街には親切があふれている
パリ:
突然ですが、ナオさんが昔「ピコピコカルチャージャパン」というサイトに書いた「100個集める!住宅街で工夫を」という記事がいまだに好きで。
ナオ:
ありがとうございます! もう7年も前ですね。そのころ大阪に引っ越したばかりで、今もお手伝いをさせてもらってるミニコミ専門店「シカク」の、移転前の店舗があった「中津」という町を散歩してたら、住宅街にある“工夫”がいろいろ目に入ってきたんです。
パリ:
街で見かける工夫って人間味ありますよね。というか人間味しかない。ひとひととつにストーリーが想像できて。
ナオ:
何かをより良くするために誰かがやったんだなと思うとね。
パリ:
特に最近、散歩くらいしか娯楽がないので、そういう工夫が目に入ることが多いんですよ。
パリ:
こんなのとか。
ナオ:
おお。これは工夫だ。
パリ:
また、専用の重しとかではなく、酒のペットボトルの再利用というのがいいんだよな。
ナオ:
そのときそばにあったものでなんとかする感じですよね。まさに工夫。
パリ:
工夫って、善意とか親切にもとづいてることが多いのが愛おしくて。
ナオ:
自分のためもあり、他人のためもあり。
パリ:
最近、街を歩くときはお互いにちょっとそういう工夫を、親切目線で気にしてみようなんて話してたんですよね。そうやって街を歩いてみると、街にはものすごく親切があふれていることに気づかされた。
ナオ:
うんうん。「それぞれ街を歩いて見つけた親切なものを見せ合いながら、オンラインで酒でも飲むか!」と。
パリ:
お互いの住む東京と大阪でそれぞれ集めてね。
休ませてくれる親切
パリ:
それで思ったんですが、たとえば、「じゃあ僕から」ってバーっと見せ合う形だと、たぶん大阪の親切のほうがパンチ効いてて、押し負けると思うんですよ。
ナオ:
はは。そうかなー!
パリ:
そんなイメージある。で、もうひとつ思ったのが、街の親切のなかにも大まかなジャンルがありません?
ナオ:
親切の方向性みたいなことですかね。
パリ:
僕が勝手に考えただけですが、「景観を良くする親切」「教えてくれる親切」「無駄にしない親切」などがあった印象。無駄にしない親切は、たとえばさっきの、ゴミ箱が風でどっか飛んでいかないように置かれたペットボトルだったり。
ナオ:
なるほど。おもしろいジャンル分けですね。それに沿って見ていってみましょうか。
パリ:
ぜひ! ちなみに、「休ませてくれる親切」はこちらもけっこう多かったです。
ナオ:
たとえばどんなものがありましたか?
パリ:
これはかなりオーソドックスですが、でも、バス停でもなんでもないところにあるのがちょっといいベンチ。川沿いの、よくわかんない空き地みたいなところに。
ナオ:
どんな人がここに座っていくんでしょうね
パリ:
自分が座る勇気はないかな〜。
ナオ:
うん。どんな顔で座っていいのかわからないですよね。いっそ開き直ってここでパソコン広げて仕事してもいいのかもしれない。
パリ:
はは! 肝座りすぎ。続けていったん、僕が集めた「休ませてくれる親切」をばーっとお見せしてみてもいいすか?
ナオ:
はい!
パリ:
たとえばこれ。
パリ:
そこも駐車場にすればお金を取れるのに!
ナオ:
この土地の管理者の方が「ここでジュース買うだろ? そしたらひと休みしたいだろ?」って考えなかったらこんなことにはなってないわけでしょう。
パリ:
そう考えるといいですよね〜。
ナオ:
管理者バンザイですね。きっとその人自身も、頻繁に休みたい人なんだと思う。
パリ:
休息を大切にしているというかね。あと、これは公共のものなのでよけいびっくりしたんですが、
パリ:
この石のベンチ、なんの変哲もないように見えるけど……あ、ちょっとクイズ出していいすか? 座れる以外に、どんな親切があるでしょう?
