すきです、磨崖仏
どうだろう、磨崖仏。地図にも載っていない仏像を岩山に分け入って探しだすところも含めて、魅力的ではないですか。こういう枯れ趣味、来年は流行るはずなので今のうちから始めておくと友達に差をつけられると思いますよ。
ところで日本の磨崖仏のメッカは大分県らしい。なんでも全国の磨崖仏の8割が大分に集中しているのだとか。そんなわけで今一番行きたいところは大分県です。もう引っ越してもいいとすら思う。大分、ああ大分。
メインストリーム磨崖仏へと続く道はマイナー磨崖仏から歩くこと約15分。急勾配の石段が延々と伸びたその先にある。この道は前に紹介した「切り通し」に比べてかなりオープンな雰囲気なので恐怖感はない。でも同時にそのへんに穴も磨崖仏も彫られていない。やはり怖いところに磨崖仏が彫られているのか、彫られているから怖いのか、この二つはリンクしていると思う。
道のりは細くて途中で巨大な石がごろごろしているので楽ではないのだが、道々に「磨崖仏はこちら」と表示があるので迷うことはないだろう。ただこうも親切に道案内されると、放ったらかしが一つの魅力といえる磨崖仏的には少し過保護すぎるかな、とも思ってしまう。
先に書いたとおり、鷹取山は磨崖仏以外にもロッククライミングの練習場としても有名な場所だ。ここはかつて石切り場として栄えていたのだが、その頃の名残を残す垂直に切り立った岩壁が多くのクライマーたちを引き寄せてやまないのだ。
ところがこの壁、近づいてみると垂直というかそれ以上の勢いで切り立っている。
壁にぼこぼこと開いている穴はかつてのクライマーたちがハーケン(登攀用の金属製のくさび)をうちこんだ跡だという。今ではこの穴を頼りに登っていくフリークライミングが主流のようだ。
この垂直度合いとか、壁の迫力とかっていうのは実際にこの場に立たないとなかなか伝えきれない。とにかく目の前の壁がこちらに倒れてくるんじゃないかというくらいの威圧感を持って迫ってくるのだ。
山にはいたるところに「岩登り禁止」と張り紙がされているのだが、平行して「ただし許可を得れば可」とも書かれている。要するに安全を守ることができるのならば(それなりの手続きを経て)登ってもいい、ということのようだ。
安全かどうかなんてわからないと思うだろう。しかしこの壁を見て「登ろう」と思う人たちはそれなりに危険の概念を理解している人たちなのではないか。僕とか、まず登ろうとは思わない。
魅力的かつ恐れ多い岩壁たちを横目に、さらに尾根をひた歩く。すると遠くに巨大な磨崖仏の頭が見えてくる。そして歩く度にこれがどんどんでかくなる。
でかくなってでかくなって・・
突然目の前に現れる磨崖仏に目を奪われる。さすがはメインストリーム、ものすごい立派だ。もとはただの岩だったのに、磨崖仏となるとこんなに美しい。その美しさは今は破壊されてしまったバーミヤンの石仏を連想させる(行ったことないけど)。
近くに立てられた案内板によると、この磨崖仏は約40年ほど前に作られたものなのだとか。つまり鎌倉とか奈良の大仏なんかに比べるとごく最近のものといえる。だからこそこんな野ざらしの状態の割りに風化が少ないのだろう。座高は約8メートル。外側の岩を含めると10メートルくらいあるようだ。
仏像はまず拝む、それから眺める。これが僕なりの鑑賞法だ。拝む内容はなんでもいいと思う。僕はたいてい最後に「すみませんが写真撮らせてください」と付け加えておく。なんの信仰心もないのだが、やはり人も仏像も勝手に撮られると気分悪いと思うので。
しかし磨崖仏を眺めてうっとりしていると気づくことがある。小さな穴がいくつもあいているのだ。
・・・
ふとさっき見てきた垂直の岩壁を思い出す。確かあそこにはハーケンの跡が無数に残されていた・・
そう、この磨崖仏も、登山されたのだ。
磨崖仏は仏像である前に岩山である、ということなのだろうか。それにしてもさすがにやりすぎではないか。僕も小学生の頃だったら登っていたかもしれないが、さすがに今それをやる勢いはない。
よく見ると隣に立てられた磨崖仏の紹介板にも「もろいので登山練習は危険です」と書かれていた。いや、危険とかの前に、仏だから。
このおおらかさも磨崖仏ならではだろう。さすがに鎌倉の大仏登ったらただでは帰れない。
どうだろう、磨崖仏。地図にも載っていない仏像を岩山に分け入って探しだすところも含めて、魅力的ではないですか。こういう枯れ趣味、来年は流行るはずなので今のうちから始めておくと友達に差をつけられると思いますよ。
ところで日本の磨崖仏のメッカは大分県らしい。なんでも全国の磨崖仏の8割が大分に集中しているのだとか。そんなわけで今一番行きたいところは大分県です。もう引っ越してもいいとすら思う。大分、ああ大分。
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