身近なプロのすごみ
NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」といえば、その道をきわめた凄腕の人々の仕事ぶりが描かれる、ドキュメンタリー番組の横綱である。
これまでなんべん、プロのみなさんの高潔な魂に心揺さぶられただろう。
さまざまな業種のプロが登場する番組だが、NHKラーニングで、普段からお世話になっている職業にフォーカスされた動画を見つけた。
工事現場で通る車や人を安全に誘導する交通誘導警備員だ。この道25年の上野敏夫さんの回、あざやかな旗さばきや明敏な采配がはちゃめちゃにかっこいい。
上野さん回はこのほかにもより人柄にフォーカスしたて編集された動画も上がっている。しびれる。
運転技術もサービスも超一流である、バス運転手、大森透さんの回も胸おどった。
箱根の山道で、あり得ないくらいスムーズに路線バスを走らせる。乗客の方への温かい配慮もしみいりまくる。
運転時、ペダルを踏む足元をとらえた映像がありご本人による解説も聞けるのだけど、素人には何をどうしているのかさっぱり分からずいっそすがすがしかった。
仕事へのたぎる熱意を感じたのは清掃員の新津さんの動画だ。
警備員の上野さんや運転手の大森さんには仕事へ向き合う自然な姿勢を感じたが、いっぽう、羽田空港のカリスマ清掃員である新津春子さんは清掃に対する執念に近いこだわり、意識の高さを隠さない。
がむしゃらにとことんやる姿も、やっぱりかっこいい。
俺たちデイリーポータルZも、身近なプロに常々リスペクトを感じ取材をお願いしたきた。
どちらかというと職業よりも商品やサービスにフォーカスを当てることが多いが、その現場にいるのはやっぱり人だ。
コンビニや郵便局のカウンターの向こうに、置いてある防犯カラーボールってあるでしょう。有事の際に逃げる犯人にぶつける、あれですな。
開発した天野隆夫さんへのインタビューでは完成までのご苦労や、防犯カラーボールによって未然に防いだ犯罪についてあれこれと聞かせていただいた。
これまでなかったものをいちから作るわけで、工夫や技術と並走するパッションが、そこにはやはりある。
まちなかのポスターなどあらゆる場所でみかけるフォント、「HG創英角ポップ体」についてのインタビューでは、デザイナーの水本恵子さんがおひとりで、手書きでなんと約7000文字をデザインされたという驚くべきお話を聞かせてもらった。
身近だからこそ、すごみが身にしみる。
プロのバイヤーみたいに展示会に行きたい
物に携わる人に着目する、という意味では「世界はほしいモノにあふれてる」も見逃せない。
さまざまなジャンルのモノを求める様子を伝える番組で、メガネの回では腕利きのプロのバイヤーが「そんなにメガネばっかみたら顔、ゲシュタルト崩壊しない?」と思うくらいメガネを見て選びまくって活躍しておりかっこよかった。
途中、舞台はパリから、メガネの里として世界的に知られるジュラ地方へ移動する。
最後に長老みたいな職人さんが出てきて、メガネのツルを火であぶって手でねじって調整するのは、プロフェッショナルも休み休みにしてよと思ってしまうほどの技術だ。
じつは展示会取材はデイリーポータルZも得意とするジャンルなのだった。
プロのバイヤー気分でメガネの展示会に行くドンピシャの記事も存在する。
買い付け目線ではなく、ユーザー目線でのレポートだけど、やっぱりここにもメガネそのものと、そこに携わるプロへのリスペクトがある。
すご技のプロに習ってみんなで切る「タコの足」
プロフェッショナルな技の拝見に、実はおすすめなのが「趣味どきっ!」であることもお伝えしたい。
「趣味どきっ!」はいろいろなジャンルの趣味について、その道のプロを講師として招く教養番組。
切り絵作家の切り剣Masayo先生に全8回で切り絵を習う動画は、第7回のテーマが「丸」だという。
それってずいぶん簡単なテーマだなと、うっかり思ってしまったが、切り絵の世界で言う「丸」はあまりにも奥深く、当然だが先生が異常にうまいのがたまらなかった。
上の画像、右上の「タコの足」がこの回の課題だ。
みんなでがんばって「タコの足」を切る。そんなシチュエーションないだろうふつう。そこも良い。
なお、最後に課題をばちばちにハイグレード化した先生のすごいタコの作品が出てくるから、絶対に観たほうがいいです。
素人集団を自負する我々だけに、デイリーポータルZにもプロに習う記事はたくさんある。
ファッションにまつわる、ちょっと普通は聞けないほど脇の甘い質問をプロにぶつける企画では、素人の素人力とプロのプロ力がぶつかり合い、結果多くの人の疑問を氷解させると話題であった。
技術を習うのも、知識をつけるのも、プロにお願いすると、想像のその先を教えてくれる。
身近なプロ、展示会にいるプロ、先生としてのプロ……。NHKラーニングもデイリーポータルZも、興味の目線の先にいつも「プロの仕事」がある。
アプローチは違えど、その技に驚いて、感心して、尊敬し続けるんだろうな。