風のない日に撮影しよう
今までで1番大変な撮影だった。
でも帰りに撮影者とお寿司を食べに行き、写真を見返したのが楽しかった。
動画から切り出して写真も作った。
いろいろ学んだ一日だったけど、一番身に染みたのは「風の強い日に撮影はやめたほうがいい」ということだった。
小学生の頃、家族でよく登山をした。
山の稜線を歩いていると父が「今、雲の中にいるぞ!」と言ってきた。
まだ子供の私は、雲は触るとふわふわで乗れるものだと思っていたから、雲の正体がなんにもなくて驚いた。
今も雲はとても魅力的だと思う。
のんきに漂ってるだけじゃなく、雷を鳴らしたり、綺麗な雪を降らせたりする。
なんて神秘的な自然なんだろう!
雲のいいところなら3時間くらいカフェで語れる。
今回は、そんな憧れの雲に乗っているように見えるドレスを作りたい。ドレスを着て空を飛んでいる写真が撮れたら、それはそれは映えるんじゃないだろうか。
さぁ今こそ、子どものロマンを叶えてみよう!
雲のドレスのデザインはすぐに浮かんだ。
足元に雲があり、ヒザの部分が透けて足が見えていれば、雲に乗っている感じが出せるだろうと考えた。
次に雲を何で作るかが問題だ。
デイリーポータルZには以前小堺丸子さんの「きんとうんに乗るという夢を叶える」という記事があり、そこではスケボーを芯にしてワタで雲を作り、ふわふわした様子を表現していた。
しかし今回のドレスではヒザが隠れるぐらい大量に雲の部分を作りたいのだ。
スケボーと違ってドレスにワタを貼り付けても雲の形にはならないだろう。
ワタを中に詰めて雲の形にするのもありだが、それだと雲の形になるような型紙を書かなければならないのだ。
さぁ、どうするよ、雲。
そうだ!白い風船ならどうだろう。
ふわふわ・もくもく感がだせるのではないか。
調べてみると、結婚式などで使われるバルーンガーランドがよさそうだ!
雲に見えそうだ!一気に現実味が増してきたぞ!
雲のようにフワッとしたアイディアから、作れそう!と具体的になる過程が制作の楽しみでもある
というわけでデザインを描き直した。
作り方はシンプルだ。
ヒザが透けた白いドレスを作り、そこに風船をくっつけるだけ。
きっとこれを着てジャンプしたら、雲に乗ってるみたいに見えるはずだ!
さて、さっそくドレスを作っていこう。
今回使用する布はこちら。
ドレスにはウエディングドレスに使われていそうな、ツルツルとしたハリのある生地を選んだ。
透ける部分はウェディングドレスのベールなどに使われる柔らかくて透け感のあるソフトチュールを使うことにした。
最初のメモでは、透ける部分をPVCで作ろうと考えていたが、今回のドレスはソフトチュールのほうが合いそうだと思った。
イメージに合うように布の風合いや組み合わせを選ぶのも、洋裁の楽しいところだ。
さぁ、作っていこう!
まずは手持ちのワンピースからドレスの型紙を作る。
1から書くより、形やサイズ感の似た服から型紙を写したほうが楽。
修正を重ねて、型紙が完成!
型紙ができたらもう気が楽だ。
次に裁断して縫い合わせていく。
次にソフトチュールに切り替える位置で切る。
ここに透けるソフトチュールをつけていこう。
ソフトチュールはふんわり見せるためにギャザーを寄せてからつけることにする。
ギャザーというのはひだを寄せて柔らかい雰囲気をだす技法だ。
こんな感じ!
布が寄ったまま縫えばひだがふわっと膨らむのだ。
洋裁はいいな。
服に集中してる時は、歳をとらない気がする。
よし!ぐしぐし完成!
これを先程のドレスにくっつけると、
この下にもう一段白い布をつけて、風船をくっつける土台にしよう。よしよし、順調!
洋裁はひとつひとつの工程の達成感と、どんどん出来上がっていく疾走感がたまらない。
そのうえ上手に作れている時なんかはもう嬉しすぎて小躍りしちゃう。
でも、お腹は減るね。
作業に戻り、スカートの下部分をつけた。
背中にファスナーをつけて縫い合わせ完了!
ここで完成といきたいところだが、最後に裏の端処理をしていく。
ここでロックミシンの出番!
