雨ざらしの過酷な環境で、倒れたり寄りかかったりしながらもひたむきにそこにある姿に曇天のスポットライトぐらいのささやかな光を当てる事ができたら幸甚である。がんばれ台車、ユーアー・ザ・ダンシングクイーン、ヤングアンドスイート・オンリーセブンティーン、また会おう。
なんとなく置いてあるのを見ようぜ
いろんな資産、持ち物の中でも結構過酷な状況で保管されていると思うのだ台車は。
道路交通法では「軽車両」に分類されるという。なんか手押しで気軽にゴロゴロやってた台車も「車両」とか言われるとこちらの背筋がシュッとなる。錆びたりしてご苦労さまです。
載せたままを見ようぜ
資材を載せたまま待機している台車もまた健気だ。
物の移動を省力化するという本来の目的より常設感の高いものあって、興奮を禁じ得ない。台車の中でも「台」要素が強めのやつだ。
台・オブ・ジ・イヤーというものがあるならば推挙したいのがこの台車上緑化作品である。
日中はこうして陽光を浴び、夜は奥にしまわれていくのだろうか。優雅に台車に揺られながら往来に手を振る、それは枝ぶりも良くなる事だろう。
よりかかってるのを見ようぜ
台車の様態でおそらく一番多く見られるのが折りたたまれ壁によりかかっている姿。重い荷物を素晴らしい安定感で運ぶ台車もこうなっては建物の壁や室外機などに体を預けないと倒れてしまう。台車としては不条理だし悔しいだろう。
奄美大島では猫とのツーショットが実現。
崖の下にもたれかかる瀕死の台車には腐食の悲哀というか無常観を感じてしんみりしてしまった。
子供の頃、夢中で見ていたロボットアニメの名作「マジンガーZ」の最終回、暗黒大将軍の派遣した強敵、戦闘獣によってマジンガーZはいろいろ溶かされたりして、いや悪なのはわかるけどそこまでしますかというくらいボコボコにされてしまう。
主人公、兜甲児(かぶとこうじ)の「どうしたんだ、超合金Zが、腐っていく......」という悲痛な、絶望的なセリフで泣きそうになった記憶がよみがえった。あの哀しみはまだ胸のどこかに存在していたのだ。それがわかっただけでもよかった。
背ラベルを見ようぜ
台車の見所はまだある。ハンドル部分の背中についてるラベルがいいとしかいえないぐらいいいのだ。
DIAMOND・CAR SERIESとは創業70年の歴史を持つ物流・運搬機器メーカー「カナツー」のブランドである。
折りたたんで置かれるので写真が逆さになりがちだが、こちらも創業70年以上をほこる上杉輸送機製作所「PRESTER」ブランドの「トライアルカー」シリーズである。
わりと見かける頻度が高い(私の感覚だが)「アイケー」シリーズのメーカー、石川製作所も戦後から物流機器を製造している古株だ。
やはり物流インフラが整備された戦後間も無くに創業し、高度経済成長と共に発展したメーカーが多いのだな、名前とかも剛健でよいねえなんて思ってたらまたすごい老舗に出くわした。
金象印がトレードマークの浅香工業の創業はなんと約350年前、WEBサイトによると1661年頃とある。「頃」というのがしびれる。
明治26年に日本で初めてショベル、スコップの優秀な製品の生産に成功、以降ショベル・スコップ事業から物流機器、さらには園芸用品などの生活用品まで事業の幅を広げている。
花屋や一般家庭で園芸用品と共に置かれているのをよく見かけたのはそういった商流の特性もあるのかもしれない。