ある晩、おかずにコロッケを買って帰った。
牛肉コロッケと、野菜コロッケと、メンチカツをふたつずつ。 家について、いざ食べようとお皿に並べたら、どのコロッケが何味だったのかわからなくなった。
手のひらサイズの大きさと丸っこい形、きつね色の衣と、どれも見た目がよく似ているのがいけないと思ったが、そういえば店員さんは迷うことなくレジ打ちをしていたな。見分けるコツがあるんだろうか。
たくさんコロッケを並べて神経衰弱をしたら何かわかるかもしれない。
コロッケの定義を確認しよう
実は前々からいつかやりたいと思っていたコロッケ神経衰弱。編集部に声をかけて、ついに実現することになった。
決行は平日、仕事終わりの夜。なんとしても定時で退勤し、買い出しを経て即コロッケパーティーというジェットコースターのようなスケジュールだ。
一分一秒を争う準備時間だ、コロッケの買い出しに迷いがあってはならない。どこまでをコロッケと呼んでいいのか、事前に定義を確認しておくことにした。
何十種類ものコロッケが集まるコロッケフェスに出品したという過去を持つ調理師の弟に聞いてみた。ジャイアンみたいな回答が返ってきた。
「パン粉に包まれていたらコロッケ」…いくらなんでも定義が広すぎやしないか?!この理論でいけば、とんかつもコロッケじゃないか。
とんかつはコロッケじゃないわね…と議論が盛り上がり、精査した結果こうなりました。(諸説あります)これでコロッケを買うのに迷わないぞ!
さらに迷子によるロスタイムをなくすため、近隣のスーパーの場所も調べた。
徒歩5分圏内のスーパーの分布を比べてみた。
地元は徒歩5分圏内に2軒(それでもかなり恵まれていると思う)。
一方、会場最寄りの都内某駅は5軒もあることがわかった。5軒!!スーパー激戦区じゃないか。さぞコロッケ集めも捗るだろう。これで準備は万端である。
都会のスーパーの惣菜売場で繰り広げられる熾烈な選抜争い
しかし当日、私を迎えたのはあまりにも厳しい都会の現実だった。
コロッケがない!(ここでいうコロッケというのは牛肉コロッケ、メンチカツ、野菜コロッケ、カレーコロッケ、クリームコロッケ…と各種取り揃えられた「コロッケゾーン」のことである。ここには牛肉コロッケとハムカツしかなかった。これは「無い」と言っても過言ではないことを主張しておきたい)
このスーパーは限られたスペースのほぼ全てを中華料理に占拠され、メンチカツしかなかった。コロッケが置かれていないスーパーなんてものがあるのか!
なるほど…わたしは地元の、めちゃくちゃ広くて品揃えが異様に多い、誰のどんな好みもどんとこい!なスーパーに慣れきってしまっていたのだな。
これが都会だ、惣菜コーナーの面積の小ささににキュッと心臓がちぢこまる。この小さな舞台で惣菜達は一軍を巡って日々戦っているのだろう。きっと戦い抜いた精鋭たちにファンが付いて、そのファンがお店ごと推す固定客になるのが狙いなのだ。まるでご当地アイドルのよう。
思わぬところでスーパーの生き残り戦略の厳しさを知り、心を打たれたが、おかげでなかなかコロッケを確保できず、走り回る羽目になった。
コロッケ…コロッケはどこだ…!!
ハッあっちか!と向かったが逆方向だった。大幅に時間ロス。
集合時間は刻一刻と迫っている。
コロッケ神経衰弱やってみてわかったこと①
都会と田舎のコロッケ戦略の違い。
都会のスーパー:出店争い激化の中で、限られた精鋭コロッケ推しから店推しにつなげる作戦
田舎のスーパー:面積の利を活かし多様な選択肢を提示することでファンを獲得する作戦
コロッケ神経衰弱はじまりはじまり
結局、スーパー5つ全てを巡り、精鋭のコロッケたちにお集まりいただいた。
各店推しのコロッケたち
圧巻!パックから出して並べたら、もう食べてみるまでどれが何コロッケか誰にもわからない。
コロッケの来襲を迎え撃つは、若干胃もたれが心配な大人4名!
