特集 2025年6月16日

書き出し小説大賞 292回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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アメリカン・ジョークがあるなら、世界にはその土地に根ざしたさまざまなジョークがあるはず。たとえばハワイやタヒチを含むポリネシアには、南国らしいポリネシアン・ジョークがあるに違いありません。「なあ兄弟、最近ずっと頭が重いんだ、まるで人生そのものがのしかかってるみたい」「人生? その頭にのっけたヤシの実のことか?」
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し小説自由部門

使い切ったトイレットペーパーの芯に次の指令が書いてあった。
ギンペイ

「次の指令」で物語の時間軸が前後に伸びる。秀逸な書き出し。

寒波が来た日の朝、丸まりがほどけたクロの傍で妹が泣いていた。
げたのにつけ
このキスは美味しい。恋するに値する。
小鳥待て
空き缶を口に付け、スキューバダイビング中の会話を模倣する。外からカッコウの鳴き声。
かつを

ここには純度の高い「退屈」がある。

西日に見つかった埃は恥ずかしそうに光った。
みよおぶ
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門限がせまる。商店街主催の準優勝パレードは終わらない。
さくさく
隣の家から、毎晩1分だけ拍手が聞こえる。
箭田儀一

昨夜ついに「ブラボー!」が出た。

どんなに腕の立つ職人でも、握らされた寿司は不味い。
やぎお
「このクーポンを使うまでは死ねない」を言い続けて生きて三十余年。
たこフェリー
シャボン玉は苦くて、びりびりして、夏の味がした。
フェノール藤宮
滝行サークルに黒ギャルがやって来た。
なかもりばなな

サークルクラッシャー来た! 

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屋上にヘリの音が低く響く。髪が風にうねる。僕はエレキギターを構えた。
七世
ビビンバ地獄とビビンバ天国の境目のあやふやさは年々増すばかりだった。
いちもくれん

ビビンバで一喜一憂してた頃が懐かしい。

フリスビーを投げ、命令し、取りに行く。
ろっさん
「これが私なりの初回特典よおおお!」
もみ子は強烈なパンチを繰り出しながら、絶対にもっといい台詞があると自分でも気付いていた。
正夢の3人

「くらえ!ログインボーナス!」でもいいけど、個人的には「初回特典」が好き。

宙に舞ったブーケを一発の銃弾が打ち抜く。6月1日快晴の昼、教会に赤薔薇と静寂とが舞い降りた。
てっぷ
トリートメントのぬるぬるが取れなくて「人でも殺めたのか?」ってくらい手を洗っている。
井沢
そう、『クイズ王』が答えだったんだよ。
ウウタルレロ
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つづいては規定部門。今回のモチーフは『ほどける』です。読後に広がる小さな開放感をお楽しみください。

書き出し規定部門・モチーフ『ほどける』

干瓢がほどけて、昆布がひらいた
寿三郎

やさしい味しかしない書き出し

海水パンツの紐がようやくほどけた時、私は更衣室にひとりだった。
g-udon

⏩ 『ほどける』続きます

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