ナオ:
ただの石のベンチにしか見えないけど、よく見ると表面に文字が見えるような。暇つぶしになるミニ小説が書いてあるのかな。
パリ:
はは。それも素敵ですが、もっと汎用性があって、
ナオ:
ははは。おもしろい。
パリ:
さらにすごいのが、
ナオ:
えー!
パリ:
駒は持ってこないといけないけど、「盤まで持ってくるのは重いでしょ」っていう。
ナオ:
これは親切ですね。特定の層に向けた親切。
パリ:
こういうの、時代的にはどんどん排除の方向に向かってますよね。
ナオ:
そうですね。わざと座りにくくしたり、横になれないようにデザインされたものが多いなか、こんなゆっくり遊べるベンチがあるなんてね。
パリ:
あと、次がこのジャンル最後なんですけど、けっこうびっくりして、
パリ:
もう意味わかんない。
ナオ:
はは。なんだかアート性すら生まれてる。
パリ:
誰が持ってきたんだろうな。ここで井戸端会議をするのが定番の老人たちとか? 本人たちか、それを見た誰かか。ひょっとしてマイ椅子だったりして?
ナオ:
この赤いのはマサやん専用とかね。「絶対座ったら許さんぞ!」みたいな可能性も。
パリ:
はは。知らない新人じじいが座っちゃった日にはもう大変。
ナオ:
問答無用でひっ叩かれる。
パリ:
嫌な話になってきたな……。
ナオ:
この発想でいくと、椅子は広場に増やし放題だって話ですね。
パリ:
はは。今思ったけど椅子って、撤去しづらいですよね。
ナオ:
確かにそうですね! 善意ゆえに置いたと思うと「捨てますよ」なんて言いだしづらい。
パリ:
これが壊れたテレビとかなら問答無用だけど。でもこれも違法っちゃ違法なんだろうしな〜。
ナオ:
さっきのバス停のボロボロの椅子もさ、「じゃあいつ捨てる?」って話、考えると難しいですよ。
パリ:
「誰が捨てる?」
ナオ:
「っていうかこれ、そもそも誰が置いた?」
パリ:
ははは。おもしろいな〜、街の親切。ナオさんは他に、休ませてくれる親切はありました?
ナオ:
ちょっと前に撮ったものなんですが、山って親切が多いんですよ。
パリ:
あー、山では誰もが疲れてますもんね。
ナオ:
これは神戸の山の見晴らしの良い場所にあったベンチです。
パリ:
うおー! この会議室感がたまらない。
ナオ:
そうそう! 4つつながったタイプのもので。山の仲間がここに4人、ぴったり収まってたらと想像すると愛らしい。
パリ:
でも普通、ここにこの椅子もってくる? 「せっかく山に来たんだからさ、もうちょっと感覚とって座りたくない?」って。
ナオ:
はは。本当ですよね。なんで山まできて仲間の肩幅を感じなきゃならんのか。
パリ:
これだから民間の親切は。
ナオ:
あと、神戸の七兵衛山っていう山をずっと整備している方がいて、倒木を使って登山道にこんなベンチを作り続けてる。
パリ:
こんなのもう、親切神ですよね。
ナオ:
そうそう。親切ここに極まれり、たぶんもう、そんなにベンチはいらないんですよ。
パリ:
親切が過ぎて神になっちゃった人、いるよな〜。
ナオ:
その人が作った見晴らし台だけ、一応載せさせてください。
パリ:
はは! うわ〜。ここで一杯やらせてもらいたい。
ナオ:
いつか案内したいです!
パリ:
ぜひぜひ!
景観を良くする親切
パリ:
ところで、街を親切目線で歩いていると、目が行くところが決まってくるとこありません? バス停、ゴミ置き場、家の前の植木とか。
ナオ:
うん、親切のたまり場がありますよね。
パリ:
はは。親切だまり。たとえば家の前にきれいな植木を置くのとか、あれってその人の家のなかからは見えないわけで、ほとんど道行く人への親切ですよね。
ナオ:
そうそう!
