特集 2019年12月24日

東京23区「広報誌ラック」集め

グッドラック!

R25とかスーモとか街歩きとか、この社会でいい感じにやっていくためのお役立ち情報満載のフリーペーパーが百花繚乱な駅の、なんていうかラックががんがん置いてある所のはずれで一輪の白糸草のようにしとやかにたたずんでいるのが行政区からの情報を発信する広報誌のラックである。

そのしぶみに魅かれた私は東京都23区の広報ラックを見て回るラック採集を敢行したのだった。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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ラックはどこから来て、どこへ行くのか

「駅はラックばかりだな」毎日の生活で行き来する駅のコンコースを歩きながら、ここ数年そんな思いを抱いていた。

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東急東横線渋谷駅、東急沿線の情報誌「SALUS」を中心に東急系ラックがスクラムを形成。
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東京メトロのラックは建造物のようなボリューム感で立ち並ぶ。
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故障中、いったい何が。
 

もういい歳なのでもっと知的かつ戦略的な事を考えながら毎日を送るべきだとは思うがよくよく見てみると形状も陳列している印刷物も様々で興味が尽きない。

ただでさえ情報が多い駅構内の景観の中で、ラックの存在が俄然、鮮烈に立ち上がってきたのだ。

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この雑多さ!「もう本屋じゃん!」と思ったが今見るとそこまでではない。

「区のラック」と目があった

リクルート系のフリーペーパーなどの存在感あるラックに紛れて星より密かに、雨より優しくたたずまっているのが行政区の情報を伝達する広報誌のラックである。

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西武池袋線富士見台駅、お好み焼きのヘラみたいなラックに「ねりま区報」とある。


 

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いいロゴ。スチールの質感や経年によるくすみ具合もなかなかに味が出ている。

駅という生活のターミナルで商業味を廃したシンプルかつクラシカルな装いで区の顔となっている広報ラック。東京23区では各々区報が発行されており、区報の数だけラックもあるに違いない。めぐろう、23区を!生きる活力をもらおう!というわけでいきあたりばったりであたふた巡ったのだがざっくりとエリア別に紹介する。

<西部>

◽️練馬区
先に挙げた練馬区の「ねりま区報」ラックだが上記のような練馬グリーン(勝手に呼んでます)の他にブルーバージョンも見つかった。

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塗装もくすみがないし、書体も今っぽいのでこちらの方が新しいのだろう。「り」のところにいる鳥はなんだろう。(練馬区に区の鳥は指定されていない)

いずれにせよ、このスマートな「ヘラ型」が存続していて何よりだ。

◽️杉並区
阿佐ヶ谷、高円寺、荻窪と独自の中央線沿線文化圏を形成し、街歩きスポットとしての人気も高い杉並区。駅のラックにもそんなコンテンツがみっしりと充実。

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JR高円寺駅のおさんぽコンテンツたち。

そんな中で広報ラックは実直に住まう人への情報を発信している。

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シックなダークブラウンのパンチメダルに白いサインが映える。

 

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阿佐ヶ谷駅では広報誌がきれいに収納されていた。ロゴがおしゃれ。


◽️中野区
オリジナルのラックというよりは既製品にラミネートした看板を付けたものが多かったが、いろいろ回るとぽつぽつとオールドスタイルないいラックを発見できた。
 

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西武池袋線野方駅。既製品に紙を貼ったっぽいもの、あ、あと隣のカレンダースタンド好き。


 

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都立家政駅。鏡付きのゴージャス仕様、筆者がうっかり映りこんでいる。

 

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都立家政商店街のマスコット「かせいチャン」はなんとちばてつや先生デザイン。
泪橋なんかスペースシップでひとっ飛びだ。
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流れ流れてJR東中野駅でいい感じのを発見!

