定義をつど確認する旅になった
つまり門は概念だ。門を探しているうちに、自分の思う門とはなにかということを自問する必要が出てくる。本当は門の種類を集めたかっただけなのだが、そのためにはどこまでが門かということを区切らなければいけない。
いままでは「三角コーン」のようなものを見てきたので、定義に悩む必要はなかった。これが観察するということかと改めて思った。
本を読み、建物の入口の「門」にも種類があるということを初めて意識した。それなら色々集めてみよう。門に入門するのだ。と思って始めてみたら門そのものが分からなくなった。
当たり前のことを書いて恐縮だが、門にも種類がある。
言われてみればそりゃそうだろうと思うが、ぼくの場合はいままで意識することがなかった。「積算ポケット手帳」という本を読むまでは。
「外構編」の外構というのは敷地の建物以外の部分のことで、この本はそういう場所に置かれるあらゆるもののカタログになっている。その中の三つの章が「門」に当てられている。
坂戸門、冠木門、RC打ち放し袖門、化粧ブロック積み袖門など、伝統的なものから最新のものまであらゆる門の図面と工事施工価格が載っている。とにかくすごい本なのだ。
門、ぜんぜん意識したことなかった。このさい入門してみよう、と思った。
そこでフィールドワークをしてみることにした。ようするに、近所を歩いてみて目についた門を片っ端から記録するのだ。
すると、自分がなにを「門」と思っているかが逆に明らかになり、面白かった。門はグラデーションなのだ。明らかに門であると分かるもの(門度が高いと呼ぼう)から、門かどうか怪しいものまでいろいろあるということが分かった。
門を、門度の高い順にまず並べてみよう。
どうだろうか。最初のお寺のやつが門であることに異論はないだろう。ただ最後のやつは地下鉄の入口である。これは門だろうか。
ふつうは門とは呼ばないと思うが、最終的にぼくにはこれが門に見えてきたのだ。どういうことなのか、改めて順番に見ていきたい。
門度の高いやつから行こう。お寺の門。山門。これを門だと思わない人はいないだろう。全体的に重厚で、しかも屋根があるので門らしさがMAXとなっている。
柱は屋根の真下のもの(親柱)の他に、それを支える柱(控え柱)が手前に2本、奥に2本ある。そこでこういうタイプを四脚門ともいうそうだ。
他に屋根のあるタイプはこんなふう。
柱がコンクリートで、赤い大理石が貼り付けてある。足元の沓巻(くつまき)という金具はもともとは木の柱の補強のためだと思うが、ここでは純粋に装飾目的に見える。
漆喰の壁のような和風の壁にアコーディオン門扉を配した門。
控え柱が奥に2本だけある、二脚門。
門柱の奥にアルミの鍵付きの門。三協アルミの「福野」という製品の横板戸タイプと思われる。
屋根の奥行きはいままで一番狭いが、それでも屋根があるというだけで格式がでる。
とくに屋根はないがそれが門であることに異論はないタイプというのもある。
本気の煉瓦積みの壁に開けられた門。扉は両開きタイプである。
この重量感と背の高さが門度を高めている。「門を通らない限り向こうに行けない感」は門らしさの一つだろう。
先ほどより背が低くなり、質量感は減った。ただこれも門で間違いないだろう。ちゃんと扉があるし、手前の橋によって、俗世界と神の世界を隔てる結界だということが伝わる。「あちらとこちらの境界感」も門らしさの一つだと感じる。
校門は文句なく門だろう。レール式の大型の門扉が門度を高めている。
このあたりから認識が揺らいでくる。
屋根も扉もなく、門柱のみがある。しかも右の脇からも入れてしまう。これを見た時の心の動きはこんなふうだ。
扉がないけど門か?
ー 扉は、門の機能の一部にすぎない。開きっぱなしの門だってある。
でも、脇から入れてもいいの?
ー 確かに。でもたたずまいが門だし、これは門だ。
これは入口じゃないの? 入口と門はどう違う?
ー うーん。
このあたりから「門とは何か」を考えるようになった。ここで一度、門ではないものを見てみたい。
これは門だろうか。庇があり、扉がある。しかしこれは門ではないと思う。建物から独立してないからだ。建物の入口は玄関だ。
つまり、門とは「入口として機能する、建物とは独立した構造物」ではないだろうか。辞書をひいてみよう。
「家の外囲いに設ける出入り口。出入り口に設けた建造物。かど。」とある(グーグル日本語辞書より)。なるほど、だいたい近いようだ。脇から入れるかどうかは門の要件にない。さっきのやつは門だ。
これは門だろうか。
定義をさっきのやつにするかぎり、門だろう。出入口に設けた独立した構造物だ。調べてみると、マンションの入口にあるこういうやつのことをエントランスゲートというようだ。しかし門だ。
初めて見る形だが、そうするとこれも門だろう。正確には、灰色のコの字のやつは門だ。ただ、その後ろに3つずつ立ってる茶色いのはなんだ? これは門か?
出入口となる構造の一部だから、門なのかな・・。だんだん怪しくなってくる。
ここから先は、門とはなにかを見つめる話になる。
商業施設の入口に、鉄のフレームが組んである。これは門か?
さっきのエントランスゲートは、それでも脇からは入れず、出入口を定義していた。このフレームは、あってもなくてもどっからでも入れる。
しかし、「出入口に設けた建造物」なのは間違いない。ということは門だろうか。
これは門だろうか。構造の一部に色が塗ってあるだけだから門ではないだろうか。
これは門だろうか?
これは建物の一部だ。独立してない。ということはさっきの定義で言えば玄関だろうか?
しかしこれは玄関というには似合わない。しっくりくる言葉は、ぼくにとっては門だ。扉があまりにも重厚だから。
ということは、建物との独立性は門の定義と関係ないのか? さっきのマンションのガラスの自動ドアは門じゃないのにこっちは門なのか。
公園の入口である。いままでこれを門だと思ったことはない。しかしこれまでの定義を確認する限り、これは門である。門ですよね・・?
するとこれも門だし、
これも門に違いない。まさにこの構造物が出入口を定義し、しかも駅の構造とは独立しているのだから。
つまり門は概念だ。門を探しているうちに、自分の思う門とはなにかということを自問する必要が出てくる。本当は門の種類を集めたかっただけなのだが、そのためにはどこまでが門かということを区切らなければいけない。
いままでは「三角コーン」のようなものを見てきたので、定義に悩む必要はなかった。これが観察するということかと改めて思った。
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