パリ:
これとか典型的で。
パリ:
自宅前の範囲を大幅に超えて、公道にまで植木が進出してる。法律的にはグレーなのかもだけど、やっぱりきっと、親切心からなんすよね。
ナオ:
これはもはやディスプレイですよ。「きれいな草花で楽しんでね」っていう。
パリ:
ですよね。こういう「野良ディスプレイ」が、これまたけっこうありました。
パリ:
家の庭とかでなく、川沿いの道にこれ。
ナオ:
あー! 空き缶で作った風車みたいな? なんかたまに見る。
パリ:
そう、風でくるくる回る、たまに見るけど作ろうと思ったことないやつ。
ナオ:
はは。ストロングの缶が切り刻まれてるなー。
パリ:
おもしろいのが一定の区間に点々とあるんですよ。
パリ:
しかも缶のチョイスがばらばらで、これ作るために買う飲み物を選んでるんじゃないかっていう。
ナオ:
はは。風車がメインになってしまってね。「ここらへんに紫が欲しいんだよな」って理由で、ファンタグレープ購入。
パリ:
ね。だって、度数が低い梨のチューハイと、ストロングゼロトリプルピーチ、同じ人が飲むイメージはあんまりないですよ。
ナオ:
もしかして家族みんなでやってるのか。
パリ:
お父さんはストロング、お母さんは梨チューハイ。
ナオ:
そして僕はリアルゴールド。
パリ:
受験勉強で疲れててね。で、おばあちゃんが空き缶を回収。ストーリーが浮かぶな〜。
ナオ:
私は大阪の八尾という町の川沿いを歩いてたらこういう。
パリ:
え、そっち側に!?
ナオ:
そうそう! 柵のあっち側に置いてある。けっこうがんばって作業しないと難しいでしょう。
パリ:
で、植わってるのがねこじゃらし。植木鉢なくても生えそうな。
ナオ:
はは。なんなんだろうこれ。でも見る人に何かを感じさせようとしてくれている気はして……。あとこれは、
パリ:
かっこいい〜!
ナオ:
わざわざここだけくり抜いて。くり抜いたっていうか、ディスプレイゾーンを作ってるんですよね。
パリ:
防犯性や防風性を犠牲にして。ここを切った人の想いを想像すると興味深いな。
ナオ:
親切心でやったのか。でもたぶん、自分がまず気持ちいいんですよね。
パリ:
はは。それを言っちゃうと、親切ってそうなんだよな〜!
ナオ:
でもそれで、結果的には町の景観が整ってるから、他人にとっても気持ちがいいっていう。
パリ:
たとえば、地図にない通りを作っちゃう人とか。
ナオ:
ははは。最高! 名づけちゃったなー。
パリ:
本人には「私は紫ルエリア通りに住んでるの」っていう気持ちよさが、通行人には、ただの道がちょっと小粋な通りに感じる気持ちよさが発生する。
ナオ:
お互い楽しいなら素晴らしいですよ。
パリ:
あと、「擬似いい景色」系の親切もけっこうありました。
パリ:
こういう、殺風景だからせめて、っていうやつ。
ナオ:
あー! なんかスクリーンセーバーみたいな画像。いい景色の概念みたいな。こういうのたまらないですよね。うちの最寄り駅のホームの壁の広告スペース、なんの広告も入らない期間、なんか寂しいっていうんでワイキキビーチみたいな写真が代わりに貼られるの。
パリ:
はいはい! いいな〜。どう考えてもダサいんですよ。だからこそいい。
ナオ:
なんかね。せっかくだからいい写真にしようと考えた感じが。
パリ:
これとかもその系統か。
ナオ:
すごい! こんなの初めて見ました。
パリ:
あ、あと最後にこれ! 「犬のフンやめてください」系の看板って、どうしてもこういう感じになるじゃないですか?
