濃厚すぎるバーベキュー
新しいこと尽くしで、当たり前のはずのバーベキューが斬新なイベントに変化した。
・絶対食べれられない組み合わせが実現する
・ドローンは慣れると日常になる
という考えれば当たり前のことを現地では気づかせてくれた。仕込みの買い物から楽しいし、ひとつの外国食材のパッケージが安くて大きいので、めちゃめちゃ余る。外国飯の材料はコスパがかなりよかった。
バーベキューを楽しみたい。未体験のことが大好きな人でも満足できるような、新感覚のバーベキューを楽しみたい。
新感覚のバーベキューとはなんだろう。たどり着いた先が、外国食材縛りのバーベキューだ。まさに無国籍バーベキュー。
そんなことを考えていたら、海外旅行好きの知人が喜んで開催してくれた。「とりあえず油ひかないで焼いて食べられるものを各人持ち込むように」――そんな外国食材しばりの闇鍋ならぬ闇バーベキューに参加してみた。
横須賀沖にある無人島「猿島」の週末。船には多くの家族連れやグループが乗りこんでいく。
僕ら一行は「猿島はリア充の巣窟だから気をつけろ」「スターフェリーだ!スターフェリーよりも速い!(※スターフェリーは香港の市民の足)」などとはしゃぐ。他のグループとは喜ぶポイントが違った。
浜辺はまさに夏休みの景色とでも言おうか、バーベキューをするグループやスイカ割りをするグループなど、幸せオーラで満ち溢れている。
そんな中でも僕らのバーベキューセットは異端だった。そもそも異端を狙った企画ではあるのだが、傍から見ても異端なのだ。
参加者は4人。「揚子江(仮名)」氏は、「極度乾燥(しなさい)」で知られるSuperdryブランドを上下揃えて、ついでにカバンまでSuperdryと、名前の割には徹底的に乾燥している。
「黄河(同)」氏は、黄河の川の水で手洗いした服を着ていることを自慢している。さらにタイに流れる「メコン(同)」氏もいる。
全員が海外旅行好き、それも海外旅行でツアーでは行かないような妙なところにいき、妙なものを買う人ばかりなのだ。今回の食材集めにも彼らは本気だった。
レンタルした卓に食材を広げた僕らは、「うおーっ」と声をあげた。「外国食材屋で焼ける食事をとりあえず持ってこよう」という企画だけど、見事に普段スーパーで見ないような食材だらけなのだ。「情報量が多すぎる」のだ。
買ったものについてそれぞれ紹介したいところだが、買った本人もわかってない。正しい現地語での読み方も知らなければ、できあがりの味もあまり知らない。ただ調理方法だけは知っている。とりあえず焼けばいい。韓国、中国、ベトナム、インド、ネパール、バングラデシュ、ロシアと様々な国のものがテーブルの上に広げられた。
入手元ははいくつかある。ひとつは横浜の縁「いちょう団地」にあるベトナム食材屋兼ベトナム料理屋の「タンハー」という店。ひとつは東京の小岩にあるネパール人経営の南アジア食材屋「ベットガット」。それに大久保の韓国食材屋。
それらはそれぞれの店で「油を使わずに焼けるものをください」と現地人スタッフに日本語で聞いて買えるものである。日本語が通じるのがありがたく、僕らは現地語がペラペラになったような気分だった。
くわえて、海外で入手したけれど、未開封のままになっていたものもいくつか。
焼くか、そのままで食べるものを集めたら、ベトナムとネパール/インド食材が多くなった。とりあえず炭火でインドのチャパティとベトナムのライスペーパーを焼いていく。チャパティは柔らかく、ライスペーパーベースのえびせんは硬い。麦と米の違いがはっきりでている。
暑い中、新しい味に食べるたびに「おお、なんだこれは!」とどよめいた。
ただ焼くだけではバリエーションがないからと、韓国通の揚子江氏は、大久保で買えるキムチと「これがうまいんです」とばかりに、キムチツナを用意した。ご飯と混ぜると絶品だという。
小岩で売っていたバングラデシュのPohaという、ぺちゃんこになり乾燥した米を主食に、キムチツナをビビンバのようによく混ぜて食べる。いけた。(後日、自宅で卵かけ納豆Pohaを食べてみたが、これがまたいけた。)
インドのチャパティやベトナムのライスペーパーえびせんを焼きながら、バングラデシュ韓国ミックスの混ぜご飯に舌鼓。
用意されたピョンヤンの酒や、樺太で入手したというロシアの安ウォッカは、未開封のまま保存された。キメる人はいなかった。
面白いが暑い。汗がとめどなく出てくる。焼いたライスペーパーやチャパティなどを食べると口から水分が吸収されていく。
一応は日本で売られているペットボトルの飲料水を持ってきた。だが、これがなくなると、現地で入手した未開封品というロシアのウォッカか、北朝鮮の謎酒を飲まねばならない。それはきつい。だが暑い中でバーベキューをすると否応なく水が欲しくなる。
猿島にやってきたのは訳がある。ドローンでの空輸をしてもらうためだ。
「ドローンが猿島に向けて飛行中です」というスタッフの声がしばしば聞こえる。
対岸の本土からドローンがやってくる。最初は小さな虫ほどのサイズだったが、だんだんとドローンが視認できるようになる。音は賑やかな中では目立たない。
ドローンによる空輸というと近未来感な感じがするが、西友という固有名詞が混ざることでよりリアリティが増した。
ドローンは対岸の西友からペットボトルとキャベツとしめじと肉を運んできてくれた。ドローンが運ぶ箱は十分大きいが、しめじは特別軽いので、しめじだけ5kg分買ったら箱に入らないだろう。
運ばれてきた肉や野菜には、持ちこんだ謎調味料で味付けを加えて異国感を出した。
ドローンのヘルパーに中国人のお姉さんがいた。
武漢出身とのことで、武漢に行ったことがあるよと僕らがいうと、愛郷心からか、武漢自慢が始まってしまった。ドローンについてききたかったのに「武漢地下鉄一号線がウツクシイと日本人も言テタ」と武漢を熱弁していた。
ふと遠方から僕らのテーブルを見返すと、様々な食材を開封したせいで、袋だらけになっていた。夏の思い出のバーベキューの光景にはまるで見えず、片付けが苦手な人のテーブルそのものになっていた。
あとわかったのは、ドローンは何度も往来すると日常となって飽きるようだ。はじめは猿島に遊びに来た人たちみんなが興味をもっていたが、何回も往復すると空気のような存在となっていた。
ドローンが普及した未来を一瞬だけ見た。
新しいこと尽くしで、当たり前のはずのバーベキューが斬新なイベントに変化した。
・絶対食べれられない組み合わせが実現する
・ドローンは慣れると日常になる
という考えれば当たり前のことを現地では気づかせてくれた。仕込みの買い物から楽しいし、ひとつの外国食材のパッケージが安くて大きいので、めちゃめちゃ余る。外国飯の材料はコスパがかなりよかった。
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