特集 2019年8月14日

まむし坂にマムシはいるのか 〜マムシ地名めぐり〜

地味がはじける記事です。

ハブよりも強い毒を持つ毒ヘビ「マムシ」

東京近郊にもこのマムシの名を冠した地名が存在する。昔の人がマムシマムシ言ってたぐらいだから空中をwifiが飛びまくる現代においてもまだそこにマムシはいるんじゃないだろうか。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

前の記事:あのマットができるまで

> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

蛇地名よりピンポイントなマムシ地名
 

「蛇崩」とか「蛇窪」とか蛇がつく地名は、必ずしもそこに蛇がわんさかいたとかいうのではなくて、蛇のように蛇行している川があったり、そんな川によって過去に水害が起こったりと地形に由来する場合が多い。

 

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東京都内では目黒の蛇崩川が有名。現在では暗渠化して緑道になっている
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蛇いないかなと探しに行ったが蛇っぽい送水口しか見つからなかった。

しかし蛇は蛇でもよりピンポイントに「マムシ」を名乗る地名も存在する。
マムシっぽい地形っていうのもなんだかなと思って調べてみると地形とかではなく「昔マムシがいっぱいいてさ」みたいな話がメインだった。
 

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これがマムシ。毒の強さでいったらハブを上回る恐ろしい蛇だがちょっかいを出さなければ襲ってくる事はまずない。

東京近郊では府中、世田谷、横浜、松田の5ヶ所が見つかった(私調べ)
 

 東京都に3カ所、神奈川県に2ヶ所

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それぞれの由来はこんな感じ、味わいぶかいエクセルの表でどうぞ

アオダイショウ、シマヘビ、ヒバカリ、ヤマカガシやジムグリなど他の日本在来ヘビをモチーフにした地名は聞かないが、マムシはこのように土地の記憶に刻まれている。

やはり恐ろしい毒蛇への注意喚起の意味合いが強かったのだろう。マムシは水辺の湿地帯を好むので田んぼや畑で農作業に従事していた人たちにとってかなり脅威だったはずだ。

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マムシもステーキにして食ってしまうのだから一番恐ろしいのは人類だ。(うまかった)

そんなマムシ地帯も一部をのぞいて今では駅近で街中、すっかり好立地になっているが今でもマムシはいるのだろうか。1匹くらい草庵にこもって随筆でも書いて暮らしていたりするんじゃないのか。
どうだろう、そうだ、いいこと思いついた。行って探してみよう。
 

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マムシめぐり、はじまるよー(子マムシ)


 

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駅近でも雰囲気のある府中「まむし坂」

京王線武蔵野台駅の北口を出るとすぐ目の前にはブルーベリー畑が広がり、マムシの1匹くらいいるんじゃないか、というほのかな期待を抱かせる緑地がつづく。

このあたりをめざします。

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ブルーベリー、ベリーナイス
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めっちゃ斜めの写真ですいませんが好きなタッチのスポーツ施設。
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畑や緑地に飲み込まれそうな小径が続く。マムシとはいかなくてもアオダイショウぐらいなら出てこないかな。
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ひたすら西へ歩く。かなりうっそうとしてきた。
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赤を使ったばっかりに……。悲涙にくれるドッグ。

駅の西側を南北に走る西武多摩川線にぶつかると、踏切の横を線路沿いに細くて短い坂が走っている。ここがうわさのまむし坂だ。
 

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坂の上から。右手に西武多摩川線の線路、左手には小さな藪を挟んで民家がある。
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モノリスのような石版が。
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「この坂は、その名のとおり毒蛇のまむしに由来しているといわれます。こわい名前の付いている坂ですが、一昔前のこのあたりは水田地帯であったために湿気の多く爬虫類などが多く棲息していたことが想像できます。」
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坂の途中には試されているような警告が。

道幅も狭く、人通りも少ない100m程の短い坂、左右に藪はあって雰囲気はいいけれどマムシは出てきそうもない。いや、その固定観念がいかんのだ。と生命体を探す。
 

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坂下から坂上を見る。あっという間に下ってしまった。もちろんマムシはいない。
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柵を歩いていたコメツキムシ、あとはクモがいた。
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さらに小径を進むと農地と住宅地が広がる。

