特集 2022年11月29日

くさ美味い博多豚骨ラーメンのアンモニア臭はどこからするのか

くさうまい豚骨ラーメンを食べてみるとアンモニアの匂いがした。これはなんだ!?

いつも匂い方面で異彩を放っているラーメン屋が近くにある。入ってみると店内の匂いも強い。ラーメンに至ってはツンとくる刺激臭。これはアンモニアの匂いだ。

くさいラーメンってそんなことになっているのか…?? 調べていくと奥深い世界が待っていた。

動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

前の記事:マルエツやイオン、港区になり背伸びしはじめたスーパーを冷やかしに行く

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

くさいラーメン屋に入ってみる

「くさいラーメン食わしてくれよ!」とギャンブル狂のおじさんが言う。豚骨ラーメンを「くさいラーメン」と呼ぶのは2014年キングオブコントに出てきたシソンヌのコントだ。

たしかにそういう匂いを放つラーメン屋はある。だけど実際に食べたことはなかった。それから8年、自分の何かを変えたかったのか普段やらないことをしようとそういう匂い系のラーメン屋に入った。

老眼気分を味わってもらいつつですね…

くさいラーメンはしっかりくさい

中に入って驚いた。中もしっかりくさいのだ。ああいう店ってちゃんと中もくさいのかと感心した。

そのうえラーメンを食べてみてさらに驚いた。麺を口に持っていくとツンとくる刺激臭。アンモニアの香りだ。すごい。

とんこつラーメンの驚き
アンモニア級にくさいの!?

シソンヌのコントでは店主の前で「くせえ! くせえ!」とラーメンを食べるがあれは冗談ではなかったのか。

ラーメン自体はおいしくいただいた。しかし衝撃がある。くさいラーメン屋、中もしっかりくさいどころか、その本丸のラーメンにいたってはもはや刺激臭がするのか!

検索をしてみる

今までに食べてきたとんこつラーメンとは違う世界だ。いや、もしかしたらあの店が特殊なのかもしれない。家に帰って検索をする。

検索でおぼろげに分かってきた。アンモニア臭がするとんこつラーメンというのはしばしば存在する。そして豚骨ラーメンの匂いを調べているとこんな動画とそれをまとめた2022年1月の記事が出てきた。

上記の動画シリーズの結論をまとめた記事→ 「博多ラーメンはなぜ臭いのか」 高田馬場のラーメン店主が追求、スープから枯草菌 高田馬場経済新聞

あのくささは求められたもの

これはラーメン屋さんがどうすればくさいとんこつラーメンを作れるのか研究したものでこれがとにかくおもしろかった。

内容は後述するとして、衝撃だったのが、そもそもくさいとんこつラーメンはあの匂いを目指されて作られていたこと。みんなあの匂いが嗅ぎたくてラーメンを食べに行ってたのだ。どんな世界なんだそれは…!!

とんこつラーメンの驚き
みんなくささを求めていた!?

くさいラーメン屋をめぐる

俄然興味がわいてきたのでくさいラーメン屋めぐりをすることにした。

GoogleMapで「くさい ラーメン」「アンモニア 豚骨」などで検索をする。するといくつか目星がついた。とりあえず一店行ってみよう。家から一番近い店を選んだ。

口コミを見ると本格派、本場のとんこつラーメンが食べられる店、そんな評判があった。「臭い」のキーワードももちろんある。

くさいとんこつは目指されたものだとしても、他人にくさいとか言われたくないだろうから今日は全部ぼや~っといきます

夜6時くらいに店に行くと、たしかにあの「くさいとんこつラーメン屋」独特の匂いがする。匂い自体は最初のお店よりは控えめだろうか。排気の環境や鍋の数にもよるのだろうけど。

中に入っても店いっぱいにあの香りが充満している。中華麺をゆでる香りと動物性の何かの匂いだ。

アンモニア臭がしたとしてもラーメンはおいしいんですよ

くさいラーメンからアンモニア臭はするのか?

ラーメンを頼んでスープを嗅ぐ。アンモニア臭はあまりしない。飲んでみる。おいしい。塩分が少なくて大人なラーメンだ。

やっぱりくさい店としってもアンモニア臭がする店としない店があるのか、と思って麺を持ち上げ嗅いでみる。

……する!!

ちゃんとする、安心しました​​​​​

あのツンがした。アンモニア臭がしたのである。それが最高という境地には未だ至ってはないが、したことがうれしかった。最初の店で起こったのは事故ではなかった。くさいラーメンはこういうものなのだ。

だけど不思議なことがある。スープを嗅いでもそこまでアンモニア臭がしないのだ。だけど麺を鼻に持ってくるとツンと匂うのである。これは違う匂いなのか??

