いちご大福の元祖を主張する店は何店かあるらしい。ここは昭和60年考案。そこそこ新しいものなのだ。
そもそもピリピリするのか
ところでピリピリすると思ってるのは自分だけなのかもしれない。
そこで和菓子店でいちご大福を買い求めながら「いちご大福ってピリピリしますよね?」とお店の人にきいてみた。
すると「……ピリピリしませんけど」との回答。まさか。クレームだと思ってるのだろうか。あの、ここの店がというわけでなくて一般的ないちご大福なんですけど。
「はあ、苺の酸味がもしかしたらそう感じるんじゃないですか?」
メガネにひびが入った。それだったら苺そのまま食べてもピリピリするはずだろう。つづいてもう一軒も同じ。ピリピリしませんよ、と。メガネが割れた。
5店にきいて4店は「ピリピリしない」という解答だった(1店は「傷んでるんじゃないですか」と)。
これはどういうことなんだ。もしかしておれが特殊なのか。ピリピリを感じる才能をもつ選ばれた人々、ピリピリファンタスティック・フォーなのか。
伊勢丹の地下でいちご大福あるかときいたら「あ~もう大体終わって今はここの一店だけなんですよ」と即答だった。すごい、把握してるのか。むちゃくちゃいちご大福が好きな人だったのかな。写真は別の店。
ピリピリは謎のまま
「いちご大福ってピリピリしますよね」
自分のTwitterに書いて同意を求めてみたところ2件返信があった。
「スーパーとかコンビニのレジ横にあるやつがピリピリして敬遠していたのですがたまたま最近近所の和菓子屋で買ったら全然ピリピリしなかった。鮮度の問題か添加物のせいかは不明です。」
いい店のいちご大福はピリピリしない説が出た。ぼくも最初これだったのだが、今は和菓子店のもあやしいと思ってる。つづいてもう1件。
「ピリピリというかシュワシュワしません?あれ絶対炭酸入ってるんですよイチゴに!」
た、炭酸? なんと炭酸説が浮上。しかし炭酸なんか入れないだろう。
「(※その返信)わたしも人生の中で同意を得たことは無かったんですが…おかしいなあ絶対炭酸入ってるのに」
やっぱりピリピリしない人がほとんどなのかな。ためしに一つ食べてみるか。
とりあえずたべてみよう。できたて5時間以内くらいの新しいもの。和菓子店で一個235円。高い。
ためしにたべてみる、できたてのもの
買ってきたいちご大福をためしにひとつ食べてみた。夕方にできたばかりだというから作って5時間以内のものだ。1個235円と和菓子店のいいやつ。
……ピリピリしない!
今のはピリピリしないのか? 傷んでる説か?
おかしいな。ピリピリしない。そういえば最近いちご大福をたべてない。いつのまにかピリピリしなくなったのか。
それとも新鮮だからか。和菓子店のあるおばちゃんが言ってた「ピリピリはね、いちごが傷んでるんです。傷みやすいですからね」が正しいのか。その説は感覚的に納得できるし。
だとしたらもう少し待ってみよう。傷んでピリピリするかもしれない。翌日、他の人に試してもらおう。
「ピリピリしないと思う。そもそも中学生くらいからいちご大福を食べてない」デイリーポータルZ編集部古賀さんに試してもらう
試食、そこそこの1つ
翌日、いちご大福を3つ用意してデイリーポータルZ編集部の古賀さんに食べてもらった。古賀さんはピリピリした覚えがない、そもそも中学くらいからいちご大福を食べてないという。
1つ目はある和菓子屋さんのいちご大福。一個180円とそこそこの値段。消費期限はこの日中で、食べたのは昼の2時ころ。
「……する気がする。でもそう思ってたべてるだけかな」
やはりピリピリする気がする
古賀さんの反応はうすかったが、「ピリピリする気がする」との感想をもらった。ぼくも食べてみたが、ピリピリ度2(10段階)くらいで、するかな?といった感じ。
おかしいな、これもっとピリピリするはずなのに。ああ、早くあのピリピリに当たらないかな……これ「壊れてるんですけど」と修理に持ち込んだらその場で正常に動くあれと同じ感じだ。
2つ目はデパ地下の和菓子店、一個250円くらい
「するねえ、これ! ピリピリするするする!」まさかのデパ地下きた!
ピリピリ大福はあります!
2つ目はデパ地下の和菓子店一個250円級の良いもの。これがなかなかきた。ピリピリ度4くらい。
古賀さんも「ピリピリするね!」と大きな声を出していた。わっはっは、そうでしょ、それですそれです!
ここで「いいやつはセーフでスーパーやコンビニなどの安いのがアウト」説はくずれた。いいものでもピリピリする。
さあ、つづいては昨日のピリピリしなかったもの。今度はできあがりから24時間近く経ったことになる。さあ、時間による傷みなのか?