短い坂周辺を何度もうろうろして不法投棄を狙っている不審者に疑われたりしないかとびくびくしながらマムシを探したが見つからなかった。マムシ探してるというのも十分不審だが。

しかしここで重大な事実を発表しなければならない。マムシは夜行性なので、特に暑い夏は夜に活発に活動するのだ。
 

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で、夜に来ました。

夜はいっそう静かなのかと思いきや駅前では結構な人が立ち止まりスマホをスワイプしていた。どうやらポケモンの出現地(詳しくなくてすいません)らしい。偶然ですねみなさん、私も今日は心にモンスターボールを抱いてここにやって来ました、幸運を祈ります。
 

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俺のポケモンはスマホにはいないのだ。
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夜の踏切いいなあ。左手の小径がまむし坂。
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マムシいないしなんか怖い。

「俺のポケモンはスマホにはいないのだ」
これは少し言葉が足りなかった。現実にもいなかったのだ。
 

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壁にはっついたヤモリは見つけた。

 

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国分寺崖線とマムシ

次のマムシスポットはデイリーポータルZ編集部のお膝元、東急田園都市線二子玉川駅を挟んで東西に展開している。

 

どちらも世田谷区のほこる高低差、国分寺崖線のあたりにある。

まずは国道246号を渡って北西に進み、瀬田のまむし沢に向かう。
 

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丸子川に沿って進む。マルコヴィッチの川

 

治太夫大橋を渡り、玉川病院の下まで来ると木々が鬱蒼と生い茂る坂道がありなにやら石柱が建っている。
 

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左手の草むらから伸びてるやつである。マムシのしるしではないか。
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まむし沢!雰囲気ばつぐんだなしかし。

明治後期から昭和初期にかけて名うての政治家や実業家の別荘や邸宅が建てられた国分寺崖線が織りなす穏やかな自然のふもとで周囲に妖しげなマムシ感を放っていてさすがである。
 

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この道の裏手、玉川病院につながる環境空地もかなり木深くていい雰囲気。

この石柱を運営していた「玉川の郷土を知る会(2006年に解散)」編纂の「世田谷ふるさとめぐり てくたくぶっく」によれば、江戸時代、将軍家の鷹の餌に献上する虫の螻蛄(けら)を取るところだったらしく、ここにマムシが多く住んでいてやっかいだったことからこの名がついたといわれているらしい。
 

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ちなみにこれが螻蛄(けら)。コオロギの仲間で土を掘るために発達した前足が特徴なんだけどそれがわかる写真を1枚も撮っていなかったので想像しよう!

今でも当時の記憶をつなぐマムシ様の子孫がいるのではないかと周囲を探索する。
 

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こんなところに住めるマムシがうらやましい。

むせかえるような熱帯夜、勾配のきつくなってきた坂を汗だらだらで上る私を立派な外車が追い越してゆく。ふと幼少の頃を思い出した。わが家は父がバブルのNTT株で高額配当をゲットしてギャランシグマ1800スーパーツーリングを買うまではボロッボロのスターレットに乗っていて、このくらいの坂を登る時はエンストするからエアコンを切れと言われていた。

猛暑の熱気に乗せてノスタルジーに作用する毒をはなつマムシが、このあたりには確かに存在している。
 

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とかいって結局いませんでした。

ゆったりと多摩美まで上るまむし坂

二子玉川駅方面にとってかえして上野毛方面へと向かう。

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つかれた、泊まりたい。

ひたすら東進すると多摩美術大学のキャンパスに向かってゆるやかに蛇行しながら上る駒沢通りにぶつかる。この通りが通称「まむし坂」である。
 

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この先にマムシはいるのか……
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暗渠化されたと思はしき歩道を行く。

しばらく歩くと路上になにやら書き込まれていた。
 

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「ミズミチ」……水の道ということか?