パリ:
ところがこちらは、
ナオ:
ははは。犬のいる美しき風景に。犬への愛を感じます。お前たちを責めているわけではないよっていう。
パリ:
映画のラストシーンみたいな。
ナオ:
北野武の『あの夏、いちばん静かな海。』って映画で、タイトル文字が最後の最後にバーンと出るんですよ。
パリ:
へー、かっこいいですね!
ナオ:
そうそう。そこが印象的なんですけど、あれみたいに映画の最後に出てほしい。「犬のウンチは飼い主が責任を持って持ち帰りましょう」っていうタイトルの映画の。
パリ:
はは。2時間くらいそのテーマで見せられて、「いや、わかったから!」って。
ナオ:
はは。その映画を見る人がいるかはわからないけど。
パリ:
犬への愛が問われてますよね。「私、ワンちゃん大好きで、犬関連の映画は全部見てるの! けど……これは……」っていう。
教えててくれる親切
ナオ:
そもそも、犬のウンチの注意喚起の看板とかポスターも、広義では親切になるのかな。
パリ:
「知らせてくれる親切」ですよね。
ナオ:
そうか。それに入るかもしれないですね。
ナオ:
こういう、「犬が言うんだ!」っていうやつありますよね。
パリ:
最後の「ワン!」いらないんじゃないの? ってくらいしゃべってるな。
ナオ:
けなげな犬だよ。
パリ:
しかも待てよ。フンにハエがたかりはじめてるところからみて、これかなり時間経ってますよ。
ナオ:
はは。名探偵! 「つまり……彼のではない?」だとしたら親切犬だ!
パリ:
はは! 飼い主はたまったもんじゃないっすね。
ナオ:
あと、こいつもけなげだなと思ったんです。だって、自分も捨てられたわけでしょう。
パリ:
はは!
ナオ:
ポイ捨てされた缶がキラキラした目でゴミ拾い。
パリ:
アニメのアンパンマンでよく、顔の一部を誰かにあげたアンパンマンが、力が出なくてふらっふらになりながら、それでも顔はこの缶と同じような笑顔で、ジャムおじさんのところへ飛び帰ってくることがあるんです。あれが僕、なんか怖くて。それと同じ狂気を感じる。
ナオ:
ははは。笑ってるのがこわいっていうね。
パリ:
しかもこの缶、持ってるゴミ袋のサイズから考えて、もう巨大化してますよね。自分を捨てた人間を見つけたときがこわいな〜。
ナオ:
うわー。街のゴミ全部持って、捨てた人の家に、ピンポーンって。
パリ:
はは。家じゅうゴミだらけにされてね。「も、もうしません!」。で、はっと気づいたら、ただの缶に戻ってる。
ナオ:
そんなことになるからポイ捨てはやめましょうね! っていう話です。
パリ:
現代の寓話ですね。知らせてくれる親切、あといくつかあって。
パリ:
この、「知ってるよ!」っていうやつとか。でも、知ってる前提で話してこないのがすごく親切ですよね。
ナオ:
はは。「しっている?」という上の句いいな。あとに何がきても笑える。
パリ:
「しっている? 今日は10月4日だよ」
ナオ:
「しっている? 月火水木金土日」
パリ:
はは。「しっている? 俳句」おもしろい。
ナオ:
「しっている? アンドロメダの 名の意味を」
パリ:
いや、知らないよ! 急になんだよ。
ナオ:
はは。急に話しかけてくるから。
パリ:
うしろから肩ごしに。
ナオ:
これ、なんかかっこよかったです。
パリ:
ん? 「止まり 聴き 見て 通れ」か、なるほど。理解するのにちょっと時間かかる。
ナオ:
なんか深みがあるというか。人生に対するアドバイスって感じすらします。
パリ:
書体もいいですね。最後が「とおれ」なのも、許されてる感じがしていいな。
ナオ:
命令なのにそんなに偉そうに感じない。
パリ:
でもさ、これが「しっている? とまり きき みて とおれ」だと?
