行き当たりばったりの旅は終わった
最近旅をしていない気がして、そんなに遠くなくていいから出かけたいと思っていました。旅に距離は関係なくて、行ったことがない場所をフラフラ歩いたり自転車で走ったりするだけでも十分に旅でした。
遠出がしにくい今だから、近所で日帰り旅行をしてみるのもいいんじゃないでしょうか。今はまだマスクはして、お酒はほどほどに。
これを読んでる未来の世界からすると、上に書いたマスクのくだりも意味不明になってるんでしょうかね?なってるといいなぁ。
なんとなく、そんなに遠くない知らない場所に出かけてみたいなと思っていたら柏に怪鳥が出たというニュースがあり、柏について調べていたら面白そうなお店のことを教えてもらった。
きっかけとなった怪鳥は柏に行く前に捕まってしまったけど、埼玉の東松山に行けば見られることが分かったので見に行き、でも柏にも興味が残ったのでやっぱり柏に出かけた。
僕は、気の向くまま好奇心と旅をした。
これを読んでるのが2021年の6月から遠ければ遠いほど『柏のあの鳥』の意味が分からないだろうと思います。7月や8月なら覚えているかもしれませんが、9月になったら「手賀沼の白鳥のこと?」なんて思うかもしれません。
2022年以降だとすっかり忘れられてる気がします。そちらは今、何年ですか?東京オリンピックはどうなりましたか?
2021年の6月に読んでいただいているならばまだわかると思いますが、柏のあの鳥と言えばミナミジサイチョウのことです。
2021年の5月終わりから6月はじめくらい、柏周辺の黒くて大きな鳥が出没しているというニュースがオリンピックと感染症のニュースの合間に報じられていました。
実は2年前に茨城のペットショップから逃げ出したのだとか、手賀沼の周辺では以前から知られていたのだとか、あの黒い鳥はミナミジサイチョウという名前で、南アフリカに棲む絶滅危惧種なのだとか、僕らは唐突に、mRNAワクチンやセントラルドグマの仕組みと共にアフリカの黒い鳥についても詳しくなってしまったのでした。
(そして数か月でミナミジサイチョウの事は『そんな鳥もいたな』くらいになるのでしょう)
そんな折に訪れた、この原稿の予定。ネタ…なにを書こう。ーテレビに映る黒い鳥ー。よし、見に行くか。僕が住んでる江戸川区から千葉県の柏は電車で40分程度と近めです。
どうせ柏に行くのなら鳥だけでなく面白そうなものがあったら見てこようとリサーチ&下調べ。
妻に「一緒に行く?(あわよくば写真を撮ってくれ)」と聞いたら「行かない」との返答。
そして映った『ミナミジサイチョウ、遂に捕獲!』のテロップ(6/5土曜日の昼過ぎに捕獲)。
あれ?捕まった?まだ柏に行ってもないのに?
全てが白紙になったのだけど、動き出したら止まらない、ここまで調べてテンション上がって、ミナミジサイチョウを見たい気持ち(やだ、こんな気持ちがあたしの中にあったなんて!!)の収まりがつきません。どこかに行かねば!
(動き出したら止まらない、『失敗の本質』みたいな展開)
我らがインターネッツで調べたところ、埼玉にミナミジサイチョウがいることが判り、「動物園に行く?」と妻に聞いたら「動物園なら行ってやってもいい」と言うので出かける事になりました。
埼玉県東松山市にある東武東上線高坂駅は『埼玉県こども動物自然公園』の最寄り駅。高坂駅と言えば、かつてあった『神秘珍々ニコニコ園』の最寄り駅でもあります。
20年ぶりに降りた高坂駅、少しは懐かしいと感じるかと思ったのですが、あまりに変わりすぎていて「記憶にないな」という感じでした。
動物園までバスで5分ほど。着いた動物園はガラガラに空いていました。
天気は雨時々曇りのち晴れ。屋根のない場所が多く、だだっ広い山の中を存分に歩かされる動物園には不適な天気予報だったからでしょう。
主な目的はミナミジサイチョウではあるのだけど、その前にふわふわの可愛い動物を見て回りました。
思うに、毛はズルい。毛が生えていてモコモコしているだけで相当に可愛いのだからチートだと思うのです。
僕はカエルの見た目がとても苦手なんですが、あれも毛が生えていたら相当に可愛いはずです。と思って、アフリカのケガエルの画像を見たら「ちがう、そうじゃない」という気持ちになりました。
毛はしっかり、全身に生えてふさふさしているからこそ可愛いのです。カエルが進化してフッサフサの毛を生やしたらいいのになと思ったのですが、もしかしてそれが哺乳類ですか?