ルールを説明します
今回のルールはこちら。なお、神経衰弱で作るペアは、「同じ店の同じコロッケ2つ」ではなく、「別の店の同じ種類のコロッケ2つ」である。つまり、必ずしも見た目では判断できない。
そして用意したコロッケは以下の通り。

オレンジはそれぞれペアになっているもの、水色はペアにならないハズレである。
クリームコロッケだけは3つあるので、ペアを引いてあまったクリームコロッケはハズレ要員になる。
水色のコロッケを避けつつ、オレンジのコロッケ同士を揃えることができればいいのだ。
ちなみに「おやつコロッケ」という聞きなれないペアがあるが、これが後々問題になることに…。
ともあれ、ここでもう一度コロッケを見てから、ゲームを始めよう。
さあどれがどれでしょう!
勝ちに行くならクリームコロッケ
それじゃあ始めましょうか、とじゃんけんをした結果一番手は橋田さんに決まった。
橋田
わたし前に北村さんの記事でコロッケ食べたんですけど、そのときも味の違いが全然わからなかったんですよ。当ててないのにまたコロッケに来ちゃったな…
3yk
今度は見た目で探すやつですから大丈夫ですよ!
ちょっぴり憂鬱そうな橋田さん。自信はなくともゲームは始まる。
橋田
クリームコロッケをねらいます。
石川
これ同じ店のものはないんですもんね、むずか……
橋田
これだと思います!
石川さんが話し終える前に、橋田さんの目の前、俵型のコロッケふたつを迷うことなく選択。ちなみにコロッケの下の器には、味見用にカットされたコロッケがホイルで包まれて入っている。
あんなに自信なさそうにしていたのに、橋田さん本気だ。本気で一勝を掴みに来ているぞ。この場にいた全員が思っただろう。
なんとなく「クリームコロッケといえば俵型でしょ!」というのは皆共通して感じているようで、橋田さんの選んだふたつのコロッケは、むしろ別の商品が並んでいるとは思えないくらいそっくりである。
クリームコロッケだ!
この笑顔である。
橋田
ほら〜〜ははは、食べる前からね。これはね、クリームですよね!
石川
でも食べてみないとね。わからないですからね。
始まるまでとはまるで違う表情!
橋田
ふふっ、クリームコロッケです!
もうひとつも開封。こちらもまごうことなきクリームコロッケだ。無事に1ペアゲットです!
コロッケ神経衰弱やってみてわかったこと②
俵型はクリームコロッケの可能性が高い
コロッケ神経衰弱やってみてわかったこと③
当たると嬉しい
実はまだクリームコロッケがもうひとつ隠れている。どれでしょうか!
その後元気を取り戻した橋田さんはさらに、高難度と思われたチーズメンチカツを当て、ゲット。
じぶんがこわい〜〜!!と橋田さん。会場はこの日いちばんの盛り上がりを見せた。
ネッシーあやこ
えー!!すごい!!
3yk
なんでわかったんですか?
橋田
こっちは小さいからチーズ入りかなって、で、こっちは大きいから違うと思って選んだんだよね…わざと外してちょっと休憩しようと思ったのに…
橋田さん、外そうとして当てちゃったのだ。まるで目立ちたくないのにモテてモテてしょうがない、小癪な男主人公の発言じゃないか。とにもかくにも橋田さんのターンは続く。
おやつコロッケの謎 そして混乱を呼ぶゲームマスター
ここで、ゲームの進行を揺るがす事態が起きる。
橋田
おやつコロッケっていうのがわからないんですよね。なにがおやつなのか…挑戦してみようかな。
石川
おやつコロッケってなんなんですかね?
3yk
私も食べたことないんですよね。
ネッシーあやこ
私もないかもしれません…
ここにいる4人全員、おやつコロッケがどういうものなのかわからない。
なのに2店舗で売られていたのだから、おそらく市民権を得ているジャンルではあるのだろう。なんだろう、おやつコロッケ。
橋田
3ykさん、どれがおやつコロッケだったか、正解覚えてますか?
