簡単でおいしい麻婆豆腐
繰り返しになるが、私はほぼ毎日麻婆豆腐を食べている。昼食はソーメン、麻婆豆腐、納豆という組み合わせだ。おかずの追加や多少のアレンジはあれど、基本的にこの三品は不変である。
ちなみにソーメンは一束である。量が多いように見えるかもしれないが、それはソーメンの下にワカメを敷き詰めているためだ(私はワカメをできるだけ採るように心がけている)。
昔から存在する定番のこの商品。ひき肉が入っており、豆腐だけ用意すれば簡単に麻婆豆腐を作ることができる優れものだ。改めて作り方を説明する必要などないのかもしれないが、いちおう述べておくと――
あっという間に完成だ。ソーメンを茹でている間に作ることができる。こんなにも手軽なのにおいしく、おかずというよりは汁物のような感覚で毎日食べている。
麻婆の味のベースは豆板醤、要するに中華味噌だ。日本の味噌は割とどんなものにも合うし、味噌とはちょっと違うがスパイスを用いるインドのカレーもまた何にでも合う。現に味噌汁やカレーの具材は実に多種多様だ。麻婆もまた、それらのように様々な具材があっても良いのではないだろうか。
なぜか少ない麻婆のバリエーション
中華料理について私が無知なだけで他にも様々な麻婆料理があるのかもしれないが、スーパーの食品売り場を探した限り、麻婆豆腐以外には麻婆春雨と麻婆茄子ぐらいしか見当たらない。
ツルツルとした春雨に甘めの中華味噌とひき肉のうまみが良く絡んでいる。シャキシャキのタケノコ、くにくにのきくらげが入っていることで食感のバランスが素晴らしく、唐辛子が全体をピリッと引き締めている。とてもおいしい麻婆だ。
パッケージに「こってり味噌味」とあるように、味噌の味がかなり強い。ひき肉の存在感は控えめだけど、その分、主役の茄子がドドンと出ている。かなり味が濃いが、茄子に含まれている水分によって薄まりちょうど良い感じだ。あまり辛くはないので、個人的には一味唐辛子を足したいところ。つまるところ中華風の茄子の味噌炒めなので、そりゃうまいに決まっている。
麻婆豆腐も麻婆春雨も麻婆茄子も全部うまいのだが、麻婆が持つポテンシャルはこの三品だけでおさまるものではないはずだ。麻婆の奥深さを確かめ、新たな麻婆の境地を開拓しようじゃないか。というワケで、先ほどの麻婆豆腐を豆腐抜きで作り、様々な食材を麻婆まみれにしてみることにした。
まずは私がいつも食べているソーメンに麻婆をかけてみよう。日々の食事では別々に食べているソーメンと麻婆豆腐であるが、ソーメンに直接麻婆をかけたらどうなるのだろう。
麻婆は何にでも合うに違いない。もちろん、ソーメンにも……と安直に思っていたのだが、うーん、なんだか味気ない。ソーメンと麻婆が噛み合ってないというか、麻婆の味が浮いてしまっているような……。と、そこまで考えたところで気が付いた。足りないのはダシだ。
これが正解だった。醤油とダシの味が加わったことにより、どこか上滑りしていた麻婆がソーメンに馴染み、うまい具合にまとまってくれたのだ。
細いソーメンにとろみがよく絡み、麻婆の味を際立たせている。ひき肉と豆板醤、それにダシのうまみが織り成す味わいはジャージャー麺のようだ。麺つゆを加えることが前提だが、なかなかうまいぞ。
ソーメンに続く麺類としてうどんはどうだろう。ソーメンよりも麺が太く、麻婆のあんがどんな感じに絡むのかが気になるところだ。
なお、ソーメンの件から麺類にはダシの味が必要なことが分かったので、今度は薄めの麺つゆで満たした上で麻婆をかけることにした。カレーうどんと同じような要領だ。
つゆの上にとろみのある麻婆が浮かび、どことなくサンマーメンのようである(神奈川のご当地ラーメン「サンマーメン」についてはこちらの記事をご参照ください→「寒い冬、サンマーメンと向き合う」)。だがサッパリとしたサンマーメンとは対照的に、麻婆の油でかなりこってりしていてコクがある。ピリ辛うどんとしてなかなかうまいが、汁を全部飲もうとしたら少し油っぽさが気になった。もう若くはないようだ。
お次は蕎麦である。うどんと共に日本の麺類の双頭を担う蕎麦であるが、その特有の風味は果たして麻婆とマッチするのであろうか。