ナオ:
急に従いたくなくなるから不思議。
パリ:
知らせてくれる系だとこれもありますよね。
ナオ:
あーそうか。これも親切だ。
パリ:
お腹が空いてる人にはありがたい。まぁ、自己主張とも言えますけど。
ナオ:
そうですね。PRでもある。
パリ:
はは。間違いようがないな〜。
ナオ:
ここまでちゃんと言わないといけないことなのか。でも、間違えた人が前にいるんでしょうね。「誰もいないなー、帰ろう」って。事務所は2階なのに! これもそうと言えるのかな。
ナオ:
だいたいわかるのに、わざわざ郵便マークを描いて「ここですよ!」と。
パリ:
ははは。いやでも、よく見るとなんかこわいぞこのドア。だって、上の穴はなに?
ナオ:
確かに、なにかのワナっぽい。
パリ:
郵便のマークを信じて下の穴に郵便物を入れてしまうと……?
ナオ:
即シュレッダー。
パリ:
わはは!
ナオ:
自分が困るだけ。
パリ:
僕のほうだと、これも教えてくれる系に分類されるかも。
ナオ:
ははは。なにこの写真。
パリ:
知りませんよ!
ナオ:
味あるなー。ぼんやりと老人がいるからこそ、いい。
パリ:
……つーかさ、こんだけ親切を摂取し続けると人間、疲れてきますね。
ナオ:
はは。本当です。
パリ:
そこで教えてくれる系の最後にもうひとつ、ちょっとほっこりしたやつで、いったんなごんでください。
ナオ:
これは美しい。
パリ:
かわいいですよね。
ナオ:
ていねいに作ってあるなー。かなり上手な人ですね。
パリ:
公共のものでなく、迷う人がいたらかわいそうだからっていう想いから。
ナオ:
まさに親切の結晶。
パリ:
ちなみに、念のためこの先に進んでみたんですが
ナオ:
はは。確かめたんだ。ワナじゃなかった。
パリ:
親切、ワナっぽいことあるからね。
ナオ:
これも親切でしょ。
パリ:
ははは! なんだよもう。
ナオ:
リーマンと名付けたけど、リーマンじゃなくても! 自分で言って自分でフォロー。
パリ:
人の良さがあふれまくってる。
ナオ:
「残念だ、おれリーマンじゃないからなー」って思う人がいたとしたら、その人もいいですね。
パリ:
で、帰っちゃってね。かわいい奴だ。早とちりだけど。
ナオ:
あ、これは警察署の作ったものなんですが。なんか「ん?」ってなって。
パリ:
はは。一瞬わからない。
ナオ:
ね。「からっぽになってしまうよ!」ってこと、ですよね?
パリ:
いや、「からっぽにしておいてね」じゃないですか?
ナオ:
ああー! 貴重な物を車内に置いていくなと。
パリ:
どっちにしてもわかりにくい。
ナオ:
ははは。本当ですね。でも「ん?」と立ち止まる効果を狙ってるとしたら、ちょっとしてやられたなと思った。
パリ:
犯人のセリフにも思えてきた。「けっ、車内からっぽ!」っていう。
ナオ:
もう、本当の意図を警察に聞きにいかないと。
分類不能の親切
パリ:
「車内からっぽ」もそうだと思うんですが、「これは親切?」と、ちょっと考えさせられるようなものもけっこうありました。
ナオ:
なるほど、ジャンル分けのできないやつ。
ナオ:
あー、これはわからない。ただ、恋人の肩にそっとカーディガンをかけてあげるような優しさだけはある。
パリ:
はは。感じますよね。
ナオ はい。それでいうと、これもなんだがわからなかったです。
ナオ:
「キノコ生えてましたよ」っていう?
