特集 2020年6月2日

3Dプリンタで日本の重心を求める

ある日突然、日本の重心を求めたくなった。そんな瞬間があるとは思ってもいなかったので、びっくりしている。せっかくなので3Dプリンタを使って求めることにした。

1992年三重生まれ、会社員。ゆるくまじめに過ごしています。ものすごく暇なときにへんな曲とへんなゲームを作ります。

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日本の形がいとおしい

あんまり共感してもらえないかもしれないが、僕は日本の形がけっこう好きだ。どれくらい好きかというと、日本の形を描くゲームを作ったぐらいである。

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10秒以内に日本をできるだけ正確に描くというゲーム。クリックすると遊べます。(音が出るので注意してね)

いとおしいポイントを図で説明すると、

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と、きりがない。(本当はもっとある。) そんな中、疑問を持ってしまった。日本の重心はどこにあるのだろう。Googleで「日本の重心」と検索したらすぐに答えが出ると思う。でもここは自分の手で調べたい。

3Dプリンタを使います

国から10万円が給付されるということで、勢い余って3Dプリンタを買った。まだ申請用紙すら家に届いていないけど。

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じゃじゃーん。Adventure 3。家庭用3Dプリンタの中でも評判がよさそうだったのでこれにしました。特に作りたいものはないけど新しい趣味になりそう。
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暗闇に光る3Dプリンタ。かっこいい~。
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最初に作ったのは、かえるさん用の椅子。自分で設計して作った。

簡単に「設計して作った」と書いたが、本当に簡単なのである。設計はCADというものを使う。CADを使うのはこれが初めてだったが、Fusion 360というCADソフトはけっこう直感的な基本操作が可能だ。先ほどの椅子はソフトの使い方を一切見ないで作れてしまった。すごい。 

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CAD初心者ですが、どうやら2次元平面上に絵を描き、それを押し出して立体にするのが基本のようです。試しに「ちょっとしたところに引っかけられる大さじ」を作ってみた。
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3Dプリンタで出力したのがこれ。雑に設計したので水12gしか入らないし、そもそもPLA樹脂という3Dプリンタ用の材料を食器に使うのは安全じゃないらしい。さっそくお蔵入りだ。でも楽しい。

日本の重心を求める

いよいよ日本の重心を求める。といっても、日本は大きく分けて北海道・本州・四国・九州の4つの島からなる。(小さい島も入れると6852個もあるらしいのですが、きりがないので4つの島に限定させてください。) 4つに分かれているなかで、日本全体の重心はどう求めればいいのだろうか。

たどりついたのは、モビールだ。てこの原理を使います。

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横から見た図。横棒の傾きが水平となる位置が重心なので、それを探しながらトーナメント表のようなモビールを作る。最終的に一番上の糸が支える位置が日本の重心となる。
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編集部の石川さんに企画を説明したら「『ダンボールでいい』感がすごい」と言われた。僕もそう思う。 

3Dプリンタで北海道を印刷する

さっそく作り始める。まずは3Dプリンタで北海道を印刷する。そのためには北海道の白地図の画像をSVG形式にしてCADに取り込み、2mm押し出す。

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CAD上の北海道。やたらメタリックでかっこいいな。

これを3Dプリンタで印刷する。 

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今回は重さが大事なので、充填率を100%にする。充填率とは、材料の詰まり度合いのことである。デフォルトでは15%になっており、中身がスカスカになってしまう。

いよいよ、印刷開始! 

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北海道を印刷する3Dプリンタ。3Dプリンタなのにほぼ平面を印刷させられてかわいそう。
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この3Dプリンタには中の様子を見るカメラがついており、スマホからカメラにアクセスして見ることができる。つまり、隣の部屋のベッドに寝転がりながら、3Dプリンタが北海道を印刷する様を監視することができる。便利だ。

こうして北海道が完成した。

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かっこいい~。北海道だ!これ、ダンボールだったら切るの大変だったと思う。3Dプリンタを使ってよかった~。
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ラフトと呼ばれる土台のようなものの上に北海道が乗っている。(ラフトは簡単に剥がせます。)ラフトが領海みたいに見えて面白い。12海里だ。

さて、いよいよ、北海道の重心を探す。

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ペン先で支えられる位置が重心のはずだ。
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ワイヤを通したビーズで接着させ、重心の位置で吊るすようにした。重さを計ったら4g。けっこう軽い。
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同じ大きさで印刷した紙に重心をプロットするとこうなった。地図で調べると、これは南富良野町と富良野市の間ぐらいにある。富良野が北海道の重心なのは妙な納得感があるな。
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本州も四国も九州も印刷する

思い通りに事が進んでいる。続いて、本州も印刷する。

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できた。印刷可能な大きさぎりぎりだ。
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吊り下げてみる。本州の重心は、長野県北部だった。思ったより北だなぁ。

あとから調べたら、ここは「本州のへそ」と呼ばれており、付近には「本州の重心地」モニュメントが存在するらしい。 

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四国の重心はこのあたり。僕の調べでは高知県長岡郡大豊町である。面積の約9割が森林の大変のどかなところだ。ただし、四国は非常に軽くて小さいため、本当の重心とのズレが大きいかもしれない。重さは1g。(もっと精度の高いはかりがほしい。)
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九州の重心は熊本県下益城郡美里町。面積の約8割が山地・森林である。ただし九州も軽いので誤差がけっこうあると思う。ちなみに沖縄は今回省略しました。沖縄県民の方すみません~。