うむ、カレーがうどんにも蕎麦にも合うように、麻婆もまたどちらも問題なくイケるようだ。それなりにうまいピリ辛ひき肉蕎麦である。……が、それ以上でもそれ以下でもなく、無難すぎて少々物足りなさを感じなくもない。
では同じ麺類であっても少し趣向を変えて皿うどんはどうだろう。パリパリのかた焼きそばは、とろみのある麻婆と相性が良いのではないかと思ったのだ。
皿うどんのあんはとろみがあるので麻婆でもイケるのではと思ったのだが、これが物凄くしょっぱい。麻婆ってこんなにしょっぱかったっけ?と首をひねるくらいに塩気が際立っており、ぶっちゃけマズい。
元々の皿うどんのあんは優しい味わいなだけに、これはその対極に位置しており暴力的とすら感じられる。麺の味も麻婆とまったく合っておらず、ひき肉の存在感も皆無だ。完食しなきゃという義務感でのみ口に運び、無理やり処理した感じである。
さて、そろそろ麺類から離れ、新たな麻婆の可能性を探ってみることにしよう。麻婆のとろみに着目し、タレやソースとして使ってみるのである。まずは同じ中華料理ということで、餃子にかけてみることにした。
うん、餃子のパリパリ皮が麻婆のとろみに合っている。麻婆に含まれるささやかなひき肉を味わった後に、餃子の肉々さがガツンと来るのでそのコントラストが面白い。
……が、うーん、なんだろう。悪くはないのだけど、期待していほどのシナジーはない。普通に酢醤油や酢コショウで食べた方がおいしいかな。
ハンバーグのソースとして使ってみるのはどうだろう。麻婆にもひき肉が含まれているものの、いかんせん微量なので、いっそのことガッツリ肉と組み合わせてみるのである。
口に含むと肉の味に加えて甘じょっぱさが広がり、ちょっと変わった照り焼きソースといった感じである。悪くはないのだが、どことなく麻婆が浮いているというか、ハンバーグと噛み合ってない気がする。普通の照り焼きソースの方が良いだろう。
お次はトンカツ、さらに直球の肉である。トンカツほどに強靭な肉ならば、麻婆の味をも包み込み、自らの従者たるソースとして屈服させることができるのではないだろうか。
あ、味噌カツだ。最初の一切れを食べてそう思った。どうやらカツと一緒に放り込まれた麻婆の味を、私の脳は味噌と判別したらしい。肉の厚みがあるので麻婆の味にも影響されず、トンカツとしての立場を保ち続けている。ある意味期待通りで、思わずニヤけてしまった。
これはこれで全然アリなのだが、残念ながら濃厚な名古屋味噌カツの持つ殿堂入りクラスのうまさには及んでいない。比較する相手が悪くて申し訳ないのだが、麻婆と味噌ダレだったら味噌ダレ一択である。
こってりとした肉が続いたので、お次はサッパリとした生野菜のサラダに麻婆をかけてみよう。ドレッシングとしての利用法である。
うむ、思っていたよりはマシだ。麻婆なのにサッパリと食べることができ、肉続きの後にちょうど良い箸休めになっている。……と最初の数口は思ったのだが、徐々に微妙になってきた。
冷たいサラダにかけた麻婆は当然ながら冷める。冷えた麻婆は塩気と辛みが強まり、結局は辛くてしょっぱいだけの味噌ダレになるのである。食べられなくはないのだが、普通のドレッシングの方が間違いなくうまい。
ここまで麻婆をソースとして使ってきてみたが、いずれも食えなくはないが普通のソースを使った方が良いという結果になった。特にサラダなど冷たい料理にかけるのはダメである。どうやら既存の料理にかける方向性がよろしくないらしい。
なので方針を転換し、ここからは麻婆に合う食材探しに移行することにする。食材を一品ずつ麻婆にあえ、その相性を確かめるのだ。
まずは手堅くチンゲンサイから始めよう。チンゲンサイは中国由来の野菜であるし、中華料理との相性が悪いはずがない。麻婆にしてもマズくなる感じはまったくせず、いや絶対うまいだろう、と半ば確信しての初手登用である。
期待通りにうまい麻婆である。豆板醤もひき肉もとろみも、チンゲンサイにピッタリで抜群の相性だ。っていうか、普通にこういう中華料理があるんじゃないか?
