いやがおうでも着ぶれるこの季節。
でも、着ぶくれはかっこ悪いことじゃない。
脱いだ時の解放感が味わえるのだから。
もし、服が重たく邪魔に感じたら、がむしゃらに脱いでみるといい。
引っかかったりするけど
部屋が大変なことになるけど、
最後の一枚を脱いだあと、
とにかくすっきりする!!
昼休みの日課がある。
近くの公園の芝生に寝転んで目を閉じ、大自然にいる想像をするのだ。
この時だけは、仕事の疲れや人間関係から解放されて、自由な子供にもどる。
「今日は北海道の森でどう?」と言うと「いいね。」と言って同僚がとなりに寝転がる。
目を閉じて息を吐くと、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
やわらかい風が草木をゆらす音がする。
からだは芝生の下に潜む微生物にじわじわ分解されて土に還り、こころは宙に浮かんで日に照らされる。
私は今、この”解放体験”にやみつきなのだ。
そうしているうちに昼休みの終わりが近づく。
「そろそろ行こうか。」を合図に私が再形成され、「よかったね、北海道。」と言いながら仕事に戻るのだ。
日々、心身解放運動にいそしむ私であるが、やってみたい最上級の解放体験がある。
それは「服を脱ぎ捨てて走り回る」こと。
「アルプスの少女ハイジ」の第一話で、ハイジが着ぶくれたまま山を登り、途中で服を脱いで走り出すシーンがある。あれだ。あれがやってみたい。
ハイジは1歳の時に両親を亡くし、デーテおばさんのもとに引き取られた。5歳の今までたらい回しの寂しい生活を送っていた。
ある時デーテは働きに出るため、アルムの山に1人で住む無愛想なおじいさん(アルムおんじ)にハイジを引き取ってもらおうと山を登るのだ。
その時ハイジは厚着させられる。
「あつい…」とつぶやくが「我慢しなさい。」と言われてしまう。
なるべく荷物を減らすためにとにかくたくさん着せられるのだ。
ハイジは子供ながらに、デーテが自分を追いやろうとしていることを察している。
イヤな空気のまま山を登っていると、ハイジは虫を見つけたり、ヤギ飼いのペーターと出会ったり、自然に触れていくうちに、だんだん子どもらしさを取り戻していくのだ。
そして服が重く、邪魔になってくる。
ついにハイジは心の向くままに、服を脱いで裸足で山をかけあがるのだ。
私はハイジが本来の子どもに戻るこのシーンが好きだ。
今までの悲しい思い出や、デーテとの苦い日々を全部脱ぎ捨てて、雄大な自然の中に身だけで飛び込んでいく。
すごく解放的な顔をしていて泣ける。
ハイジの楽しくて仕方がない!という顔がたまらなくかわいい。
そうそう、子供ってこうでなくっちゃ、って。
デーテに「服をとってきなさい!」と言われたハイジは「もう服いらないの!あついんだもん!」と初めて反抗する。そうそう、子供ってこうでなくちゃね!!自由でなくちゃ!
私も着ぶくれして山に行き、雄大な自然のなかで服を脱いで思いっきり走り回ったら、最高の解放感が味わえるはずだ。
みなさんに解放感の度合いをお伝えするためにグラフを作った。
項目は、解放感(気持ちよさ)、楽しさ、やみつき度(またやりたい)、自然の魅力に気づけた度、もう服いらない度だ。
「もう服いらない!」は走り終わった後のハイジのセリフである。
比較のために、軽井沢でサイクリングしたときのことをグラフにする。
自然の中を風を感じながら走り抜けたので解放感は4。
思い出すたびにまたやりたいな~と思っているので、やみつき度も4。
途中上り坂がきつかったが、ずっと笑いながら走っていたので楽しさも4だ。
空気がきれいだったが直接自然に触れたりはしていないので、自然の魅力は3。
服は着ていたし必要だったので1にした。
脱いだときの解放感を得るにはまず着ぶくれしなくてはならない。
ハイジが何枚着込んでいるのか数えてみると、赤い頭巾も合わせて7着も身につけていた。
北海道の真冬でもそこまで着ない。
なるべく似ている手持ちの服を探してみた。
着ている外側(画像左側)から、赤い頭巾、ピンクのトレーナー、エプロン、ワンピース、カーキのニット、ハイジのいつも着ているワンピース、下着だ。
似ているブーツと黄色い靴下もちょうどいいのがあった。
着ぶくれハイジのような丸いシルエットになれるのか、着てみよう!
ひとつひとつ着ていく。
まずは芝生を駆け回る時の下着。
私が下着で走り回ったら大変なことになるので、白いワンピースにした。
次はおなじみのハイジのワンピース。
先ほどの白いワンピース本当に着てる?ってほど違和感がない。むしろさっきより細い。これは気痩せ服だ。
スカートもタイトで脱ぎにくい形なので手間取らないか心配。
下からまくりあげて脱げばスムーズに行けそう。
次はカーキのニット。
薄手のニットは伸びるので脱ぎやすい!