他にも、クオッカという可愛い有袋類も見られるので埼玉県こども動物自然公園に行きましょう。
フワフワを堪能していただいたところで、話をミナミジサイチョウに戻します。
埼玉県こども動物自然公園はとにかく広く、山一つが丸ごと動物園です。それぞれの展示スペースがたっぷり取られているので人間はかなり歩かされます。
たっぷり歩いて雨に負けそうになった頃に辿り着いたのがサイチョウコーナー。ひときわバタバタと飛び回り『ホホ、ホホホホ』と鳴いていたのがミナミジサイチョウでした。
テレビで見た逃亡ミナミジサイチョウはくちばしが折れて短くなっていましたが、こちらの個体は長く鋭いくちばしが健在。目の周りと喉の赤が黒い羽根に超映えます。
けっこう行動的な鳥のようで、大きな翼を羽ばたかせて、ケージの中を飛び回っていました。確かにこれがその辺の田んぼにいたら驚きますね。
そしてところどころ穴が開く、檻を囲う透明の板。こういう板だけでなく檻そのものをつついている事も多く、なるほど弱いケージなら脱走することもあるかもなと思いました。
しばし見ていると、他のお客さんが「あ、これ千葉の方で逃げてる鳥じゃない?」などと会話していました。そうです、これが逃げてた鳥の仲間たちです。
ミナミジサイチョウを見たい欲は埼玉県こども動物自然公園でまぁまぁ解消されましたが(ついでに餃子欲も解消された)、柏にも行ってみることにしました。
柏について調べた結果、『なんもないと言われたけどなんかあるっぽい』と感じたからです。
(「なんもない」は地元の人の言葉です)
ミナミジサイチョウのニュースを通して見ていた柏は、山の緑と畑と田んぼの世界でした。でも、実際に行ってみたら普通に街で都会でした。ビックカメラがあればだいたい都会感覚。
土地勘がない場所で必要なのは自転車です。自転車があればどうにかなります。という事でまずは市が運営している駐輪場に行って自転車を借りようとしたら廃墟でした。Oh…。
柏市のホームページに載っていた場所に行ってみたら廃墟になっていて、錆と緑に飲まれていました。ええぇ…。
トラロープに付いていた『新しい駐輪場の場所』に迷いながらたどり着き、すでにまぁまぁ疲れつつ210円(22時までのレンタルサイクル料金)を払って自転車に乗る権利をゲットしました。
レンタルサイクルって1時間200円とか、そういう設定が多いと思ってましたが柏は1日で210円でした。 価格設定がバグってます。
地元の人に柏の情報を聞いたら「フードセンターわたなべがすごい」と言うので行ってみました(柏駅からはちょっと遠いです)。これが確かにすごくて、見たことない商品が見たことない価格で売られていました。
中でもお弁当が安くて、唐揚げ弁当が250円って、少なくとも僕は初めて見ました。やはり柏は物価がバグってますね?
