特集 2024年9月26日

土地家屋調査士は昔の人の尻拭いをしている 〜庚申待・第二夜〜

土地の形だけを表した公図というものもある

小金井:登記にかかわる図面には、寸法が入った地積測量図のほかに、土地の形と位置関係だけを表した公図とよばれる図面があります。

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公図のサンプル(法務局より)

小金井:このシンプルな図面がどうやって作られたかというと、もとはこういうやつなんです。

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出典:国税庁

会場:明治の地籍図だ

小金井:そのとおりです。明治時代に地租改正があって、もともとは税金を取る目的で、誰の土地がどれくらいの広さなのか、図面を作って面積をもとに税金額を決めましょうっていう決まりがあって、最初は税務署が作ったんです。

小金井:このときに初めて地番ていうのが振られて、いまだにこの図面が有効なんですよ。

会場:へー!

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旧公図は最後のよりどころになっている

小金井:いまだにこの図面を見ることがあります。広さとかは正確じゃないにしても、曲がってるところをまっすぐには書かないだろうっていうことで。

小金井:こうやって線が引かれるわけですけど、実際の土地に線が引かれるわけじゃないので、住んでる人が好きに使っちゃうわけです。すると図面と実際の境界が違ったりする。

会場:もめてる看板とかたまにある

小金井:(昔の図面は)辺の長さとかはあまり信用できないにしても、曲がりとか形とか位置関係とかはさすがにいい加減なことは書かないだろうと一回信用しないと、そこからはみ出したなんだっていう話ができない。

会場:この図面(明治時代の地籍図)はデジタルで取得できるんですか?

小金井:これは旧公図といって誰でも取得できるんですが、管轄の法務局まで行って申請書に地番を書いて和紙の公図をくださいって書く必要があります。

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仕事は全国でできるが、実際には地域を限る

会場:小金井さんの仕事は全国のどこに対してもできるんですか?

小金井:資格的にはできるんですけど、県とか市とかでローカルな決まりがあるんです。たとえば道路は、市道・県道とかで市とか県がそれぞれ図面を作って持ってるんですけど、その図面の名前とか、どの部署が管理していてどう取得すればいいかとかが違いすぎるので、私はいまやってる地域(横須賀周辺)以外はあまりやりたくないですね。

会場:笑

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土地家屋調査士はぜんぜん足りない

会場:土地家屋調査士っていま足りてるんですか?

小金井:ぜんぜん足りないんです

会場:あ、そうなんだ

小金井:土地家屋調査士は士業のなかまなんですけど、士業を目指す人は測量には興味がなかったり、逆にもともと測量をやってた人は法律の勉強に興味がなかったりする。文系と理系のちょうど間くらいなので、なり手が少なくて。土地家屋調査士会も会員を増やそうと一生懸命です。

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土地家屋調査士は過去と今をすり合わせる

小金井:横須賀の場合、アメリカに土地を接収されていた経緯があるので、上物をガンガン変えているのに登記をしないので公図と現況が何も合わないということが頻発します。

小金井:土地家屋調査士の仕事って、昔の人が省略したりやらなかったりして今めちゃめちゃになっているものを何とかすり合わせる、過去と今をすり合わせる仕事みたいなところがあります。

会場:めっちゃアナログ

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小金井さんが持ってきた書類をひたすら読み込む
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調査士の初仕事が昔の人の尻拭いだった

小金井さんの初仕事が、まさに昔の公図と現況が全然違うのをなんとかするものだったという。

小金井:今はまっすぐな道なんですけど、公図を取得したらなんでこんなガタガタしてんの?ってくらい曲がってるわけです。(といって図面を見せる)

会場:ほんとだ全然違う!

小金井:こういうときに、現況を測量してまっすぐでしたーといって登記しようとしても、公図だとガタガタじゃん、違うじゃんと言われておしまいなんです。現況と公図が違うとしても公図を正として合わせましょうという基本理念があるので、公図が間違ってることを証明しないといけないんですよ。

会場:おおお、どうやって?

小金井:しょうがないから資料調査をがんばるわけです。いつごろなにを分筆(土地を分けること)したかを全部調べて・・

会場:うわーー(悲鳴)

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悲鳴を上げつつ書類を読み込む

小金井:この辺はどの会社に売ってるな、とか全部調べて、その会社に昔の資料ありませんか?ってお願いして調べました。その結果、問題の道をガタガタさせずにまっすぐ通す計画があったらしいと分かった。

会場:その会社の昔の資料っていうのは土地家屋調査士の権限で請求できるんですか?

小金井:依頼人がその会社だったんです

会場:あ、なるほど

小金井:で、その計画書を現在の航空写真と重ねるとほぼ一致する。ということはこの道は計画どおりに作られたはずだ、と。逆に、昔の公図は航空写真とどうやっても合わない。

小金井:じゃあなぜ公図はガタガタのままなのか。時代ごとの公図を見比べると、おそらく長い時間をかけて少しづつ土地を買収して分筆していった過程で、どこかで線を間違えた人がいる。

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小金井:間違えちゃった線は確定してしまっているので、次に引こうとしたときに合わない。しょうがないから隣接の土地となんとか都合をつけるためにこう(ガタガタに)引くしかなかったんじゃないか、という仮説を立てて、だから実際はまっすぐですよという説明をして、法務局も納得してくれて公図の方をまっすぐに直しました。

会場:すごい!歴史に残る仕事だ(拍手)

会場2:昔の人のいい加減な仕事の尻拭いをしたわけですね

長老が独自の絵図をもっている

小金井:田舎の方に行くと、法務局にはない独自の絵図を持ってらっしゃる長老がいたりしますね。

会場:笑

小金井:測った後って、隣接地の方をお呼びして境界の確認にために立ち会いをしてもらうんです。そしたら「俺の持ってる絵図と違うぞ」と言い始める方がいたりして、

会場:笑

小金井:すごい!逆に見せてください、となりますね。

この後もしばらくは一問一答の時間がつづいていた。

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