朝9時30分からかき氷の整理券が配られる
突如、関西に帰省しないといけなくなり、関西で記事を一つ取材しておかないとスケジュールとして難しくなる。何かおもしろいものないですか? と、知り合いに聞いたところ今奈良でかき氷が盛り上がっているのだという。
「ちょうど昨日こんな記事が出ましたよ」とエルマガジン社の記事を見せてくれた。おかず氷? 知り合いも初耳だという。
かき氷の街・奈良で増える「おかず氷」 | Lmaga.jp
この記事でもオマール海老やキャビアのかき氷を出している氷匠ル・クレールというお店は朝9時30分に整理券を配布するそうだ。早い。朝からかき氷のことを考えて行動することになった。
すでに5人が並びテレビも来ていた人気店
まだ暑くなってない平日はそこまでの行列はないようなので配布開始の9時30分の20分前に行ってみた。入り口ではテレビカメラが撮影をしていた。テレビ取材があるほどの人気店なのか。行列にはすでに5人が並んでいた。
しかしこのかき氷人気は東京でも目の当たりにしているので驚きはない。以前かき氷ファンにかき氷めぐりに連れていってもらった記事を書いた。ここはものすごく行列を作る世界なのだ。
テレビ取材にざわつく行列
整理券配布の先頭は1つのグループのようでしゃべり声が聞こえてくる。どうやらこれからテレビの取材があるらしく、ざわめいている。自分は以前にテレビに出たことがあること、三倍くらいに顔がふくらむこと、どうすればインタビューが採用されるかなどが聞こえてきた。
以前も日本一行列のできるとんかつ屋に取材で行ったことがあるのだが、先頭はやはり並ぶのが好きな人達だった。人気店の一番先には行列の常連さんがいる。
そしてテレビ取材がはじまった
ディレクターーの方が来てこれから撮影が行われること、この店のファンだとかおかず氷が目当てだとかそういうことを自由に言ってほしいと説明があった。そうか、もしかしたら撮影の人たちもおかず氷の記事を見て来たのかもしれない。
「おかず氷??」「おかず氷って何?」ディレクターが去ったあとで行列の先頭が混乱していた。
どうやら行列の先頭に並ぶような人にもまだ浸透してない概念のようだ。もしかしたら雑誌が独自に提唱してるだけなのかもしれない。
取材が始まった。行列の私語がなくなり、緊張感が生まれる。レポーターの方が入り、行列の先頭グループにインタビューをしている。「わざわざ大阪から!?(場所にもよるが1時間くらいかかる)」と楽しそうに話が進む。
そして「今日は何を目当てにいらっしゃったんですか?」という質問には、自分の好きなかき氷を答えていた。「あーそうですかー」とレポーター。残念だ。そのかき氷はおいしそうだが今日に限っては正解ではないのである。
「お兄さんお話大丈夫ですか?」正解が出てないのでおれのところにまで話が回ってきてしまった。
おかず氷界のヒーロー現る
「今日はどちらから来られたんですか?」
やはりこの日の主役はおれだ。先頭の方々に申し訳ないという思いから目がそっちにいく。すまん。「東京から来ました」と。申し訳ないが事実だ。
「東京から!?」撮影隊の顔がめきめきに色めき立つ。小さく歓声が上がるほどだ。
「今日は何を目当てに?」正解を見せるときが来た。一息ついて答える。「……おかず氷です」と。
太鼓が鳴ったのが聞こえた。もちろん太鼓などあるわけないが、和太鼓が2つほど鳴った。英雄が現れたのだ。太鼓でも鳴らさないと失礼だというものだ。
沸き立つレポーターが言う「おかず氷!? 一体なんですかそれは!?」と。もちろんそれが何なのかはわかってない。
ディレクターの方にいつ放送されるのか聞いたらその日の午後4時だという。そんなに速報性のあることなのかこれは。
整理券とらずとも食べられたようです
整理券をもらって一旦店を離れ、今度は開店時間の11時にまた来る。ちなみにこの日は席数よりも人が少なかったので整理券をとらずともそのまま入れたようだ。
お店の方はお客さんにそれぞれ声をかけている。フレンドリーな店だ。地元のおいしいフランス料理店がかき氷も出した感じだろうか。
フォアグラのかき氷を食べる
テレビ番組で最近紹介されたというフォアグラの入った「南瓜チー」が出てきた。名前に「チー」が入ってるように、チーズがそもそもめっちゃ香る。パスタくらい香ってくる。かき氷をくずしていくと中にはかぼちゃの煮物のようなものが見えた。あ、これはおかずっぽいぞ。
一口外側から食べてみる。かぼちゃのペーストはあっさりとした甘さでチーズがしっかり塩っぱい。6:4くらいで甘じょっぱい。そこに黒胡椒ピリ。わー、しゃれた味だ。
中に進むにつれてミルクシロップの甘みが強くなっていき、いよいよフォアグラムースとかぼちゃの蒸し物に到達した。
どぅわ。獣がいた。かき氷を食べているのだが一瞬どこかに獣っぽさがあった。かぼちゃの蒸し物だけ食べてみる。あ、これはおかずだ。南瓜の炊いたん、だ。今度はフォアグラのムースだけ狙って集中的に食べてみる。やはりこれだ。多少甘いとはいえ、しっかり肉だ。