自転車とお弁当をゲットしたら、どこか気持ちがいい場所で食べたいと思うでしょう。もう捕まっちゃったけど、きっとミナミジサイチョウもそういう場所でご飯(小動物とか)を食べていたはずです。
なので手賀沼へ。位置関係的には、柏駅の東3kmくらいに手賀沼があります。
自転車で少し走っただけで街は後ろに消え去り、田園風景になりました。これです。ニュースで見たことがある柏はこれ。
ペダルを踏みこむと手賀沼が近づいてきました。川が見え、橋が見え、釣り人がいました。最近の夏日と夏至が近い太陽が育てたモッサモサの緑が車道にこぼれそう。
手賀沼の南側は自動車が入れない周遊道路が整備されていて、とても走りやすくサイクリングにおすすめです。
ただし、柏駅から手賀沼って意外と距離があったので柏駅のレンタルサイクルを使うのではなく、手賀沼周遊レンタルサイクルを使った方がいいと思います。
葛西に住んでて感じますが、僕はどうも水辺が好きらしく、手賀沼周辺の景色はとても好ましく感じます。
サイクリングロードに沿って東屋やテーブルが整備されていたので、さっき買ったお弁当を食べることにしました。
250円の唐揚げ弁当って、どうせ大したことないでしょ?唐揚げなんてほとんど衣なんじゃないの?とか思うかもしれないけど、これが普通に唐揚げ弁当。
沼のほとりでお弁当を食べながら、「ああ、今日ここに来てよかったな」と思いました。満点の日曜日だな。
ここまでで、何人かにミナミジサイチョウについて聞いてみました。
「一昨日黒い鳥が捕まったじゃないですか、あれ、どのへんで捕まったかって判りますか?」
「あー、あれ、どこなのかなって家内とも話してたけど、場所は分かりませんね」
「黒い鳥?さぁ?ニュース見ないから知らないですけど、そういうのがいるんですか?」
「もっと東の方で、白井市の方みたいですよ?」
とのことでした。
柏は広いし、鳥は市の境界なんて知ったこっちゃないので広く色んなとこを飛んでただろうし、関心がない人もいたようです。もしかして、騒いでたのは東京の報道関係者だけだったのかもしれません(よくある、東京の人だけ騒いでるアレだ)。
情報によると、手賀沼に沿って南東に行けば、よりミナミジサイチョウがいた辺りの景色を見られるはずです。レンタルサイクルのペダルを踏みこんで進むと、なにやら大きな鳥が飛んでいました。
近づいて見るとそれは鳥の形をした凧で、竿から出た糸に繋がりくるくると飛んでいました。
自転車で移動していると、手賀沼周辺は鳥が多いなと気づきました。冒頭に載せたように白鳥は普通に泳いでるし、鴨やトビも見かけます。
水辺に鳥が多いというのは、葛西でも感じていますがここもそうらしい。
ミナミジサイチョウが最近急に話題になったのは『東京の人が見つけちゃったから』なのでしょう。
そういえば、かつて川越市に住んでいた1998年ころ、夕方の川で怪鳥を見たのを思い出しました(隣の鶴ヶ島市の境界辺りで見た)。あれも大して話題になってなかったと思います。
七面鳥のような顔をして目立っていたはずです。実は地方にはそういう鳥がちらほらいて、でも地元の人は特に話題にしないのかも知れません(大きな鳥に慣れているから)。
ミナミジサイチョウは捕まってしまったけど、この景色を見ていたのかもなぁなどと思いながらアテもなく自転車を漕いでいくと将門大明神という看板が立っていました。
平将門と言うと東京丸の内にある首塚が有名で、怨霊として畏れられたりしていますが、柏では英雄として祀られているようです。通りを進むと鳥居があり、その先には小さいけど立派な彫り物が施された本殿が建っていました。
現在の本殿は安政6年(1859年)の建立だそうです。とにかく彫り物が4面の上から下まで緻密に施されていて素晴らしい。将門公が目を射抜かれたことに由来した隻眼の人物なども彫られています。
たまたま行ってみただけなんですが、思いのほかよいものを見られて、旅ってこういう感じだったなと思い出しました。行き当たりばったりの出会いが面白い。
夕暮れ。18時を過ぎてもまだ明るいけど210円で借りた自転車のサドルは硬く、お尻が限界になってきました。自転車旅の限界は尻に訪れます。
手賀沼周遊サイクリングロードに戻ったらウシガエルのモ゛ーモ゛ーという鳴き声が聞こえて帰りたくなってきました。防災無線からは『夕ー焼ーけ、小焼けーのー』ってパンザマストが聞こえてきます。
手賀沼から柏駅まではまた3㎞。尻が限界を迎える中、途中コンビニで休憩しながらなんとか帰りました。やはり、手賀沼の辺りをサイクリングするなら周遊のレンタルサイクルがいいですね。手賀沼から柏駅は遠い。
最近旅をしていない気がして、そんなに遠くなくていいから出かけたいと思っていました。旅に距離は関係なくて、行ったことがない場所をフラフラ歩いたり自転車で走ったりするだけでも十分に旅でした。
遠出がしにくい今だから、近所で日帰り旅行をしてみるのもいいんじゃないでしょうか。今はまだマスクはして、お酒はほどほどに。
これを読んでる未来の世界からすると、上に書いたマスクのくだりも意味不明になってるんでしょうかね?なってるといいなぁ。
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