「むっちゃする! ピリピリする!」ゲラゲラ笑い出す古賀さん
「時間が経つとピリピリする」ことがわかった
3つ目は前日夜にセーフだったもの。出来上がりから24時間近く経ったがはたして……する! これはピリピリする!
「これすごい、大スクープだね!」と古賀さんは感動してしまいには「そういえばあたしもピリピリしたから食べるのやめたような気がしてきた」と眠っていたトラウマを掘り起こすまでに。ただの大福がセラピー化している。
そして結論、ピリピリは時間経過に比例する。いい店でもピリピリはする。ということは和菓子店のおばちゃんが言ってた「いちごが傷んでるんです」が正解なのだろうか。
しかし話にはつづきがある。
その夜まで待ったらはっきりピリピリするようになった。ピリピリは時間経過に比例する。
検索してわかった
時間の経ったいちご大福はピリピリする。これは傷みによるものなのか? それとも保存料との化学変化?
ここで自分の頭を使ってもどうしようもなくなったので、ようやく検索の扉を開く(これは一瞬で答えが出るので奥の手だ)。すると「いちご大福 ピリピリ」の検索候補が出てきた。ほら! やはりみんなピリピリしてたのだ。
ある菓子店のHPのFAQ欄にその解答はあった。
参考 「Q&Aよくいただくお問い合わせ」如水庵
いちご自体が作り出す
「炭酸ガス」によるものと思われます。いちご自体が持つ糖分を自ら分解し、水と炭酸ガスを作り出す
“自己代謝”で、炭酸飲料のピリピリするガスと同じですので人体への悪影響はございません。
これくらい驚いたわけです
いちご大福って炭酸入ってるのか
Twitterでよせられた炭酸説、実は正解だった。イチゴは元々炭酸ガスを出す。それを餅で閉じ込めているから炭酸が中に入る。これ炭酸だったのか!
イチゴは呼吸してて密閉されてるから炭酸ガスが充満する
自分でも作ってみるか
検索をつづけていると、いちご大福は家で作れることがわかった。一度自分でも作ってみよう。保存料とか添加物によるものじゃないのかたしかめてみよう。
白玉粉とレンジで大福が作れるらしい。保存料とか入れずにピリピリするのかためしてみよう。
イチゴ以外でもいけるのか?
ところでイチゴがそのままでも炭酸化していくなら他の果物や野菜はどうなのだろう?
スーパーに並んでいたびわとミニトマトを選んだ。なんとなく手頃な大きさだったからだ。
いちご、びわ、プチトマト。出来上がったものはどれもそこそこおいしかった。餅とあんこの力はすごい。
理科の先生にも話をきこう
しかしイチゴが呼吸してるなんて話きいたこともなかった。ほったらかしにしておいたら冷蔵庫の中でも炭酸どんどん出すのかな? そもそも餅がだめなら、ケーキはどうなんだろう? ショートケーキの中に入ってるイチゴは炭酸化しないのだろうか。
ああ、あたまがわるくてわからない……
そこで高校の理科の先生であり、デイリーポータルZのライターでもある加藤まさゆきさんにきいた。
加藤さん、イチゴが呼吸をしていちご大福が炭酸化してるらしいんですけど、どういうことなんですか?
いちご大福が発酵食品? あれ? 納豆みたいなこと?
イチゴ大福は発酵食品?
おお、加藤さんが何か感動している。発酵食品? 授業のネタにする? 一体どういうことだ。納豆とかヨーグルトみたいなことだっていうのか?
呼吸をしてガスが閉じこもってるんじゃないのか。和菓子屋のHPにそう書いていたぞ。
加藤「発酵す、発酵。皮についている酵母菌が糖度の高いものを栄養源としてアルコール発酵するんです。副産物は二酸化炭素とアルコールだけだから、毒は出してないかんじです」
……!!
ワイン酵母をリンゴジュースに入れて作る密造酒のあれか!
お酒を作るあれか!
わかった。あれだ。リンゴジュースにワイン酵母を入れてほったらかしておくと炭酸入りのリンゴ酒になるやつだ。そうやって密造酒は簡単につくれると他のライターさんが言ってた。
あれが大福の中で起こっているのか。どうした、呼吸はどうした。大福の中で酒造りやっちゃってるじゃないか、大丈夫か。そもそもこのいちご大福は合法なのか。脱法大福とかそういうのなんだろうか。
いちご大福できた。作ってから36時間おいた。24時間くらいじゃ弱かった。
きたきた、なるほどお、ピリピリといってもたしかに炭酸だこれは
理屈がわかると味もかわる
ぼくが作った大福は皮の密閉が十分でなかったのか、炭酸化、いや発酵するのに時間がかかった。36時間ほど置いたものはなるほどこれはピリピリでなく、炭酸だなという味がした。
そして風味がちょっとかわる感じはアルコールによるものなのかなという気がする。うん。しかもいやではない。理屈がわかって味のとらえ方もかわった。
いちご大福、うまいじゃないか。安心できた。このうまさはやっと安心できたうまさだ。なんか古いばっかりあたってるなと思ってたが、ここにきてやっといちご大福とわかりあえた。
同時に作っておいたイチゴゼリー。ぬるい原液を流し込んで冷蔵庫で固め、そのあと室温で放置してた。そしたらガスっぽい泡がでてきてゼリーは液体に戻った。ゼリーって室温で戻るんだっけ?
