特集 2019年8月29日

メキシコのひらべったすぎるアメ、その名も「平手打ち」

先日、メキシコの知人から国際便が送られてきた。その際、メインの荷物とは別に、おまけでメキシコのお菓子を詰めてくれたという。

箱が届いて、さっそく開けてみると……見たことのない形状のアメが入っていた。

これ、どうやって食べるんだ……。
 

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。(動画インタビュー)

前の記事:ヘボコン2019レポート~チンチラのかわいさを啓蒙されるロボットバトルの一夜

> 個人サイト nomoonwalk

見たことのないアメ

7月にヘボコン2019というイベントをやって、メキシコの知人がそれに出場したいというので、ロボットを送ってもらったのだ。(余談だがイベントレポートがこちらにあるのでぜひ読んで欲しい)

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メキシコから来たロボット「ナワル」

で、それと一緒にお菓子を送ってくれたというわけである。

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だいたい全部赤い

袋に入ったスイカ味のキャンディに、スプーンと一体となったお菓子、そして何か粉末状のもの、朱肉みたいなやつ……。全体的に異国情緒の色濃いラインナップだが、そのなかでひときわ異彩を放つ一群がある。

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なんだこれは。

不二家のポップキャンディをダンプカーで轢いたような、薄っぺらい棒付きのキャンディ。

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薄すぎて透けているうえ、なんならちょっと溶けて、棒からアメが分離している
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編集部の古賀、安藤。この怪訝な反応!

同僚たちが異文化に理解がないみたいに書いてしまったが、かくいう僕も同じ反応である。僕の知っている棒つきキャンディからその姿がかけ離れすぎていて、理解が及ばないのだ。これはどういうことなんだ。

自己流で食べてみる

戸惑っていても始まらないので、手探りで食べてみることにした。

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開けてみる
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アメは取り出せず、アメが付着したビニール2枚と、棒だけが残った
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編集部 橋田の表情。「????」以外のセリフをつけようがない

海外に行くと食べ方の分からない食べ物にたまに遭遇する。しかしわからないといっても、たいていは「皮をむくのかどうか」とか、「焼くのか生のままか」「何をかけたらいいのか」みたいなわからなさだろう。

ところがこのアメは、パッケージを開けたとたんに消滅してしまう。アメとしてこの世に存在させることすら難しいのだ。

こんな哲学的なアメ、手に負えない!

現地の人にきいてみる

いちど、根本的なところに立ち返ってみたい。いくらなんでもそんな謎すぎる食べ物あるだろうか。

一つの仮説を立てた。これはもともとは普通の棒つきアメだったのではないか。メキシコから遠路日本までやってくるあいだに高温にさらされてしまい、溶けてこんなことになってしまったのではないか。

となると元の姿を知る人間、つまり荷物を送ってくれたメキシコ人にきくのが一番いいだろう。

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きいてみた

相手はメキシコシティ在住。名前はLuisという。

――いっこ聞いていい?荷物に入ってたでかいアメ、溶けちゃってたんだけど、もともとどういう形だったの?

Lius「あのままだよ!(笑) cachetadaっていうアメ。『平手打ち』っていう意味」

――え、まじ?

Lius「まじ」

なんと、あれが正しい姿であった。海を渡ればアメも変わる。日本とメキシコを隔てる太平洋、その広さに思いをはせざるを得ない瞬間である。

つづいてLuisは、1本の動画のURLを送ってくれた。タイトルは、「Como comerse una "Cachetada" (Tutorial)」。翻訳サービスにかけると「『スラップ』の食べ方(チュートリアル)」と出た。これで食べ方がわかるぞ!

 

 動画を見ていただくとよくわかるが、キャプチャでもざっくり紹介しよう。

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まず片側のビニールをはがす
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そこでおもむろに2つに折る
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折った部分までビニールをはがして…
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さらに折る
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これを繰り返して、アメを小さく、分厚くしていく
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最後にビニールからはがして、棒つきキャンディの完成!

体の芯からの「なるほどー」が出た。

薄くてデカいものは、折れば厚くて小さいものになるのだ。洗濯物をたたむとき、請求書を郵送するとき、われわれはこの理論を実践している。しかしながら、「アメを折る」という発想はなかった!