残ったあんにはチンゲンサイのほのかな(良い意味での)苦みが移っており、ご飯にかけてかっ食らいたい感じである。文句なしの麻婆に適した鉄板野菜だ。
お次はモヤシである。もやしもまた中華料理によく使われているイメージがあるし、麻婆との相性も良いはずだ。シャキシャキとした歯ごたえも麻婆に合うことだろう。
やはりというかなんというか、これまた手堅くうまい。あんのとろみが細長いモヤシによく絡み、ひき肉との相性もグッド。まぁ中華にモヤシは定番だよね。
ただ、少し炒めすぎたのかモヤシから水が出ており味が薄まっている。あんを固めに作ったり、何か加えるなどもうひと工夫が必要そうだ。あと、やっぱり具がモヤシだけなのは少し寂しい。
続くはオクラである。個人的に好きな野菜のひとつで、時々アヒージョ(スパイスを効かせたオリーブオイル煮)にしてワインのつまみに食べている。オクラと言えば穴の開いた形状と粘りが特徴だが、麻婆との相性はこれいかに。
おぉ、良いじゃぁないですか。オクラは思っていたよりも豆板醤との相性が良く、とろみと粘りが調和して相当良い感じだ。また穴が開いていることであんが絡みやすいのも良いのだろう。
ひき肉もしっかり存在感があり、主役のオクラを引き立てている。ひと欠片だけでご飯ばくばく行けそうだ。これはうまいぞ!
今度はキノコのエリンギだ。これもまたオクラと共に時々アヒージョにして食している。油との相性は良いはずだ。ただ、エリンギというと西洋料理のイメージが強いので、麻婆と組み合わせるとどうなるかは想像がつかない。楽しみだ。
おぉ、これはなかなかに面白い。エリンギから意外なほどの甘みが出ており、小さめに切ったのが良かったのだろうか、突出しがちなエリンギ特有の風味も抑えられている。
ただ、完全にエリンギの陰になってしまっているのかひき肉の存在感は皆無だ。麻婆であえただけのエリンギという感じ、料理としての一体感はやや薄い。キクラゲやタケノコといった、中華寄りに引っ張る食材と合わせれば、よりまとまるのかもしれない。
やはりエリンギの味が強いので単体だとご飯のお供としては合いそうにないが、ビールや紹興酒のつまみにするには良さそうだ。
カボチャはどうだろう。カボチャもまたアヒージョにして食べることが多いので、油との親和性が高いことは知っている。問題はやや甘めなカボチャが麻婆の味に合うのかということだ。
とろみといい、ひき肉といい、よく考えたらカボチャのそぼろ煮に近い料理になっている。ただ、カボチャの甘みと麻婆の味がビミョーになじんでおらず、どうにも一体感が薄い。どうやら麻婆に含まれているわずかな酸味が邪魔をしているようだ。
カボチャ自体はホクホクしていて普通においしく、決してマズくはないのだけど、麻婆にする意味合いがあまり感じられなかった。そぼろ煮の方が断然うまい。
お次は大根だ。煮物やおでんなど、味を染み込ませて輝く食材であるが、麻婆に合わせるとどんな感じになるのだろう。まったくもって想像がつかない。
これが意外にもうまいのだ。とろみも辛味も麻婆の味も大根に合っている。大根には水分が多いので水っぽくなるかと思いきや、むしろ噛んだ時に染み出してくる水分が麻婆の油分を流してくれるので食べやすい。麻婆なのにサッパリしていてどんどんイケる。
下茹でしなかったので少し固めではあるが、個人的にはこのくらい歯ごたえがある方が好みだ。時折混じる葉のシャキシャキ具合もちょうど良いアクセントである。ただ、大根に味が染みていないので、とろみをつける前に少し煮込むなど工夫したらさらに化けるかもしれない。
瓜系も試してみたいと思い、キュウリを買ってきた。以前、沖縄に行ったときに食べた冬瓜やヘチマの味噌汁がとてもおいしく、瓜系の野菜は温かい料理にも使えるのかと驚いたものだ。同じ瓜の一種であるキュウリを麻婆に使ったらどのようになるのか、なかなか興味深いものである。
うわ、ダメだ。顔をしかめるレベルでマズい!温められたことでキュウリの苦みとエグみが際立っており、とてもじゃないけど食べられたものではない。キュウリってこんなに苦かったっけ?と思うくらいに悪い点が際立っている。
噛むと出てくる水分も青臭く、麻婆の風味を完全に消し飛ばしている。なのに麻婆の辛さだけは残っていて、後からきた辛味が喉に刺さりむせてしまった。これは完全に失敗だ!