◽️板橋区
東京のベッドタウンとして成熟した高島平。最近まで私が住んでいたところである。夜遅く仕事帰りに改札を抜けると、このラックが私を迎えてくれていたのだ。

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都営線高島平駅。筒型のスタンド上に白いひな壇ラック。有数のマンモス団地を擁するだけあって収納力が優れている。
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タイトルロゴがかわいい。

◽️北区
北区を走る様々な鉄道網の中心たる赤羽駅では広い通路に威風堂々と広報ラックが構えていた。

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JR赤羽駅、南改札口前の通路2箇所に設置。

 

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タイトルの左に「住めば北区!」というシールが後から貼られている。ナイスシール。
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東十条駅や王子駅ではスリムな一列バージョンがすきまをスッと埋めていた。

◽️世田谷区
東京都区最大級の広さ(最大は大田区)を誇り多摩川流域に覇を唱える世田谷区だが広報ラックはいたってコンパクト。

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京王井の頭線池ノ上駅。カラーリングもかわいい。

 

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イベントや施設案内などのお問い合わせ窓口「せたがやコール」のつぶらな瞳がこちらを見つめる。写真は京王線下高井戸駅。

◽️目黒区
目黒と聞くと私の脳内には俊速で寄生虫館が想起されるが、たいていの人にとってはハイソでアッパーな街である。そんな中でも広報ラックは息づいている。

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区報があふれている様もなんか上質感がある、紙袋から飛び出すフランスパンのようだ。

 

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ちゃんとめぐろ区報のサインはついている。

目黒区最南端で世田谷区との区境にだいぶ近い東急線自由が丘駅では双方の広報ラックが壁面に並んでいる。
 

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管轄が違うためか「おしらせ」の文字サイズなど統一感に欠ける。

◽️品川区
シンボルマークの基本カラーである品川パープルがラックをふちどっている。東急線やりんかい線の駅で比較的容易に発見できた。映えますね、パープルは。
 

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東急旗の台駅、傘立てとの並びがよい。

 

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広報しながわの「な」には区の鳥、ゆりかもめがあしらわれている。いい「な」だ。

◽️大田区
なごり惜しいが西部のラストを飾るのが大田区である。

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JR大森駅、区境に近いので品川と並んでいる。なんとなくそれぞれの地域の特性が対比されているような気もしてくる。

 

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蒲田駅。これ以上ないぐらいに角ばっている。ケンカなら誰にも負けない。
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もっと今っぽい感じのやつもあった。
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<都心部>

◽️豊島区
豊島区といえば池袋、導線が破綻したかのように人で溢れかえる巨大駅の通路にもしっかりとラックさんは立っている。

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シンプル!なぜか閑散として見えるがれっきとした池袋である。
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されても困ると思うがおすすめは鬼子母神が有名な東京メトロ雑司が谷駅。10年ほどでこんな味わいがでるものなのか。


◽️渋谷区
池袋とならぶ都心の巨大駅渋谷、あんなビカビカしたところにあるんだろうかと思ったら、ありましたぜ。

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柱がこんなきのこみたいになってるところにあると思わないじゃないですかー。


 

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そんなにはビカビカしてない井の頭線改札付近にあった!
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小田急線南新宿駅ではいいところにおさまっていた。というか南新宿よ、お前渋谷区だったのか。

◽️文京区
都心部の中でも下町的な情緒で知られる文京区、そんないい雰囲気のところは他のメディアで堪能してもらうとして、ここではラックの写真を載せようと思う。
 

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東京メトロ根津駅、かなり存在感のあるフォルムだ。

 

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同じく千駄木駅、サンプル展示用ポケットも上質感がある。

◽️中央区
都心部でも都心3区と呼ばれる中央区、千代田区、港区は広報ラックとしてはなかなか不作だった。

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東京メトロ日本橋駅。だいぶ地味。
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水天宮前駅では広報誌ががっさり入っていた。

◽️千代田区
既製品と思われるラックにテプラで広報誌用ラックである旨を表記。まあ広報誌が入っていればそれだけでわかりやすいわけで必要十分なのかもしれない。
 

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東京メトロ永田町駅、改札のすぐ傍らにある。
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セブンカフェ!いや、広報千代田だ。

