物理的な「裏側」をもっと見たい
「見たことある!」という風景に自分が入っていって、周辺をグルグル見回すのは面白かった。業界の裏側とかじゃなくて、物理的に「裏側」を見る楽しさがあった。
有名観光地の写真とかも、撮影ポイントから後ろを振り返ったら何が見えるんだろう。スフィンクスの目線の先にはドミノピザとケンタッキーがあるというし、ぐっと生活感が出そうな気がする。
事件事故が報じられるテレビのニュース、国会議事堂とか警視庁とか、よく映し出される場所がある。
そういえば、あれはどこから撮っているのだろう。
映像や写真があるということは、それを撮った人がいて、撮った場所があるはずだ。そこには何があって、後ろを振り返ったら何が見えるのか。
実際に行って確かめてみよう。
最初にやってきたのは警視庁。東京メトロ有楽町線の桜田門駅で降りて、3番出口から出ると、すぐ目の前にあの建物が見える。
季節によって木々のこんもり具合が異なるだろうけど、だいたいこんな感じ。見たことある!
都内で事件が起きて、詐欺や横領なんかで現場の写真が無いとき、ネットニュースのサムネイルがこれだったりする。もっと空が曇っていたかもな。
それにしても最初の写真を撮った場所、歩道にしては道幅が広くてなんだか公園っぽい。
それもそのはず、右側に見えるのは皇居のお堀で、後ろを振り返るとこうなのだ。
地名の通り、ここは江戸城の桜田門がある場所。「桜田門外の変」でお馴染みの、あの桜田門である。
この門、正式には外桜田門といい、外側の小さい門が「高麗門(こうらいもん)」、内側の大きな門が「渡櫓門(わたりやぐらもん)」と呼ぶそう。
つまり、あの警視庁の写真、井伊直弼があんなことになった桜田門外から撮られているのだ。
警視庁のことを隠語で「桜田門」と呼ぶのは知っていた(『スケバン刑事』で見た)けど、ホントにすぐそこだった。実際に現地に行くと、知識と経験がつながる興奮がある。
ニュースで見たことあるものと、教科書で見たことあるものを同時に見た。さっそく「来てよかった」感に満たされる。
桜田門を堪能したあと、そのまま歩いて国会議事堂に向かった。
ニュースで見る国会議事堂は、だいたいが敷地の中から撮影されている。たとえばこんなアングル。
今回は思いつきでぶらりと撮影に来ているため、正面突破はできない。代わりになんとなく頭の中にあったのは、遠くから建物を正面に捉えたショット。
手前に道路があって、奥の国会議事堂に続いているイメージだった。
しかし、現地に行ってみると、普通はそういう写真が撮れないことがわかる。
確かに国会議事堂の前は丁字路になっていて、正面まで道路が続いている。でも、途中に横断歩道が全然ないので、横切ることができない。
もっともっと遠くからズームで撮ったのかも……と後ろ振り返ってみると、この道路、国会議事堂に向かってゆるい上り坂になっていて、離れれば離れるほど国会議事堂が見えなくなる。
あれ?じゃぁどうやったんだ?
交通ルールを破って道路の真ん中に躍り出ればイメージ通りの写真が撮れそうだけど、息子の前でお巡りさんに組み伏せられるわけにはいかない。
結局「あれは事前に道路使用の許可を取って、真ん中まで行って撮影したのかもね」という話で息子と落ち着いた。
というわけで当初のプランは諦め、丁字路の横断歩道から国会議事堂を撮ってみる。
ちなみにこの道路の両脇は「国会前庭」という公園になっていて、かっこいい時計塔があったりする。この日は近くの小学校が遠足に来ていて賑やかだった。
国会議事堂から国会図書館に向かい、青山通りに出るとそこは最高裁判所である。
結果からご報告すると、「あーこれは最高裁判所ですね」という写真があっけなく撮れた。
「最高裁」で画像検索すると出てくるやつだ。金色の「最高裁判所」の文字だけでも見覚えがあるのに、この建物と樹木。
冬のニュースだと葉が落ちて、建物がもっと見える。一番葉っぱが多いときに来ちゃったな。
ではこの写真、どこから撮ったかというと……。
そしてこの歩道も、さっきの国会議事堂前と同じく坂道だった。
写真だけ見ると、そこが坂かどうかなんて気にしない。でも実際にはアップダウンがあって、日差しは照りつけるし、風が吹き抜ける。
加えて警備員さんの視線も気になるが、息子を連れて「社会科見学っぽさ」を出しているのでそれは平気だ。
このあと、息子が植え込みに空のペットボトルが捨てられているのを見つけた。「最高裁にポイ捨てする!?」「絶対有罪じゃん」「命知らずめ」とワイワイしていたら清掃の人がさっと回収していった。
最後はちょっと趣向を変えて、夕方のニュースによく出てくる場所に行ってみよう。
最近食料品の値上げが続いているじゃないですか。そうなると「街の声は~」みたいなレポートが入るじゃないですか。
そしてスーパーの店長のインタビューが入ったりするじゃないですか。
そこでよく見るのが……。
練馬区に本店を置くスーパー「アキダイ」。年間300本近くニュースの取材を受けており、今日もどこかでテレビに出ているんじゃないかというスーパーである。
場所は西武新宿線の武蔵関駅から徒歩3分。商店街の中にあるのかな、と勝手に思っていたけど、住宅地の中に突然あった。
目の前はマンションで、道路は車2台がやっとすれ違えるくらい。
あ、隣にもお店があるんだな~と見てみると、なんとこちらもアキダイさんが運営している店舗だった。
建物の左側にあるのは炭火焼鳥「あきとり」。さらに店内にはお弁当やお惣菜、たいやきなどが売られ、飲食できるフリースペースもある。しかもリーズナブル。
で、まだ驚いたことがある。この店舗のさらに右隣、アキダイさんの専用駐輪場なのだ。
ニュース映像だけ見ていると、お客さんはみんな歩いて買い物に来ているように見える。だからなんとなく「商店街にあるお店なのかな」と思ってしまう。
でも実際は、この駐輪場に自転車を止め、ちょっと歩いてアキダイさんに向かっていたのだ。そうなんだ!
地元の方々は当たり前に自転車でやってきて、買い物をして、大きな袋を下げて帰っていく。それは日常のルーティン。
その一部だけを見ていたんだなぁ、と改めて思う。
「見たことある!」という風景に自分が入っていって、周辺をグルグル見回すのは面白かった。業界の裏側とかじゃなくて、物理的に「裏側」を見る楽しさがあった。
有名観光地の写真とかも、撮影ポイントから後ろを振り返ったら何が見えるんだろう。スフィンクスの目線の先にはドミノピザとケンタッキーがあるというし、ぐっと生活感が出そうな気がする。
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