

ある日、成城石井に行ったら、「なんでもいけるドレッシング」というものが売っていた。
この世にありとあらゆる料理がある中で、「なんでもいける」なんてことがあるだろうか。これはずいぶん大きく出たなと思いつつも、成城石井が言うのならという期待もある。
実際どこまでいけるのだろう。いろいろなものにかけて試してみよう。
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普通のドレッシングとは何が違うのか?
こちらがその「なんでもいけるドレッシング」。胡麻と醤油、2つの味がある。
成城石井で働いている知人に聞いたら、かなり定番の商品で、おそらくどこの店舗でも売っているとのこと。
そもそも普通のドレッシングとは何が違うのか。まずは何にもかけずに、キューピーから出ているドレッシングとなめ比べてみることにした。


まずは胡麻。





まずなにより目立ったのは、「なんでもいける胡麻ドレッシング」のしょっぱさ。いつも慣れているごまドレッシングのつもりで口に入れると、喉がびっくりするほどしょっぱい。
そして驚いたことに、キューピーのドレッシングはしっかりゴマの味がするのに対して、「なんでもいける」のゴマ味はそんなに強くない。

キューピーのドレッシングを後から食べて、ゴマの大合唱になる一同。

「なんでもいける胡麻ドレッシング」は、しょっぱさと酸味が強く、ゴマの味がうすい。
たしかにゴマの味は個性が強い。そのゴマ感を薄めることでどんな食べ物にも合いやすくする、引き算の「なんでもいける」なのかもしれない。
つづいて醤油はどうだろう。

味としてはそんなに大きく変わらなかったが、「なんでもいける」は味・食感ともに明らかに玉ねぎがたくさん入っているのが分かる。あと、後味にほんのりコショウとガーリックも感じる。
こちらは、玉ねぎやスパイスで味の深みを増してどんな食べ物にも合いやすくする、足し算の「なんでもいける」なのかもしれない。
同じ「なんでもいける」でも、胡麻と醤油ではアプローチが違っているようだ。

「なんでもいける」は人の好奇心を狂わせる
なんとなく味が分かったところで、この「なんでもいけるドレッシング」をかけてみる食べ物を選ぶ。「普段何かをかけて食べるもの」というルールの中で買い物をした。
するとここで、魔法の言葉「なんでもいける」の前に全員の好奇心が爆発する。




「普段何かをかけて食べるもの」は思っていた以上にたくさんあった。そして、「なんでもいける」の魔法で期待が爆上がりしている僕たちの目には、そのどれもが何となくいけそうに見えてくる。
買い物かごの中は、小学生に「好きなものなんでも買ってあげるよ」と言ったかのような「あれも買ってこれも買って」状態。みんなキラキラした目で、次から次へ食べものを持ってくる。


その結果、
《試してみるものリスト》
刺身(マグロ・タイ・イカ)/焼き肉/豚カツ/餃子/豆腐/白ごはん/卵かけご飯/オムライス/目玉焼き/お餅/うどん/スパゲッティ/食パン/ペヤング/コーンフレーク/おでん/たこ焼き/アメリカンドッグ/納豆/ところてん/いちご/ヨーグルト/パンケーキ/団子/バニラアイス/かき氷/ソーダ割/ビール割
試す食べものの候補は30個にもふくらんだ。「なんでもいける」の魔法が、ちょっといいホテルのバイキングぐらいの品数を生み出してしまった。
たくさんの食べものが並んでいるというのは、それだけで幸せな気持ちになる。それに加えて、この全てがドレッシングで美味しく食べられるかもしれないという期待から、ボルテージは最高潮に。
今すぐ試食をはじめよう!
「なんでもいける」はずだったけど・・
候補の数がすごいことになってしまったので、やってみたいものから順に試してみることにした。
まずは、アメリカンドッグ・豚かつ・刺身3種(マグロ・タイ・いか)。それぞれに胡麻と醤油2種類の「なんでもいけるドレッシング」をかけ、合計10個の組み合わせを食べてみる。
それぞれの食べ物には、普段かけているタレやソースがある。でもそこにこのドレッシングをかけることで、今までになかった新しいおいしさが開かれるはず。
一同そう思っていたのですが・・。
アメリカンドッグ × 醤油
「味うすいね」
「うん、衣がかなり吸っちゃってる」
「ケチャップがなくて、冷蔵庫にこれしかなかったらかけるかな」
「でも何もかけなくていいならかけない」
「アメリカンドッグが主食だったとして、毎日ケチャップで食べてて飽きてきたらかけるかも」

豚かつ × 胡麻
「かける量が少ないと味を感じないけど、かけすぎるとしょっぱい。その間が見つからない」
「全然カツと混ざりあわないね。最初ゴマの味で、途中からカツの味」
「豚かつから、“私たちつきあってる意味あるのかな?”って言われてそう」
「豚かつの横のキャベツにこのドレッシングがかかってて、カツにもついちゃってたら食べるかな」

豚かつから別れを切り出されているドレッシング。
タイの刺身 × 胡麻
「これも完全に分離しちゃってるね。最初ゴマ味で後からタイ」
「海外のお寿司屋さんで出てきたら受け入れる」
「大根のツマにかけるのはおいしい」

