特集 2021年9月1日

戦時日本のカロリーメイト!?興亜建国パンは大豆のコクが活きた味だった

太平洋戦争中に開発され、ひっそりと消えていった興亜建国パンなる食べ物がある。

パンの中に野菜や魚粉などなど、いろいろな物を混ぜて焼き上げた「これさえ食べときゃ大丈夫」なカロリーメイト的なパンだったそうだが、味の方がイマイチだったので普及はしなかったという。

以前、戦時中に発明された代用チョコレートを試みた私としては、ぜひともこの興亜建国パンも作ってみなければ。

さいわい詳細なレシピが見つかった。「まずい」というなら、どれだけ不味いのか試してみてやろうじゃないか。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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興亜建国パンは米を節約するために発明された

資料によると、興亜建国パンがデビューしたのは1940年のことである。前述のように栄養バランスに優れた食品とすることを目指したわけだが、興亜建国パンが作られた一番の目的は主食である米の不足を補うことだったそうだ。

興亜建国パンについて初めて知ったときは、面食らった。

何より名前がすごい。

食料の不足を代用品でごまかそうとする発想は別に珍しいものではない。ただ、その代用品に「興亜建国(アジアを興し、国を建てる)」という勇ましい名前をつける面の皮の厚さが素晴らしいではないか。

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興亜建国パンの詳しいレシピは、食糧問題についての研究機関である「糧友会」が1940年に刊行した『節米調理法』という本に載っている(国立国会図書館デジタルコレクションより)
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「いよいよ節米を強化しなくてはならなくなりました」という、いきなりテンションの下がる文言からスタートする本書。

本書の冒頭では米の節約が必要な理由についても触れられている。

いわく、西日本や朝鮮半島で発生した干害の影響により1939年の米の収穫は前年より一千万石(米一石=150kgとして約150万トン)の不足であった。これは各家庭が毎月三升(約4.5kg)米の消費を減らさなければならないほどの減収である。

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あの手この手で米の節約をせよと説く。

「炭水化物をドカ食いしたくなるのはそもそも食事のバランスが悪いからで、いろいろなものを少しずつ食べると少量の食事でも案外満足できるものですよ」

というようなことも書かれており耳が痛い。

食料が豊富な時代の人間ですが、ラーメンとチャーハンのセットとかが大好きです。ごめんなさい。

真面目な話をすると、この本が刊行されたので1940年で、真珠湾攻撃でアメリカとの戦争が始まるのが翌1941年の12月である。対米開戦のはるか前からいっぱいいっぱいの状態だったのだな、日本は。

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そして、代用食として紹介されているのが興亜建国パンだ。

米は不作だったが、逆に大麦や小麦は豊作だった。

なので、米の代わりに麦で作ったパンや団子や麺を積極的に活用せよ、と本書は主張している。簡単に言ってくれるものだ。

そして、そのパン類のなかでも主食と副食を同時に摂取できる優等生として持ち上げられているのが興亜建国パンなのだ。

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米のお弁当はやめて興亜建国パンを食べよう!の挿絵。

 

興亜建国パンは材料集めがたいへん

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毎週1回、または興亜奉公日(毎月一日)に興亜建国パンを食べることが奨励されていた。

さて、実際に興亜建国パンを作ってみるわけだが、まずは材料を書き出してみよう。

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大豆粉は麦こがし(はったい粉)、ライ麦粉、きなこ、トウモロコシ粉はそば粉、高粱粉、ジャガイモ粉、サツマイモ粉などにそれぞれ置き換え可能。野菜にはニンジンやほうれん草、木の芽を使うと良いと書いてある。

えっと、これ全部集めるの?

基本的に米と水さえあればできる炊飯とはえらい違いである。

とはいえ興亜建国パンは栄養バランスに優れた完全食なのだ。種々雑多な材料が必要なのは仕方のないことでもある。

面白いと思ったのは、大豆粉でかなりの水増しがされているところである。

そういえば、代用チョコレートを作ったときも大豆の粉にはお世話になった。さらに、時代をさかのぼれば大豆から作った麩や湯葉や豆腐は仏寺で出される精進料理の花形だったではないか。あれなんかも、肉類を使うことができない精進料理になんとかタンパク質を補おうという、いわば肉の代用として大豆が使われていたのだ。

大豆こそが味の面でも栄養の面でも代用食界のスーパーエースだったんである。

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というわけで材料をそろえました。
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パンを焼く設備のない家庭で作ることを前提にした簡易レシピ。匁や勺といった尺貫法が現役である。

まずはオーブンを使わなくてもできる家庭用簡易興亜建国パンを作ってみよう。

当時オーブンを備えた家というのはほとんどなかったはずなので、自宅で興亜建国パンを作る場合はほとんどがこっちのレシピを参考にしていたはずだ。

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酵母(イースト)の代わりにふくらし粉を入れて蒸すのが本格的な興亜建国パンとの違いだ。
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野菜。『節米調理法』に載っているレシピには「ニンジン、ほうれん草、木の葉(木の芽のことと解釈)または大根菜etc」とあるが、「時期またはところによって適宜取捨選択する必要がある」との但し書きも。代用食なので各自で妥協しましょうということだろうか。
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食べやすいように細かく刻む。
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ほうれん草と木の芽も刻む。山椒の良い香りが立ちのぼる。
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次に粉類を測る。海藻粉or魚粉でかなり味が変わりそうだが、今回は魚粉をチョイス。
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計量した粉類はあらかじめよく混ぜておいて、
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刻んだ野菜を混ぜ、黒砂糖を溶かした水を加えてさっくりと混ぜる。
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練らないのがコツらしい。
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適当な大きさにまとめて蒸し器にかける。
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蒸し時間は約10分だ。

とまあ、そこそこ調理に手間がかかるのだが、ほかのものを作らなくてもよいことを考えると総合的に見れば楽なのかもしれない。

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蒸し上がり!思ったほど膨らんでないな......。

 

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初挑戦はほろ苦い味?

