知り合いと来ても楽しそう
日曜のお昼に取材に訪れたのだが、お客さんが次々やってくる状態で、ご迷惑をかけないようにお客さんがなるべく映らない写真を撮るのに苦労した。
知り合いと来ても楽しそうだなと思った。地図を見て、自分では分からないことを教えてもらえたりするのも楽しい。
田中さんによると、お客さんは全国から訪れてくれているそうだ。ゆくゆくは地理好きの人々が集まって話ができるようなコミュニティの場になれたらいい、とも。いいですね。
東京・駒澤大学駅に「空想地図」という名前の地理系ブックカフェができたという。店主みずからも空想地図の作り手だったそうだ。
地理・地図好きとしては大変気になる。とにかくかけつけてみた。
まずはお店のようすをばばっと見てほしい。
ブックカフェというだけあって店内には本棚がいっぱいに並び、本もぎゅうぎゅうに詰まっている。それらがすべて地理系の本なのだ。
そしてブックカフェなので、これらの本は読み放題だ。自席に持ち帰ってコーヒーを読みながらゆっくり読むことができる。
47都道府県の都心の成り立ちを論じる「県都物語」。とてもいい本だと聞いていたので読んでみたかった。そんな感じの本がここには大量にあるのだ。
このお店「空想地図」は東京・駒澤大学駅から歩いて2分くらいのところにある。
ここを半地下のように下っていくと・・、
店主の田中利直さんが迎えてくれる。
田中さんも自身も空想地図を描いていたらしい。どんな地図を描いていたのか。そしてどうしてカフェを開くことになったのか。話を伺った。
そもそもの発端は、田中さんの娘さんが5年前にしたこのツイートが広まったことだ。
田中さんが大学生のときまで描いていた空想地図を、娘さんが拡散した。反響は大きく、現時点で7万いいねになっている。すごい。
このツイートが広まったことで、テレビ番組「奇跡体験!アンビリーバボー」にも出演した。それ以降、地図を制作する会社の人や、他にも空想地図を描いている人たちと繋がりができるようになったという。
大学生まで地図を描いていた田中さんはその後とくに地図に関係する仕事にはつかず、実際のところ飲食業界(デニーズ)で30年も働いたそうだ。
「長いこと店長をやっていたので、独立したいという気持ちも何かしらはありました。子どもたちが大学を卒業するタイミングがちょうどこの4月だったんです。それで妻と二人で新しいことを始めようかなと」と田中さん。
カフェなら今までの経験も生かせるし、家にある本のコレクションも活用できそう、ということで地理系ブックカフェを始めたそうだ。つまり店にある膨大な本はほぼ田中さんの私物なのだ(一部販売のための棚もある)。
店内には、田中さんが描いていた空想地図(をスキャンして印刷したもの)が壁にかけられていて、実物大でみることができる。
街の名前は「静浜市」というそうだ。
田中さんの出身は静岡市とのことで「静」の字はそこから来ているのかもしれない。しかし街そのものについてはまったく自由に想像して描いたそうだ。
静浜港はカクカクしていていかにも掘込式という感じだ。近くには倉庫や工場がいっぱいある。港の近くの町の名前が「潮見」なのがぐっとくる。近くに鉄道もあり貨物線跡とかもありそう。たのしい。
真ん中をいくつかの筋で流れる川が素敵だ。天竜川をイメージしたとのこと。川の東には高陵台団地という大きな団地がある。河岸段丘とかだろうか。川への見晴らしがよさそうだ。住みたい。
田中さんがすごいのは、地図だけじゃないということだ。その街についての空想の何かをいろいろと作ってしまう。
「実はこういうものもあります」といって見せてくれたのが以下の資料だ。
たとえばこれはFMラジオ番組表だ。ロゴも込みで空想している。
夕方6時30分からの「FM電リクサタデー」が気になる。聞きたい曲を電話でリクエストするのだろう。そのための架空の電話番号も書いてある。
こちらは高校野球の地方予選の対戦表とスコアだ。得点だけでなく、各選手の名前と背番号、打席数、ヒット数、エラー数なども細かく考えられている。
これは試合結果のごく一部で、全体を見ると大差でのコールド勝ちの試合が結構あった。この夏に甲子園の地方予選を観戦して知ったのだが、地方予選では確かにコールド勝ちはしょっちゅうある。しかもコールド勝ちしたチームが次にはコールド負けしたりする。チーム間の実力差が激しいんですね。
これは静浜市を含む広域での市外局番の一覧。五宮市は基本的に 0431 なのだが、五宮市の一部だけは静浜市と同じ 043 なのだ。すごいありそう。
これらを書いたのは大学生までのころだから、30年以上前だ。すごい。やばくないですか。
田中さんの空想地図も楽しいのだが、ここはカフェなのでその点での楽しみも紹介したい。
まず wifi はフリーで、電源もフリーだ。特に今回は取材しつつスマホを充電できたのでとても助かった。ありがたや。
「空想地図ブレンドコーヒー」を頼むと地図のプリントされたマグカップでやってくる。これは新宿ですね。
フレンチトーストの「和風断層」はこんなだ。確かにフレンチトーストがオーバーハングしてる感じが、模式図でみる逆断層の断層面のような気がしないでもない。
これは「チョコレートストレーダタワー 」。地層をイメージしたもののようだ。見てたらお腹空いてきた。
店内で気になったものを最後にいくつか紹介したい。
まず『空から東京 ― 航空写真集 (23区) 』(西武新聞社)という本。
空撮写真ならネットでも見られるのだが、大きいサイズの書籍で見開きで見る体験はやはり違うなと思った。
とくに、こういうふうに鳥瞰で斜めに撮られた写真はめったにない。貴重だし、好きだ。マンション広告で街の鳥瞰写真があるとしげしげと眺めてしまう。
木製の東京都の地図パズル。
日本地図を都道府県単位で分けるやつはたまに見るが、これは市町村単位だ。しかも島まである。ライターの西村さんがこのパズルの作家に取材をしている記事があるのでそちらもよければ。
あらためてみると稲城市って山梨県みたいだ。発見がある。
そして最後はカフェのメニューだ。
これ、なんと田中さんの娘さんが(中心となって)デザインされたものなんだそうだ。5年前にお父さんの空想地図を広め、こんどはカフェのメニューをデザインするとは。いい娘さんだ・・。
地理系ブックカフェ 空想地図
http://www.fantasy-maps.cafe/
営業11時〜21時(水曜定休)
日曜のお昼に取材に訪れたのだが、お客さんが次々やってくる状態で、ご迷惑をかけないようにお客さんがなるべく映らない写真を撮るのに苦労した。
知り合いと来ても楽しそうだなと思った。地図を見て、自分では分からないことを教えてもらえたりするのも楽しい。
田中さんによると、お客さんは全国から訪れてくれているそうだ。ゆくゆくは地理好きの人々が集まって話ができるようなコミュニティの場になれたらいい、とも。いいですね。
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