試してみた10の組み合わせのうち3つだけをご紹介したが、他の7つも含めて、出てきたのは微妙なコメントの数々。
どれも決して食べられないほどまずいわけではない。でも、いけているかというとそんなことはなく、積極的にかけることは絶対にないというレベル。
それぞれについて、こういう状況だったら受け入れるというコメントはあった。
でもそれは、「アメリカンドッグが主食だったら」「つけあわせのキャベツのドレッシングがかかっちゃってたら」「海外のお寿司屋さんで出てきたら」など、どれもものすごく狭い。

おかしいな、いけてないぞ。
時刻は午後4時。シンデレラだったらまだ家で掃除をしているだろう時間に、「なんでもいける」の魔法は早くもとけてしまった。
何ならいけるのか?
ここまでやってみて、気づいてしまったことが2つある。
ここまでに試してみたものの味から、このドレッシング、用意した30種類の食べ物のほとんどには合わないだろうなということが感じとれてしまった。「なんでもいける」は比喩だった。
最初に確かめたとおり、どちらのドレッシングもサラダにかけたら当然おいしい。「なんでもいける」というのはきっと「どんなサラダにもよく合う」という意味で、それぐらい美味しいよということの例えなのだろう。


ドレッシングからのお叱りの声も聞こえてきた。
このままでは、こちらが「なんでもいける」を真にうけてしまったがために、このドレッシングにいらぬ恥をかかせてしまうことになる。何か1つでもいいから合うものを見つけてあげたい。
そこで、もともとは「本当になんでもいけるの?」だったこの日の目的を、「何ならいけるの?」に切りかえて、改めて候補の品々をよく吟味。ここまでのように手当たり次第に試すのではなく、確度の高そうなものに絞って試すことにした。

これならいけた!
その結果、見事おいしい組み合わせを4つ見つけることができた!
餃子 × 醤油
そもそも餃子のタレが酢と醤油でできているので、同じく酢と醤油がメインのこのドレッシングはつけても違和感がなくおいしい。餃子のタレと比べると酸味と甘さが強く、玉ねぎも入っているので、あっさり食べたい人にはむしろこっちの方がいいかもしれない。

ペヤング × 醤油
付属のソースはなしでこのドレッシングをかけると、冷やし中華を甘めにしたような味わい。酸味がきいていることは変わらないので、暑い季節に食べたらおいしそう。
納豆 × 醤油
さわやかな甘さと酸味とスパイスが加わって洋風の味に。納豆をご飯のお供ではなくサラダとして楽しむならこれが正解という感じ。
豆腐 × 醤油
居酒屋の豆腐サラダでお世話になっている味。この美味しさは知ってるぞ!という安心感がある。
「なんでもいける胡麻ドレッシング」にも何か合うものを
しかしお気づきの通り、見つけられた美味しい組み合わせはどれも「なんでもいける醤油ドレッシング」のもの。胡麻の方にはまだ何も見つかっていない。そして残念ながら、用意した食べ物の中には合うものはなさそうだった。

我々は責任を感じていた。もともとこの「なんでもいけるドレッシング」は、サラダ限定という暗黙の了解のなか、おだやかに暮らしていたのだ。
そこに、「なんでもいける」を真にうけて期待をふくらませた僕たちが現れて、全ての食べ物が対象の土俵にあげてしまった。
その結果、こんなかわいそうなことになっている。このままプライドに傷をつけるだけになってしまっては、送り出してくれた成城石井にも申し訳ない。なんとかしてこの子にもいけるものを見つけてあげなければ。もはや親心だ。
時刻は夜7時になり、借りていた公民館の調理室が使えるのもここまで。
これ以上試食はできないけど、せめて何か新しい候補だけでも見つけたいと、もう1度スーパーへと向かった。そして改めて店内をひとまわり。これまで色々と味見をしてきた経験から、「刺身わかめ」と「ジャガイモ」の2つをチョイスした。
この日はもう調理できる場所がなかったので、僕が家に持って帰って試してみることになった。
翌日、全員の期待と不安を背負って食べてみる。
良かった、両方とも美味しい。特に、ゆでたてのジャガイモにかけるのは絶品と言っていいレベルだ!

冷静に考えれば、ワカメもポテトもサラダとしてあるものなので、そりゃまぁ美味しくなるだろうという気もする。でも、もはやそういう話ではない。これだけ色々なものを試して、ようやく「なんでもいける胡麻ドレッシング」にも「いけるもの」を見つけることができたのだ。これで十分満足だ。
タレってすごい
今回やってみて分かったのだが、食べものに何かをかけて美味しくなるというのは、実はすごいことだった。
「かけたものが食べ物に吸収されてしまわない」「味がきちんとからみあう」「かけるものの味が勝ちすぎない」など、美味しくなるためには超えなければいけないハードルがたくさんある。
たこ焼きにソース、刺身に醤油、アメリカンドッグにケチャップ、そしてサラダにドレッシング。普段当たり前においしく食べているが、どれもみんな奇跡のマッチングだったのだ。

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