特集 2024年6月24日

自ら公道を行進する牛を見にいく

岩田さんの山岳放牧のすごさ

牛たちが過ごす放牧地は東京ドーム2個分ほどの広さがある。この放牧地のなにがすごいって、牧場主であり獣医師でもある岩田篤徳さんが15年以上かけて耕作放棄地と山林を切り拓いたものなのだ。

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岩田さんと筆者。なんだこの良すぎる写真は
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整備してある手前の部分と奥の林では景色がまったく違っている(というイメージで見るとすごいでしょう)

ここで、まったく畜産のことを知らない僕でもわかる岩田さんの山岳放牧のすごさをできる範囲で伝えたい。

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まず過疎地域の耕作放棄地を有効活用しているというのが一点。野山は放っておくと手がつけられなくなるくらい荒れるので、整備は地域や国の将来ために役立っているのだ。

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牛が過ごす広場

次に、エサ代が大幅にカットできるということ。

放牧地は木々を切り倒して地面に光が当たるように整備されているので、ここでは牧草がよく育つ。牛たちは好きな量の草を好きなだけ食べられるというわけだ。

不安定な情勢で輸入飼料が高騰している昨今にあって、この点は非常に大きい。まさに持続可能な経営である。

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心地よさそうに見える。牛は自由に過ごしていて、アニマルウェルフェアの観点からも隙なしだ
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岩田さんによると「昨日食べたところの草は今日食べない」とのこと。そのおかげで草がバランスよく伸びる。
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次に労力がカットできるという点。

先述のとおり牛は牛舎を出て放牧地に向かい勝手に牧草を食べる仕組みができているので、飼料を与える人件費が省けるのだ。それに加えて日中は放牧地で糞尿を済ませてくるので後始末の手間もいらない。

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ファンサで近づいてきてくれた

このように省力・低コストを実現しているうえに牛の体調もよく、牛舎で一生を過ごす牛よりも安産であることが多いらしい。子牛も健康な状態で生まれてくるそうだ。

そして、すべての環境が整った現状を見て「すごいですね~」とは気軽に言えるけれども、世間で一般的ではなかった放牧方法を考え出し、行く先を信じ抜いて長年事業に取り組んだという事実は胸を打つ。

岩田さんが取り組みをはじめた当初は変人扱いもあったそうだが、いまでは全国表彰を受けて秋篠宮皇嗣殿下から「放牧はどうですか」と声をかけられるまでになったのだ。ああ、人間の信念のもつ力よ!

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牛たちは夕方になると牛舎に帰ってきて、岩田さんが豆腐屋から無料でもらってきたオカラを食べる。どこまでも合理的な経営で涙が出そうになる(合理性が大好物だから)

君よ!牛で変われ!

道を歩く牛の写真を撮ってすぐに帰るつもりだったが、放牧地の居心地がよすぎて気づいたら長い間ゆっくりしてしまっていた。

放牧されている牛たちは人間の過剰な管理を受けずとも健全な生活を営んでいる。それが可能であるということ。じゃあ、あらゆることを法でギチギチに縛ってようやく成り立つ人間の社会ってなんなんだ。

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壮大な景色
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ずっといたくなるな

僕はなにをせかせか焦って生きてきたんだろうか。牛と過ごして憑き物が落ちたかのような心境になった。

そう、深呼吸は1回だけしても意味がなくて、2回目3回目と続けていくうちに身体のこわばりがほぐれて心が落ち着く!!急にわかった!!!

部屋は片付けないと片付かない!一事が万事がそうなのだ!人生、全てがそれに尽きる!!

と、脳が高速回転しはじめてさまざまな気づきを得た。

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唐突に機械があらわれてマインクラフトみたいだった
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並ぶ切り株が整備の苦労を物語る

牛が逃げ出すことはないんですかと尋ねてみたら「餌が潤沢にあって環境が良いから逃げる必要がない」とのことだった。そりゃそうだ。

この放牧地は岩田さんの理想を形にしたもので、目には見えないエネルギーが満ち溢れているのを感じた。牛の見学をしたというよりかは、物のあり方を変えようとする強壮な人間の持つ思想哲学に直に触れたと表現するほうが近いかもしれない。

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こんなに穏やかな牛の顔を見たことはない

 

ささやかなおまけ

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