大福でなくゼリーはどうなんだ?
大福と同時にゼリーも作っておいた。しかし室温が長かったのか、もとの原液に戻ってしまったようだ。泡が出てるのは炭酸ガスか。イチゴを食べてみると、うん、たしかにこれも炭酸っぽい。
――ゼリーはどうなんですか? ショートケーキの中のイチゴは?
加藤「ゼリーはいけます。でも発酵進むとゼリー自体溶けちゃうんですよ。(※ぼくのもそうなった、室温のせいじゃないのか)
ケーキは、水分含有量と糖度の高さがあんこほど適切ではないのかもしれません。あんこの水分量と糖度がアルコール発酵にベストなのか!と気づいて目からうろこでした」
――あれ?ちょっと待ってください。果肉の糖分だけではなくあんこの糖分と酵母が反応してるんですか?
加藤「そうですね、というかあんこの糖分がむしろメインなのではないかと思います。ていうかあんこの糖分です、たぶん」
なんと。大福の中であんことイチゴの皮が酒を密造しているのだ。図にするとこうなっていたのか。
いちご大福はお菓子じゃなくて造り酒屋に近いのではないか
ミニトマト大福はどうなったか
炭酸感じないな。味はそこそこおいしい。
びわ大福はたべるときに皮をむく必要あり
「あ~!あ~!」味がかわってるのはわかるんだけど炭酸はいまいちわからない。皮が硬いから入っていかないんじゃないか。
イチゴじゃなくてもいけるのか?
仕込んでおいたミニトマト大福とびわ大福を試食する。トマトの方は全くかわってなかったが、びわの方はかすかに変化があった。かすかにだが、炭酸づいてるような気もするし、風味がかわってる。
――加藤さん、びわでもいけますか?
加藤「天然酵母なのでブドウとかリンゴでもいけると思いますが、びわですか! 検索したら酵母採集やってる人いますね。いけそうですね」
う~ん、たしかにいけたのかもしれないが、炭酸が中に入っていかなかったんじゃないか。味はかわったのだが……
びわは入っていかなかったんじゃないかな
炭酸あんこができる?
――あんこの糖分で発酵するなら、皮とあんこの大福でも発酵するのでは? あれ? その場合炭酸はどこへいくのかな
加藤「大福が膨張するか、あんこ自体がシュワシュワする感じになると思います!」
まさかの炭酸あんこ。できるのかそんなの。いちごの皮(表面に近いところをうすく切って)で作った大福の様子もみてみよう。
イチゴの皮とあんの大福。ラップがふくらんでいる!
皮はもうシュワシュワなんだが、あんがシュワシュワするのがわからないし、してたとしても見分ける自信がない!
※追記
本稿公開翌朝のめざましTVで、話題になったツイートを取り上げるコーナーにおいてこのいちご大福記事が紹介された。
そこで専門家の方に話をきいていたのだが、やはり自己代謝の炭酸化もあるのでは?ということだった。酵母のアルコール発酵と自己代謝、ダブルで炭酸化しているそうだ。こりゃもうシュワシュワにシュワシュワである。
シュワシュワのピリピリでいちご大福は(……もう辛抱たまらん!)感じになっているのだ。
私といちご大福が兄弟として同じテーブルにつく日がやってきたのだ
見事に答えが出た。そして味がかわった。
検索もすごいが理科の先生がすごい。理屈をわかってるということがこれほどまでに強いとは。理屈がわかると世界が変わる、あのうさんくさかったいちご大福のピリピリが許せるようになった。
おれはいちご大福を許す。そしてピリピリなんてしないですよと言った和菓子屋のおばちゃん(5店中の4名)も許す。
いちご大福はあまりにも特殊だ。和菓子屋の中にひとつだけ自家製ビールキットなものがまぎれこんでいるのだ。
まさかあのおばちゃんたちも自分とこで作ってるものが酒になっていってると思わないだろう。
……いや、やっぱり心がせまいので許さないことにした。ピリピリは認めようよ、ピリピリは。
するんだよ、ピリピリ。
冷蔵庫に入れると発酵しにくくなりピリピリも少なくなるが、餅がカチカチになる