これはいい脱ぎ服だ。
服は着てなんぼのもんだと思っていたが、「脱ぐときの気持ちよさ」を軸にしてみると、今までそうでもなかった服がお気に入りになる。
スパッと脱げて気持ちがいいし、着ぶくれ感も演出できる。
次はワンピースとエプロン。
服の中がもこもこしてきて着膨れているが、エプロンをすると着膨れが気にならないマジック!
アルプスにいそうだし、クッキー焼いてそうだ。
次はピンクのトレーナー。
厚手でビッグシルエットなのでかなり着ぶくれることができた。大きいサイズの服を最後に着ると見栄えが良くなる。
最後に赤い頭巾。
頭にぴったりなサイズのフードも、裾が三角になる後ろ姿もこだわりの光るところだ。
後ろから見るとわかりにくいが、前から見るとちゃんと着ぶくれている。
やはり、服が重くて動きにくい。
足を一歩出すにも布の負荷がかかる。
最初は気にならないのだが、数分歩いてると重さを感じてくる。
ハイジの生活も重い服をまとったように抑圧されたものだったのだろう。
試しに脱いでみた。
脱ぎやすいカーキのニットと最後の1枚が解放感が大きい。
だがなんの抵抗もなくするっと脱げすぎてしまうと解放感は感じないだろう。
脱いでみて気づいたことが2つある。
1つは、ハイジの脱ぐスピードが早すぎるのだ。
熟練のなめらかさで、常人に出せるスピードではない。
服たちも脱ぎやすさのために開発されたのでは…と思うほど抵抗がないのだ。
私は腕、肩、頭のところでもたついてしまうし、どうしても布の摩擦が起きてスムーズにいかない。
もうひとつは、解放感と着ぶくれの枚数は比例しないということだ。
たくさん脱げば脱ぐだけ解放感が大きくなるのではなく、1枚1枚の脱ぎやすさが解放感を徐々に大きくしていき、最後の1枚で爆発する。
なのでラスト3枚からのたたみかけが重要なのだ。
特に最後の1枚は少し脱ぎにくいほうがいい。ボス戦も手ごわいほうが達成感が出るものだ。
服を脱ぐにはアルプスのような場所がいい!ということで、山に来た。
自然に囲まれてきれいな空気を吸うだけで既に解放感がある。
11月の山の上なので着膨れていても暑くないし、逆に布団に包まれているみたいで気持ちいい。
さぁ!脱ごう!
早速脱いでいくことにしたのだが、
なんか、まだ脱ぐ気持ちじゃないのだ。
心がついてきていない。
たしかハイジもヤギとたわむれたり、虫を追いかけたりして自然に触れていくうちにだんだん脱ぎたくなってきていた。
私も自然と触れ合わなければ…!!
ということで、ヤギを触りに行った。
朝起きてヤギの乳絞りをして、とれたてのミルクを温めて朝食にしたい。
そんな生活いいよなぁと思う。
さて、次は虫だ。
虫に出会うために山道を歩く。
ハイジはバッタを笑顔で追いかけていた。
トノサマバッタとか大きい系の昆虫がいるといいんだけどなぁ。
足元や草の葉先を注意深く見ながら進んでいく。
カサカサいう音にも敏感に反応して探す。
何度かカサカサ音の元を探してみたのだが、
冬の山って虫いないのかもしれない。
でもじんわり汗をかいてきた。
服が重たく、邪魔になってきた。
これは、脱ぎチャンスだ!!
きたぞ〜!この時が…!
まずはハイジのように勢いよく脱いでみる。
赤い頭巾は空に投げる。ここはアルプス!!!!
ポイ!ポイ!っと脱ぐのが楽しい!
わ~~~!!最高だ〜!!
ヨーレローレ・ラッへッホーイ・ラッへッホッイ・ラッホッホ~!!
ヨーレローレ・ラッへッホーイ・ラッホッホッホッホ~~~!
口笛はなぜ~遠くまで聞こえるの〜
あの雲はなぜ~わたーしを呼んでるの?
いいじゃない!!
寒さとか感じない!
私、もう服いらない!!!
さっそく、解放感のグラフに当てはめてみた。
解放感は5!大自然の中、空気もおいしい!走り回ったらそりゃ最高だ。
しかし、山まで来ないとできない=気軽にできないということでやみつき度は4にした。
楽しさは、裸足で痛い草を踏まないか心配しながら走っていたので、少し下げて4。
虫はいなかったがヤギに触れて自然の魅力に気づけたので、こちらも4。
走り回っていたらもう服を着る気になれなかったので、服いらない度は5にした。
今まででトップレベルの解放体験であったが、一瞬の出来事であるし足が汚れてしまった。
いろいろ忖度すると、軽井沢でサイクリングのほうがおすすめできる。
でももし、万が一、自転車の乗り方を忘れてしまったのなら、着ぶくれして山で脱いでほしい。気持ちいいし、楽しいから。
いやがおうでも着ぶれるこの季節。
でも、着ぶくれはかっこ悪いことじゃない。
脱いだ時の解放感が味わえるのだから。
もし、服が重たく邪魔に感じたら、がむしゃらに脱いでみるといい。
引っかかったりするけど
部屋が大変なことになるけど、
最後の一枚を脱いだあと、
とにかくすっきりする!!
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