特集 2020年3月18日

「40秒で支度」できる着物があるらしい?!

「速さ×着物」の取り合わせは歌舞伎の早替り以来か

「40秒で支度しな!」とは、かの「天空の城ラピュタ」でのドーラおばさんの名ゼリフであるが、もし私たちが「出撃時は必ずその国の伝統的衣服で」という世界にいたらどうだろう。着物である。あの着物ってのを40秒で身につけなければ置いていかれるのだ。ああ、どうしようかしら。

しかし、こんな着物があることを知ったのだ。これでいつでも出発できる。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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何をどう着るべきか?永遠の問いについに答えが

たまにトークイベントに呼ばれる機会があり、いつもよりちょい良い服など着て出演したりするのだけど、果たしてこれでいいのかと迷う。どうせならもっと自分の色を出すとか、「あの格好ならあの人ね!」と一目でわかるような衣装を着たい。半裸+テンガロンハットのザコシショウ、ほどでなくていいが、アイデンティティをちょっとした工夫で表明したい。

そんな折、デニムの着物というものを知る。なるほど、着物にもデニムという概念があるのか。本式のだとハードル高そうだけどデニムなら…と傾きかけた頃、もっと衝撃的な文字を目にした。その名も「クイックキモノ」。都内のとある着物屋さんが紹介していたデニム着物で、例の「40秒で」と無茶振りをされても、これならパッと着て出動できる、らしい。これは…超ズボラな自分にも合うのではないだろうか。

まずは、その今回お世話になる着物屋さん「ゆめこもん」さんの、最近立て続けにバズった着物ツイートを紹介しておいたほうがいいだろう。

 

 

 

 

ほら。着物に興味のあった人も、そこまでじゃなくなんとなく気になってた人も、何か感じるものがあるのではないか。「自由区」って実はここだったんじゃないか。


「おはしょりを作らず」「ベルト帯締めるだけ」「ポケット付き」等々、魅力的なコピーが並ぶ。浴衣着るとき難渋した経験のある「おはしょり」(裾を調節する儀式)とか「帯結び」(一度解いたらもうわからない)が、なくてもいいってんだから!

というわけで早速(Quickly)、試着をお願いしに向かった。

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ビルの3階、外からはうかがい知れない。池袋らしい感じではある。

さて実はこの「ゆめこもん」、乙幡と他のお仕事でご縁のあった方がご夫婦で営んでいる。だが訪問はこれが初めてだ。まさか自分が、浴衣でもなく晴れ着でもない、普段使いの着物を試着するために着物屋さんを目指そうとは思わなんだ。人生って、生きてみるもんだなと思いますね。

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反物のごとく細長い店内。

池袋マルイにほど近い、雑居ビルの3階にその店はある。外から見えないので通りすがりのお客さんがポッと入って来るのでなく、ここを目指して来るお客さんばかりなのだ。

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ハイヒール柄の帯!
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無国籍反物!

反物、帯、履物…もちろん普通に艶やかな着物もあるが、あまり見かけないようなものがたくさんあって目を引く。

この日はその店主、中村さん(以後、通称「なかどん」で呼ばせていただく)と、着物コーディネーターとして活躍中のYokoさんにいろいろ教えていただくことになっている。読者への挨拶がわりに、お2人のデニム着物コーディネートからご覧いただこう。

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こちらの素敵なデニム着物ニストが、なかどんこと中村さん。

 

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やっぱりここに一番目が行く、革ベルト帯!

 

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よく見たら英字入ってる足袋!
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たしかに着物なんだけど、デニムの持つザラッとした雰囲気があって独特な感じ。

女性の私が着るからと、この日特別にお越しいただいたYokoさんのコーディネイトも、いい。

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もう、なんかいろいろ聞きたいことがある。
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私製作の鳩目ブローチつけてくださって登場。ストール他、色味がいい。
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帯留め代わりのちょいパンキッシュなベルト。でも溶け込んでる。
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私もハイカットスニーカーをここにこう合わせたい。心からそう思う。

さあ、気分も盛り上がってまいりました。早速私たちに、クイックキモノを、さあさあ。

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数あるクイックなデニムから、さて何が私に…
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洗いざらしてない、インディゴのものを着せてもらう。もう何もかもお任せだ。されるがままだ。
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おう、腰紐はやはり最初結ぶのね。でも結ぶだけだ、難しくない難しくない。
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帯があっという間に結ばれた!

 ここまで着て、ちょっと首元が寂しいという感じだったので、家からしてきたストライプのストールを巻いてみる。

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わたしにもきものきれたもん!
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これこれ。レギンス&スニーカーを合わせたかったんだよ。

ここで、「人生変わるよ、本当に」風フォーマットで仕上げたビフォーアフター動画もご覧ください。担当・石川さんが一生懸命つなぎました。

 

静かな充実感が、乙幡の胸に込み上げる。なんでしょう。洋服の試着するときは「あーあー、こう来ましたか、あーサイズね、ちょっと違うかな、じゃそっちを行ってみますか」とご存知な感覚はあるけど、それと全然違う、知っていたようで全然知らない、みたいな。祖母の娘時代にタイムスリップしたら思いの外モダンな日々を送ってました、みたいな。文才ないな。

不思議な感覚ではある。

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せっかくなので、この日同行した担当石川さんの人生も変えてみようと思う。

ちなみに男性の場合、おはしょりとか元から不要なので、一般的な着物も全て「クイックキモノ」なのだそう。いいなぁ。

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おおー、ウォッシュタイプ!
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「されるがまま」を辞書で引いたら単語の横に載ってる挿絵がこれだ。

 

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協議の結果、ここもストールはどうかということに。
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洒落者が出たぞー!傾き者が出たぞー!
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ここでなかどん、岡山デニムのいい柄があると出してきて。
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担当、筆者を差し置いてまさかの2ポーズ目。いなせな若者が、出たぞー!