3yk「わからないんです、それが!」
石川さんが「ほぉぉぉ…」「ほっほぉぉ…」と大きく長く息を漏らした。漏れたというか、なにか大きなもやもやしたものを吸い込んだ代わりに息が出た。
これはしまったと思った。
コロッケの種類は食べればわかるから忘れても大丈夫!と安心して、どれがどのコロッケかメモっていなかったのだ。おやつコロッケという、食べてもそれが正解なのかわからない伏兵がいた。
とりあえず二皿選ぶ。そしておやつコロッケとはなにか、正体を探る話し合いが始まった。
ネッシーあやこ
おやつコロッケというのは、サイズがおやつなのかそれともおやつという概念が詰まっているんでしょうか…
橋田
(左手側のアルミホイルを開いて)あ、これは牛肉が入ってるよ。
石川
牛肉はおやつには入ってないと思うんですよね、きっと。
橋田
牛肉はおやつじゃない。
牛肉=高級品だからおやつにはもったいないという意見だ。
石川
おやつって言うくらいだから甘いんじゃないですかね。チョコレートとか。
チョコレート?え…?と橋田さんの顔が再び曇る。
ネッシーあやこ
実はおやつコロッケと言いつつただのコロッケという可能性もありますよね。
橋田
そうだよね。ただの素朴なコロッケをおやつに食べなさい、みたいな。
これがおやつコロッケだったのかどうかはわからないが、とりあえずもう一つのコロッケを開けてみる。
橋田さん右手側のコロッケは中身が白い!じゃがいもコロッケ(いもオンリーでほくほく食感がウリのシンプルなコロッケ)だ。この種類のコロッケはひとつしか用意していないのでペアにならずハズレです。
橋田
うーん(最初のは)牛肉が入った美味しいコロッケって感じ。もういっこのは…またぜんぜん違う感じだね!めっちゃ芋。
牛肉入りがおやつコロッケか牛肉コロッケかはわからないまま、橋田さんターンエンド!
クリームとチーズメンチの2ペア=4コロッケゲット!
クリームコロッケのだまし討ちと続・おやつコロッケの謎
2番手はゲームマスターでもある筆者だ。どれがどのコロッケか既に全部忘れてしまったので他の参加者と同じ土俵に立つことができた。
おやつコロッケを突き止めたい!とそれっぽいふたつを選択。
3yk「小さいのがおやつだと思うんですよね〜」石川「小さいのはクリームという可能性もありますよ」
あっけなくクリームコロッケが出てきた!やっぱり小さいからっておやつではないのか。余り者クリームコロッケはペアならずでアウト!
もうひとつも一応開封する。
3yk
牛肉が入ってますね。
橋田
あら、これさっき私が引いたのとペアなんじゃない?次の人ラッキーなんじゃない?
石川
まあもう真相は誰もわからないですけどね。おやつか牛肉か。
あー、これは、コロッケだなあ。
おやつコロッケと牛肉コロッケの違いがわからず、場の空気もちょっぴり困り気味なのに、笑いがこみあげてしまう。
なぜか。コロッケがおいしいからだ。
コロッケ神経衰弱やってみてわかったこと⑥
コロッケがおいしいと楽しい気持ちになる
俺はというか、世の中的に、そういうルールがあると思うんですよ
うっかり者のゲームマスター、コロッケはゲットできずに石川さんにバトンが渡された。
石川
じゃがいもコロッケとクリーム、ハムカツがダミーってことですよね。それをとったらペアにならない。
現在の状況です
残るペアはメンチカツとおやつコロッケ、牛肉コロッケの3ペア。じっとコロッケを見つめる石川さん。
石川
こうしてみると結構見た目だけでも情報量多いですね。メンチでいこうかな。
そう言うとすっと青のりの乗ったコロッケの皿を選ぶ。
3yk
迷いがないですね!
石川
僕、青のりが乗っているのはメンチカツだと思うんですよね。
石川「それからもういっこのメンチカツは楕円じゃなくて正円のこれ(右手側)ですね。ほかにも丸いのがあるんですけど、上の面が平らだから、そっちはハムカツだと思います。」
橋田
俺が(思うんだよ)ね。
石川
いや俺がと言うか、世の中的にそういうルールがあると思うんですよ。
橋田・ネッシーあやこ・3yk
オオ〜(格好いい!!)
名探偵なんとかみたいな鋭い眼光が大変格好良かった。真実はいつもひとつ!そしてホイルを開く。

石川「ほらほらほら〜!!」
おやつコロッケのおかげで、もうゲームが楽しくなくなっちゃったかもとハラハラしていたが、この笑顔を見て「今日やってよかったな」と思った。
そしてもうひとつのホイルを開けると

石川「あ〜ほらね!!」メンチカツですね!(よかった〜)
両手にメンチカツを持ち笑みを浮かべる石川さん。(本当によかったな〜。)
コロッケ神経衰弱やってみてわかったこと⑦
正円で青のりが乗っていたらメンチカツ
コロッケ神経衰弱やってみてわかったこと⑧
正円で面が平らなのはハムカツ
そして石川さんのターンは続く。
残るは牛肉コロッケとおやつコロッケのペアを探し出すのみである。
ネッシー
ぜんぶ茶色だなって思うと、細部の情報に目を向けなければという気持ちにになりますね。
3yk
揚げ色とかもね、気になってきますよね。濃いのと薄いのがある。
石川
消去法的にもな〜。これとこれが普通の牛肉コロッケだと思うんですよね。
そういって選んだのはこのふたつ。色合いが似ている。
石川「さっきのおやつコロッケと比べて、牛肉の量が多い気がしますね、ふたつとも。」
石川「いや〜〜、ちょっとわからんな〜〜〜」
牛肉がしっかりしてるし、おやつというには大きい!よって牛肉コロッケ!合格!ということにした。2ペア目をゲット。
このあとうっかりペアにならないクリームコロッケを引いてしまい、石川さんも2ペア=4コロッケゲットでターンエンドです!
