エリマキトカゲとみそ汁と私
誰しも、人に言われた言葉をきっかけに着なくなった服があると思う。
そんなお気に入りの服が変だと言われた気がしたのだ。
エリマキトカゲと言われた服は、そのまま着なくなって捨ててしまった。
他にもある。
エリマキトカゲもみそ汁も、着たいのに恥ずかしくて着れないのではない。いいと思って買ったのに、着たいと思わなくなったのだ。
私はその気持ちの変化に気づいてハッとした。
告白して付き合ってもらったのに、ときめかないから会いたくないんだよね、と言っているようなものなのだ。そんな大変失礼なことをしていた。
その後、みそ汁とはすぐに和解した。
私はみそ汁がいないと、13℃の日に何を着ていけばいいかわからなくなった。
それから、みそ汁のいいところも見つけた。着心地が良くて、絶妙な色だと改めて思った。
一方で、エリマキトカゲとはまだ距離がある。
エリマキトカゲの襟を作る
今、まちでは襟の大きな服が流行っている。見かける度に捨ててしまったあの服を思い出す。私はエリマキトカゲのことを恥じないようになりたい。
もし、エリマキトカゲの襟をクールに作れたら、あの襟が好きだった自分の気持ちを掘り起こせるかもしれない。
そんなわけで、エリマキトカゲの襟をクールに作ることに挑戦したいと思う。まず、エリマキトカゲを知るところからだ。
襟が広がっているイメージしかなかったが、閉じている時はだらっと垂れている。襟の中には細い骨が張っていて、皮膚から骨が浮き出ている。襟のふちには細かいトゲトゲもある。威嚇して口を大きく開けると、襟が広がる仕組みだ。
この特徴をとり入れて、こんな襟を作ることにした。
襟のふちにはトゲのレースをつけ、襟の中にはワイヤーを入れて立ち上がるようにしたい。
さぁ、さっそく、レザーを買ってきた。
表面に肌のポコポコと、うっすらモヤのような模様がある。
まずは固めの紙に製図していく。
書けたら裁断して、着てみる。
小さい頃、こんなのをかぶせられて自宅で母に髪の毛を切ってもらっていたな。懐かしい。
気になる部分を確認してから、ハンガーにかけてシルエットの修正。
できたー!
サクッと型紙が完成した。
トカゲになるための下準備
次は型紙を布に写していく。
大きな布に書くときは、チャコペンではなくチョークを使うのが好き。書きやすくて線も細く、消すのも簡単。
ささっと引きました。
襟は裏と表が必要なので、2枚重ねて切っていく。
首の入る丸い部分はピザを切るやつみたいなカッターを使うと便利。
久しぶりに使ったら、ひと転がしでケガの匂いがした。危ないので気をつけて使ってくださいね。
次が大事なポイント!レザーの裏の芯を剥がしていく。
硬さとハリ持たせるために元から接着芯が合皮に貼られているのだ。でも今回はしなやかで弾力のあるリアルな皮膚感を出したいので剥がす。
結構力がいる。
さて、なんとか剥がせた。
芯が無くなった分、柔らかくなり、生き物に戻ってきた。
わずかな差だが、大事な違いなのである。
この時点で一旦かぶってみた。
まだエリマキトカゲには程遠いけれど、光沢がエレガントだ。クールになりそうな予感がする。
エリマキトカゲらしさを出す
エリマキトカゲに近づくためには、やはり襟(皮膚)に骨が浮き出ていて欲しい。そのために芯を剥がしたのだ。
骨になるワイヤーを2本ねじねじさせて太さを出し、襟の中に仕込ませる。
片方の襟に貼ったら、もう片方の襟でサンドイッチ。裏も表もワニ柄にする。
次に、首の方に飛び出したワイヤーを折り曲げて、立ち襟をつける。
ボンドが乾いたらワイヤーごと立ち襟の周りを縫っていく。
このままでは着にくいので、ファスナーをつけた。
襟から骨が浮き出て、皮膚にヨレが生まれた。生き物感がでてきたぞ!