パリ:
これもなんかこわいな。
ナオ:
意図がわからない親切は恐怖に近づいていきますね。
パリ:
「親切の可能性もありうる」っていう。
ナオ:
ぜんぜんそんなつもりじゃないかもしれないけど。あと、これはもう、勝手な妄想なんですが、
ナオ:
「ご自由に一杯どうぞ」だったら親切だなと思って。
パリ:
わはは! だったらこわすぎる。あとはなんかあったかな〜。あ、
パリ:
この昔ながらの日用品屋みたいなお店。ここは前から好きでたまに覗くんですけど。
ナオ:
いい店がまえですね。
パリ:
店主のおばあちゃんに聞いたら、もう新商品の入荷とかはしてなくて、店頭の商品が少なくなってくると倉庫にある食器なんかを出してきて並べてるそうなんです。いわばデッドストック。ただ、親切心からだと思うんですが、
パリ:
けっこう、器に直接値段書いてあって。
ナオ:
はは! じかに書いてしまうんだ!
パリ:
気に入ったのを買って帰ったとき、消すのに苦労します。
ナオ:
すぐ消えるものですか?
パリ:
消えるときと消えないときがあって。マジックの違いなのかな。
ナオ:
消えないバージョンもあるんだ!
パリ:
だから、買ってきたばかりの器なのに、ものすごいゴシゴシ洗って。
ナオ:
それはもう不親切……いや、わからない。
パリ:
でも、気持ちはぜったいに親切なんですよね。
ナオ:
食器つながりなんですけど、
ナオ:
なんだろうこれは、と。
パリ:
はは、いいな〜。
ナオ:
「食べた~い!」って言われても、と思ったけど、これがあることでこれがグラタン用の皿なんだとわかったからやっぱり親切だ。
パリ:
グラタン皿酒類あるな〜。
ナオ:
豊富に取り揃えております。
パリ:
あと、肝心のグラタンの写真が小さい! もっと食欲そそってくれよ。
ナオ:
はは。字のパワーだけでなんとか持っていった感じでね。
パリ:
細かいことですけど、「た〜い」の、このくるっとなってる向き、どちらかというと上下逆に書きません?
ナオ:
はは。本当ですね。かなり曲芸的な回転ですよね。
パリ:
もしかして、左利きの人だとこのほうが書きやすいとか?
ナオ:
さすが名探偵! ここから犯人がわかるわ。
パリ:
犯人はこのなかで唯一左利きの人間、つまりあなたです! しかしこの「グラタンが食べた〜い」の文字、味あるな〜。Tシャツにしたいです。
ナオ:
あ、本当ですね。グラタンってだいたいみんな食べたいでしょうし、普遍性がある。
パリ:
「I♥NY」みたいなね。どうせ怒られないだろうし、もう、勝手に作ろう。しかしこうやって見ていくと、世の中はとにかく親切があふれてましたね。
ナオ:
本当です。あと最後に、大好きな親切だけ見ていただきたいのですが、さっきの4連ベンチのあったのと同じ山に登った時、山茶屋の前に、本の「ご自由にどうぞ」コーナーがあったんですね。
パリ:
あ! そうそう。「ご自由にお持ちください」こそ、親切の一大ジャンルですよね。
ナオ:
それでよく見たら、
ナオ:
ちゃんと「魔法陣グルグル」用の袋が置いてあって、親切だなー! って。
パリ:
わはは!「魔法陣グルグルを持ち帰るのにお使いください」、人類史上最初で最後の一文でしょ。
ナオ:
はは。この世界で一度だけ書かれた文章。
パリ:
なにはともあれ、親切は最高ですね。
ナオ:
今回のが全部そうかわからないですけど、親切ってつまり、誰かのためを思ってなされる行為なわけですよね。そういうのが集まって街にいろいろおもしろい情景が作られてるっていう。それに注目して歩いてみるの、楽しかったですね。
パリ:
人間のしぶとさを感じるような。今度ぜひ一緒に、実際に街に出て親切を探す「親切さんぽ」をやりたいですね。
ナオ:
おお、やりましょう!
パリ:
積極的に人に親切にしていく散歩とかじゃなくて、あくまで親切を探してるだけ。
ナオ:
そうそう。のんびり歩いているふたりの頭のなかが、まさか親切でいっぱいだとは誰も気づくまい。
パリ:
はたから見るとニヤニヤしてるだけでね。むしろ迷惑っていう。