここまで来たらそうでしょうね。
足を縛っただけですでに新しい扉を開いたような気持ちになったのだが、肩を組んだことでその思いはさらに確かになった。大人の男がこんなにびったり横にいることって満員電車くらいだが、あれは歩かなくていいからまだ楽だ。
それではいよいよ二人三脚で歩いてみたい。開けよ未来。
安藤:慣れるまでは掛け声をかけながらいきましょう。「左」「右」「左」「右」で。
江ノ島:その右とか左っていうのは僕にとっては逆ですよね。
安藤:そうなるのかな、そうか。
江ノ島:「いち」「に」「いち」「に」で、「いち」が縛られた方、「に」が自由な方ってことでどうですか。
安藤:定義が長いと瞬時に理解できなくないですか。「いちってどっちだったっけな!」って言ってる間に転びそう。まあでもやってみますか。それ「いち」!
江ノ島:「いち」ってどっちですか!
安藤:左だよ!あ、江ノ島くんは右!
江ノ島:わかんねえ!
導入時のエラーはあったが、慣れてしまえば混乱も収まりリズミカルに歩けるようになってきた。
安藤:「いち」「に」「いち」「に」……いいじゃないですか、このまま勢いで外まで出ちゃおう。
江ノ島:「いち」「に」「いち」「に」……安藤さん、壁がある!これどうやって曲がるんですか!
まっすぐ歩くには掛け声でどうにかなったが、曲がる能力がまだないことが判明した。ミニ四駆はラジコンではないのだ。
安藤:外側の人が「に」で大きく足を出すんじゃないかな。
江ノ島:こうですか。「に」
安藤:痛え!!
江ノ島:え、なんかありました。
安藤:いま縛られてる足を軸足にして股関節がねじくれました。
江ノ島:二人三脚、曲がるのにこんなに苦労するとは。
安藤:そういえば子どもの頃も直進しかしなかったような気がしますね。
二人三脚で歩いてみると、人間がいかに普段、周囲の状況を分析しながら歩いているのかがわかる。この世にまっすぐ歩ける場所なんてほとんどないのだ。
あと物理でいうところの慣性の法則だと思うんだけど、重いものは動かしにくいし止めにくいのだ。何を言っているのかは上の写真で僕の足首が完全に持って行かれているのを見てもらえばわかると思う。
だいたい歩けるようになった僕たちは、このままコンビニまで行くことにした。
店の前で直角に曲がるのに苦労したが、それでもなんとかローソンまでは来た。ただ店内が難しそうなのだ。まず通路が狭いので他のお客さんの迷惑にならないよう、なるべく一体化して歩く必要がある。それから、売り場までの道のりが直線ではないし、足をつながれた男二人がレジに横並びするのも普通じゃない。
足が縛られていてゆっくり選んでいる余裕がなかったので、コンビニでは手の届く範囲にあったものをとりあえず買った。
買い物を終え帰路に着く。しかし油断は大敵である。出口で直角に曲がりながら、しかも段差を越えなくてはならなくて往生した。
ビルに入ったことで気が緩んだのか、それとも単に疲れが出たのか、縛られた足に感じる抵抗が急に倍くらいになった。瞬間、視界が回転する。
片手にさっきコンビニで買ったパンを持っているので、転倒したときに手が出せなかった。これは危険である。二人三脚で歩くときには両手を空けておくことをおすすめする。
最後の難関はエレベーターである。
エレベーターには、直進で箱に入ったあと、回転してドアの方を向き、行き先ボタンを押し、ドアが開いたタイミングで迅速に出ていく、というタスクが凝縮されている。
困難を乗り越えてパンを買って帰ってきたときには、すがすがしい感動があった。
興奮と感動をありがとう、という気分だった。24時間テレビの最後みたいだ。
小学校の運動会でしかやったことがなかった二人三脚だが、大人になっていい具合に体力も柔軟性も落ちた頃にやってみると、かなりエキサイティングなアトラクションとなることがわかった。もしかしたら玉入れもムカデ競争も、今やるとかなり面白いのかもしれないですよ。
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