◽️港区
港区は今回の調査で唯一「広報誌ラック」が見つけられなかった区だ。平台のワゴンに他の情報誌やパンフレットなんかと一緒に並べられている駅が多かった。

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都営地下鉄鉄青山一丁目駅、なにげに便利なのだが。

◽️新宿区
だいぶ苦労して探したが区のサイトに設置場所の詳細が記載してあり、JR新宿駅みどりの窓口付近にかわいらしいやつを見つけた。この「でかい駅で困ったらみどりの窓口に行ってみよう」というメソッドは後に私を助けてくれるのであった。

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新宿駅東口みどりの窓口前。おしゃれなプランターの鉢でも入れたくなるようなミニマムさ。
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ここに広報誌という花が咲くのだ。


 

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<東部>

◽️荒川区
東部になると俄然マッシブで存在感のある広報ラックが増えてくる。頼もしい限りだ

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JR西日暮里駅。ターコイズのラック本体だけでなく、広報誌を入れるフックも太くて頑強。
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右側の筒状のサインも装飾味があってよい。
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厚みも申し分ない。区長へのはがき用ポケットもあって機能も充実。

◽️足立区
記事の冒頭で紹介した「本屋かよ!」と思った雑多なラック並びはこの足立区だった。

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東武線西新井駅。他の商業ラックと少し離れていて孤高な感じ。
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ストライプがさわやか。

◽️隅田区
ラックに墨田区報とは書いていないものの、その個性的なフォルムですぐにこれだとわかるやつになっている。
 

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京成線八広駅。右側が広報ラック。鮮やかなライムグリーンが効いている(何に)
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京成曳舟駅。真ん中のふたを閉じて2スパンにする事もできるのか。

 

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ラックを探しながら歩いてたらいきなり女子高生が座っていた。びっくりして声を出しそうになったがアニメとコラボしたフォトスポットだった。

◽️江東
荒川区と並びスタンド自体に存在感があるのが江東区である。
 

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とにかく重厚、不沈感といった佇まい。いかなる艦隊の砲火をもってしても撃沈する事は不可能に違いない。あ、東京メトロ門前仲町駅。
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ピラミッド状に並んだ三角ホルダーが美しい。木場駅にて。

 ◽️葛飾
葛飾といえば下町の典型であるが、広報スタンドはシンプルでシュッとしていた。わりと新しかったので最近リニューアルしたのかもしれない。

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京成線お花茶屋駅。区の花しょうぶがあしらわれている。
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京成線青砥駅では駅の出口に寄り添っていた。

 

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憩いの広場が総力をあげて憩わせに来ていてすごかった。

◽️江戸川
東京最東端の江戸川区だが広報ラックがかっこいい事は意外と知られていない......はずだ。でかくて見所しかないのでぜひ堪能してほしい。

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ほら、でかい!都営線船堀駅
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瑞江駅、「よい街にいい話題」の部分は左右がレール状になっていて差し替え可能だ。
上の区章に比べてくすみも無いので後から何かと差し替えられたのではないか。

 ◽️台頭
東京東部随一のターミナル駅である上野駅を探しても広報ラックが見つからず、ならばと地下鉄日比谷線や銀座線沿線各駅を回っても影すらつかめなかった。
 

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入谷駅や三ノ輪駅で見た東京メトロのラックはかっこよかったのだが。

意気消沈したが先に紹介した新宿駅で「みどりの窓口を探ってみれば」というメソッドを得て無事スキルアップしたうえで再度上野駅へ出向くとあるじゃないのさ。

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みどりの窓口横通路、こんなところに!
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きちんと情報が分類されている!(謎の感動)

どこにニーズがあるかわからないがここで紹介した広報ラックを一覧でまとめた。大雑把にいうと西部はスマートで東部になると重厚感のあるやつが多くなる。

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いるとかいらないではない。無くても生きていけるものこそ、必要なのだ。

おおきい画像はこちら(PDF)

まだほんの一部を回ったに過ぎない。どこかの駅の改札や自販機の横で潜んでいるまだ見ぬ逸品との出会いを期待したい。

東京なら好みのラックが、きっと見つかる

好きな店がある、好きな人がいる、好きな空気がある、住みたい街の条件は様々だが好きなラックがあるから住んだっていいじゃない。あなたがこれから住みたい、行きたい場所を探すうえでの一助になれば幸いである。

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23区じゃないけど町田のもよかった。
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