しかしだよ。エルビス・プレスリーの好物はピーナッツバターにバナナとベーコンとはちみつのサンドだというじゃないか。デザートに多少の肉っけが入っても成立するのではないか。この塩っ気のあるチーズにしても動物性のものだ。そりゃ獣っぽさに違和感はある。でもそれは嫌じゃない。おもしろいと思う。
あーこんなの食べたことがないけどおいしい。違和感がありつつも美味しいというのはすごいことだなー。
最後まで食べ飽きない
チーズもかぼちゃのペーストもミルクシロップもフォアグラムースも全部個性がある。スプーンひとさじに載る配分によって味がぜんぜんちがう。
あ、こう来たか、今度はこうなった。どうなってもおいしいし面白い。最後まで楽しく食べた。
わー、これはすごい。かき氷屋さん(思いっきりフランス料理店だが)でこんな美食文化みたいなもの食べられるとは思わなかった。
お店の人におかず氷とはなんなのか聞いてみたら、スープのような食材を使って、という表現をされていた。そうか、スープか。たしかに牛肉がドーンとのるわけでもなく、スープくらいのおかず感でしっかり甘い。
かき氷ブームを見に行く
おかず氷は「塩っぱいソースをおかずにして、ごはんのかわりに氷を食べる」みたいなものではなく「THE美食」だったしフレンチだった。とはいっても他の店にこんなフォアグラみたいなメニューがあるわけでもないらしい。
奈良のかき氷ブーム全体を見るために町を散策した。するとたしかにかき氷あります的な看板が多い。喫茶店を中心に、和菓子店や他の飲食店でも。意識するとちょっと多いな、という程度には多い。
食材がおかず化している奈良のかき氷
猿沢の池近くのイタリア料理店バンブーノでもかき氷を出している。ここでは野菜を使ったかき氷が多いようだが、一番の変わり種は豆腐とわさびのかき氷。
「食べ進めると辛くなってくるので豆腐のソース足しますよ」という。辛くなってくるから豆腐を追加する、これは今麻婆豆腐とかそういう話をしているのかなと思う。
食べてみると辛味はあるものの塩分を感じるわけでもない。ここではおかずになるような食材を使って甘いかき氷にしているようだ。
わさびは辛いがさわやかだ。豆腐も最初は食べ慣れないがすぐにおもしろくなってくる。
ふわふわのかき氷というのは基本的に何を組み合わせてもいけるのではないか。ここには水しかないのだから。おいしいソースさえあればいい。豆腐とわさびのソースもおいしい。なのでかき氷も大変おいしい。
このかき氷ブームはどこから来ているのか?
「辛くないですか? 大丈夫ですか?」と何度も聞いてくれるのだが本人たちもよくわからなくなってるのだろうか。
昨今のかき氷事情を聞いてみると、さっきの氷室神社でかき氷のお祭り"ひむろしらゆき祭"を企画してる人たちがいろんな店にかき氷を出しませんか?と声をかけて店が増えてきたのだという。
この店もそれで始めたらしいが、夏休みなどになると遠方からもわざわざ来てくれたりすると少し驚いていた。
おかず氷も聞いてみたが、やはり特別なのは先程のフレンチのお店で、ほかは野菜を甘くして出したりする程度のようだ。まだまだ私達も勉強中でして、とかき氷ブームはまだ始まったばかりのようだ。
とはいっても氷はふわふわだしここのかき氷も美味しかった。聞けば同じ氷屋さんのものを使ってるそうだ。
かき氷ブームの発端とは
ブームのきっかけであろう「ひむろしらゆき祭り」で検索したらこんな記事が出てきた。
かき氷を”面”で見せ滞在型観光へのシフトを狙う。行列のできる店の地方創生 | 地方創生業界メディア NATIV.|ネイティブ株式会社
要約すると柿の葉寿司の会社の代表がかき氷の有名店のおいしさに衝撃をうけて2015年からかき氷店を始めた。氷室神社でかき氷のお祭りをしたり、他のお店に声をかけたりして盛り上げている、ということだった。
代表の名前はヒライソウスケ氏。おわかりだろうか。奈良の人だけおわかりだろう。そう、平宗なのである。あの柿の葉寿司の平宗だ。柿の葉寿司に代わる新たなブームに舞い上がったものの、ここは平宗だったのだ! 砂浜に自由の女神を見つけた『猿の惑星』のエンディングのような気持ちである。
とはいえ、新たに奈良にうまいもの誕生!
奈良にかき氷ブームがあった。おかず氷と言われる先鋭的なかき氷が特徴だった。
奈良のかき氷のブームを伝える記事を見るとどれも「奈良にうまいものなしと言われるが…」から始まっている。相変わらず奈良は観光客でパンパンである。でも柿の葉寿司しかないんだよな~、ともう何百年と惜しい感じが続いている。外国から来た人が腹をすかせて鹿せんべいを食べないように、新たな名物を作る必要があったのだ。
そんな中、かき氷。これぞという感触がある。奈良は盆地で蒸し暑い。なのでかき氷。そして観光地の浮ついた空気はフォアグラを入れたり野菜を入れたりする非日常さを受け入れてくれる。
柿の葉寿司あり、かき氷あり、あとは茶粥である。和歌山県の茶粥文化を根絶やしにすれば奈良に名物が3つ確保されることだろう。
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