やってみる

さて読者のみなさん、さっきの動画を見て、一度やってみたくなっていないだろうか。
なにしろすごく楽しそうなのだ。だって、アメなんて折ったことがないから。

人生で初の体験である。
さっそく、編集部のメンバーでやってみることにした。

 

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まず橋田さんから。とりあえず半分に折るところまでいった。次は片側のビニールをはがす。

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はがせてないー!
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(理想はこう)

これ、予想以上に難しい。なにしろ動画と違い、アメが溶けているのだ。ビニールが動画みたいにきれいにスパッとはがれてくれない。

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続いて古賀さん

結論から言ってしまうと、古賀さん、なんと成功した。その様子は動画で見てほしい。

 

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栄光の初成功

古賀さんによると、コツはこうだ。

  • 折ったアメ同士を、ビニールをはがす前にしっかりくっつけておくこと
  • ビニールをはがすときは躊躇せず、ズバッと一気にはがすこと。速度が命。

まさかアメを食べるのにコツやらスピードやらが要求されるとは思わなかった。せっかちで知られる古賀、有利な性分であったのだ。

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続いて、藤原さんも卒なく完成させた。こういうところで器用さを発揮する男である

同僚が続々と成功させていく。

粘度との戦い

次はいよいよ、僕の番である。

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いきます
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ここまで順調に完成。あと最後のビニールを外すだけ
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あっ、ビニールにくっついた
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あわわわわわ
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でろーん

俺がもらったアメなのに!悔しい!

棒つきアメの形に整形するまではうまくいったのに、最後にビニールからはがすところで、アメがビニールに引っ張られてしまった。
はがすとき、とにかく少しでもためらいを見せるとアメが変形してくっついてくるので、その余地も与えないくらいバッとビニールをはがさねばならない。

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続いて安藤さんも失敗。この時点でちょっとくっつき気味だが
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こうなっちゃうともう、いかようにもしがたい

個人の技量にくわえ、アメ側のコンディション(溶け具合や、溶けたときに棒がはがれていないか)も関わってくるため、うまく棒付きキャンディを仕上げるのは至難の業である。

ちなみにLuisによると、このアメを折る作業は、メキシコ人でもよく失敗するらしい。

失敗してビニールについたアメを直接なめる
→アメがほおにつく
→ほおが叩かれたように赤くなる

ということから、このアメは cachetada(平手打ち)と呼ばれているそうだ。

リベンジ

悔しいので再挑戦したところ、うまくできた!
記事的にはもう十分な気がするが、うれしいので動画を貼る。ぜひじっくり動画で見ていただきたい。(自慢したいだけ)

 

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見て、これ

足が沈む前に次の足を出せば、水の上を歩くことができる。有名な机上の空論だが、このアメをうまく折るための理屈「アメがくっついてくるスピードより速くビニールを引きはがす」も同じく机上の空論に思える。

cachetadaを成功させるには、不可能を可能にする気概が必要なのだ。

味も意外

おもしろいので食べ方ばかり紹介してきたが、このアメ、実は味も変である。

アメといえば甘いものだ。読者のみなさんはきっとそういう認識だろう。僕もそうであった。このアメを食べるまでは。

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初めて食べた人の表情1
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初めて食べた人の表情2
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初めて食べた人の表情3

思ってた味と全然違うのだ。すっぱくて、しょっぱくて、日本でいえば練り梅がかなり近い味だ。かつ、ちょっとジャリッとしている。見た目から想像していた「ポップキャンディをつぶしたやつ」から、相当な距離がある、さすが地球の裏側からやってきたアメである。

こちらもLuisに聴いてみたところ、タマリンドというフルーツの味らしい。何となく聞いたことはあるが、全くなじみのない果物だ。とても甘酸っぱいフルーツらしい。しょっぱいのは塩が入っているのだろう。もしかしたらジャリっとした食感は塩のせいなのかも。

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そういうものだとわかってて食べれば、わりといける

他のお菓子も

アメに塩って、そんなの入れる?って思うだろう。しかし他のお菓子を食べてみると、それが突飛な発想ではないことがわかる。

たくさん送ってくれたお菓子はどれもだいたいタマリンドの味で、さらに塩とチリ(唐辛子)が混ざっており、お菓子なのにとにかく辛い。

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これはタマリンドとチリを練り固めたようなお菓子。
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涙が出る辛さ…!

ほかにもスイカのキャンディは、棒付きキャンディとパウダーが入っていて、パウダーをつけながらなめる。ただそのパウダーがチリなのだ。

それとは別にタマリンドとチリの粉末のしょっぱ辛い小袋もあり、それはそのままなめたり、フルーツにかけたりするらしい。

あらゆるところで我々の生活にはない食文化である。


お菓子を送りあうと楽しい

ヘボコンを始めてからちょくちょく海外に荷物を送ったり送ってもらったりする機会があって、そのたびにおまけにお菓子を詰める/詰めてもらうようにしている。

日本から送るときはだいたい皮つきぶどうグミのコロロを入れる。皮の食感が面白いかなと思って。あとはフルーツや動物の形になったアメ(飴細工というか、金太郎あめ的なやつ?わかります?)とか、金平糖もかわいいのでよく入れている。
ちょっとした異文化交流ができて、とても楽しい。

また珍しいものが手に入ったら、記事でご紹介します。

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ペロ……これはチリ!!
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