調査へ同行
日付は変わって、とある満潮時の晴れた日、わたしはクラゲ調査に同行させてもらえることになった。
クラゲなど、自然の生きものたちを適切に保全していくためには日々の調査研究が不可欠。
九十九島水族館海きららでは、主に満潮時に複数のエリアで調査活動を行っている。
調査用の道具が入ったバンに乗り込み、約15分ほどで到着した。
すくい網と柄杓、バケツなどの道具を一式持っていざフィールドへ!
俵ヶ浦は佐世保湾と外海を隔てている半島で、美しい展望台やトレイルコース、砲台跡や海水浴場などがある自然と歴史にあふれたエリアだ。
採集は、漁師さんが多く暮らす場所で、漁船が停まる港周辺で行われる。
防波堤向こうの外海側、船体の下や筏の下などをつぶさに観察しながら、だいたい2~3時間程度、フィールドを歩いて採集する。
だいたいアタリをつけた海水をザバッとすくいバケツへ。それをガラスシャーレに移し、まずは肉眼でクラゲがいないかチェックしていく。
「あ、いたいた」と、スイスイとスポイトでクラゲを吸い取り、種類ごとに標本ビンに移していく後藤さんと木下さん。
後藤さん「水族館で展示されているクラゲをご覧になっているお客様が『小さいね~』と話されているのをよく耳にするのですが、僕たちからするとかなり大きいレベルなので、『それはまだ大きい方なんですよ』と声を掛けたくなるのですが、いつもグッとこらえてます(笑)。」
その言葉にも納得してしまう。わたしもミズクラゲやアンドンクラゲ(九州地方では『イラ』と呼ばれてます)が標準サイズだと思っていたけれど、新種を含むクラゲの大多数はミリ~ミクロンの世界なのだきっと。
――わたしにはもはや見えないし、プランクトンとの区別もつきません。ところで、海水浴でついつい「海水飲んじゃった」ってことがありますが、これって結構飲んでるってことですよね。
後藤さん「飲んでますね。おそらくクラゲも。」
木下さん「僕たちがやっているのは定点観測なんです。もちろん季節や天気によって観測される個体数も変わるので、本当に地道な積み重ねです。」
後藤さん「こういうフィールド調査以外にも、特定のクラゲを取りに行く採集もあるんです。例えば潜水して、海藻とかにくっついているカギノテクラゲを採集することもあります。」
館内に展示されているカギノテクラゲは確か、後藤さんの上司の方がプライベートで見つけたとのことだった。釣りや自然観察でいつもさまざまなフィールドに足を運ぶらしい。
後藤さん「僕も、調査の日にちょうど小雨が降った日があって。行こうか迷ったんですが、たまたま行ったその日にアマクサクラゲを発見しまして。それが水族館で展示されて、調査に行って良かったと、とても嬉しい瞬間でした。」
――え、それは嬉しい。しかも新種も数年おきに続々と発表されていますよね。新種を見つけて自分の名前をつけるとかロマンがあるなぁ……。
後藤さん「あとは水族館のマリーナで行われる夜間採集もあります。眼点という、クラゲの目が発達したやつがいて。イカリヨツボシクラゲだったりとか採れるんですよ。海の中に光をズボッと入れてそれを感知して集まって来るんですけど。ビードロクラゲやアンドンクラゲもそうですね。」
この後また違うフィールドにも足を運んだが、やはり収穫は少なかった。
これぞ定点観測。ただ黙々と一心に、データを集めていくのである。
その延長上にある新種発見。コツコツとした積み重ねの中にあるとんでもなく眩しい光にどれほど彼らは震えるのだろう……!
生体の解明、新種発見に終わりなし
たっぷり二日間、クラゲ研究室にお邪魔していろんなことを聞いた。たぶん今回の記事に収まり切れなかった部分もたくさんあっただろう。
それだけにクラゲは奥が深く、謎が多いのである。
未知なるものへの探求と地道なデータ採集。その先に見える新しい真実を発見した時の喜びはわたしたちの想像の比ではないかもしれない。
クラゲ飼育員のお仕事はそれだけにやりがいも苦労もある。
クラゲ研究室近くの壁に掲げられた、九十九島水族館の名誉館長・下村脩氏のメッセージ「決してあきらめない」はまさに彼らの精神を物語っているのである。
【取材協力】
九十九島水族館海きらら
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