大豆からきなこ
きなこは誰もが知る食べ物でスーパーに行くと必ず並んでいる。自宅でも作ることができて、大豆を炒って、皮を取り除き、コーヒーミル等で挽けば完成する。大豆100%の食べ物がきなこなのだ。
大豆100%なので大豆の味がきなこの味を左右する。もちろん炒り方、挽き方でもきなこの味は変わると思うし、大豆を育てる環境でも味は変わるはずだけれど、今回は品種という視点できなこを見ようと思う。
先にも書いたように国内だけでも大豆の品種は300種類ほどあると言われている。歴史も古い。日本の大豆は弥生時代に中国から伝わったと考えられていたけれど、2015年に縄文時代から大豆は栽培されていたと判明した。歴史ある食べ物なのだ。
ユキホマレ
大豆の都道府県別の生産量を見ると1位北海道、2位宮城、3位福岡となる。ただ北海道が圧倒的で2位の宮城に約5倍の差をつけている。ということで、北海道に行った時に、品種別で作られた3つのきなこを購入した。
同じきなこではあるけれど、それぞれ異なる品種できなこが作られている。私は大豆に限らず品種が大好きなので、品種別で食べ比べができることに感動して購入した。それぞれをじっくり見て行こうと思う。
ユキホマレは北海道で誕生した北海道の大豆における基幹品種(生産・流通対策上の基幹となる品種)だ。2001年には北海道の奨励品種(みんな作ろうぜ、って言われている品種)となっている。
熟するのが早く、コンバインで収穫するのにも適している。食味も良く、使い道も広い。豆腐、煮豆、納豆、味噌など幅広く利用されているようだ。ユキホマレからは「ユキホマレR」や「とよみづき」などの品種も生まれている。
ユキホマレは大豆と言われた時に思い浮かべる大豆の色をしている。食べてみるとこれが非常に美味しい。お手本のようなきなこの味だ。雑味もなく大豆が持つ甘みを感じることができる。用途が広い品種なのできなこにしても美味しいのだ。
鞍掛豆
次は「鞍掛豆」のきなこを食べる。鞍掛豆は青大豆ということになる。先の大豆は薄い茶色だったけれど、鞍掛豆は緑色をしている。それだけではなく黒い丸のような模様も入っている。馬に鞍をかけた時のように見えるのでそう命名された。
青大豆で作ったきなこは少し緑っぽくなり「青きなこ」などと言われ売られているけれど、同じく青大豆で作られた鞍掛豆のきなこは緑ではなく、先のきなこと比べれば少し色が濃い茶色をしている。
鞍掛豆の断面を見てみると確かに緑色ではあるけれど、他の青大豆と比べると若干、緑は薄いように思える。そのためなのだろう、きなこのした時にあまり緑が出ずに、我々がよく知るきなこの色になるのではないだろうか。
北海道で買ったけれど、この品種は長野で生産が盛んなようだ。今回はきなこだけれど、海苔のような味がすることから「海苔豆」とも呼ばれ、お節料理などに使われる。大豆としては珍しい部類の品種になる。全糖が高いのも特徴だ。
鞍掛豆のきなこを食べてみる。甘みは強いがその向こう側には辛さのようものがある。辛いと書くと誤解が生まれそうだけれど、キレと言えばいいのだろうか。甘みの鋭いキレのようなものがあるのだ。結果だけを書けば美味しい、ということになる。
いわいくろ
最後はいわいくろのきなこだ。いわいくろはその名前からもわかるように黒大豆ということなる。大豆は見た目だけでも違いがわかる品種もあるのだ。黄に緑に黒、実にわかりやすい。
いわいくろは北海道で作られている品種だ。1998年には北海道で奨励品種になっている。外観が素晴らしい。極大粒豊満なのだ。黒いので輝いて見える。
コンバインの収穫にも適している。北海道の農業は本州の農業とは異なり規模が大きいことが多いので、コンバインなどで収穫できることも求められる。先の鞍掛豆は長野の中山間地で作られているので、北海道とは求められる特性が異なる。
黒大豆だけれど、きなこは黒くない。中が黒くないからだ。食べてみると、これが甘い。砂糖を入れたっけ? と思うほどに甘い。今回の3つの中では一番甘いと言える。旨味と言ってもいいかもしれない。本来は煮崩れしにくいことから、煮豆としてよく利用されている。
どれも美味しい
3つの異なる品種の大豆から作られたきなこを食べた。当たり前だけれど、それぞれに味が異なった。品種が違えば味も違うのだ。お米ほど大豆は品種を気にして買うことはないように思うけど、品種は面白いのだ。
せっかくなので枝豆の話もしておこう。大豆と枝豆は一緒だ。大豆の未成熟のものが枝豆となる。枝豆を作るとは大豆を作るとも言えることになる。ただ品種は異なる。枝豆用の品種と大豆用の品種があるのだ。
枝豆はアジア特有の食品だった。1991年にアメリカで発行された「New Crops」に小豆などと共に枝豆がアジア特有の新作物として紹介されている。この頃までは枝豆はアジア以外では一般的ではなかったようだ。
ただ現在は大豆と枝豆では異なる栄養素と栄養価を持っていることから、枝豆も世界的な健康志向によりアジア以外でも食べられるようになっている。ちなみにビタミンCや葉酸などは枝豆の方が大豆より豊富に含まれている。
何が言いたいとか言えば、大豆も枝豆も美味しい、ということだ。枝豆にも品種があるので追求すればキリがない。そして、品種を意識してスーパーに行くと、大豆に限らず面白い。新しい品種も常に作られているので、日々発見があるはずだ。
品種は面白い
品種の異なる大豆から作られたきなこを食べた。どれも美味しかった。また品種は面白いもので、味だけを見ても、作られた時代によって大きく異なる。たとえばさつまいもをよく「ホクホク」と表現するけれど、いま人気のさつまいもの品種は「ねっとり」だったりする。時代に合わせて品種は作られていくのだ。
参考文献
農文協「農業技術大系野菜編」農山漁村文化協会 2009
農文協「農業技術大系作物編」農山漁村文化協会 2010
五日市哲雄 久保田博南 塚本知玄「大豆の科学」日刊工業新聞社 2018
農林水産省「国産大豆の品種特性」2023