道路下の水路の目印かなにかと思われるがマムシに狂った私の目をごまかすことはできない。
ほら、ここには「ミズチ(蛟)」というワードが隠されているではないか。ミズチとは伝説や神話などで恐れられた水を司る怪物や精霊のことで蛇や竜に似た姿で伝承されている。

これはマムシの存在を示唆したダヴィンチ・コードに違いない。よく探そう。
 

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とかいって結局いませんでした。
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蛇行した坂を登りきった地点にあるモニュメントがかっこいい。
地図にこの坂は「まむし坂」と書かれている。

 

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横浜の蝮谷

ネクストマムシは横浜、しかも大学のキャンパス内である。

蝮谷道場...強そう。

 東横線日吉駅を出て、目の前にそびえる立派なイチョウ並木に吸い込まれるように歩くとそこはもう慶應義塾大学の広大なキャンパスの敷地内、仰々しい門などがあるわけではなく開放的な感じで学生以外にも、帰路を急ぐサラリーマンなどがいそいそと通行していたりする。
 

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取材はNGだったので以前撮影した日吉駅のツバメで勘弁してください。

高低差も豊かで、裏手のけっこうきつい階段をくだるとその低地部分の一帯が「蝮(まむし)谷」と呼ばれており、「蝮谷テニスコート」とか「蝮谷空手道場」など尋常でない秘技が伝承されていそうな体育系の施設や豊かな森林が存在する。夜に歩道を散策するとカブトムシやカミキリムシにヤモリが徘徊していた。バックハンドボレーや正拳突きを鍛錬しているマムシの姿を見つけるも時間の問題ではないか。
 

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とかいって結局いませんでした。

虫沢の虫はマムシ

小田急線新松田駅を降りて「マニラ食堂」の迫力におののいた後、バスに揺られて山深い道を約20分ほど行くと、里山の雰囲気豊かな虫沢という集落に着く。
 

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松田とマニラ友好都市なのかな。残念ながら今は営業していない模様。

 

マニラ食堂よりも地図が後になってしまったがここです。

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道沿いにキリンがいて突然異国情緒。


松田町のWEBサイトによると、「虫沢」の虫はマムシの事で、昔この地域にはマムシが多く生息しており、水のきれいなところに住むマムシが好む「水のきれいな住みやすいところ」という意味があるらしい。 
 

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これはよき所じゃ。

中津川の支流、虫沢川の流域周辺に田畑が広がり、上流方面に歩くと岸辺にマムシを配置したくなるような絵になる沢もあり、モチベーションが高まる。
 

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これはいるでしょうマムシ。
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こんなところにダイソンの扇風機が!
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ハイカーに親切な警告看板も設置されている。

虫沢には明治末期まで山北町などから山を越えて嫁入りするお嫁さんが通ったといわれる「花じょろ道」という古道があり、近年有志によってハイキングコースとして整備されている。
 

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高松山という山を越えて再び虫沢集落へ戻るコース。
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ヤマビルのゆるキャラ!なにその顔の傷!

かわいいヤマビルの看板につられてなんの準備も無しについ花じょろ道に入ると、れっきとした登山だった。
 

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当時の花嫁難儀だな……。
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昭和30年ごろまで使われていたという炭焼き窯跡
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弁当も持たず5時間もトレッキングしてしまった。高松山の頂上から虫沢集落へ戻る途中で見たいい茶畑

 猛暑の中、花じょろ道を花嫁の気持ちになって一山登って降りてもマムシは見つからなかった。疲労困憊で下を向いて歩いていると灼熱の路上でマムシの遺体が干からびていた。

 

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いちおう、虫沢にマムシはいる!

他にもアオダイショウやハシブトガラスの死体を見つけた。やっぱり暑いといろいろ死ぬんだやばいなと思った。スマホにはビッグカメラのアプリから誕生日おめでとうというメッセージが届いていた。


生きたマムシは見つからなかったがマムシと名のつく所は今でもそれなりの雰囲気を醸し出し、豊かな水をたたえていた沢や湿地の記憶を現在につないでいることが実感できた。それで十分じゃないですか、私たちはマムシの這った跡を懸命に生きているのだ。
 

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都内でヘビといえば、都営三田線蓮根駅近く、蓮根川緑道のヘビ遊具がミヒャエル・エンデの本みたいですごいですよという蛇足で締めます。
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