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これが家庭用簡易興亜建国パンだ!

調理しているときは山椒と魚粉の混ざった香りしかしなかったため

「これ、案外悪くないのでは?」

と思ったものだが、さて蒸し上がったものはどうだろうか。

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割った感触は固めの饅頭だ。

魚粉ときなこの香りが強い。ムチムチとした弾力があって、まるでかまぼこを食べているのではと錯覚しそうになる。固く焼き締められた野菜の粒粒感が面白く、たまに木の芽にあたると山椒の良い香りが口の中に広がる。

が、それらを凌駕する不快感に一口食べて手をとめてしまった。

苦いのだ。それも、激しく。

苦味の原因はふくらし粉で間違いない。分量はあっているはずなのに、なぜだろうか。今と昔でふくらし粉の性能が変わったとか?

ともかく、あまりにも食べるのがしんどい失敗だったので興亜建国パンの良いところも悪いところを検証するどころではなくなってしまった。

イーストを使って再挑戦

ふくらし粉を使った家庭用簡易興亜建国パンがうまくいかなかったので、イーストを使った正統派の作り方で再挑戦してみることに。

イースト以外の材料は以前と同じだが、こちらは念入りにこねて発酵させてやらねばならないぶん、かかる手間も時間も段違いだ。

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イーストと黒砂糖を溶かしたお湯を用意して、
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計量しておいた粉類に混ぜる。
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野菜類も混ぜる。
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昆布粉と魚粉、両方を用意した。

昆布を使うか魚粉を使うかで味にかなりの差が出るはずなので、今回は両方を試してみることに。

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ひたすら手でこねる。
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あたりまえだけど、見た目はほとんど変わらない。
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生地を指で押して、穴が戻らないようなら発酵は完了だ。このへんは普通のパンと同じなのでちょっと安心する。
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『節米調理法』には「パン焼き竈か七輪を使って焼け」と書かれていたけれど、無理なので電気オーブンを使う。190度で15分かけて焼き上げる。
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完成!
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粗びきの昆布粉を使ったので粒粒感が激しい。
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対して、魚粉入りの方はおとなしい見た目だ。

さて、すぐにでも実食に移りたいところだが、グッと我慢してここで少し時間をおきたい。

自作のパンというものは、焼きたてで食べると3割増しくらいで美味しく感じてしまうものなのだ。

興亜建国パンは弁当代わりに最適とあるくらいだから、冷ましてから味をみてやるのがフェアな態度というものだろう。

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昆布入りは複雑な味。魚粉入りはほぼ魚粉の味

翌日、十分に冷めて味がこなれたところを食べる。

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まずは昆布粉入りの方。
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ズシッと詰まっている。色が黒いこともあって、前にドイツで食べた黒パンを思い出す断面。
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今度は苦くないだろうね?

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もちゃっとした食感。でも、自分でこねて焼いたパンはだいたいこんな感じなので気にしない。

入れてないのに、なんとなく醤油っぽい味がする。火の通ったきなこのしわざだろうか?大豆のコクが活かされた懐かしい味である。

昆布由来のグルタミン酸のじんわりと舌に浸透するような旨味がパンらしくなくてなんだか不思議だ。たまに顔を出す山椒の風味もよいアクセントになっている。

悪くないんじゃない?とは思った。でも、「栄養第一、味は二の次で作りました」という魂胆が透けて見えるというか、3口で飽きる味だ。

 

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次は魚粉入りの方。
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魚粉の圧倒的な存在感。

昆布粉入りの方は、まだしも味に複雑さがあったのだなと実感。こっちは魚粉の味しかしねえ.....。

おそらく、タンパク質の含有量的には昆布よりも魚粉の方が優れてはいるのだろう。しかしあまりにも野暮ったくて単調な味だ。まるで人体を動かすために作られた固形燃料のようだ。

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バターを塗って味に変化をつけながら消費した。でも、代用食を食べないといけないときにバターはないよなあ......。

一日三食米が食べられる幸せよ

イーストで作った興亜建国パンは、はっきり「不味い」と切って捨てるほど酷いものではなかった。単発で食べる分にはなんとかなるかもしれない(とくに昆布粉入りの方は)。

ただ、主食の代わりにするのは無理だ。今よりもはるかに食料事情が悪かった戦時中でさえ、すぐに誰も作らなくなったというのも納得である。

米の素晴らしさが再発見できてよかった。

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山椒(木の芽)も入ってるし、茶色にぶつぶつの浮いた外見も似ているので、オオサンショウウオパンとして再デビューできないだろうか。健康食品として再評価されたタンポポコーヒーみたいな感じで。

 

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