さて、仕切り直しである。今度はピーマンを試してみよう。ピーマンを嫌う子供は多いというが、私は子供の頃からピーマンの肉詰めが大好物であった。ピーマンとひき肉の相性が良いのだから、麻婆にしてもイケるんじゃないかと踏んだのだ。
うーむ、これはちょっと期待外れであった。ピーマンの味が強すぎて麻婆が死んでしまっている。ピーマンの肉詰めはズッシリとした肉の量があるからこそ成り立つもので、オマケ程度の量しかない麻婆のひき肉ではまったくもってピーマンに歯が立たない。
大きく切りすぎたのもピーマンの苦みを強調させる結果になった。青椒肉絲を始めピーマンを使う料理ではなぜピーマンを細切りにするのか身に染みて分かった感じである。なんだかピーマンに申し訳ないことをした感じだ。ごめんなさい。
ピーマンの次はトマトである。なんだかヤケになっている気がするが、野菜売り場で何となく手に取ってしまったので麻婆に使ってみることにする。水気の多い西洋野菜なのでこりゃダメだろう。と、まったく期待していなかったのだが……。
これが意外や意外、うまいのだ。いや、超がつくほどにうまい。ただし、麻婆を使っているにも関わらず、これは中華料理ではなく洋食である。トマトは食材として物凄く強く、麻婆を完全に取り込んで自身のうまみへと昇華し、ひとつのトマト料理としてまとめ上げているのだ。
麻婆のコクとうまみにトマトの甘みと酸味がまろやかに調和し、ミネストローネ風というか、食べたことない味だけどうまいスープに仕上がっている。トマト自身もうまく、またトマトから出た水分によって麻婆がちょうど良い感じに薄まり汁まで飲める。完全に麻婆料理からはかけ離れているものの、こういう料理としてめちゃくちゃおいしい。これは大いなる発見だ!
西洋野菜繋がりということで、次はジャガイモだ。主食にもなるジャガイモはかなり汎用性が高い野菜だと思うので、麻婆にしてもトマトのような意外な結果にはならないと思うのだが、どうだろう。
これはなかなかにうまいイモである。麻婆感はあまりないが、ポテトチップのコンソメ味や醤油味に近いというか、フライドポテトのタレとしてかなりおいしい。かなり油っぽいのに一気に全部食べてしまったよ。
少々ジャンクな感じがするのでご飯のおかずにはならないだろうが、おやつとしては大いにアリである。ジャガイモは甘辛の味噌味にも合うのだ。
……と、ここでひとつ閃いたことがある。同じジャガイモでも油で炒めるのではなく、茹でて潰し、マッシュポテトにして麻婆をかけてみるのはどうだろう。
というワケで新たに二個のジャガイモを茹で、簡易的なマッシュポテトを作ってみた。
マッズ!え、同じイモなのになんでこんなにマズいの?!――などと、取り乱してしまうくらいにマズいのだ。
まず、マッシュポテトの舌触りが致命的に麻婆に合わない。次に、マッシュポテトは常温なので麻婆のあんが冷えてしまい、麻婆の酸味と塩気、辛味が強調されてしまう。サラダと同じ轍を踏んでしまったというワケだ。やはり、冷たい料理に麻婆はご法度である。
いやはや、油で炒めた時には麻婆とバッチリ合っていたイモがここまで(悪い意味で)化けるとは思わなんだ。
そろそろ野菜とは違う分野の食材を試してみようか。そう思ったところで、まず手に取ったのがコンニャクである。コンニャクは田楽など味噌で食べることが多いし、麻婆とも合うのではないだろうか。
うーむ、これはコンニャクだ。油っぽいコンニャクである。マズくはないし、フツーにうまいのだけど……コンニャクから水分が出て薄まったということもあるのだろうが、コンニャクの味が強すぎて麻婆が押し切られてしまっている。麻婆にする必要性がまったく感じられない。