モビールを作る 

日本列島が印刷できたので、あとはモビールを組み立てるだけだ。改めてちゃんと説明すると、てこの原理を使います。

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棒の重さを無視したとき、2つのおもりを吊るした棒は、全体の重心の位置で吊るせば水平になる。全体の重心の位置は、棒を両端のおもりの逆数の比で内分する位置である。小学校6年生の理科の問題だ。(ちなみに高校物理では力のモーメントという。かっこいい。)

てこの原理は中学入試の頻出項目であるが、まさか自分が本当に「おもりを吊るした棒の重心の位置」を求めることになるとは思いもしなかった。あと、重さが無視できる棒ってなんだ。そんなものはこの世に存在しない。

重さが無視できる棒は存在しないので、限りなく軽い棒を使うことにする。3Dプリンタの出番だ。紙に写した重心同士の距離を測り、棒の長さを決める。そして、吊るせるように穴を空ける。これらはCADで設計する。

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四国と九州を吊るすための棒。こういう簡単なものなら一瞬でモデルを作れてしまう。神になったような気分だ。
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そして、3Dプリンタによって一瞬で物体を出現させることができる。本当に神になったような気分だ。なお、棒をできるだけ軽くするため、充填率を15%に設定した。
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棒に四国と九州をひっかけて、全体の重心を探し、重心の位置で吊り下げた。

簡単にできたように書いてますが、めちゃくちゃ不器用なのでビーズの取り付け作業に実はとんでもなく時間がかかっています。

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本州と北海道の全体の重心を探している様子。本州がかなり重いので重心はかなり左寄りになった。
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モビールが完成。ついに日本の重心が判明!

いよいよ、最後のステップ。本州と北海道を合わせた棒と、四国と九州を合わせた棒を、さらに棒に吊るす。トーナメント表でいうと決勝戦の部分だ。

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指で支えている様子。本州・北海道連合が四国・九州連合よりも圧倒的に重いため重心はかなり右に寄った。

こうして完成した。日本列島モビール。 

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かわいい~。
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結構まわる。まわっても重心は変わらない。
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下からみてもおしゃれ。部屋に完全に馴染んだ。

重心を軸として好き勝手に回転するので、いつもと違う日本の姿が見られる。これはこれでおもしろい。大陸移動説の話のようだ。

さて、そもそも重心の位置を調べるんだった。分かりやすいように紙に重心をプロットするとこうなった。

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日本の重心の位置は…
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出ました!新潟県沖です!!まさかの海!!!

この見た目でまさか日本海に重心があるとは思ってもみなかった。もっと長野県にありそうなイメージだった。しかし、本州の重心が長野県の北部にある以上、日本全体の重心は、大きい北海道に引っ張られてさらに北となってしまう。そこにあるのは日本海だ。

答え合わせをする

ここまでGoogleに頼らずに重心を求めたが、答え合わせのためにGoogleで日本の重心を検索した。すると、能登半島より少し東にあるようだ。

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赤い印のあたり。けっこうずれた。

ずれた原因はいくつかある。棒を軽くするために充填率を下げたら棒が若干しなってしまったこと。いくら軽くしたとしても棒にもわずかながら重さがあったこと。接着剤もビーズも糸も重さはゼロではない。こういったひとつひとつが誤差の原因である。

そして、おそらく一番大きな原因は、日本を4つの島で表したことだ。本来、日本には6852の島がある。特に瀬戸内や九州には大きい島が多く、それらを無視しなかったらもう少し南西に重心が来ていたはずだ。さらに、沖縄本島をはじめとする沖縄の島々はかなり南西に位置するため、結果に大きく作用する。力のモーメントでいうところの、「力の大きさ」×「支点からの距離」 の「支点からの距離」の部分で影響が大きい。

逆に、択捉島などは北東側に作用するため沖縄の誤差を打ち消すかと思ったが、打ち消しきれなかったようだ。

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あとから気が付いたのだが、CADには重心を求める機能があった。そんな便利機能があったのか…。

いろんな条件で重心を求めたい 

日本の重心が求まってやれやれといったところだが、調べてみるといろんな重心がある。今回は日本列島を重さが均一な平面と見立てたときの重心を求めた。いわゆる、面積重心だ。

しかし、せっかく3Dプリンタがあるので、山などの高低も考慮した重心も求めたい。体積重心だ。国土地理院では、日本列島の3Dモデルを公開している。これを使えばいけそうだ。今回はやらないが、興味のある人はやってみるとおもしろいと思います。ただ、日本一標高の高い富士山でさえ3776mと、4kmにも満たない。北海道北端から鹿児島南端までが1900km弱であるのに対してかなり小さい。正直、結果にはあまり影響しないと思う。(やってみたら結構変わるかもしれませんが…)

そして、もっとちゃんと重心を求めるなら、鉱物や地質によっても重さは違うはずだし、そもそも日本列島は全部がぷかぷかと海に浮いているわけではない。海底資源も含めた重心とかを考えると、もう何が何だか分からなくなってくる。

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いろいろな重心について海洋政策研究所のWebサイトにまとめられていた。ありがたい。(海洋政策研究所Webサイトより引用)

ついでに人口重心も求めた

CADで日本の人口重心も求めてみた。これは、国民1人1人が同じ体重だと仮定して、重さが無視できる日本列島の上で生活するときの重心のことである。例えば、東京にはたくさんの人が住んでいるので重い。

国民一人一人の住所が分からないので正確な人口重心は計算できないが、CADで各都道府県の県庁所在地にその都道府県の人口に応じた長さの棒を乗せていけば、けっこううまく近似できるんじゃないか。

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人口に応じた長さの棒を47本立てた。(見えてませんが沖縄にも立ててます。)
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CADの機能を用いて重心を算出。
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拡大してみる。僕がCADで求めた人口重心は岐阜県にある。あとで答え合わせをしたらだいたい合ってた。近似がうまくいってうれしい。
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