お味のほどは
この日集まっていた人々のマリアージュフレールの認知率は0。ブランドイメージのフィルターをとっぱらった忌憚のない意見が聴けそうだ。
まずは、マルコポーロのジャムを食パンに乗せて食べてもらう。
マルコポーロは、マリアージュフレールの代表銘柄。華やかな味わいが特徴だ。
はたして、そのジャムのお味は?
「あ、おいしいですね。」
「おいしいおいしい!」
おいしいらしい。よかった。
「でも紅茶っぽさは意外と薄いかも」
ーでは何の味が?
「結構…レモン?はちみつ?みたいな…」
「花の味もする…?」
「美味しい。美味しいですよ」
どうやら、表現しづらい味らしい。
わたしも食べてみたが、たしかに紅茶以外の風味を強く感じる。
食べ合わせの問題だろうか。今度はスコーンに塗ってみた。
「あ、このスコーン美味しい。」
「バターの風味がちゃんとしてて美味しいね。」
「ジャムよりもスコーンの存在感が強い。」
「うん。スコーン美味しいですね。」
『ジャムに釣り合うように…』と、美味しいパン屋で買ってきたスコーンだったのだが…。どうやら、良いもの同士の相性がマッチするとは限らないようだ。
あれに似ている
気を取り直して、次はダージリンのジャム。
お味はいかがでしょう?
「こっちの方が紅茶ぽい味がする…。」
なるほど。
たしかに、マルコポーロがフレーバーティーであるのに対し、ダージリンはノンフレーバーティーだ。
香りが控え目な分、紅茶の風味をしっかりと感じられたのかもしれない。
「こっちも美味しいですね。」「これは貰ったらうれしいやつだ。」「いいものを知ったなー。」と、皆が口々にコメントする中、べつやくさんが一言つぶやいた。
「うん、なんか、これ、あれだね。」
「純露みたいだね。」
ー純露?
「うん。純露みたいな味がする。」
ー純露みたいな味。
「純露の紅茶味の方のジャム、みたいな。」
わたしが内心『純露…』と思っていると、次々に『たしかに』と共感の声が上がった。
「たしかに、純露の風味に近いような…」
「ちょっと喉に良さそうな感じもしますし」
「見た目は煮凝りですけどね」
「あ~、言われてみれば…純露か〜」
『おいしいけど、いまいち感想を表現しづらい』という空気が、『純露(紅茶味)』という共通認識のある味に例えることによって切り裂かれた。
やや盛り上がってくれたようでよかった。
ただ、マリアージュフレールのジャムが純露に例えられたのは、この日が歴史上初だとは思う。
ーこのジャムひとつ2600円くらいなんですけど、その価値は感じますか?
「うん。2600円、納得ですよ。」
「喉を通る甘味が優しいんだよね。これは高級品の味わいだと思う。」
「口に残る風味も上品。安価なジャムみたいなトゲがないって言うか…。」
「パッケージも素敵だし、贈答品にもピッタリ。」
「なんか、全体的に『大切なもの』って感じがする。」
ーで、味は?
「純露、かもですね。」
『見た目は煮凝り、味は純露。』
それが、何の先入観もなくマリアージュフレールのジャムを食べた人間の率直な感想であった。