最後にトゲトゲのレースをつける。
思ったよりも作業がサクサク進み2日で完成した。
できた!着てみよう!
エレガントでクールなメーテルみたいになれたかな、と思って鏡の前に立ってみる。
とても悪魔的だ。海外のメタルバンドの人みたいになってしまった。
不安になって父に何に見える?と聞いたら、10秒考えて「トカゲ?」と言った。合ってる。大丈夫。トカゲだ。
しかし、襟だけだとなんか物足りない。
小物も作っていく
主役を際立たせるために、脇役を作ることにした。
水戸黄門だけではなく、助さんと角さんもいた方が世界観があるし、水戸黄門が際立つ。それをトータルコーディネートという。
ということで、帽子とかばんを作ることにした。
まずは帽子。作るのは6枚はぎのチューリップハットだ。最近チューリップハットがマイブームなのだ。
この帽子のこだわりポイントは、縫い方。
このジグザグ縫いがすごく、いい!合皮×ジグザグ縫いはハード生地とハードな縫い方で相性がいいのだ!
できたー!
日常的にかぶりたいほど気に入った。レザーなので夏は暑いけど冬は使えそうだ。
次はかばんを作る。フリンジ(ピラピラ)付きの丸いカバンがいいかな!
そして大胆にフリンジをつけて完成。
カバンのこだわりポイントは、フリンジの長さだ。トカゲのしっぽのように長くてしなやかにゆれ動く様を表してみた。
うん!小物も気に入った!さぁ、心強い助さんと角さんも揃ったところで、ちょっくら紋所を見せに行きますか。
エリマキトカゲになる
こうして、襟・帽子・カバンが完成した。
この時私は、早く着たい!と思った。もう私にとってエリマキトカゲは早く着たい服になっていたのだ。
なので、すぐ着た。
恥ずかしいと思っていた大きな襟が、今はかっこいいと思う。
同じようにすれ違った人に「エリマキトカゲみたい。」と言われても「そうなの!正解!クールでしょ!」と返せる。
襟を広げるとこうなる。
レザーが重たくて予想よりも立たなかったが、十分だ。
襟のおかげで私の手までトカゲに見えてくる。自分がエリマキトカゲに見えても、全然嫌じゃない。もう何も怖くない。
カッコよく写真を撮る
思っていたよりもよく出来たので、エリマキトカゲをかっこよく写真に残したい。そうすれば、またいつかエリマキトカゲ恐怖症になっても、今の気持ちを思い出せる気がするのだ。
というわけで、かっこよく撮ってきた。
友人がiPhoneのライトで照らしてくれたのだが、すごくうまい。
ファスナーを途中まで開けて着ても良い感じ。
ハロウィンの仮装に良いのではないかしら。大きなピアスやネックレスでゴージャスにするともっと雰囲気が出ると思う。
蛇を飼っててツボの中から煙を出して薬品作る系の先生だ。
帽子とバッグのおかげで、お出かけに行くの?感が出てエレガントさも増した。
私と同じように、エリマキトカゲ恐怖症の方に「エリマキトカゲってかっこいいんだ!」と思ってもらえたなら、とっても幸せなことである。
あるいは、このエリマキトカゲの服を見て「よくみたら私の服は全然エリマキトカゲじゃない。恥ずかしがる必要なかったんだ。」と思い直していただけたら、それはきっと服も嬉しい。
一度でも襟の大きな服を選んだ感性を、消すことなく楽しんでほしいと思う。
白いヒートテック
昔、好きな男の子の前で白いヒートテック姿になった時、「すごいよマサルさんじゃん!」と言われたことがある。めちゃくちゃムカついたのでよく覚えている。
それからも寒がりな私は白いヒートテックを着続けた。着るたびにマサルさんを思い出し、マサルさん耐性をつけてきた。今はもうなんとも思わない。
人はそうやってゆっくり大人になるのかもしれない。
もしこのエリマキトカゲセット(襟・帽子・カバン)が欲しい方がいましたら、差し上げますので編集部までご連絡ください。
ハロウィンなどで出番があるかと思います。
ぜひ、エリマキトカゲになってみてくださいね!