蚕は楽しい
蚕は何度か育てたことはあった。あんな小さな虫が素晴らしき糸を作り出してくれる。もっと練習してもっといい糸になるようにしたい。せっかく育てたのでいい糸にしたいのだ。ただあやとりには毛糸がいい。ちなみに大人用の着物を作ろうと思うと1万個ほどの繭が必要だ。それを育てるのは一人では無理だな。

絹というものがある。シルクだ。肌触りが良く、ツルツルしている。絹はキメが細かく美しい布を織ることができる。この布を作るのが絹糸だ。縦の糸は絹糸、横の糸は絹糸、織りなす布は肌触りがいいのだ。
この絹糸を作るのが「蚕」。蚕が繭を作り、その繭から糸を取り、布となるのだ。ということで、蚕を育てて、糸を取り、最高のあやとりをしたいと思う。高級なあやとりができるのではないだろうか。
一本の糸の両端を結び輪にして、指でそれを引っ掛けたりして、別の何かを作り出す。それは橋だったり、東京タワーだったり、ホウキだったりする。複数人ですることもできるし、一人ですることもできる。それがあやとりだ。
あやとりは、毛糸で行う場合が多い。毛糸は羊毛やアクリルなどで作られる。非常に手触りがよい。ただ、である。もっとあやとりの手触りを求めたい。そこで行き着いたのが「絹」だった。絹ってめちゃくちゃツルツルやん。それであやとりをしたいのだ。
絹糸であやとりをすると決めた。そこで最初にしたことは、蚕を手に入れることだ。偶然知り合いが蚕を育てていたのでもらった。白く、大人しい生き物だ。えさやりも非常に楽だ。なぜなら、彼らは桑の葉しか食べないから。
蚕は品種や環境によって異なるが、だいたい1カ月ほどで繭となる。その間はずっと桑の葉を与えなければならない。小さいうちはいいけれど、大きくなるとめちゃくちゃ食べる。数が多いとその食べる音は雨音に聞こえるほどだ。
蚕が小さい頃は取ってきた桑を小さく刻む。やがて大きくなるとそのまま桑の葉を与える。蚕は逃げ出すことがないので蓋をする必要はない。人間が作り出した虫なのだ。野生にクワコという虫がいるが、それに改良を加え生まれた。
蚕は5回ほど脱皮をする。1回目の脱皮までを、1齢といい、2回目の脱皮までを2齢といい、5齢になりさらに熟蚕という状態になると糸を吐く。顔を持ち上げ左右に振り繭を作る。そして、最後の糞と最初で最後のおしっこをする。その様子をご覧いただこう。
12時間くらいかけて綺麗な繭になった。繭になると中で蛹となり、10日から15日ほどで成虫となり繭を破り出てくる。しかし、今回は絹糸を作りたいので、この繭を冷凍庫に入れる。繭を破られないようにここで殺すのだ。
今回は2つの方法で糸を作ろうと思う。まずは糸を繰る。富岡製糸場などで行われていたのはこの方法だ。もっとも富岡製糸場はめちゃくちゃ規模が大きかったけど、その簡易版。方法としては簡単だ。
蚕にも種類があり、白い糸のものや、黄色い糸のもの、少し小ぶりなものなどがある。今回は私が育てたもの以外にも、詳しい方にもらったものでも糸を作り、それぞれ糸がどう違うのか、あやとりで判断できればと思う。
水の状態から鍋に繭を入れて沸騰させ1分。水を入れてお風呂くらいの温度に下げて、もう一度沸騰させ1分。火を止めてお風呂よりちょい熱いくらいまで自然に下がるまで待つ。そして、割り箸をお鍋の中でぐるぐるしていると糸口が引き出せる。
一個ずつ巻き取るのではなく、幾つかの繭の糸をまとめて巻き取るのがポイント。本当は糸車的なものを使うのだけれど、持っていないので、なぜかサイリウムで巻き取っている。繭の糸は繋がっている。そのために蚕に繭を破られると糸にならないのだ。それを防ぐために冷凍庫に入れたわけだ。
糸を巻き取るのが難しい。途中で糸がなくなり、糸口がわからなくなるのだ。何度となく、糸口を探すことになった。迷宮入りしそうな事件の糸口を探す感じだ。慣れればできるのだろうけれど、初めてなので難しかった。
3種類の繭から3種類のあやとりを作った。どれもゴワゴワしている。これはセリシンというタンパク質のせいだと思われる。もうね、ゴワゴワ。おそらく再膠着したと思われる。でも、初心者の私にできるのはこれが精一杯だった。難しいね。
硬い糸という感じだ。勢い良く手の幅を広げると糸が食い込み痛い。シルクはなんだか柔らかい気がしていたけれど、思い描いたような絹糸ではなかった。絹糸にするにはこの後さらに処理が必要らしい。あと短いのは糸を巻き取るのが下手だから。本当に難しい。
絹糸でのあやとりは、3種類ともゴワゴワで非常に糸が硬く満足のいくものではなかった。ただ強い糸のようなのであやとりでなければ使い道はある。その昔、動物の角や骨で釣り針を作っていた時代は、それらをおそらくこのような糸に結び釣りをしていたのではないだろうか。
糸を作るもう一つは繭から綿を作ってそれをよって糸にする方法だ。羊毛からの毛糸の作り方に近いのではないだろうか。繭からも綿ができるのだ。そのためにまず、繭を切って中の蛹を取り出し、重曹の入った水につける。
重曹を入れて数時間放置して、その後に沸騰させて1分。水を入れてお風呂くらいの温度にして、また沸騰させて30分ほど煮て、火を止めて今度は自然にお風呂の温度くらいまで下がるのを待つ。そして、重曹を洗い流せば綿になっている。
3種類の繭が混ざり合ってしまっているが、それぞれの繭で塊になっているので、それぞれよって糸にしていく。繭は意外と硬いのだけれど、この状態になったものは柔らかい。ふわふわだ。重曹を使っているのでセリシンも先の糸に比べれば素人ながら除去できていると思われる。
やはり絹糸と比べれば、柔らかく初めての私でも長さを確保することができた。ただ下手ではあるので、糸が凸凹になっている。そして、素人の私には3種類の繭で作ったけれど、違いはわからなかった。それはそれで幸せかもしれない。だって、どれも一緒なんだもん。
高級なあやとりになったことは間違いないけれど、わっかたことは、「あやとりは毛糸に限る」ということだ。もっと上手な人は別だが、蚕から育てた結果、そのようなことに行き着いた。いろいろやって1月半ほどかかった結論が「あやとりは毛糸に限る」だ。
蚕は何度か育てたことはあった。あんな小さな虫が素晴らしき糸を作り出してくれる。もっと練習してもっといい糸になるようにしたい。せっかく育てたのでいい糸にしたいのだ。ただあやとりには毛糸がいい。ちなみに大人用の着物を作ろうと思うと1万個ほどの繭が必要だ。それを育てるのは一人では無理だな。
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