もっと、強力な味でないとコンニャクと合わせることは難しそうだ。それこそ、田楽のような濃厚な味噌ダレでないと。
次は練り物の代表格チクワである。コンニャクが微妙だったので同じく煮物やおでんに使われるチクワもどうなるか少し心配ではあるが……まぁ、試してみよう。
麻婆にあえてもチクワはチクワだ。まずくはないのだが、魚の匂いが強くて麻婆となじんでいない。ただ麻婆にチクワを入れただけという感じである。
チクワの穴に麻婆のあんが絡むかとも思ったのだが、肝心の味がちぐはぐなのでイマイチ馴染めていない。チクワ単体ではちょっと厳しいので他の食材が必要だ。
魚の風味が強いチクワはダメであったが、より味が馴染みやすそうなハンペンはどうだろう。ふわふわとした食感が麻婆とどう作用するのか、見物である。
まぁ、重要なのは見た目ではなく味である。チクワの後なのであまり期待はしていなかったのだが……あ、おいしい。魚臭さがなく、麻婆の味にも馴染んでいる。手でちぎったのが良かったのだろうか。ひき肉の存在感もあり、ちゃんと麻婆な感じである。
……が、いくつか食べていると急激に飽きてきた。塩気と油が強く感じられ、ハシが進まなくなってしまったのだ。原因はおそらく油だろう。炒めた時にハンペンが油を吸い込み、カロリーの塊と化していたのだ。調理法を考えるべきであった。
なんだか迷走している気がするが、お次は魚肉ソーセージである。チクワやハンペンと同じく魚が主原料であるが、香辛料などが加えられ普通の練り物よりも味が強いので麻婆と合いやすいのではないだろうか。
まず思ったのが「火を通した魚肉ソーセージってこんなにもうまかったのか!」ということである。私はこれまでの人生において、ギョニソーを生でしか食べたことがなかったので、焼いたギョニソーのうまさに軽く衝撃を受けた。
思惑通り、しっかりとした味が付いているので麻婆にも負けていない。味も合っている。ギョニソーにうまみと塩気が加わり、なんだかスパムのようでもある。これはなかなかにうまいではないか。
いよいよ最後の食材となった。大トリを飾るのは車麩である。車麩といえば使い道が分からず乾物入れの肥やしになっているようなイメージがあるが、さてはて、麻婆には合うだろうか。
うわっ!これはダメだ!とてもじゃないが、食べられたものではない。麩を口に入れると、その食感から脳が「煮物かな?」と勘違いした上で、麻婆の辛味と酸味がやってくるのだ。これがお麩の風味とまったくもって合っていない。お麩ってこんなに主張が強かったのかと驚くぐらい、麻婆と殴り合っている。
お麩は味が染みてナンボの食材だと思うので、麻婆の味がまったく染みてないのも致命的だ。麻婆とあえる時に他の食材よりも気持ち長めに炒めたのだが、おそらくとろみが邪魔したのだろう。これはもう料理として成立しておらず、舌が拒否反応するレベルである。結論、車麩は和風だしの煮物に使おう。
麻婆道の奥は深い
さて、今回は計24種類の麻婆を試してみたのだが、一番良かったのはやっぱりトマトだろう。麻婆料理とは全くの別物であるが、トマトの凄さと意外性を知ることができた。
チンゲンサイとオクラはおかず麻婆として胸を張ってオススメできる。フライドポテトの味付けとして麻婆を使うとおいしいというのも新たな発見であった。
とまぁ、最初に思っていたほど麻婆は何にでも合うというワケではなかったが、そのバリエーションはかなり多岐にわたりそうだ。今後はレトルトに頼らず自分で麻婆を作るなど、奥の深い麻婆道を精進していきたいと思う。