 

なぜこういう着物屋さんを?

ザ・モデル慣れしてない人々だったが、一気に雰囲気がガラッと変わっただろう。特に高価なものを着たとか込み入った過程を踏んでないのにだ。

しかしデニムのクイックキモノがなんだか面白いのはもとより、この店自体もあまり和服屋さん然としてなくて面白い。

なかどんさんは、なぜこういう着物屋をやろうと思ったんですか?

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僕はもともとTV番組制作に35年たずさわっていてね。 
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え、全然畑違いでは??
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そうなんだよ。ある日、実家が呉服屋だというADくんが、ジーンズの脇っちょに着物のハギレを縫い付けていて、それがなんともいい感じの組み合わせで。思わず「それ何?!どうしたの?!」と聞いたんだ。
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お、人生の分岐点がそこに!
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そこでいきなりスタッフ10人くらい集めて「着物ってどうよ?!」とね。でも誰も着物のことなんて知らない…
そこから少しづつ、着物イベントとか動画とか作るようになって。
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じわじわと変化が。
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TV番組も、やりたいことがなくなっちゃって、潮時な感じで。7年前に店、とうとう立ち上げたんです。

 着物はアパレル

 

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私には、着物屋さんってやはり敷居が高いイメージなんですけど…なかどんが新しく参入したとき、業界からの反応は果たしてどうでした?
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それがね、業界からはかえって歓迎されたよ!やっぱり2代目3代目の若い方もいて、これから変えていかないと、という危機感もあるし。新参者としていろいろ面白いこと始めようとすると、興味津々で支えてくれたりね。
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危機感、そうでしょうね…。私も全然着物着なくてここまで来たし。興味ないわけではないんだけど…そういう人、多そう。
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そう、調べたことあるけど、女性の9割は着たいと思ってる。しかし着付けとかいろいろわかりにくくて入りづらい世界…。
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正しい着付け、うーん。説明とか読んでると混乱してくるんですよね。例えば衿のとこの、ほら、こういうU字の曲線(衣紋=えもん、という)、あとおはしょりなんかも私には謎イベントに感じてしまうし、…
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この衿元のアールが「衣紋」。ここの加減で下品にも見えたりする、なんて聞くとさらにおののく!

 

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デニムではそこ、あまり気にしなくていいんですよ。ちなみに半衿(着物の下に着る長襦袢、そこにつける襟)もいらない。だから中にパーカーとかシャツとか自由に着てる。
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なるほどー。そんなに戦々恐々としなくていいわけか。でもやはり、着付けられたとしても「着崩れるのが心配」とか、不安要素がいろいろあるイメージ。
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デニムならそこまで心配せずとも良いわけですよ。
いわゆる”キモノ警察”(着物の着方に厳しめな方々)も、デニム勢には何も言ってこない(笑)もちろん、デニムだってきちんと着物らしく着ることもOK。
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そもそも正しい着付け、なんてのは戦後から出てきた新しいものなんだけどね。
俺が言いたいのは「着物ってアパレル」なんだよ。普通に普段の服として、どんどん楽しんで着てほしいわけ。
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うーん、話を聞いてたらだんだん勇気が湧いてきたぞ。なんというか、着物に限らない「自由」さについて考えさせられるような…。
確実に、以前より着物への敷居が2〜30cmは低くなった気がします。

そうなのだ。デニム着物とかクイックキモノを軽やかな入り口として、まずそこで楽しんじゃう。そしてそこから深く入ってもいいだろうし、そのままでもいいだろう。

着物の入りにくさとして考えていた、裾の長さや結び方などのたくさんの不確定要素。無数の目盛りを自分で整えていかなくてはならない(洋服はボタン留めるだけだ)。そんな不確定要素を飛び越えていいジャンルが着物にあったとは、なんだか世界が一気に広がった。

そして着物フォーマットという、かっちりしてそうな枠組みがあるからこそ、そこからハズしたアレンジがすごく斬新で光って見える。「制約の中の自由さ」という言葉が頭の中をグルグル回っている。

いずれ私も、自分のデザインした布でクイック帯作るぞ、とまで思えてきた。もしかして自由な生き方ってやつを考えるとき、着物が新たな突破口になったりして?などとそんなことを真面目に考えております。

なかどんさん、Yokoさん、ありがとうございました。

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40秒で支度できるのか

さて私、このクイックキモノ一式を買って帰り、40秒で支度できるかどうか家でやってみた動画がこちらになります。

5回目くらいのトライでなんとか40秒ギリギリで出発できました!細かい調整は、道中コソコソやればいいや。


まとめ

記事では触れられなかったが、「ゆめこもん」では布の持ち込みで着物をあつらえてくれるそうで、今までにも男性客が日暮里の布屋さんで選んだのを持ち込んだり、インドのお土産バティックだったり、染色の卒業制作品だったり、自由度もここに極まれりという感じだ。気になった方は「ゆめこもん」さんのツイッターなど御チェックください。

お2人とも「自由でカジュアルで遊びたい人向けの、着物よろずやご相談窓口」とのことですので、さあさあ奥へどうぞおあがんなさい。

ゆめこもんツイッター
@yume_comon
HP
https://yumecomon.com/

Yokoさんツイッター
@405yangzi0206
インスタ
kimonoantiquerose405

【筆者告知】

昨今のコロナ禍で中止にならなければ、4月11・12日のデザインフェスタに「G-47妄想工作所」として出ます。

そして4月17〜26日は西小山「umi neue(海の家)」にて、初の張り子作品の展示をいたします。在廊日時などはツイッター「@otsuhata」を御チェックくださいまし。

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