おやつコロッケの謎が解き明かされる
そして最後は満を持してネッシーあやこさん。
こっち側(選ぶ人の席)に来ると世界が変わって見えますね!!ときらきらした表情のネッシーさん。最後のペア、おやつコロッケを選ぶ。
この会のためにおなかの空き具合を調整してきてくれたのに、ずっと観客側でコロッケが減っていくのを見守っていたのだ。ネッシーさんの番までコロッケが残っていて本当によかった。
コロッケを口にした瞬間ネッシーさんの瞳がカッとひらいた。
ネッシーあやこ
あっ甘い!
ネッシーあやこ
あと衣が軽い。さっき石川さんが引いたコロッケはもっと衣がガッツリザクザクしてそうでしたよね。こっちは衣の大きさが細かいんですね。
上2つが先ほど石川さんが食べた牛肉コロッケである。たしかに比べてみると牛肉コロッケのほうが衣が厚く、ガリッとしているな。あとパン粉の粒も大きい。
ネッシーあやこ
わたしが食べているのは、衣がちょっとしっとりしているというか。片手で持って食べても大丈夫そうですよね。さっきの(牛肉コロッケ)はポロポロ衣が落ちちゃう可能性がある。
橋田
箸とお皿で食べるのが普通のコロッケなんだね。
これとこれでおやつコロッケで合ってると思います!!圧倒的読み解き力で、確信を持っておやつコロッケをゲット!
コロッケ神経衰弱やってみてわかったこと⑨
衣がしっとり細かく、片手で食べてもこぼれないのがおやつコロッケ(たぶん)
さて、これでペアのコロッケは全てなくなってしまった。
橋田さんと石川さんが同着一位で4コロッケ、ネッシーさんが2コロッケ。
そして残るコロッケは3つである。

橋田
てことは、これ3つの味を当てたら5コロッケゲットということにして、優勝でいいんじゃない?
3yk
逆転優勝だ!
石川
え、ネッシーさんイケるんじゃないですか??
いけますいけます!!と自信満々のネッシーさん。スイスイ選んでは味を当てていく。「最後にめちゃくちゃ食べられるの嬉しいですね!!」ネッシーさんが来てくださって、本当によかったなあ。
そして、ゲーム終了〜〜!!
ババーン!堂々の5コロッケです!
ありがとうございました!
コロッケがなくなると、何がどれだったか全然思い出せなくて面白かった。コロッケの見た目の情報量、侮るべからず!
【ご提案】子ども会や親戚の集まりでいかがでしょうか
勝負には必ず勝ち負けがある。勝ったらうれしいし、負けたら悔しく、悲しい。こと神経衰弱においては、他人との戦いと己の記憶力への挑戦というふたつの側面がある。そうすると負けたときの悔しさもひとしおだ。
その点、散々混乱を巻き起こしたコロッケ神経衰弱だったが、「おいしい」というのはすごい強みだと思った。コロッケをかじる瞬間は誰もが笑顔になった。「まちがえた!」「しまった!」という気持ちよりも「おいしい!」が先に来てしまうのだ。
見分けがつかず、それでいて間違えても悲しい気持ちにならないというのは、神経を衰弱させる者としてすばらしい才能ではないか。
ここはひとつ、子ども会や親戚の集まりなど、元気な胃が集まる場所でやってみてはいただけないだろうか。大人4人ではこの数でも少し多いくらいだったが、この2倍3倍あったほうが絶対盛り上がる。テーブルいっぱいに並ぶコロッケと、それを囲む子どもたち。夢の中の話みたいだ。
もしコロッケが余ったら、カツ丼風にするとおいしいので試してみてほしい