Zoomをやるときは思い出してください
ついに実写版Zoomを撮ることができた。世界初だ。明日にでも公開しないと世界の誰かが同じものを作ってしまうかもしれない。撮影直後に興奮してそんな話をした。
しかし今となってはなぜそう思ったのか思い出せない。
Zoomの会議は変だ。
全員が同じ方向をむいて話をしている。
「同じ方向をむいている」というのは目標を共有しているという比喩ではなく、見た目がそうだということだ。
そんな会議はない。その滑稽さを分かりやすくするために物理にしてみせよう。
言ってみればZoomの会議というのは、記念写真を撮るようなフォーメーションで会議をしているようなものである。
こんな並びでは何も決まらないのは当然だ。クラスのやんちゃなやつが手前で寝ころがる寸前である。
この会議を今回、現実のものとしたい。
なぜならトルーもリモート会議の異常性に気づいていたからである。2021年3月のまんが「土曜のお便り」にこのような作品を描いている。
さすがだ。きっとトルーもZoomが現実になったときに参加したいに違いないし、撮影を一緒にすればネタかぶりだと言われることもない。抱き込んでしまおう。
手順は簡単だ。
背景映像を貼ったダンボールを頭の後ろに固定し、記念写真のように並んで話をする。これでモニターの中でしか見たことがなかったZoomがこの世のものとして現れる。
ダンボールに紙を貼ればいいだけだ。ダンボールはアマゾンの箱に入っているおまけである。
ツールバーのアイコンは前日にイラレでちまちまトレースして作ったので、拡大して印刷しても平気である。
……。
このときにちょっと感じたのは「あれ?小さいかも?」ということである。いや、でも何人かで並んでみれば大丈夫かもしれない。そう考えて作業を進めた。
そして先に言ってしまうが、工作してて感じる違和感はだいたい正しい。
恐ろしいことに頭の後ろに固定する方法を考えてなかった。
だが、手元にあるダンボール箱を改造すればなんとかなりそうだ。
ダンボール工作は考えながら作ればなんとかなるところがいい。
Zoomではなく、ダンボールをかぶった人だ。頭の左右にある縦の板が予想以上に目立つ。
「やばいかも」という不安が確信に変わりつつある。「これは、やばい」
「zoomじゃなくてさらし首ですね」
住さんが僕もずっと感じていたことをサラッと言った。
2人並んで下にツールバーがあったら結構Zoomなんじゃないか?
もういい、背景は壁に貼ってしまおう。その手前に立てばいいのだ。
確かに背景が小さい。遠近感を利用して僕がカメラに近づいたらどうだろう。
遠近感を分かってない。ルネサンス以前の人か。僕がカメラに近づいたらでかくなるだろうが。
背景を使い回すことは諦めて、使う人のシルエットに切り抜いてしまおう。
これで3人分切り抜いて並べば結構Zoomじゃないかな?
……当事者すぎてフラットな目で見ることができない。
ただ、このときの記録用の動画では3人が「光明が見えた」と話していた。苦労が無駄だったことを認めたくない思いが認知を歪めている。
一応の成功を見せた今回の試みだが、2つの課題がはっきりした。
・人数が4人いる
・背景が小さい。肩まで入る必要がある
俺たちの旅はこれからだ!
2回目の撮影。前回のZoom背景は撮影終了後すぐに捨てたので、新しいものを作る。
背景は前回の倍、A1サイズで印刷。それを貼るダンボールもA1サイズのものをアマゾンで購入した。貼るのはスプレーのりと準備段階で不安要素がない。
見ていた住さんは「業者に頼った」とコメントしていたが、できればいいのだ。プロに頼もうと、完成している姿があればよい。もう前回みたいな思いはしたくない。
ヒモは管理部で「これいらないから使っていいです」というものをもらった。
あっさりできてしまった。すごい! 前回の試行錯誤はなんだったのか。
前回は3人で撮影をしていたので人が足りなかった。今回は編集部から石川と安藤が「リモート会議やるから」という理由で招集された。
バーチャルの意味が違くないですか、と安藤は言っていたが、まさかこの状態になるまで2日もかかっているとは思わないだろう。しかも、大人3人でだ。
いよいよ実写版Zoom会議を始める。
各自バーチャル背景を背負い、壁際に集合した。この記事の最初で書いた集合写真のフォーメーションである。
バーチャル背景がすぐに斜めになってしまうので各自水平を保つことが大事である。リアルZoom会議のノウハウとして共有したい。
そしてその瞬間が訪れた。
ついにZoomが現実世界に現れた。仮装大賞ではない。
これでZoomの変さをおわかりいただけたかと思う。道のりが遠くて何が目的か忘れるところだったが、これを見せたかったのだ。実写版Zoomを。
ついに実写版Zoomを撮ることができた。世界初だ。明日にでも公開しないと世界の誰かが同じものを作ってしまうかもしれない。撮影直後に興奮してそんな話をした。
しかし今となってはなぜそう思ったのか思い出せない。
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