とんこつラーメンの驚き
アンモニア臭ととんこつ臭は別物!?

もしかしてこのアンモニアの臭いと店の外まで漂う豚骨のくささは別物なんだろうか? 麺がアンモニア臭くてスープが豚骨臭いのだろうか?

とんこつラーメンからアンモニア臭がするという驚きから始まったこの記事であるが、ここから「どこからアンモニア臭がするのか?」という謎に興味が移っていく。

枯草菌というものがとんこつの匂いの原因??

先程のくさいとんこつラーメンを作ろうとしている動画ではその匂い(アンモニア臭ではなく「くさい」について)の解明に挑んでいる。おもしろかったところをかんたんにまとめると…

・ラーメン屋としてはあの匂いは菌によるものという実感がある
・それは新しいスープに古いスープを足してくさくしているから
・研究所に送ると枯草菌が検出された
・豚の頭骨を煮るとくさくなるという定説がラーメン業界にあり、頭骨の口部分に残った餌から枯草菌が来ているのでは?

へー、そんな菌があるんだなーと軽く考えていたが検索してみると納豆菌も枯草菌の一つらしい。

……そうか、納豆もずっと置いておくとアンモニア臭がする(昔は保存状態がよくなくてアンモニア臭を和らげるために辛子がついていたそうだ)。そう考えるとこのアンモニア臭は枯草菌から来るものと考えればイメージしやすい。

とんこつラーメンの驚き
納豆みたいに枯草菌でアンモニアが!?

うわ、そうか、そういうことか! 豚骨スープからアンモニア臭がするのか!? だけどそれでなんで麺だけ匂うのだろう?

麺だけを嗅いでみる

博多ラーメンには替え玉というシステムがある。替え玉を頼んで麺を嗅いでみる。だけど見たまんまの中華麺の匂いがしてアンモニア臭はしない。

替え玉は別のお皿に入って出てくる。嗅いでみる。麺の匂いがする。

しかしこの替え玉をスープに沈めるとアンモニア臭がするのである。

あれ?? これは一体どういうことなんだ??

スープに入れるとちゃんとツン系の匂いが宿るのである。

お会計をしながら「それが嫌だというわけじゃないんですが、アンモニアの臭いって何からしてるんですかね?」と聞いてみる。

「かん水の匂いですね。麺のかん水からするんです」と。

とんこつラーメンの驚き
麺のかん水がアンモニア臭!?

麺のかん水!? 中華麺っぽい匂いはかん水から来ているとは聞くが、あんなに外に豚骨スープが匂いを放っているのに、麺が!? 麺もスープも別々にくさいみたいな奇跡あるのか!? にわかには信じられない。

麺からアンモニア臭がすることになっているようだ

家で再び検索をしてみる。「ラーメン アンモニア」で出てくるのは、麺のかん水、麺がアルカリ性だから、麺の保存料で、麺の保存状態が悪いという話はたしかに出てくる。食べる側のラーメンブログだけでなく、製麺所やラーメン店がそう言っている。

アンモニア臭はとんこつの匂いとは別物だというのだ。

だけどものすごくモヤモヤしないだろうか。スープが豚骨でくさくなるのに、麺が別の理由でくさくなるなんてことが確率的に起こるのだろうか? バスケットボールマンガで監督が「見てるか矢島…お前を超える天才が…しかも二人」みたいなくささの奇跡が起こってやしないか。

そもそも今まで星の数ほどかん水の入った中華麺を食べてきたがアンモニアの臭いを感じたことがない。だけどくさいラーメン屋に入ると今のところ100%の確率でアンモニア臭がするのである。

これは納得しにくい。

検索で出来たラーメン屋のツイートに「よく豚骨らーめんを食べる時にアンモニア臭がすると言う人がいますが、あれはスープの匂いでは無く、低下水麺の中の防腐剤の匂いです」という一文があった。

「ということは、替え玉の時点ですでにアンモニアの匂いがするんですか?」とリプライを送ってみると「そうです」と返ってきた。う~ん、そうかな!?

とんこつラーメンの驚き
替え玉がすでにアンモニア!?

