元書き出し作家の大伴亮介くんが初の著作『あるアルバム』を上梓しました。本業であるイラストと類まれな文才がひとつになった抜群に面白くて、洒落た本です。ぜひぜひお確かめを!
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それでは今月もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!
書き出し自由部門
入道雲を追いかけて走る。明日、私はかみさまになる。
たごさく
かみさまというひらがな表記が、神様ではない生命力に溢れた「何か」を連想させる。
奴の眉間に銃口。俺の喉には松葉杖。
maebarc
違う海から来た僕らは、名も知らぬ獣の乳に浸されていた。
maebarc
独特のダークな世界観がかっこいいmaebarcさんの作品。選びきれず二本採用。
スノードームはイメージよりずっと早く元に戻っていった
ocamo
笑ってる紫陽花がいた。雨をまとっていた。
葱山紫蘇子
「試してみたい殺人トリックがあります」推理小説家は屋敷に客を集めた。
さくさく
ずるいくらい「惹き」のある書き出し。
フィリップ・マーロゥを目指してもう15年、この店の不味いコーヒーにも慣れちまった。
まく☆彡
既存の名作を踏まえることでキャラと設定が分かるいい書き出し。
やっぱちょっと遅れて行った方がそれっぽいし、お手洗いでも寄ってから向かおう。
花惑
登場には「溜め」が必要。
着地までは良かった。マントが頭にかぶらなければ。
七世
キン肉マンの系譜を継ぐドジ系ヒーロー
家のお風呂場にできた見知らぬ扉を開けると、何万人という観衆が僕を待ち受けていた。
サンタマン
直後に遊園地は、すべての音を失った。
プレイ中でのエマージェンシー、ボールギャグも外さず駆け付けた。
吉田髑髏
黒板に大きく二文字目を書いたところで、余白がなくなった、広田章先生。
八王寺義昭
女は火にかけた鍋忘れ顔をしている。
suzukishika
こういう女に限って悪女だったり魔性だったりする
性の引き潮で水光となり揺らいでいるのは、幾多もの別れである。
merumo
戦後一時代を築いた女流文学者、晩年のような書き出し!
ただ甘い、夢のような一文に癒やされる。
もう戻らない、あの日たち。晩夏の路地、午後に這うトカゲ。しゃがみ込む笑顔、白のワンピース。
なかもりばなな
廃墟の台所にある桃缶から、人知れずシロップが漏れる。
prefab
羽が生えても餃子は飛ばない。むしろ地面にへばりつく。あの頃、僕は餃子だった。
きしとも
ヌケのいいというか、ヌケしかない作品。
くるりと回した傘。雨粒はリズムを変えて弾けた。
寂寥
あなたが私を好きじゃないから、私はあなたを心置きなく好きになれるし不幸でいられる。
七世
両思い以外の99%の恋愛はこれ。
地べたに置いた花束が腐っていく。事故現場を消し去るように。
人馬一体勘
✔︎ログインIDとパスワードくらい気が合わない。
井沢
幸せだった、という過去形では、幸せそのものを思い出すことはできない。
S.マウンテン
たしかに。過去形は幸せの鍵を締める。
テトラポットの隙間に落ちたキャラクター付のキーホルダーは、10年経った今もそこにあって、僕を睨んでいた。
もんぜん
続いては規定部門。今回のテーマは「主役、登場」でした。物語の扉を豪快に開け放つ、クセつよキャラが大量発生しました。
規定部門・モチーフ『主役、登場』
オーディエンスの期待が最高潮に達した時、彼の声が闇の中に響いた。「光あれ」
本野ムシカ
同時に窓の向こうで、バスがガス爆発した。
⏩ 空調服を鳴らして奴が来る。