ロックミシンは縫い端処理用のミシンだ。
足踏みでミシンを進めていく。
縫い合わせたところを全部縫うので、裏処理は地味に時間がかかる。
もう西日が当たってきた。
できたー!もう夜になっちゃった!
ヒザの透け具合もちょうど良い。あとは風船をくっつけるだけだ!
次は白い風船で雲の部分を作っていこう。
雲の作り方は簡単!
風船を2つずつ結んだものを2つ用意。
風船の結び目で糸を挟み、
結び目を中心に、風船どうしを重ね合わせ、ねじって絡ませる。
3ねじりぐらいすると固定された!
これをひたすらつなげていくと、こうなる。
風船は犬に似ている。
最初はいつ割れるか、どのくらいの強さで触ったらいいか、おどおどしながら接していたけど、慣れてくるとバルーンアーティストみたいな手つきで風船をねじり始める。
犬もそう。
最初は吠えたり噛まれたりするかもと思ってあんまり触れないけど、慣れてくると顔をうずめてヨシヨシできる。そんな感じだ。
そして風船をドレスにくっつけていく。
風船が割れることを恐れて針を使わずにテープで固定。
できた!こんな感じになりました!
さぁ、飛びにいくぞ!
昨日までカンカン照りだったのに、今日は一風変わって曇り空。さらに強風。さらにこの後、雷雨予報。
青い空と白い雲の下で写真を撮ることを夢見ていたのだが、正反対のコンディションである。
そして相対してすぐに分かった、本日の強敵は風だ。
風で風船が暴れまわる。
足の間に風船が入ってきて、歩くのも一苦労だ。
映えた写真が撮りたいのに、大変そうな写真ばかり撮れる。整えてきた髪もぐしゃぐしゃ。
まって、なんかもういろいろ大変。
強風で風船が引っ張られ、ドレスに固定していたテープがどんどん剥がれていく。あぁ、まって!
地面の当たりどころが悪いと風船が割れる。4つで結んでいたうちのひとつが割れると均衡が崩れて3つが飛んでいく。まっておくれ!
風のせいで大変なことばかりだが、風のおかげなところもある。
風船がふわふわ揺れるのだ!
私は風船で動きにくいなと思っていたけど、こんなに楽しそうな雲が撮れていたんだね。
さぁ、こうしちゃいられない。
この後の予報は雷雨なのだ。
早いところジャンプして写真を撮りたい。
ジャンプの衝撃で崩れていくドレス。
手塩にかけて作ったのにという気持ちが少なからずある。
撮影者が全速力で走って風船を追いかけて行ってくれた時の写真がこちら。
でも、あれ?遠くから見るとすごく雲っぽい!
拡大すると、完全に雲だ!雲に乗っている人だ!
飛んでいった風船を走って取りに行ってくれた撮影者も最初は笑ってくれたけど、5回目ぐらいからは本当にごめんという気持ちでいっぱいだった。
ジャンプでこれ以上崩れることを恐れて、とりあえず雲に乗ってる風な写真を撮ることに。
何枚か撮ってみたけど、やっぱりジャンプして写真が撮りたい。
ふわりと浮く雲の上に乗った写真が、今回の目標なのだ。
目指す写真が撮れないまま強風にさらされていると、数か所のテープが剥がれて崩れ、雲の形が変わった。
そうか、雲って形を変えてゆくものだもんね。
そう思ったら少し気が楽になって、もうどうなってもいいからジャンプしてみようという気持ちになった。
やぁ!
ふわふわした風船の動きが1番雲に見える!
よし、もう一回飛んでみよう。
それ!
何度かジャンプして遊んでいたら、完全に雲が壊れてしまった。
レッドカーペットを歩いてそうなセレブのドレスに見えなくもない。
結局全然映える写真を撮ることはできなかったけど、雲のドレスを存分に楽しめた。
風船が崩れて形が変わっても、これはこれでいいかもと思えた。
変わりゆくものをその時々で楽しむという、日常の楽しみ方にも通ずるものを、常に変わりゆく雲から改めて教わったな、と思った。
今までで1番大変な撮影だった。
でも帰りに撮影者とお寿司を食べに行き、写真を見返したのが楽しかった。
動画から切り出して写真も作った。
いろいろ学んだ一日だったけど、一番身に染みたのは「風の強い日に撮影はやめたほうがいい」ということだった。
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