理科の先生に聞こう

この状況なにかに似ている。いちご大福のピリピリを調べたときだ。お店は「しません」とクレーム扱いするし、検索しても「いちごが呼吸しているんです」と業界ならびにお店のHPが説明をしていた。(『なぜいちご大福はピリピリするのか?』)

その時は理科の先生に聞いて、アルコール発酵が起こってるんではないかという話になった。ということで今回もデイリーポータルZのライターでもあり中高の理科の先生である加藤まさゆきさんに聞いてみる。

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加藤さんもかん水からアンモニア臭というのに納得してないようだ。麺だけ香るのは麺を食べるときの息の吸い方でとんこつスープがより香ってるのではないかと。すすって香る説だ。

スープと合わせてそう感じられてるのではないか? という化学反応説というか合体説がまた新たに出てきた。

とんこつラーメンの驚き
麺とスープが合わさってアンモニア臭!?

ちなみにいちご大福の記事は話題になり、テレビでも紹介されたがその時はあくまで一説であり業界としてはいちごが呼吸しているから、と紹介していた。

なんで? と思ったが、たしかに真実だとしても、それで商売してる人の主張はあまり無邪気に否定できないのも確かだ。テキヤに当たりくじがないのはグレーゾーンのままにしておきたい。

くさとんこつ有名店へ向かう

とはいえ、天動説を知ってしまった私の知の探究心は止められないのである。新たなくさいラーメン屋へ向かおう。

一方、次の有名店へ。本場の豚骨を味わうなら東京ではここ、という有名店にやってきた

電車とバスをのりつぎ片道一時間半。くさうまい! とレビューが並ぶ有名店に来た。有名である理由は味のおいしさであるようだが、匂いも今までで一番強い。数十m先からでもその匂いがわかる。

匂いも強い。おいしそうだ。海苔に書かれているのはありがとうの文字。とんこつラーメン店において海苔は媒体になるのか
スープを飲む。アンモニア臭はしない。とてもおいしいスープだ。人気があるのがわかる。

有名店のとんこつラーメンはうまみが強く、もっと、もっと、と飲んでいたくなる味。アンモニア臭はせず。

麺を持ち上げて香る。くる。やっぱりアンモニア臭はする。

だけど麺を持ち上げるとくる。すするとさらにくる。スープにアンモニア臭の一片を感じられるような気もするが、自信はない。

替え玉を頼んで嗅ぐ。やっぱりアンモニア臭はしない。
ぶわーっと湯気が立つがアンモニア臭はしない。
だけど麺に入れるとアンモニア臭はする。いや~、わからん!

謎は残したまま

3店中3店ともである。外までくさい店のラーメンの麺からアンモニア臭がすることはわかった。

「くさいラーメン屋はアンモニア臭がするレベルである」という自説は強化されたものの、そのアンモニア臭が麺のかん水由来なのかスープの豚骨由来なのかは確証には至らず。

だけど替え玉が今回も匂わなかったので「麺のかん水がアンモニア臭」という説の線はさらに薄くなった。

スープにアンモニア臭があり、息の吸い方で麺から香るというすする説は未だに有効。匂わなかった麺をスープにつけると匂い出すのだから体感としては化学反応、合体説もしっくりくる。

わからない。謎は残したままラーメンだけがおいしくて、とんこつラーメンへの愛は深まった。

私はこのバス停が嫌い。だってラーメン屋の匂いがするから。バスを待っていると並んでいる人がそんなことを喋っていた。

すすることが香る?

麺だけが香るのは息の吸い方なんだろうか。麺の息の吸い方で検索していると、「ラーメンはすすらないと風味を4倍も損する」という説に出会った。そうなの? 加藤さんに聞いてみた。

なるほど、スープにそもそも弱いアンモニア臭があって、すすることでそれが強く感じられるのか。

調べたところ、香りを感じるのは鼻の奥にあるセンサーに匂いの空気が当たるからである。それにはクンクンして鼻の穴から空気が来る鼻先香とモグモグしてるときの口の中から空気が来る口中香というのがあるらしい。

すするときは鼻の穴からも口の中からもどちらからも来てそうなイメージがある。だけどそれはたしかなんだろうか。

我々はどうやって香りを感じているのか、とんこつラーメンでない何かで確かめてみよう。

実験をしてみよう

豚骨スープの代わりににんにくを水で煮たものを用意した。麺は春雨にしてある。疑似とんこつラーメンである。

にんにくを5かけくらい150CCくらいの水で5分煮た。麺は春雨である。塩も入れた。とんこつラーメンは油でふたをされているという話もあったのでサラダ油でふたをしてある。くさにんにくスープであり、疑似とんこつラーメンである。
スープを鼻先で香る。にんにくの香り50点 店で食べるとんこつラーメンとちがって家で食べるにんにく春雨はすでに香っている。
鼻先で麺を香る。にんにくの香り40点 麺の香り30点 麺の香りというのがそもそもけっこうすることがわかった。​​​​​
スープを飲んで口中香で味わう にんにくの香り50点
麺を食べて口中香で味わう にんにくの香り70点 麺の香り50点 すすると香りを強く感じる。
とんこつラーメンの驚き
すするときが一番香る

・すすることで香りは上がる
・麺自体の香りというのもする
・スープだけでも香っている

体感としてはこのような点を感じた。すすることでスープがより香ってた説は高まったが……いや、煮え切らない。わからない。かん水説も消えてはいない。

あらたに浮上したのは麺の匂いがけっこうするということである。これは化学反応説というか、麺とスープの匂いが合わさるとアンモニアの合体説の線も強くなった。

ということは、麺を変えてみればいいのではないか。

とんこつラーメンの麺を春雨に変えてみる

ここで最初の店にとんこつラーメンの持ち帰りがあることがわかった。家でとんこつの麺を抜いて、春雨を使えばあの匂いが麺由来なのかスープ由来なのかはわかるのではないだろうか。

持ち帰り。ふたを開けて驚いた。めっちゃくさいのである。

家でふたを開けて笑った。めっちゃくさいのである。

くさいラーメンをくさいラーメン屋以外で食べると人は笑う。なんならもうすでにアンモニアの香りがしているのである。

とんこつラーメンの驚き
家で食べるとさらにくさい
アンモニアの香りがすでにしてることに笑ってしまう

これもうスープがくさいんじゃないかと思いつつも一回容器を移し替える。どういう理屈で麺が香るのか視覚的に見てもらおう。

スープからは香らないというのはこういう状態だと表面積が少なくて香らないが…
麺を持ち上げるとその複雑な形状からまとわりついたスープの表面積も爆発的に増える。だからスープの香りが麺から香るのではないか。

私が感じていたのはこのような、麺形状は表面積が大きいから香りがよくするというものだった。アンモニアは空気より軽いから上に上がっていくらしい。麺を持ち上げてまとわりついたスープから鼻にツーンとくるのもイメージしやすい。

麺を移し替えるときに香ってみる。家で嗅ぐとすごい。パニックになるくらいだ。

さてここから本題。麺を中華麺でなく、春雨に変えてみよう。

春雨に変えてみる。

 

持ち上げて鼻先で春雨を香る。アンモニア臭がする。
とんこつラーメンの驚き
春雨でもアンモニア臭はする
春雨を口中香で。すするときが一番アンモニア臭がする。とりあえずの結論としては今この状態では麺ではなくスープにアンモニア臭がある。

今、麺ではなくこのスープにアンモニア臭がある。

春雨に変えてもアンモニア臭はするし、なんなら持ち帰ってふたを開けた時点でアンモニア臭はした。

なのでこう考える。由来はどうあれくさいとんこつラーメンのスープからアンモニア臭がして、それは匂いが充満している店だと気づきにくく、麺をすすったときと麺を持ち上げたときに感じたと。

というのがとりあえずの結論なのだが、かん水がアンモニア臭の原因説が崩れたわけではない。というのも最初っから麺が入った状態で持ち帰ってきたためだ。

とんこつスープ自体にはアンモニア臭がなくて、かん水を使った麺と合わさることで化学反応的にアンモニア臭が発生していた。その線は一応残る。

ということでどうでしょうか、加藤さん?

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アミン化合物……調べてみると化学式が出てきて手に負えなさそうだった。

この先を調べるなら、とんこつのスープだけをもらってきて家で春雨と合わせるということだろうが、それはもう完全に実験目的になってしまうし加藤さんの言うように、ここらでいいだろう。納得はできた。


店以外でとんこつラーメンを食べるとさらにくさい

店の外まで匂うくさいとんこつラーメンはもうアンモニアの匂いがするまでにくさい。それはしっかり分かった。

北欧のシュールストレミングや韓国のホンオフェなど刺激臭のする食べ物は多い。人がなにかを嗜好する時そこには「おぞましさ」があるものだ、というのはこの記事が詳しい(人は嗜癖からはじまる:精神科医・松本卓也)。きもかわいい、みたいに、くさうまい、は人に当たり前に存在する。

くさいとんこつラーメンを4杯食べて、だんだんとくさうまいのを求める感覚も分かってきた。もうくさくないとんこつだと物足りないだろう。

世界の謎が一つ解き明かされるかわりに、わたしはくさいとんこつラーメン界の住人となった。あなたにも食べてほしい。

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謎探究でなぜか力を発揮しがちですが、私の能力的な本分はナンセンスギャグにありまして…お知らせさせてください。今なら駆け込みで見られます。

 

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